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現存写本的アル・アジフ  作者: 黒咲彼岸
序章 - 電子網に潜むもの
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1、田村公雄の手帳

手始めに、クトゥルフ小説のテンプレートと現代オカルトのテンプレートを掛け合わせ。


ニコニコ動画の方に、この話の【VOICEROID】結月ゆかりの朗読動画を上げていますので、ご興味があれば。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm27431828

 初めに、この手帳が悪友である御堂好嗣(みどう よしあき)の元に届いている事を祈る。というのも、今自分の置かれている状況が安全とはいい難く、今後我が身に凶事が降り懸かるであろうと分かっていても、その時期が何時訪れるのか判断がつかない為であり、できる限り詳細に私――田村公雄が遭遇した事象について書き記そうと思っているが、そうして手元に手帳を置いているほど、これを送付できずに死亡する可能性が高まるからだ。

 もし今読んでいる貴方が、偶然にもこれを拾った方であるなら、これ以上先を読む事はせず、裏表紙にある連絡先の人物に手帳を送り届けて頂きたい。そう、心から願う。



 好嗣。改めて、これが君の元に届いてくれていると祈っている。だが、断っておくが、この手帳は僕が復讐を望んでいるからだとか、真実を明るみにしてほしいからだとか、そういった理由で書いた物ではない。ただ、さらなる犠牲者が予想される以上、被害が拡大する前に止めてくれる人間が必要で、それを成す事が僕にはできそうにないからだ。

 内容がオカルト染みている事もあって、こんな事を頼めるのは君しか居なかった。君もオカルトを信じないタチだったし、友人を巻き込む事にかなり抵抗もあったが、探偵である君なら僕に起こった事を冷静に分析してくれるとも考えた。正直いって、今の僕はまともな精神状態ではない。少なくとも、そう自分で判断できるほどには正気を保っているが、冷静さは欠いてしまっているだろう。しかし、できる限り客観的に、順を追って僕とそれ以前の被害者に起こった事について書くよう努めるつもりだ。

 だから、信頼性を欠くような奇怪な文章が目に入ったとしても、とにかく最後まで読み通し、その真偽を確かめてほしい。


 事の始まりは、僕の働いている雑誌社の事務所に女子高生が訪ねてきた事だった。君も知っての通り、僕が記事を書いている雑誌は「U-YM」というオカルト誌だ。僕にとっては不愉快な事だが、そういう雑誌に寄せられるネタというのは、面白半分や冷やかしがほとんどだし、記事にしたって真面目に捉えられる事はないに等しい。だから、初め応接間に通した彼女が「呪いのサイトを見て失踪した親友を探してほしい」と言ってきた時は、まともに取り合わなかった。まず、警察や探偵でなく僕のようなオカルト雑誌の記者に頼む事がおかしいし、何より「呪いのサイト」というのに僕は全くと言っていいほど惹かれなかった。オカルト雑誌といっても、「U-YM」は怪奇現象や伝承についての調査や論理的な仮説を載せたもので、面白おかしく人の不幸や噂話を書き立てる雑誌じゃない。いくらオカルティストといえ、「呪いのサイト」などという、民間信仰的な背景さえも薄い噂を真に受けたりはしない。

 そう言うと、彼女はだからこそだと言ったんだ。警察には親から行方不明者届が出されたが、このご時世、それも失踪者が高校生となると、警察が本気で対応してくれるとは考え難い。事実、後日になって訪ねた親が受け取った言葉は「失踪者に該当する報告は揚がっていない」というもので、能動的な捜索が成されているとは思えないものだったらしい。毎日のように出される失踪者届を、一件一件対応することなどできるはずもないのだから、これで警察を責める事はできないわけだが、最大の頼みの綱が機能しないと感じて彼女は他に頼れるものはないかと知恵を絞った。

 とはいえ、親友の部屋を探っても何か目に付くものがあるわけでもなかった。現代人の多くが肌身離さず持ち歩いているだろう携帯電話もベッドの上に置かれたままで、それが自主的に家を出たとするのなら気になる点ではあるが、身一つで男の部屋に転がり込んだという可能性もなくはない。警察も一応事件性を疑って、遺留品を親に断って回収して行ったらしいが、その上で先ほどの気のない言葉が返ってきた事から、もはや期待はしない方がいいだろう。

