1話
「──知らない部屋だ」
ふと気付いてそんな台詞を吐いてしまったのだが、壁どころか天井もない。部屋ですらなかった。
僕は確か……自分の部屋で寝転びながら本を読んでいたはずだ。
……いやかっこつけすぎた。マンガ読んでた。今日買ったやつだ。多分原作はラノベのマンガ。聞いたことないタイトルだったけど、表紙の絵が可愛かったから思わず表紙買いをしてしまったんだ。
どんな話かというと……ええっと、どんなだっけ? 駄目だ、表紙しか覚えてない。
ヒロインなのかな、真ん中に大きく書かれた小さな少女。乱雑に切られたボブヘアに、麻っぽいワンピース。弱々しくもあるんだけど、目の奥に秘めた決意みたいなものが見えた。ただの絵のはずなのに……。絵描きって凄い。
それはさておき、辺りを見回すと、なにかの柱がいくつも建っているのがわかる。屋根ないのに柱があるのはなんとも不思議な光景だ。
柱はパルテノン神殿にある大理石でできた白い柱。……かっこつけすぎた。パルテノン神殿なんて見たこともない。素材なんて当然知らない。そんな雰囲気があるっていう代物だ。
そして僕と同じように転がっている数人の男女。1、2、3……僕を入れたら4人か。
よく見れば知っている顔ぶれだ。別に友達とかクラスメイトではなく、通学の電車で頻繁に見かけるというだけだ。いつも同じ電車の同じ車両で学校へ行くから大抵顔なじみになる。もちろん話しかけたことなんて一度もない。
あれ、もう1人いた。柱の陰になってて気付かなかった。僕よりも先に起きていたみたいだ。
「────やあ、お目覚め?」
少年が言った。
さっきから無駄に脳内でかっこつけてる気がする。僕だって少年じゃないか。しかも僕のほうが年下の可能性がある。
だけど彼には見覚えがないな。他のみんなは見覚えがあるのに。
「あ……えっと、なんだろう。おはよう、かな」
とりあえず挨拶くらいはしておこう。
「ははは、きみは面白いね。うん、おはよう」
なにがおかしかったのだろう。気になる。
「えっと、正解はなんなの?」
「……え? なんのことかな?」
「僕の反応がおかしかったみたいだったから……」
「んー……、ああ、そういうことか! あはははは! きみ、ほんと面白いよ!」
大爆笑だ。原因がわからないけど恥ずかしい。自分の顔が赤くなるのが見なくてもわかる。
「ど、どこがおかしいんだよ!」
「ああごめんごめん。いや久々に笑わせてもらったよ。普通の人だったら目覚めて全く知らない所にいたらパニックを起こすと思うんだ」
う……、なんかそんな気がしてきた。なんで僕は当たり前のように受け入れ納得していたんだ。
「そっ、それでここは一体……」
「ここ? ここは僕らの世界の入り口さ」
僕ら? それは僕も含まれるのか? 地球……だとしても、地球に入り口なんてない。ないはずだ。ない……よね?
