軍チカン兵衛2016(期間限定復活)
(ナレーション)「連載終了からすでに一年、すっかりフリーになったチカン兵衛は再び、御年賀のあいさつで秀吉を訪ねたのでした…」
(香港から帰って来た秀吉、チャイナ美女を侍らせて中華おせちで信長と酒盛り中。特設ステージでは初震姫が踊っている。隣で石田三成と徳川家康、書類の山を前に何やら事務作業中)
「おおチカン兵衛か!よく来たわ!本家の大河もやってにゃあと言うに、相変わらず大儀なことだでや!」
「の、信長様。また、大坂城出店ですか?」
「違うでや!今度は徳川殿が天下を取ったで、リストランテは江戸に出店するのだわ。この大坂城はハゲネズミめに任せて、アウトレットモールにでもするのだわ!」
「(秀吉、チャイナ美女が持つiPadを見ながら携帯電話で、施工の打ち合わせ中)そうそう!最上階の部屋は大阪湾が見えるマンションにして、うんそう。先月のクアラルンプールのホテルみたいに屋上にプールとスパをどーんと!金に糸目はつけにゃあでええわ!うん、こっちの責任者は三成がおるからのう」
「三成!?あの二次元ヲタめ、打ち首になったんじゃないのか!?」
「だーれが打ち首ですか!チカン兵衛殿こそ、宇宙の藻屑になったと思ったのに勝手に帰って来て、どんだけ地球に有害な性犯罪者だと思ってるんですか。私の事務処理能力と経理手腕を買って、太閤殿下が引き抜いてくれたに決まってるでしょ。元々武士なんてむいてないんだから、面倒なことはみいんな徳川殿に押しつけちゃえば良かったんですよ。はい、徳川殿、これ、豊臣政権で未処理の経費の伝票です」(どっさり請求書とレシートの束の入ったファイルを放り出す三成)
「なっ、なんだこれは三成殿。て言うか、未処理の経費って、わしが払うのか!?そ、そんな余裕、開いたばかりの江戸幕府にあるとでも…」(嵩む借金の山に真っ青になる家康)
「政権の維持にはねえ、それだけお金が掛かるってことなんですよ。天下取ったんだから文句言わない!て言うか徳川殿もこの機会に経理勉強しないと、知らない間に使い込まれちゃいますよ?」
「(初級の簿記のテキストを読ませられて、釈然としない家康)言ってることはよく分かるんだが、なーんか納得いかないんだよな、天下取ってから。(何かに気づく)ん、あれ?この大坂城改装費って言うのはうちとは関係ないんじゃないのか?解体費ならともかく!それにこの飲食費・打ち合わせ費ってなんだ?信長殿、秀吉殿、まさかお二人が今やってる宴会の費用じゃありませんでしょうな!?」
「なっ(汗)なーにを仰られる徳川殿。いや、天下をとったるほどのお方が、そんな細かいこと気にしては、務まりませんぞ?うちはうちの独立採算でやってますから。ほら、三成がちゃあんとね。そうですよね、信長様!」
「(信長、ドンペリがんがん開けて女の子にもチップの札束をばらまく)ははははっ、そうだでや!とろくしゃあこと言うたらかんで!わしらがこねて搗いた天下餅を食う家康殿、あっぱれ、めでたいだぎゃ!わしらは貴殿のお祝いに来たのだわ!女の子も呼んだのもこの信長だでや。新年細かいことは気にせず、飲むでや!盛り上がろうまい!」
(さんざん大盤振る舞いの信長。でもたぶんあれ家康のお金)
「(不信感が募る家康)なーんか本当、天下取ってからお金ばっか出てってる気がするんだよなあ…気のせいかなあ」
(その家康の裾をくいくい引っ張る、初震姫)
「わたしにもそろそろ、お鳥目(チップのこと)を。それと、お腹が空きました」
「(さすがに呆れるチカン兵衛)秀吉様…なーんかみんな、徳川殿にたかってるだけのように見えるのは、気のせいでしょうか…?」
「チッ…官兵衛!(小声)お前、本当のこと言うたらいかんだろ!それにな、お前だって共犯じゃぞ。お前が計上したデジカメやらAV機器やら盗聴器やら、落ちない経費もな、みいんな家康殿に被せてるんだから、ばれたらおのれの自腹になるのだぞ?」
「(早速家康、官兵衛が切ったレシートの束を持って乗り込んでくる)かっ、官兵衛殿!中国大返しから定期的にかかってるこの『設備費・打ち合わせ費』って、何に使ったのですかな?毎月十数万計上されておるが、一体何を買ったのですかっ?」
「いや、その家康殿、それはね。信長様の仇討には色々費用かかってまして」
「まだまだ不審な点はありますぞ…大体領収証みていて気づいたのだが、レシートじゃなくて罰金や保釈金の支払いが計上されてますが、これは官兵衛殿個人の犯罪で逮捕されたときのお金では」
「あっ!ああー(あわてて誤魔化す)家康殿!信長様が、家康さま好みの美女をあーんなに!どうです、一人側室に!このチカン兵衛が誰でも口を利きますぞ!」