 特に彼女の懸念していた事柄の性質上、それを素直に警察に伝えれば、余計にまともに取り合われなくなるのではないだろうかという気持ちが強かった。それというのは、つまり、例の「呪いのサイト」の事で、オカルト好きだったという彼女の友人が、そのサイトを興味本位で見てから様子がおかしくなった事が、彼女を不安にさせていたのだった。確かにそんな事を言ったところで、警察はまともに取り合わないだろう。けれど――親友を見る目にフィルターが掛かっていたとしても、失踪した彼女が「呪いのサイト」を異常に恐れていた事は間違いないと彼女は確信していた。失踪直前、授業中すら携帯電話を弄くって、「"呪いのサイト"の呪いを解除する方法」を検索していた様子を彼女は目撃していたからだ。

 さて、オカルト関係でどうも信じられない事……少なくとも彼女の親友が「呪い」と信じるに至った「何か」が起こっていて、それと関係するのかしないのかはともかくとして、怯えていたその子は消えてしまった。警察は宛にならない。代わりに探してくれる頼れる人が必要だ。それも探偵といった者ではなく、オカルト方面から探してくれる人物が好ましい。知っての通り大抵のオカルト記事というのは下世話で低俗だ。オカルト雑誌の記者に話しても、不愉快な記事に書き立てられる可能性が高い。頼るにしても、相手選びは慎重に行わなくてはならない……。

 と、そうして僕に白羽の矢が立った。親友の愛読していたオカルト雑誌に、光栄にも僕の雑誌があったらしく、その記事の内容から判断したと彼女は言ってくれた。僕の会社は社長の税金対策で運営されている弱小出版社だったわけだが、そのお陰で自由に書けた記事が、こうして一人の少女の信用を勝ち取ったわけだ。この事を僕は誇りに思う。

 その日は平日で、彼女が訪ねてきたのは午後一時ほどだった。聞くところによると、学校を休み、それなりに遠方から電車を乗り継いで来たらしい。その事と彼女の態度が終始真摯なものであった事から、僕は最終的にはその「呪いのサイト」を取材対象にすると決めた。ちょうど新しいネタを探していた最中だったし、都市伝説の類のオカルトはあまり扱ってこなかったのでいい機会だと思ったんだ。もちろん彼女の親友という子の行方に関しても、ケースの一つとして調べて見る気でいた。本来、仕事に私事を持ち込む事は好しとはしないのだが、もしかしたら彼女が美人だったからかもしれない。

 調査について、記事にする可能性を示した上で了承し、連絡先を交換した上で、その日はそのまま彼女を帰らせた。



 さて、不安げな顔をしたままの彼女を事務所から出した後、僕はさっそく問題の「呪いのサイト」についてネットで調べる事にした。この手の話は溢れ返っているだろうから、彼女から聞いた親友の事件から情報を辿ったのだが、多くのサイトが別サイトから得た記事をコピー&ペーストした二次情報で、ほとんどが同じ文章だった。時折、他の情報を載せている所もあったものの、「呪いのサイト」という有り触れたテーマであるが故に、書かれた情報が僕の探している「呪い」のものかを判断するのは難しく、思ったように情報を集める事はできなかった。

 ただ、どうやら僕の求めていた「呪いのサイト」もフィクションで語られる類の曰くつきなサイトと概要をほぼ同じくしているようで、いくらかの条件については知る事ができたので記しておく。

 条件というのは以下の事で、すなわち「呪いのサイトを見た者は死ぬか行方不明になる」、「サイトは何時でも表示されるわけではない」、「死ぬ(いなくなる)までにはタイムラグがあり、個人差もある」の三つだ。

 これらについては実際起きた事件や自身の体験からも確証が持てたのだが、調べている時点では幾らか疑っていた。サイトで得られる情報には、悪趣味なコメントが添えられる事が多く、呪いの条件にしてもイタズラや元の噂から変化したものだという可能性を捨てきれなかったからだ。

 被害者とされる人物も調べてみれば架空の存在である事が多かった。事件を想像で作り上げて、まるで見てきたかのように語る連中のくだらない手腕には半ば感心するほどだが、調べる方としては邪魔でしょうがない。

 この辺りの事は君も分かってくれるだろう。

 僕はそういった情報をメモしては、使えないと判断したものは斜線を引き……という作業をとにかく繰り返した。報われるとも知れない行為には大学時代に慣れていたし、僕の取材のほとんどはこんな作業に割かれている。

 前に、君と仕事の事について話し合おうと言っていたが、できそうにもないのでついでにここで記しておくよ。僕の仕事は単純な作業が主だ。怪奇や伝承についての知識は大学で頭に詰め込んだつもりだったが、それでも足りない事は多いな。

