未プレイの乙女ゲーム転生なんてリアルより性質が悪い2
続きを書かないと言ったな、あれは嘘だ。
・・・・ごめんなさい。調子に乗りました。前作も読んでいただけたら幸いです。
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今回はテンプレのつもり。
「困った」
私は、またもや頭を抱えていた。またしても、不安要素が確定してしまったからだ。
魔法学園2学年目にして『ヒロイン』が編入し、そろそろ2ヶ月。
その間に判明した事は、1学年上に『クール』と『ワイルド』、さらには教師に『ホスト』と『清楚』な攻略対象がいる事である。
さすが『ヒロイン』。ゲーム未プレイの私には気づけなかった攻略対象にも、即効でフラグを立てていく。
それにしても、同学年に『俺様』『鬼畜眼鏡』『チャラ男』『ツンデレ』『癒しおっとり』『無口むっつり』がいて、1学年下に『ショタ枠』がいるとすると、攻略対象11人なんですが? 多くない?
最小限の動きで最大限の効果を上げていく『ヒロイン』の『中の人』は、どうやらゲームをやりこんだタイプと見た。
そして、前世はともかく、今世は肉食を決意したんですね。
どう見てもその動きは『逆ハーレム』狙いです。本当にありがとうございます(号泣)
もしかすると、追加ディスクとか続編とかの設定も混ざってるのかな?
11人って、隠しキャラ含めても多すぎない? 微妙に属性かぶってる中に『ヤンデレ』が隠れていそうでマジ怖い。
でも。しつこいようだが私はこの『乙女ゲーム』を未プレイ。ゲームの事前知識なんて、ひとっつも無いんだよーーーー!!
攻略本ぷりーーーーーーーずっ!
申し遅れました。私、前世記憶持ちの異世界転生者です。
平民出身なのですが、貴族ばかりの魔法学園に通うため、現在は男爵令嬢。
魔法チートは冒険者希望として大変ありがたいのですが、ちょっと世界観が望んでたのと違ってて、ギルド登録の前に学園卒業をしなくてはならない次第。
せっかく、解体やら調理やら、戦闘以外のスキルも精進してたのに、学園ではちっとも機会が無い。
ああ、ウルトラ上手に焼けたお肉が食べたい。憧れのマンガ肉っ!
お上品な昼食を前に、ちょっとだけ遠い目をしていたら、空いてる食堂に珍しい人を見つけた。
美形必須の攻略対象の中では地味目だが、武士系すっきりイケメン『無口むっつり』担当である。
この学園での食事は、寮食堂、校内食堂、園内カフェ、がメイン。
昼食は圧倒的に校内食堂で食べる学生が多いのだが、私は人混みが好きじゃないので、多少移動に時間がかかっても寮に戻って食べている。
行き来に地味に身体強化の魔法の実験をしていたりもする。
『短距離転移』と『縮地』は違うのだよ、ふはははは。とか言いたい。
いやそんなことを考えてる場合でもなく。
彼が何故ここにいるのだろう?
「こっちで昼食なんて、珍しいね」
私は自分が食べ終えてから、食器を下げつつ声をかけてみた。
「ああ・・・」
彼は答えた。
・・・・・・・・・続かないっ!
さすがの『無口』キャラである。
でも私、この間まで、もうちょっと彼と会話を続けてた気がするんだけど。
戦友もしくはライバル、希望は友達、くらいの関係だったはず。いや過去形じゃなく現在進行形でありますように。
何か話さなきゃ、と思うのに、なんだか話題が浮かばない。
攻略本でもあれば、彼の趣味やら、悩み事やら、なんでここで食事してるのかやら、まるっとわかって、こう、流れるような会話が出来るだろうに、私ってば無力。
「今度時間あったら、模擬戦やろうよ。有効そうな魔法混ぜてみたいんだよね。」
「ああ・・・」
・・・・・・・・・・続かないっ!!
「じゃ」
微妙に早足で、私はその場から撤退した。
なんかもう、なさけない顔をしてるって自覚があったから、誰にも見られず早く逃げたい。
ある日、実習授業で『ヒロイン』と模擬戦したら、泣かれた。
・・・何を言ってるか、わからないと思うが、私も呆然だ。
え。私普通に戦ってたよね? むしろ手加減してたよね?
