19話
「よしみんな、母親を探すぞ!」
僕らはグチャグチャになった悪魔の死骸を避け、建物内を調べ回ることにした。たかが15000で威張り散らすなっての。
でも本来ならば超強敵。おかげでレベルがアホみたいになってる。20以上も一気に上がった。
そして僕の素の戦闘値が213。とうとう200を越えた。それでもまだゴブークも倒せない辺りが情けない。
最適装備先生もあと6セット出せる。インフレが半端ない。
いつになったら吹き出しが止まることやら────おっ?
『応援ボーナス:肉体的繋がりをもつことで様々な恩恵を得ることができます』
精神の次は肉体かよ…………肉体!?
肉体的な繋がりってあれだよね!? その……大人っぽい感じの! だ、だめだよそれは! 宜しくない!
「ど、どうしたんですか充輝さん! 突然頭なんて抱えて」
「あー、う……うん……。ちょっとね」
ナルには隠せない。素直に話そう。
「ん……精神の次は肉体ですか……」
「そう、そうなんだよ! これは流石にちょっと」
という話をしていたら、ニミが後ろから抱きついてきた。
「私、一番だよ」
「えっ!?」
「じゃあ私は2番ですね」
「ちょっ!?」
「はいはーいっ。じゃああたしさんばーんっ」
「ちょっ、あんたまだピー歳でしょ! まだ早いわ!」
「でも順番だよーっ」
「私が先! 姉より先だなんてずるいわよ!」
「いやいやいやちょっちょっちょ! ちょーっと待ってみんな!」
危険な順番を決めているところを僕はなんとか静止させた。
「どうしたのですか? こちらは重要な会議中ですよ」
「そうじゃないでしょ! まずは仕事! 仕事優先!」
「「「あ」」」
まったくもう、なんなんだよ。
結果、地下で危うく悪魔の供物となるところだった少女の母親を保護することができた。間に合ってよかったよ。
泣きながら抱き合っている親子に話しかけるのも野暮だし、僕らはそっと教会を後にした。
「今回、無報酬でもよかったかもなぁ」
「そうですね。ですが無料で引き受けてばかりだとギルドから苦情が出ますよ」
「あー……。でもさ、それだとお金がない人は救われないみたいで嫌なんだよね」
「それもわかりますけど……」
ナルの言いたいことはよくわかっている。みんなお金を稼ぐために仕事をしているんだ。だから無料で受ける人がいるとけむたいに決まっている。僕だって無料で済むならそっちに頼みたいと思うし。
「そりゃあさ、一応僕も総合ギルドのギルド員という立場だよ。でも、神の使徒でもあるんだ。神の使徒としてはやっぱ困っている人を助けたいわけじゃん」
という建前で、実際はやっぱ女の子が泣いている姿を見るのが精神衛生上よろしくないからだ。
まあおっさんが大泣きしている姿も精神衛生上よろしくないよなぁ。ただなんとかしてやりたいというわけじゃなく、なんとかしてやるから黙ってくれって感じだけど。
そこは僕自身が正義の味方ってわけじゃないから仕方がない。だけど結果は同じだしいいかなって気もする。
「充輝さん……。私は充輝さんのそういうところ、素敵だと思います」
「ま、まあそんなわけでさ、あの子のことはこのまま放っておこうと思うんだ」
「そうですね。彼女らはあのまま──」
「駄目だよ」
そこへ水を差してきたのはまさかのニミ。
「えっ? どうして?」
「服は回収しないと」
「「……ああっ」」
そうだよ、あれは回収しないといけない。僕がいなければ持ち腐れだし、それに物自体この世界のものじゃないはずだから色々と問題がある。
明日、明日またここへ来よう。今日は流石に気が引ける。
翌日、村へ行くのはさておき、まずはと朝食を摂っていたところ宿の食堂に来客が。
件の少女だ。取りに行かなくて助かるよ。
「あ、あの。昨日お母さんを助けて頂いたディージですぅ」
そんな名前だったか。昨日そういえば結局聞いてなかったな。
「あー、えっと、おはようかな」
「昨日はありがとうございました!」
「そのことだったら気にしなくていいよ。たんまりレベル上げさせてもらったから──」
「なんでもしに来ました!」
えっ? ああそんな約束だったか。服さえ返してもらえればいいのに。
断ろうとしたところでニミたちが間に入ってきた。
「あなた、旅に出られますか?」
「えっ? うん……。家はお姉ちゃんと妹に任せれば……」
「充輝さんのことはどう思います?」
「ぶぇっ!? い、言わないとダメ?」
「ダメ」
「そのぉ、私の頼みをたったひとり聞いてくれたのと、悪魔に立ち向かう姿が素敵だと思いました」
「充輝さんになら抱かれてみたいと?」
「はい……へっ? ぬ、ぬあああ! なんてこと聞くんですかぁ!」
赤面してうずくまってしまったディージをよそに、ハイタッチするニミとナル。だからなんなんだよもう。
「そんなわけで充輝さん。えっと、例の肉体的な繋がりというものもありますし、今晩辺りから早速……」
どんなわけだよ!