「だからそうゆう問題ではっ」
「いいですか家康殿、ここは細かいこと言わない方が吉ですぞ。大河を見てみなさい、豪気に明るく大盤振る舞いした人は大抵いい役、ケチくさくて陰気な人は大体悪役になってます。家康殿、いいのですかな、卑怯で陰険な腹黒タヌキのままで。ここは一発、皆にいいとこ見せて、イメチェンしましょうよ。そしたら今度は家康殿が大河の主役!間違いないですよ!」
(誰かの声)「さっ、真田殿だ!真田殿が来たぞ!」
(真田昌幸、信繁コンビ来着。今年大河で注目度抜群のため、色々な大名が周りに群がっている)
「さっ、真田殿!ぜひいい役をわしに!」「わしは真田殿は来る!とずうっと思ってました!」「(淀殿)「お茶々にも、美味しいお仕事ちょうだいにゃん☆」
「(うんざりする秀吉)こうゆうときの力関係って露骨だよなあ…」
「気のせいですかね、なびいちゃいけない人がすっごい真田殿になびいてる気がするんですが…」
「ふん。この信長は、戦国がテーマなら、どっちに転んでも『信長様…』とか憧れられる存在だで、心配はしてにゃあがな!」
(昌幸、秀吉に気づく)「あ、太閤殿下!今年もよろしくお願いいたします!(傍らの家康を見て舌打ち)…ったく、家康殿来なくてもいいのに。あー、まー、今年あたりころっと病死したりせんでくださいよ?」
「(家康涙ぐむ)なんで今年はわしとむっちゃ仲悪い真田が大河なんだ…」
「(三成)絶対今年もこってこての悪役ですね…」
「うるさい!腹黒いとか今いち貧乏くさいとか、昭和テイストとか言うな!天下人だぞ!わしだって…わしだって頑張ってるんだ!さ、最近スマホにしたんだぞ!?」
「(信長)徳川殿、その割にはメールもLINEも返してくれにゃあではにゃあか?」
(がっくり肩を落とす家康)
「だめだ。わしはもう、だめだ…」
「そう肩を落とさんで下さい!このチカン兵衛が若い子たちにもついていける家康殿に、生まれ変わらせてあげますよ。まずこのチカン兵衛の言うことを聞いていれば大丈夫です。ナウなヤングのハートをゲットしましょう!」
「そ、そうか…(なんだかこれならわしにも分かりそうだ)」
(昭和死語を連発して家康に取り入るチカン兵衛、路線図付きのパンフを出す)
「なんだこれは官兵衛殿」
「ふっふっふっ…これはチカン兵衛が、ご案内しております初撮り盗撮列車どきどきツアーのパンフですよ。お正月冬休みで油断しているJKJDのちちしりふとももを激写するための穴場スポットを巡る特選ツアーです。…今ちょうどね、この三が日の二日、予約に穴が空いてるんですよ。どうですか家康殿、徳川四天王とか誘っちゃって。一人大三枚で一日ご案内、チカン兵衛特選の盗撮画像生データもついてくる!」
「なんだ結局お前も家康殿にたかってるじゃにゃあか…」
「ほっといてくださいよ!わしだってねえ、女房に資産を凍結されて苦しいんですよ!大河終わっちゃったら、今いちぱっとしないし!」
「(パンフを見て迷い出す家康)しっ、しかしなあ…官兵衛殿、わし天下人だし、万が一のこととか考えると、すっごい危険な気がするのだが…」
「その危険がいいんですよ!いいですか家康殿、新春から羽目をはずさなくてどうするんですか!?今年は豪快って決めたでしょ?つまんない家康殿でいいんですか!?けちくさい腹黒タヌキから卒業したくないんですか!?」
(天下人に絶好調で悪行を勧めるチカン兵衛の胸ポケット、スマホが最大音量)
「なっ、なんだ…ここに来るからスマホは切ってあったと言うのに!」
(その間も赤い光を発して、痴漢撃退ブザーのごとき大音量を流し続けるスマホ)
「(三成、官兵衛のスマホを見る)これ、遠隔操作されてますよ。スパイウェアとか、インストールされちゃってるんじゃないですか…?」
「ばっ、馬鹿ないつの間に!(警告音がますます強くなる)あっ、クリスマス実家に帰ったときか!光の奴、『もうどこにでもお行き遊ばせば?』とか言ってたから、もう諦めたと思ってた」
「そのスマホで監視されてるんですよ。それ、GPS作動しちゃってますよ」
「来る!(気配を察してきょろきょろ)奴が来る!…わしには分かる!…くそっ、口惜しいがここは撤退だ!では信長様、秀吉様、今年もよろしゅう!アデュー…(黒マントを翻して背後の闇にフェイドアウト)」
(悪魔が去り、我に返る家康)
「わし、スマホ持つのやめよう…」
「しっかし相変わらずだがや、チカン兵衛のやつ…」
(ナレーション)「皆さま、今年も橋本ちかげ作品よろしくお願いいたします…とチカン兵衛の言う声が新春も、お馴染みパトカーのサイレンと共にこだまするのでございました…」