「それは僕のいた世界とは別なの?」
「そうだね」
おっと異世界ですかい。
まあこんな景色、地元どころか日本にもないだろう。
もちろん日本の全てを知っているわけではないが、見渡す限り……確か立った状態で見える地平線は5キロくらいだっけ? 背の高さにもよるか。それが全て石畳だ。そんな場所聞いたこともない。ひょっとしたらだまし絵かも……それはないか。
「それでええっと」
「おっ、みんな起きたみたいだよ。まとめて説明するね」
起きたみんなは挙動不審だ。なるほど、これが普通の反応か。
あっ、女の子が泣き叫びだした。それで冷静になれたのか、周りの男子たちがなだめようとしている。
「あれ放って置いていいの?」
「疲れたら落ち着くと思うよ」
まあ、ああなると人の話聞かないだろうからね。
暫くすると泣きながらしゃがみこみ、大人しくなった。
そのタイミングを見計らった少年がみんなの前に出る。
「やあ、急にこんなところへ連れてこられてびっくりしたよね。そのことについてまず謝らせてもらうよ。ごめんね」
少年が言う。謝るってことはつまり彼がここへ連れて来たのだ。
「冗談じゃねえ! とっとと戻しやがれ!」
叫んだのは……なんだっけ? ガン黒? ギャル男? そんな感じの奴だ。仮にギャルボーイと呼ぼう。たまに電車で見かける。
「ごめん、それはちょっとできないんだ」
「こンのヤロォ!」
ギャルボーイが少年に殴りかかろうと駆け出す。しかしどんなに走ろうとも近付くことができない。なにかにぶつかっているというわけでもなく、足元も滑っている様子はない。見ていて不思議な感覚がする。
やがて足を止め、膝に手をついて激しく息をした。体力ないなぁ。
「ぜぇ……て、てめぇ……ぜぇ、……なにモンだ……」
「僕は……うーん、一応神かな」
おぅ、ゴッド的なやつだったか。怪しい掲示板にいっぱいいるらしい。
そんな安っぽくないか。こんな場所を用意して誰一人気付かず連れて来れ、更に先ほどの所業だ。人間にはちょっと無理だと思われる。つまり本物の神、マジゴッド。
「で、その神が俺たちにどんな用かな」
僕以外にも話を先に進めたい人物がいたか……くっ、イケメンか。いつも隣の駅から乗り込んでくる。そして女子に囲まれているんだ。女性専用車両でもないのに。
「ああ、ちょっと魔王退治に手を貸して欲しいんだ」
来たぞお約束。僕たちを勇者にして魔王を倒す系なやつだ。
「なるほど、よくある展開だね。だけど俺……多分ここにいるみんな戦う術なんて持っていないよ」
うん。こうなるなんてわかっていれば古武術とか習ってた。だけどそういったものは一切習ったことがない。
「それなら大丈夫。きみたちは戦わなくていいから」
えっ? どういうことだ?
みんなもわからないらしく、眉がハの字になっている。
「わからなかったかな。戦うのはこっちの世界の人間。きみたちにはそのサポートをして欲しいんだ」
ああそれなら僕にでもなんとかなりそうだ。
「ざっけんなコルァ! 神だかなんだかしんねーけどテメーの言うこと聞いてるつもりゃあねえ!」
ギャルボーイがまた口を出す。彼が本当に神だったとしたらあまり逆らわないほうが身のためだと思うんだけど、まあギャルボーイだしいいか。
「もちろんタダでとは言わないよ。見事魔王を倒した人には好きな願いを叶えてあげるよ」
マジで!?
これは熱い。そっかぁ、なんでもかぁ。
「……じゃあテメーをぶっ飛ばすってのもアリだよなぁ?」
「もちろん構わないよ。でも僕としては、彼女らと共に地球へ帰ることをおすすめするよ」
彼女ら?
────うおっ、びっくりした! いつの間にか僕やみんなの横に人がいた。でも半透明だ。ホログラフってやつだろうか。
……って、この子、僕が表紙買いしたマンガの娘にそっくりじゃないか! 本人と言ってもいい。もちろん可愛い!
「それが君たちのパートナーだよ。それぞれが魔王に対して敵対感情を持ち、倒したいと思っている」
周りを見ると、僕と同様でみんなそれぞれ好みの相手なのだろう、隣に出た人物を見る目が惚れている人を見ている感じだ。てかギャルボーイ、きみは見た目に反して清純系少女が好みなんだね。
「ま、まま、マジでこの子お持ち帰れんのか!?」
「もちろんだよ」
ひゃっほーいと大喜びするギャルボーイ。さっきまでの攻撃的な態度が嘘みたいだ。
「でも俺たちの世界は戸籍とか色々あるからそう簡単にできないと思うんだ」
「そこは心配しなくていいよ。そちらの世界の神に話は通してあるから」
イケメンはなるほどと呟きつつ、横に映っている綺麗な女性を見つめている。ああ、あまり女子に囲まれても色目を使わないのは年上好みだったからなのか。ごめんよ、勝手にこれくらい当たり前だぜみたいに思ってるんだろうなと決めつけていたよ。
とりあえず、そんな感じで僕らは魔王討伐へ向かうことになるらしい。