でも、私が『ヒロイン』を痛めつけたって噂は、学園に広まってしまった。
味方がいない、ぼっちは辛い。
何を言ってもヒロイン補正には勝てなさそうなので、批難の目線や陰口(聞こえてるから陰とは言わないのか?)はスルーで。
そして、言いがかりで私に勝負しかけてきた攻略者達には、悔しいけれど、わざと負けておきました。
身分が違うからね。下手に目をつけられても困るしね。仕方ないね。
私は前世込みで精神年齢高いから、これくらいの屈辱、平気だし。全然平気だしっ! 大事な事なので2回は基本。
くっそー暴れたい! 隕石降らせたい。核融合とか試してみたい。 やらないけど。
ちなみに『ヒロイン』は、強くなりたいからと『無口むっつり』キャラに剣を教わってるそうです。
ふーん。へーぇ。負けイベントからの個別ルートなんですかねぇ。
『逆ハーレム』狙いは大変ですね。釣った攻略者の好感度をどう保ってるのでしょう?
一度上げたら下がらないタイプのイージーモードなんだろうか。
ずるい。絶対ずるい。ゲームプレイ済みなら、最初から正解を知ってるじゃないか。
私なんて、考えても考えてもわからないのに。
どう動けばいいのか、何を話せばいいのか、知りたいのに。・・・嫌われたく無いのに・・・
休日、学園の端っこ、人目につかない場所で八つ当たり気味に魔法剣の試し切りをしている所に、彼が現れた。
な、何故にっ。動揺してあたりを見回してしまう。『ヒロイン』は見当たらない。少しほっとする。
「時間あるから、模擬戦」
覚えてたんだ? 忘れてるかと思った。
あ、待って。『ヒロイン』に攻略されてるなら、もしかしてこれって敵討ち的な?
俺の『ヒロイン』泣かす奴は許さん的な?
なんだか、一瞬盛り上がった気分が、駄々下がりである。
でも、うん。純粋に彼と戦うのは嬉しい。身分的、実力的に本気出せる相手っていうのは貴重だから。
戦い終わって日が暮れて。
いい汗かいたっ! 試したかった魔法も試せたし、ストレス発散!
最初はちょっとお互いに顔こわばった感じだったけど、剣をあわせるうちに、楽しくなってしまった。
彼も、なんというか目の色がね、ハイライト無しからハイライト有りに変わったというか。
不機嫌系無表情から、少年漫画ライバルキャラ系微笑というか。
・・・・・・憑き物が落ちたような、その変化。
そして、私と彼は、久々に沢山会話をした。
主には『ヒロイン』との模擬戦と、その後の『攻略対象』との戦い。
他にも、2学年になってからの私の態度の違いや、学園内の違和感について等等。
ここに来て、私は彼を『無口むっつり』という記号でしか見てなかった事を猛反省した。
私が彼を『無口』って決め付けてたから、この学園が『私が想像するテンプレ乙女ゲーム』だと先入観を持ってたから、色々な事を間違えていたんだって気づいた。
彼は・・・レオンは・・・確かに『無口』と感じたけど、話すのが嫌いとか苦手な訳では無くて、言葉を選んで考えてる時間が長くなってしまうだけ。
『キャラ設定』がわからないだなんて、リアルでは当然で、知りたいなら聞けばいいってだけで。
無言時間を耐え抜けば、家の事とか自分の素質についての悩みとか将来への不安なんかも語り合えた。
なんかもう、色々と私が恥ずかしい。人の話をちゃんと聞く。これすごく大事。
決め付けダメ、絶対。
ただ、やっぱりこの世界『乙女ゲーム』ベースだと思うんだ。
レオンから聞いた話と、その後の観察結果からして『ヒロイン』・・・フローラが主人公補正という名前の魅了系スキルもしくは魔法を持ってるのは確定。
私には効いていないのと、私と戦ってる最中にレオンが正気に戻った事から、魔法チートで防げる予想をたて、魅了無効のアイテムをなんとか作って『逆ハーレム』阻止に向けて行動してみた。
一人とハッピーエンドなら、喜んでフローラを応援するのに・・・。何故レオンを巻き込んだし。
それなら『悪役令嬢』・・・ローズ様は味方につけねば、と、頑張って接触してみたり、魔法チートを有効活用して冤罪を防いだり。
私が異世界ファンタジーで俺TUEEEEを実践したがってるように、フローラが乙女ゲームで逆ハー狙うのは、すごく共感できるので、不幸すぎる『ざまぁ』結末にならないように立ち回ってみたり。
だってさ・・・後味悪いと嫌じゃないか。主に私がっ。
前世思い出してすぐの暴走は、私も経験あるしね。黒歴史をやらかして成長するんだよ(遠い目)
努力のかいがありまして『ヒロイン』フローラも自重してくれたようです。
よかったよ冷静になってくれて。ここ、1妻多夫世界じゃないんだから『逆ハーレム』は無理だよ。
ハイスペック『攻略対象』達は国の重鎮予定なんだから、全員フローラに魅了状態が続くのは国が危険。
一人限定なら魅了続いてもいいんじゃないかな、うん。 お幸せにっ。
あ。もちろん『悪役令嬢』ローズ様も、お幸せにっ!
