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14話

 ようやく目当ての城下町へ来た僕らは、まず宿を探した。

 飯より宿。これ重要。

 それにしてもみんなこっちを見て……いや、ニミたちを見ている。

 色的に目立つからというわけじゃないだろう。はしたないとか思われてる? それはなんかイヤだな。


 ────あっ、そういえばここは城下町。つまり城があるってことじゃないか! まずいな、王様とかが町の風紀を乱すとかでブチ切れたりしたら……。


「ねえ、ここの王様ってどんな人かな」

「ここのって、この国のってことですか?」

「ん? まあそうなんだけど……城にいるんだよね?」

「えっ?」

「えっ?」


 ……どうやら城に王はいないらしい。

 そもそも城というのは軍事拠点であり、王が住んでいる場所は王宮か宮殿と言うそうだ。地球でもベルサイユ宮殿とかあるね。

 で、でも日本では城に住んでいた……はず……。

 いや日本の城も軍事拠点だもんな。それに天皇は城に住んでいない。戦と関係のない天皇が城にいる意味がなかったからなんだろうか。


 とにかくここは軍事拠点として数ある城のひとつらしい。

 そんな知識はさておき、宿だ。泊まれるといいな。



「──ないですか」

「申し訳ないのですが……」


 部屋がない。

 いや、正確にはある。空き部屋もちゃんとある。だけどあるのは2人部屋が2つ。

 ニミたちは小さいから1つのベッドでふたり寝ることができるだろう。しかし問題は5人で1部屋は無理だということだ。もう1部屋は僕が使う。さすがに女の子と同じ部屋は厳しい。もう小屋で懲りた。精神が崩壊してしまう。


「あんただけずるいわ!」


 案の定ローティが吠える。そうは言っても僕は男を抑えるのに必死なんだ。


「じゃああたしがミツキさんと同じ部屋ーっ」

「なっ、なに言ってんのあんたは!」

「だってあたし奥さんだしーっ」

「そんなの誰も認めてないわよ!」

「じゃあー、わたしがー」

「あんたは黙ってなさい!」

「それでしたら充輝さんと付き合いの長い私が……」

「ナルさんまで!?」

「私のほうが長いよ」

「ニミさん!?」


 ローティが振り回されている。だけど今回はローティを応援したい。がんばれローティ、みんなを抑えておくれ。


「長いとかそういうの禁止ー! だってそんなのずるいじゃない!」

「「「「あっ」」」

「…………あああーっ!!」


 ローティが両手で顔を覆ってうずくまってしまった。どうしたローティ、がんばってくれ!


「とうとう本音を吐いてしまいましたね」

「ち、違……違うー!」


 冷めた目でナルがローティを見ているが、ローティは顔を手で覆ったままだ。どういうことなの?


「……よくわかんないけど、僕は庭を借りることにした方がよさそうだね」


 布団で寝たいなんて贅沢はこの際やめた。僕がひとり小屋で寝れば解決するんだ。なんの問題もない。




「────で、キミタチはなにをしているの?」

「気にしないで下さい」

「うん」


 気にするに決まってるよ! なんでまた僕は挟まれてるの!?


「ふたりとも部屋あるよね!?」

「え? えーっと、寒いから?」

「うんそう」


 寒いなら余計に部屋だよね!? 布団あったかいよ!

 この子らは僕のことをヘタレか安全牌だと思っているのだろうか。


「あのね、僕は神の使徒なんてことになってるけど、普通の男なんだよ。ふたりみたいなかわいい子に抱きつかれてたら冷静でいられないわけ」

「それは私が誘惑に成功しているということじゃないですか」

「私の功績だよ」


 おぉーい、やっぱりわかっててやってるのか!


「……で、もうじき理性が臨界点を迎えるわけ。そうなったら本気で襲っちゃうよ。いいの?」

「え……えーっと、そう言われますと、まだ抵抗があるんですが……」

「聞かないで……」


 ふたりとも誘惑をしているものの、実際にいたされるのは怖いんだろう。

 じゃあなんでこんなことをしているのかと言うと、きっと張り合っていて収拾がつかなくなってきているせいだと思われる。


「ふたりがなにを競ってるのかわからないけど、僕はそういうのいいと思うよ。競争心は向上心に繋がるからね。でももっと健全な方法で……」

「あ、そういうのではありませんから」

「えっ?」


 予想が外れた。なんか恥ずかしい。ドヤ顔で説教したら全く的外れだったときみたいな。


「私、充輝さんのことが好きなんです」

「ぐっ」


 直球勝負でこられた。ナルみたいなかわいい子に言われたら悪い気はしない。むしろ超嬉しい。だけど僕にはニミが……。


「そ、そもそもなんでそこまで僕のことを好きになったの?」

「そんなのわかりきっているじゃないですか?」


 ……はて?

