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11話

 僕がこの世界に来てもう10日。思えば毎日戦っているなぁ。レベルも10になり、ナルのチアセットも揃った。戦闘値は500を越えたし、レベル10のときに適装備先生がボーナスもくれた。そろそろ旅立ってもいい頃合いだと思う。

 このままこの町で過ごすのも悪くない。でも僕の目的はニミとの幸せ生活だ。頑張って魔王を倒さないと。



「そんなわけでお世話になりました」


 ニミも同意してくれたし、ナルもついてきてくれるという。正直なところ、ナルが来てくれなかったら行くことができなかった。それだけでも感謝だ。


「ええっ!?」


 姉御は大層驚き、持っていた紙束をバサバサ落とした。

 そして僕の両肩をもの凄い力で掴み、前後に振る。


「私の……私のなにが不満だったのですか!? 祈りが足りませんでしたか!? それともご奉仕!? い、今すぐにご奉仕致しますので、どうか、どうかもう一度考え直し……」

「やめて!」


 みんな見てるよ! 大注目だよ! ────ってあああ! もう既にズボンが脱がされてる! 見ないでぇぇぇ!


「ちょちょちょ、いつもの! いつもの部屋で!」

「あっ、そうですね! そこでじっくりと」

「話し合いだからね!」


 周りの目が怖いから、話し合いであることを強調する。

 ついでにニミとナルにも来てもらう。これなら変なことをするだなんて思われないだろう。


「チッ、4Pかよ」

「違うよ!」


 くっ、こいつら……。



 というわけでいつもの部屋。姉御はずっとメソメソと泣いている。

 うーん、なんか罪悪感。悪いことはなにもしていないんだけど。


「もう泣き止んでくださいよ」

「うぐっ、ひっく。だ、だってぇ……」


 なにこの人かわいい。総合ギルドを牛耳っている女王様だなんて思えない。

 そうじゃない、誤解をちゃんと解かないと。



「────つまりニミちゃんは神様に選ばれた魔王を倒す勇者候補で、そのサポートのため神の使徒となり充輝様が来たと」

「ええ」


 最初の説明で端折ったところを細かく説明する。ナルは初聞だったせいか驚愕の表情をしている。


「だから魔王を倒すため、そろそろ旅立とうと言いたいわけですね」

「その通りです」

「却下します」

「なんで!?」

「そ、それは……あれです! そうです! 私を倒せないようでは魔王なんて倒せません! なのでまず私を倒してからにしてください!」

「無理だよ!」


 だって姉御の戦闘値1580あんじゃん! 普通の人間の域越えてそうだよ!

 ふたりの応援を合わせても500くらいしかないんだから勝ち目なんて見えない。


「で、では諦めて……」

「できません」


 姉御はがっくりと落ち込む。今生の別れ……になるかもしれないか。

 僕らの生死はさておき、もし魔王を倒したら僕はニミを連れて帰るつもりだ。そうなったらもう永遠に会えない。

 もし倒してもすぐ帰らず、挨拶くらいはさせてもらえるよう話してみよう。




 かなり後ろ髪引かれる思いで僕らはギルドを後にした。

 姉御からはせめて最後にとのことで、翌日の朝出発する乗合馬車を手配してもらえた。ほんとなにからなにまでお世話になりっぱなしで……あっ、ナニはお世話になってないから!


 初めての長旅だから準備は夜までかかり、僕らは疲れであっという間に寝てしまった。

 そして翌朝、予定していた乗合馬車のベンチシートに乗っていたのだが、なかなか出発しない。


「御者さん、いつごろ出るんですか?」


 僕は一度馬車から降りて御者に訊ねた。すると御者さんは渋い表情をこちらに向ける。


「もう一組来るはずなんだが……前金でもらってるが、時間は結構過ぎちまってるし、行くか」


 普通長距離馬車は何台か一緒に行くらしい。だけどこの馬車は客待ちで一台残されてしまった。後で合流するにも時間をかけ過ぎたらまずい。もう30分も遅れているのだから、来ないほうが悪い。