さて。
できるだけの事はして、ようやく卒業が見えてきて。
私は卒業後の希望を、冒険者に定めた。
魔法学園で勉強した結果、私の魔法チートは、そこまでチートじゃないって事もわかった。
魔法力の総量、いわゆる『MP』は普通の人から比べれば多いが、10年に一人レベルで、人類の範囲内。
前世のオタクこじらせ知識のおかげで、妄想力が豊かなせいか、魔法の使い方が器用ってのがチートに相当するかも。
元々火力ゴリ押しタイプじゃなくて、コンボ狙うテクニカル派、いや、ロマン派だったから納得である。
じゃあやっぱり、騎士団の魔法使い、みたいなのじゃなくて、冒険者がいい。
戦争で大火力でどっかんどっかんより、状況見極めつつ魔法選んで『効果はばつぐんだ』のほうが好みだ。
そして、その将来を伝えたい人がいる。
この学園で、最初に友達になった人。
『ヒロイン』の『攻略対象』だからどうしようもないとモヤモヤした人。
『無口むっつりキャラ』だなんて記号じゃ失礼なほど、努力家で懐広くて不器用で良い筋肉ですっきりイケメンで、学力は普通だけど人の話をちゃんと聞いて考える事ができて、鈍感で、笑顔なんて壮絶に可愛くて・・・・
あれ? なんで私、こんなにレオン大プッシュしてるの?
「せっかくだから、私は冒険者を選ぶっ!」
「なにが『せっかく』だかわからないが、わかった」
学園の端っこ、人目につかない私の訓練場所で、私はレオンに告げた。なるべく軽く。
レオンの希望は騎士団だから、卒業後は接点が無くなる。二度と会えなくなる・・・かもしれない。
「レオンは騎士団がんばってね」
精一杯のにっこり笑顔。
「俺は、せっかくだから、冒険者を選ぶぞ」
「なにが『せっかく』なのか、まったくわからない!?」
レオンは、なんだろう、微苦笑? こんな表情でさえイケメンだとは。さすがに3年も見てれば大分慣れるのでニコポはしません。
「リリーが『せっかく俺に告白してくれたんだから』冒険者を選ぶ」
なんですとっ?!
あ。リリーは私の名前です。え?知らない? 自分で自分を名前呼びなんて恥ずかしいから、してなかっただけです。
ぼっちだから呼ばれて無いとかじゃ無いんだからね?
というか告白? さっきの発言のどこをどうすれば告白扱いになるの?
