10話
今回の戦いでわかったことがある。戦闘値は絶対的な数値ではないということ。なにか1つでも秀でていればバランス型と同じ値になるんだ。つまり戦って倒せないというわけでもない。
だけど目安としては必要だ。そうでないと戦うことすらままならない。怖いし。
「充輝さーん」
ふたりが寄ってくる。やっば、距離的にぎりぎりだったかも。今後はもっと気をつけないと。
「凄いです! あんな大きな魔物を倒すなんて!」
「ふたりの応援があったからだよ」
キラキラした目で僕を見ている彼女らに本音を吐く。謙遜とかじゃなくて僕の場合、ホントこの一言に尽きる。
それはさておき、こいつどうしようかな。人型であるゴブークの肉なんて売れなさそうだし、僕だって食いたくない。
「ナル。魔物って倒したら持って帰らないとダメなのかな」
「大抵の場合はその魔物に1つしかない部位を切り取ります。ゴブークだったら鼻とかでしょうか。あとオスだったらその……もにょもにょを」
ナルは顔を赤らめていたが、僕は顔を青ざめさせて股間をおさえた。男奪の恐怖が脳裏に浮かぶ。
しかし鼻か。動物だったら尻尾とかなのかな。
そんなわけでナルが持っていた剪定バサミのようなもので鼻をジョギリと切る。短剣では味わえない嫌な感触が手のひらに伝わる。でかいやつは……とりあえず丸々時計の中に入れておこう。
さて仕事も終わったし、帰るかな。
「お帰りなさい充輝さん……あらっ、ナルちゃんは色違いのお揃いなのね! カワイイ!」
「ありがとうございます」
早速姉御がカウンターから出てきた。数人並んでるんだけどなぁ。
ナルは褒められて軽く頭を下げる。
ちなみに色違いなだけではなく、ブランドロゴも変えてある。今回は荒くれさんは無関係だし姉御にお世話してもらってるから『UK-2K』だ。
「充輝さん、お仕事はどうでした?」
どうもこうも、その前にあの並んでる人たちどうにかしようよ。恨めしそうにこっちを見てるよ。
まあ言ったところで聞くわけでもないし、丁度いいからまた奥の部屋へ案内してもらおう。ごめんよ並んでた人たち。
「それで、なにかあったのですね。充輝様」
「なんでそう思うの?」
「普通の話であれば外で済むと思いますから」
さすが姉御。察してもらえるのはうれしい。でもまた片膝をついて拝むのは、いくら僕らだけしかいないからってやめて欲しい。
ナルなんかキョトンとしているぞ。
「えっとですね、倒したゴブークの中にかなりでかいのがいたんですよ」
「かなり? どれくらいでした?」
そう言うと思い部屋に通してもらったんだ。薬草採りの子供たちが見たら泣くかもしれないから。
時間を合わせると巨大物がズシンと落ち、姉御が目を見開き飛び退いた。
「でっ!? な、ななななんですかコレ!」
「なにって、ゴブークじゃないの?」
姉御が横たわるでかいのを持ち上げたりして様々な角度から見る。てかこれ持ち上げられるのか。戦闘値は知ってるけど改めて見ると恐ろしい。
「た……確かに見た感じゴブークですが……。ちなみに戦闘値はどれくらいあったのですか?」
「あれ? 僕が見ただけで戦闘値わかるの知ってた?」
「なんとなく察することはできました。さすが神の使徒様ですね」
「か、神の使徒ってほんとなんですか!?」
ちゃんと説明したじゃないかナル。まだ信じてくれてなかったのね? あ、拝まなくていいから。
「あっ!? すみません充輝様! ナルちゃんは知らなかったんですよね?」
「一応ナルが悪いことするとは思わなかったから伝えたんだけど、信じてくれてなかったんだ」
「そうですよね。神の使徒なんて私も文献でしか知らなかった知識ですし」
文献なんてあるのか。ちょっと確認してみたい。姉御の家にあるのかな?
「えーっと、それでそいつは……」
「ああそうだった。確か350あったよ」
「350……中級の傭兵くらいじゃないですか! ────申し訳ありませんでした!!」
姉御はまた片膝をついた。これ土下座みたいなものなのかな。
「どうしたんですか急に」
「ゴブークと聞いてたので大丈夫だろうと高を括っていました。まさかこんな危険なものが紛れているだなんて思いもよらずに……」
「でもまあなんとかなったし、こういうイレギュラーは仕方ないよ」
姉御のせいじゃないよ。あれは事故みたいなものだと思う。
「そうはいきません! もしニミちゃんとナルちゃんにもしものことがあったらどうするんですか! 今後は徹底的に下調べをし、安全が確認できたものだけお願いします」
僕はどうなってもいいの? それにそこまで調べられるだけの腕がある人がいるんだったら、もうその人が倒しちゃったほうが早いんじゃない? 大体そんなんじゃいつまで経っても仕事こないよ。