いや確かに今後のことを考えたらどんな恩恵が得られるかわからないけど必須だと思うよ。でも……あれ? これ別に断る意味ないんじゃない?
…………やっぱだめだ。
「却下で」
「なんで?」
小首を傾げるニミ。うぅかわいい。
もちろんしたくないわけじゃないし、むしろ飽きるほどしたい。ただ問題がありまくる。
「……だって宿の壁、薄いし。だからほら、ね」
「……あぅ」
流石に周りへ色んな音や声を撒き散らすことは避けたい。慙死してしまうかもしれない。
そんなわけで例の件は保留とすることになった。
お金を貯めて家を買おう。これがみんなのスローガンになってしまった。
そのためにみんなはある程度厳しい依頼でも儲かるものを探し始めている。なんてことだ。
というわけで総合ギルドに依頼はなかったが、素材のためにグランド・ラゴンというでかいワニを倒しに城下町から離れた山へ来た。どれくらいでかいかというと、人を丸呑みするようなハリウッドとかのパニック映画に出てくるようなくらいだ。
しかしそこには先客がいた。しかもカップルで。
「押されてますね」
「うーん……おっ、でも剣士の彼、戦闘値8200もあるよ。かなり強いみたいだ」
でもグランド・ラゴンの戦闘値は12000。倒せる相手じゃないだろう。完全に遊ばれている。まるでネズミと猫だ。
今はまだ彼氏が元気だから手を貸したらイチャモンつけられるかもしれない。ピンチになったら助太刀──
「コスト12を消費して古の勇者、HR! 彼に力を!」
彼女のほうがそう叫ぶと、彼氏の雰囲気が変わった。
ぶっ!? 戦闘値14800!? 一気に倍近くまで跳ね上がった!
あれ、しかも彼女の方、見たことあるぞ! そうだ一緒に来た泣いていた子だ!
