13話
「ぜえ……はあ……」
「す、凄い。あのギアラタウロスをひとりで……」
護衛の人たちが驚愕している。魔物には悪いが八つ当たりのはけ口になってもらった。おかげで気分スッキリ。────っと、3人娘たちも見ていたようだ。
「凄い……ギアラタウロスなんてあたし初めて見た……」
「ミツキさんー、ほんとにー凄い人なんですねー」
「あ、ああああれくらい、ままま魔王を倒そうっていうんだから当然でしょ!」
みんな驚いている。鬱憤晴らしのため戦ってたからよく覚えてないが、さっきの魔物はかなり強かったらしい。
それから僕は護衛の傭兵ギルドの人たちに誘われ、話をしながら夜を明かした。
馬車に乗って少し経つが、3人娘がよそよそしい。
「どうしたの? なんか目が泳いでるっぽいけど」
「はあ!? そそんなわけないじゃない!」
うーん、そうなのかぁ。
そんな中、パティが手をあげた。はいどうぞ。
「お兄……ミツキさんっ、付き合ってる人いますかーっ」
直球で心臓をえぐってきた。昨日のことを思い出すが、結局うやむやのままだ。
「えーっと、いないかな」
「じゃああたしーっ。あたしがミツキさんの奥さんになるっ」
ブフオォォォッ
今のは僕だけじゃない。パティを除くこの場の全員だ。
「ぱ、パティ! あんたなんてこと言ってんのよ!」
「だってギルド長が言ってたよっ。いい男がいたら絶対モノにしなさいってーっ」
「あっ、それ私のお母さん……」
ナルのかあ!! 全く、なんてことを撒き散らしているんだ。
「パティちゃんにはまだ早いんじゃないかな」
「早くないよーっ。あたしもうピー歳だよっ」
ピー歳かぁ。僕との年齢差からすると、将来的には問題ない。だけど僕にはニミが……っ!
「ピー歳はー、まだ早いと思うのー。だからー、それまでー、わたしがー」
「ラッティも黙ってよ! あんただってまだピピー歳でしょ!」
「あらー、ピピー歳はー、立派なレディよー」
いやいやいや、ピピー歳も充分……そ、そうだ。
「そういえばニミはいくつなの?」
「ピピー歳だよ」
ラッティと同じ歳かよ! てかずいぶん差があるね!
……いやニミはちっちゃかわいいんだ。そこもまたよし!
「だいたいあいつといると、きっとあの子らみたいないやらしい恰好をさせられるかもしれないのよ!」
とうとうあいつ扱い。そしてチア服はいやらしくないぞ。
「えーっ、かわいーじゃんっ。あたし着たいなーっ」
パティは着てくれるのか。それはありがたい。レベル10になったとき最適装備セットを出せるようになったんだ。これで一気に上げられる。
「よし、じゃあパティにもあげよう」
「ほんと!? やったーっ」
凄い嬉しそうだ。ニミとナルはまだちょっと恥ずかしそうにしているが、この子ならきっと────
「ちょっ、ふざけないでよ!」
「なんでローティが怒るの?」
「えっ!? それは……ええっと……そ、そう! 妹にそんなエロティカルな恰好させるわけにはいかないのよ!」
「もう着ちゃったよーっ」
えっ、早っ! 全く気付かなかった。てか大胆な子だな。
ちなみに色は青だった。赤はリーダー色なのかな。そしてスポンサーはもちろん『UK-2K』だ。
「な、ななななにやってんのよあんた!」
「これ凄い動きやすいーっ。なにこの靴、さいこーっ!」
馬車の中、所狭しと踊るパティ。ローティは悔しそうだ。
「あのー、わたしのー、分はー?」
おやラッティも着てくれるのか。それはとてもうれしい。
「すぐには用意できないかな。しばらく待ってもらえれば……」
「ちょっと待ちなさいよ! あんたラッティにもあんな恰好させるわけ!?」
僕がお願いしたわけじゃないんだけどなぁ。
「別に無理して着ることないと思うんだけどね」
「し、仕方ないわね! わ、私も着てあげるわよ!」
「いやだから無理しなくても……」
「うっさいわね! パティとラッティだけずるいじゃない!」
ずるいってあなた……。はぁ、まあいいや。
大体、次の装備なんて……あれ? レベルが上ってる! しかも5つも!
……ああ、ギアラタウロスか。あいつそこまで強かったんだな。あのときは頭に血が上ってて気付かなかった。そういや邪魔な吹き出しはとっとと消していたような記憶がある。
「もう1セット出せるっぽいよ」
「じゃあー、わたしがー」
「私が着るわよ!」
ラッティを遮りローティが服を奪った。そして服をじっと見てから急に僕を睨みつけた。
「み、見てんじゃないわよ! 着替えられないでしょ!」
「ご、ごめん」
──着替え中──
「ほらほらー、脱いだらー、すぐたたまないとー」
「き、着替え終わってからたたむつもりよ!」
「この靴ー、すごい軽いー。それにー、柔らかいー」
「私の靴さわんないでよ!」
──着替え終了──
終わったらしく、振り返るとローティは腰を左右にひねりスカートをフリフリさせて自分の姿を確認していた。
あっ、今ニマって笑った! ニマって!
そして慌てて口元を手で隠し、僕を睨んできた。
「こ、これが見たかったんでしょ! ヘンタイ!」
別に見たいなんて……。いや見たかったけどヘンタイじゃないよ!
でもチア服にポニテは似合うな。うん、いい。
そして物欲しそうな目でそれを見るラッティ。ごめんね、がんばるよ。
「──それにしてもこの服、いいわね……」
馬を休めるため停止し、みんなが体を伸ばしている中、ローティがつぶやきそれにみんな注視した。
「えっ? いや別に……な、なんかこの服、凄いのよ!」
みんなから注目されたローティが顔を真赤にさせ叫ぶ。
「いいですよね。暑いと感じるくらいのときは中の熱や汗が出るし、寒いと思うときには熱が逃げなくてとてもよくできてると思います」
「そ、そう! それよ! ずるいわ!」
ずるいってローティが着てるじゃない。そしてひとり仲間外れ感のあるラッティはとても悲しそうな視線を僕に向ける。
……よし、向こうに着いたら狩りまくるぞ! 今の僕なら……げっ、2500越える!? 姉御よりも1000は多い。もうなんでも倒せるんじゃね?
「靴も凄い! 地面の凹凸がわかるくらいなのに、しっかり守られてるし、まるでバネが入ってるみたいに跳ね返る!」
そうだろうそうだろう。スニーカーは素晴らしいんだ。スニーカーさえあれば他の靴なんていらないとすら思える。
パティなんか感動のあまり走り回ってるぞ。
ニミは……体力はあるけど足は速くないな。パティに追いつかない。
「ニミー、がんばれー」
「ニミさん、がんばーっ」
「はぁ、はぁ……ん?」
ニミの足が止まった。もうダメとかじゃなく、首を傾げてる。
「どうしたの?」
「なんか変なの出たよ」
「変なの?」
「あなたへの応援が届きましたって」
「なっ!?」
そっか、これは僕だけに送られているわけじゃないんだ。
僕の近くで応援した人が対象へ向けてできるんだ、これ。思った以上に使えるかも!
「ニミ、『Y』を選ぶんだ!」
「えっ? えええっ!?」
ニミは驚き、ちょっと飛んでみたり走ったりした。
ナルの応援で2倍だもんな。そりゃ驚くよ。
ちなみにみんなが応援したときの僕の戦闘値は19.2倍になっている。めちゃくちゃ強い。これでラッティにフル装備してもらうと32倍。もうとんでもないぞ。