 それで、ほとんど無心になってディスプレイの文字を追っている時だった。

 被害に遭ったと思われる実在の事件の関連記事に気になる言葉を見つけた。

 それはブログに書かれたもので、サイト自体は他愛もないジャンク情報しか載ってない日記のようなものだ。そのバックナンバーの中に、呪いの被害者の発見者になってしまったという記事がぽつんとあって、その文章の中に「顔がなかった」と書かれていたんだ。

 ブログの管理者とは連絡がつかなかったから真偽は分からない。

 だが、その記事を鵜呑みにするなら、呪いのサイトについて話していたという友人をブログ主が彼の部屋で見つけた時、仰向けで物言わぬ姿になり果てていた彼の顔がのっぺらぼうのように無貌になっていたという。

 もちろん、到底信じられる話ではない。

 ただ、解剖に回すという理由で死体を回収した警察が、「顔を潰されて死んだ」のだと遺族に説明したという点が僕には気になった。

 実際に帰ってきた死体は遺族によれば、確かに酷い損壊の仕方をしていたらしいが、記事を書いた人物の話が見間違いではなく真実だとするなら、警察が非現実的な現象を隠蔽するために死体を損壊した事になる。

 勘違いしないでほしいのだが、僕は陰謀説といった子供じみた話で興奮するような精神年齢ではない。

 気になったのは、半端な隠蔽をしてまで「殺人」として処理した方がマシな「何か」があったのかもしれないという点だ。

 見つかりようがない殺人事件をでっち上げて役立たずの烙印を押されるよりももみ消したい、何かが……。

 何にせよ、これで「呪いのサイト」という漠然とした取材対象に「被害者は行方不明になるか、顔がない死体になる」という特徴が付け加えられたわけだ。

 ここまで調べた時点でかなりの時間が経っていたから、そのあと僕は呪いによる行方不明者の遺族で連絡がつきそうな人物をリストアップして、その日は作業を終えた。

 当然、リストは関係者から直接話を聞くためだ。



 依頼があった次の日、僕は早速先々月行方不明にあった高校生の自宅を訪ねた。

 住所が示した場所にあったのは築数年足らずの新しいマンションだった。六階建ての平べったい建物で俯瞰すればコの字に見えるだろう形をしていた。マンションがあるのは駅にほど近い袋小路の奥で、「この先行き止まり」の看板を越えた先だ。

 周囲も似たような集合住宅が建ち並んでいるから景色はよくない。一方面だけ畑らしき平地で開けているが、そこにもいずれはマンションが建つ事が立てられていた看板から読み取る事ができた。

 君は何で僕が取材先についてこうも細かに書き記しているか疑問に思っているかもしれないが、その理由は後でわかるだろう。

 さて、エントランスで部屋番号を入力して来訪の旨を伝えて、中には入れてもらえはしたのだが、その後問題が起きた。

 僕がオカルト雑誌の記者とわかった途端、先方が激昂してしまったんだ。

 一応、記者だとは伝えていたのだが、「オカルト」と付くだけで人の心証はことのほか悪くなるらしい。わかっていたつもりだったが、やはり気落ちしてしまうものだ。

 罵倒を聞いていると、彼(行方不明者の兄らしい)は一度別紙のオカルト雑誌記者に酷い取材をされたようだった。

 こうなるとまともに話す事すらままならないし、情報を得る事など到底できない。気の乗らない事ではあるが、僕は奥の手を使う事にした。

 といっても、あまりにも単純な作戦で、こういう事は君の方が機転が利くのだろうな。

 彼女から受け取っていた彼女の友人の写真を取り出し、自分の妹と偽って事情を説明する……成功するか怪しいものだったが、彼女が語った事情を自身に置き換えて話し、自分が得た呪いのサイトの情報――顔がない死体を含めてできるだけ多く提示して、記者という立場を利用して行方を調べていると言うと、彼は態度を少し軟化させた。

 持ってきていた「U-YM」のバックナンバーを見せると、僕が胡散臭い記者というより民族学をかじった文学人間であると認識を改めてくれたようだ。

 そして、わかった情報を知らせるという条件で、彼の弟を見舞った出来事について教えてもらえる事となった。

 彼の根城――2LDKの部屋で、こっちの高校に通うために出てきたという弟と同居していたらしい――に招き入れられて、品のいいソファに座りながら聞いた話は次のようなものだ。