「お前1学年の頃から、ずっと冒険者冒険者言ってただろ。
模擬戦も、騎士っていうよりは、なんでもアリな傭兵風だったし。
むしろ俺は、どうしてお前が騎士団を候補に入れて悩んでるのか疑問だった」
「それは、学園に入学して視野が広がったから・・・」
「じゃあ、研究職が候補に入って無いのはどうしてだ?」
魅了無効のアイテム作りは楽しかった。オリジナル魔法構築も胸がときめいた。
ぶっちゃけ平民でも使える魔法具開発はしたいから、冒険者やりながら休日に取り掛かるつもりでいた。
「・・・レオンは魔法特化型じゃないから・・・」
自覚無しに口に出していた。
レオンは養女な私と違って、ちゃんと貴族だけど、魔法力は少ない。でも剣技はすごい。
三男だから家関係無しに自立して・・・て考えると騎士団が有力候補。
本人も騎士になりたいって言ってた。
「俺が騎士団に入りたいって言ってたから、リリーは悩んでたんだろう?」
そう・・・なのかな。そう・・・かもしれない。
「フローラが学園を掻き回してた時も、俺のために動いてくれただろう?」
あ。フローラは『ヒロイン』です。念のため。
そういえば、レオンが『逆ハーレム』に巻き込まれてから、阻止への本気出した気がする。
「ダンスパーティーを3年連続俺とパートナー組んでるくせに、自覚しないし」
私レオンしかパートナー頼める人いなかったんだよ。
ぼっち自覚ならしてるよ。
「ごめん・・・嫌だったなら断ってくれて良かったのに」
「そうじゃなくて。俺は・・・俺も・・・言葉が足りないほうだから、確信が持てるまで言い出せなかった」
胸が痛い。なんだか逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
切実に、この先のレオンの言葉を聞きたくない。
「好きだ」
え。
「お前が冒険者への憧れを語る時の、目の輝きと弾んだ声が好きだ。
楽しそうに魔法を交えて戦う姿は女神のようだ。
自分を律する強さを尊敬する。
実はお人良しでおせっかいな所も好きだ。
隙の無い身のこなしに見惚れる。
努力家なのも、それをひけらかさず、かといって隠し立てもしない自然な態度に感心する。
ドレスを着た時のギャップは開き直りとお前は言うが、凛とした雰囲気に目が離せなくなる。
そのくせ、美味い物を食ってる時の柔らかい笑顔は愛おしくて・・・」
誰だよレオンが『無口』キャラだなんて決め付けてたのはっ! 私だよっ!!
全然『無口』じゃないよ饒舌だよ。むしろ『タラシ』キャラの勢いだよっ!
考えてからの発言が時間かかるって聞いたけど、こんだけペラペラなのは事前準備でもしてたの? 火事場のくそ饒舌なの?(混乱)
いや、地味に容姿関係がひとつも無い事に気づいてる私は混乱してないよ。冷静だよ!! 大丈夫だ問題ないよ。
「お前が俺の事を気にしてくれてるのは、友情からなのかもしれないと悩んでいた。
けど、お前の夢を、そんなに辛そうに告げられたってことは、俺と離れる未来を苦しく感じたからだと、俺は自惚れていいか?」
え。私、軽く言ったし、笑ってたんだけど。え。え。
どうしたのレオン、耳とか目とか悪くなったの? 突然変異なの? 病院が来いなの?
「リリー、俺はお前が好きだ。
お前の傍で、お前の輝きを身近に感じながら生きていきたい」
私の耳がおかしいの?
なんかもう、告白通り越してプロポーズに近くなってないかこれっ?!
私の言語中枢大丈夫? 言語は普通に習得したつもりだけど言語チートが今になって付与されて誤作動してるとかじゃないのっ?
「一緒に世界を旅しよう。各国の料理を食べて、珍しい食材や素材を探そう。
冒険者のランクを上げて、ダンジョンを攻略し、いつかドラゴンを倒そう。
何か試したい事があれば、俺が練習相手になる。
お前が語ったお前の夢を、全部叶えていこう。
お前の夢を叶えるのが、俺の夢だ」
乙女ゲームならではの、ハイスペック美形による甘い台詞攻撃が続いている。
スチルイベント確定で、リプレイできるんなら慣れもするだろうけど、未プレイの私には不意打ちからのクリティカルヒット。
なんなの? 私死ぬの? もしくは反動で殺しちゃっていいの?
レオンの笑顔に、キラキラエフェクトの幻影が重なる。破壊力がひどい。目が。目がぁ!
イケメンは見慣れたはずなのに、ここまで呼吸困難で死にそうになってしまうのは、ゲーム仕様なの? ゲーム補正なの?
嗚呼これだから、未プレイの乙女ゲーム転生なんて、リアルより性質が悪い。
この後幸せになりましたw 無自覚主人公も怒涛の告白で大パニックしつつ、ようやっと恋愛感情自覚。遅っ!
結局ざまぁ無し。ぬるい世界でいいじゃない、異世界だもの。
『ヤンデレ』は誰だったんでしょうね?(をい)
タイトルを前作と近作で違う意味で落としたかった。急展開なのは反省。
最後まで主人公の詳しい前世や外見が1文も無いのはわざとですwホントだよ?
ノリと勢いで書いた拙い作品ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです^^
ありがとうございました。