すると剣士の彼が勇者候補か。ぬぅ、思わぬところにライバルがいた。
彼女は……『紫電玲良 戦闘値:118』あれ? レベル上げてないのか。
「何者だ!」
グランド・ラゴンを倒した剣士が僕らの気配に気付いたっぽい。やばっ。
仕方ない、出るか。僕らは岩陰からぞろぞろと出た。
「僕らもグランド・ラゴンを狙って来たんだよ。んで先客がいたから様子を見ていたんだ」
「ああそうか、悪いね。こいつは頂いたよ」
剣士は笑って言った。嫌味っぽくはなく、爽やかというよりもいたずらっぽい笑顔だ。悪い奴……なわけないよな。一応神が選んだ勇者なんだし。
「ちょっ、その子らの着てるのってチアのじゃん! じゃああんたも召喚者? しかも酷い趣味ね」
「僕が好きで出したわけじゃないからね! 文句なら神に言ってよ!」
完全に言い掛かりだ。僕だったらもっと……うーん、どうしてただろうなぁ。
まあとにかく、この世界へ来て初めて召喚者と出会ってしまった。
「充輝さん、知り合い?」
ニミが不安そうな顔で訊ねてきた。
「彼女は僕と同じ神の使徒だよ。多分あの彼が勇者候補ってところだろうね」
「ああそうだよ。チャーウィングだ。よろしくね」
「ニミだよ」
ニミは軽くぺこりと頭を下げる。
「あっ、なんかパレードみたいなやつの服! これかわいーよね。あっちの子は色違いを着て……なんで顔を隠してるの?」
「えーっと、彼女の顔は見たら減りそうなんだ」
「は? 意味わかんないし」
「だよね……。でも見ないほうがいいよ」
「酷いの?」
「ある意味ね」
「どういう意味?」
「……僕らの中で彼女の顔をまともに見れるのはひとりしかいないんだ」
パティだけは直視できる。さすが無垢な少女、そこへ疑問もなにも持たない。
「なにそれ! あんたたち最低じゃない!? どんな顔をしてようが女の子は女の子なんだよ! 酷いにも程があるわ!」
「い、いや、そうじゃなくて……」
「黙れ最低マン!」
そう言って僕の話を最後まで聞かず、紫電さんはずんずんとチールさんの前へ行った。
「あいつら酷いよね。女の子は笑顔でいれば誰だってかわいいんだよ。ほら、顔を見せて笑って──」
あーあ、見ちゃった。
紫電さんは泣きながらうずくまってしまった。
「……私、人生やり直したい。私って失敗作だったんだ……来世こそはこう生まれるんだ……」
「だ、大丈夫だって! チールさんは天使か女神的な存在だから!」
なんで僕がフォローしてるんだろう。
「前にも言ったが、余は人間──」
「チールさんは黙ってて! 黙っててあげて!」
「う、うぬ……」
「か、彼女はそんな凄いのか? ちょっと俺にも見せて……」
「男は見ちゃダメだ! 自分の彼女だけ見て愛してあげて!」
「お、おう」
とりあえず僕らは紫電さんが復活するのを待った。
「落ち着いた?」
「う、うん。ごめん」
「世の中にはね、美しすぎて見てはいけないものってものがあるんだ」
「身に沁みました」
チールさんの可愛さははっきり言って凶器だ。僕だってあれ以降見ようとは思わない。
「それでキミ、これだけ女の子を侍らせてなにがしたいの?」
「人聞きが悪いなぁ。僕の力には数が必要なんだよ」
「ふぅん」
聞いておいて興味なさそうに返事する紫電さん。まぁ僕らの力はそれぞれ異なるからね。
「それよりさ、俺とそちらの勇者候補、戦わせてくれないか?」
「駄目」
ニミを戦わせてはいけない。2秒で死んでしまう。
「俺は勇者候補として一番強いと思ってるんだ。だからそれを証明したい」
「うちは2位以下でいいんで」
「お、怖気付いたかい?」
「うん」
挑発しているつもりだろうが、全く効かない。だってニミ、絶対に最弱だもん。
「……頼む、戦ってくれ!」
「ぬぅ、そう頭を下げられてもなぁ。じゃあ代わりに僕が戦うってことでいいでしょ?」
「まぁー、いいか。玲良、コストはどう?」
「んー……、さっき使った分は回復してないし、今使ったら今日はもうダメ」
「そっか。じゃあこれが終わったら帰ろう」
さて、なにを見せてくれるのか。
正直なところ、他の勇者の力がどの程度かわかっていない。だけど知る価値はあると思う。
今後の目標みたいなものがあるだけで方針が決めやすいからだ。
「じゃあいくよ! これが私たちの今使える最大の切り札! コスト16を消費して中代の勇者SR! 力を貸して!」
ぬ!? チャーウィングの力が……戦闘値22400!?
流石SR! 凄い上がり方だ!