 困惑していた僕の手をナルがそっと掴んだ。


「あのとき私は、自分の命を半ば諦めていました。覚悟しかかったんです。そんな私の必死な『助けて』をあなたは聞き、助けてくれました。その後、とても大きな魔物に出会ったときも、絶対守るって言って一歩も退かず戦ってくれました。これで惚れるなっていう方が無理です」


 う……ん……。


 僕はかなり思い違いをしていたようだ。

 日本で言うところのいわゆる守ってあげたい系の女の子。『守るってなにからだよwww』みたいな感じなわけだが、この世界の守るとはまさに命がけ。気安く使ってはいけない言葉なんだ。

 そう考えたら惚れられてもおかしくはないのかもしれない。

 でもってナルは正直に話してくれた。だったら僕も正直に話さなくてはいけない。


「ごめん、でもやっぱりニミがいいんだ」


 とうとう言ってしまった。僕が今こうしているのも全てニミのためだ。

 ……嘘ついた。僕がニミを欲しいからだ。僕のためなんだ。


 するとナルは少し悲しそうな顔をして、ため息をついた。


「やっぱそうなんですね。わかりました。一番はニミさんでいいです。でもニミさんだけってわけじゃないのでしょう?」

「えっ?」


 なに? どういうこと? 浮気? 愛人? そういうのはよくないと思うよ。


「えって、私のこと、もしかして嫌いでした?」

「いやいやいや! 冗談じゃない! ナルみたいなかわいくていい子を嫌うなんて意味わからないし!」

「だったら私が2番でもいいですよね?」

「えっ?」

「えっ?」



 ────この世界は恐ろしい。

 各国の戦争は魔王が現れ凶暴化した魔物たちのせいで鳴りを潜めた。しかし魔物を退治しなくてはいけない。

 どちらにせよメイン戦力である男は減り続ける。これは以前に聞いた話だ。

 男が少なくなっている現状、国を繁栄させるために取る政策がある。一夫多妻制だ。

 少ない男が子供をたくさん残すにはどうしたらいいか。答えは簡単だ。奥さんを増やせばいい。

 これが逆だったらどうにもならなかっただろうが、これで問題は解決する。

 そのため大抵の国では一夫多妻制を認めているどころか推奨している。奥さんが多いほど税が軽くなったりなどの優遇をしていたりするそうだ。


 でもだめだ! 僕はそんなの認めない。僕は日本人だ。

 日本では一夫一妻が当たり前。そんなことは許されない。


 ……だけどこの世界にいる僕はちっぽけなただのひとりの人間で、なんの権力もない。国がそういう方針だというのだから従うしかできない。


 というわけでナルを2番として迎えたい。皆異論はないな?

 ワーワーパチパチパチ、というわけで僕の脳内会議は満場一致、拍手喝采で幕を────

 『ニミの答え次第じゃのう』

 ちょ、長老ーっ!

 僕の心の中の老けた部分が大事なところを突いてくる。そうだよ、ニミが全てだ。僕がどんなに決めたところでニミが嫌といえば従う。


「ニミはどう思う?」

「私が一番ならいいよ。ナルさんが2番なら私も嬉しい」


 嬉しいの!? そっかぁ、ニミが嬉しいんじゃ仕方ないなぁ。


「ニミさんっ」

「ニミ、だよ。これからもよろしくね、ナル」


 ふたりは立ち上がり、互いの腰へ手を回し、そっと抱き合った。

 いいなぁ、この光景。

 そしてふたりは笑いあい、小屋から出ていった。


 ────ふう。僕は溜まっていた息を外へ出した。

 まずは第一目標であったニミと両思いになる。これはクリアできたようだ。次は魔王退治だ。よし頑張るぞ!


 …………寒っ。

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