 僕が後ろへ周り馬車へ乗り込むとゆっくり進み始めた。



「────待ってー!」


 遠くからなにか聞こえた。後ろを見ると3人の少女が大きく手を振り走ってこちらへ向かっている。とりあえず手を振り返してあげた。


「どうしたの?」

「え?」

「どうしたの!」

「後ろに手を振って走ってる子がいるんだよー!」


 馬車の中は思いの外うるさく、叫ばないと聞こえない。対面に座っていたニミとナルは僕の横へ席を移し、そちらを見た。大きな荷物を持って必死に走っている。

 誰かに用かな? だけどこの馬車は先へ行ってしまった他の馬車に追いつかなくてはいけないから少しペースが早めだ。ついては来れないだろう。


「もしかして、遅れていたって人じゃないですか?」

「うん、僕もそう思う」

「大変だね」

「そうだねぇ」


 僕らは顔を寄せ合い話す。ふたりともかわいいから照れつつ、僕とニミは同情した面持ちになり再び走る少女たちを見る。


「あ、あの、なんとかしてあげないんですか?」

「そう言われても……」

「どうすればいいの?」


 僕は当然として、ニミも箱型の馬車に乗るのが初めてらしい。だからこういうときどうすればいいのかわからない。幌馬車であれば筒抜けだから御者さんとコンタクトがとれるだろうけど、この馬車の前方は壁だ。

 叩いたところでこの揺れと音じゃ気付かないかもしれないし、まさか壁か屋根伝いに前方へ周り話すなんてアクション映画みたいなことやるわけにはいかない。


「「あっ」」


 僕とニミは思わずハモった。走ってきた少女のひとりが盛大にコケだのだ。

 見かねたナルが揺れる馬車の中、ベンチシートを滑るようにして前へ行き、壁をスライドさせると穴ができた。そんなところに小窓があったのか。薄暗くてよくわからなかった。


「すみません! 遅れていた人だと思うんですが、追ってきてます!」


 ナルが叫ぶと馬車はゆっくりと速度を落とし、やがて止まった。




「ぐすっ、げほっ、うぐっ……」


 コケた子は大泣きしていた。残りのふたりは息を切らせつつ恨めしそうな目を僕へ向ける。


「……なんで……ぜぇっ、すぐ……はぁっ、止めて……ぜぇ、くれなかったの……」

「乗りたいんだって気付くのが遅れたんだよ」

「わ、私何度も叫んだよね!? 乗るから待ってって!」

「全然聞こえなかったよ」


 木製の箱型馬車の中は雑音が中で反射しているのか篭っていて予想以上にうるさいんだ。外の声なんて聞えるものじゃない。

 泣いていた少女は悔しそうな、悲しそうでもある表情をした。


「まあなんていうか、お疲れ様。お水どうぞ」

「ど、どうも……冷たっ! うまっ!」

「あああー……染みるぅーっ」

「全身にー、行き渡るわぁー」


 早朝に汲んだ水だから冷えてるし澄んでいるからうまかろう。でも20リットルしかないからあまり飲まないでね。


「んでんでっ、お兄さんたちはギルド員だよねーっ」


 一番小さな子が冷水で元気を取り戻したようだ。子猫のように好奇心で溢れている目をしている。


「うん、僕らは総合ギルド所属だよ」

「あたしらは魔術ギルドの美人三姉妹だよっ。あたしは末っ子のパティっ。そこのコケたボーっとしてるのが次女のラッティっ。そこであたしを睨んでるのが長女のローティっ」


 小さいショートヘアがパティで、3人の中では一番背の高く胸が大きいロングヘアのラッティ、そして気が強そうなポニーテールの子がローティか。姉妹だけあって顔は似ている。

 自称するだけあってなかなか可愛らしいな。


「短い間だけどよろしくね。僕は──」

「知ってるわよ! ミツキでしょ!」


 あれ? 僕は有名になってたりしていたの?


「実はー、わたしたちー、パディタおばさんに頼まれてー」

「ああもうあんたの話し方は鬱陶しいんだよ! 私たちはおばさんに頼まれてあんたたちのサポートに来たの!」

「えーっ、あたし聞いてないーっ」

「あんたはついてくればいいの!」


 ラッティの話を遮りローティが説明してくれた。

 姉御が? てかおばさん? どっちの意味だ?


「姉御……パディタさんの知り合いなんだ?」

「私らのお母さんの従姉妹なのよ!」


 やっぱ親戚としての意味のおばさんなんだね。普通におばさんとか言ったら殺され……大丈夫か。あの人ロリコンだし、この子らもそれなりにかわいいからな。もちろんニミには敵わないけどね!

 だけどこれはありがたい。3人増えれば……戦闘値が126で、2掛ける2掛ける1.2掛ける……もう少しで900に届く!

 でも安心してはいけない。問題はいつまで彼女らがいてくれるかだ。


「心強くて助かるよ。それでどこまで来てくれるの?」


 重要なことだし、素直に聞いておこう。


「それは気分次第ね! あんたたちが魔王を倒せるか判断してからよ!」

「あたしは最後までいるよっ。面白そうだしーっ」

「わたしはー、おまかせでー」


 難しいな。パティはずっとついてきてくれるみたいだが、姉ふたりがいなくなる時点で一緒に帰りそうだ。

 でもま、それまではよろしくお願いしたい。

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