 まず、呪いのサイトに彼の弟が触れる事になった理由は僕の思っていたものとは違っていた。それも、悪い意味でだ。

 彼の弟はオカルト染みた話を信じ込むようなタイプではなかったし、そんなものにわざわざ首を突っ込むような事はしない人物だったという。そんな彼が呪いのサイトを知ったのは知人との他愛もない雑談の中で、その同級生が呪いのサイトを話題に上げて最初にサイトを見たようだ。

 オカルトなどあるはずがないと笑い飛ばす為に、その場のノリでわざわざ呪いの類をつついてみる。実に子供らしい話だろう。

 僕達も大学生時代に似たような事をやらかしたな。

 止せばいいのに、教授の髪が自前なのかを確かめようとして……。あの頃の事が何もかも懐かしい。未来が見通せない今となっては特に。

 話を戻すが、その雑談の時、実は弟の方はサイトを見る事はできなかったらしい。

 それぞれ自分のケータイでサイトを開いたという事だが、呪いのサイトは見える人間と見えない人間とがいて、弟はそれに引っかからなかったのだろう。

 さらに、サイトの内容が表示されている時間も僅かだったようで、知人が映ったサイトを見せようと自分のケータイをかざした時にはページは閉じていたと弟は彼に言ったそうだ。

 そんな事があってしばらく、知人の様子がおかしくなり、最後には行方不明となった。

 彼の弟が見たのはその後だ。つまり、知人の行方を調べるためにサイトを見て、そして彼も被害者となったわけだ。

 その状況は、呪いのサイトを調べている自分自身と重なるものがある。

 僕という人間もまた……と思わずにはいられなかった。

 結果から言えば、その後僕はサイトを見てしまうわけだが、この時に深入りは止めておくべきだったと悔やんでも悔やみきれない思いだよ。

 今となっては僕の願いは、僕の集めた情報が失われる事なく君の元に届き役立つ事だけだ。

 さて、そうやって彼の弟は呪いに巻き込まれていった。

 彼の知る事情で特筆すべき箇所を抜き出すと、弟が口走っていたという言葉だ。

 知人の行方を調べ始め、サイトを見た後と思われる弟が、酷く困憊した声で「箱……銀色の箱」と口にしていたらしい。

 銀色の箱、だ。顔のない死体に銀色の箱。

 いよいよオカルトらしさが増してきたと僕は思った。それと同時に、呪いのサイトが本当に存在する可能性についても考えた。

「顔のない死体」というワードは如何にもオカルト話に出てきそうなファクターと言える。発想に目新しさはないが、ある意味では鉄板――人類の「恐怖」の根元に近い感情を揺さぶる装置でもある。

「のっぺらぼう」という怪談を君も知っているだろう。道ばたで顔に何もない妖怪と遭遇し、逃げ込んだ先でもまた同じく目も鼻もない妖怪が待っている………………いわゆる「再度の怪」。

 助かったと思わせておいて、もう一度恐怖が襲いかかってくるという恐怖もさる事ながら、僕はこの怪談に潜む最も大きな恐怖は「隣人の正体への恐怖」だと思う。

 道ですれ違う誰かや身近な人物が実は化け物であるという恐怖、そして顔見知りであってもその心の内は分からないという正体不明への恐怖だ。

「顔がない」というファクターにはこの二つの恐怖がない交ぜになっている。

 けれど、被害者の顔がなくなる、というのは何を意味するのか。

 顔をなくす、という事が「正体=自己の喪失」を暗示していて、自己の喪失が死に繋がった……と取る事はできるが、この程度のこじつけは悪意を持って流された噂話でも語られる背景(バックヤード)だろう。

 呪いが本物であるとするなら熟考したい点ではあったが、この時の僕はこのありふれたファクターについてはひとまず置いておく事にした。

 僕が興味を引かれたのは「銀色の箱」の方だ。

 こっちは顔の話と違って、オカルトと縁が薄いワードに思える。

 意味不明さを醸し出すために付け加えられた無味な単語の可能性もあるが、一方で呪いの根元に纏わる何かしらの曰くを覗かせる響きがあるように感じた。

 彼の弟がどこから「銀色の箱」という言葉を拾ってきたのかは分からないものの、「呪いのサイト」というあまりに漠然とした相手が少しずつ形を成してきたようだった。

「箱」に纏わる恐怖は何だろうか。

 正体不明に関係するものなら「中身がわからない」という恐怖がしっくりくる。他には囲まれる恐怖、仕舞われる恐怖などが思いつく。

 では「銀色」は?

 これが僕には分からなかった。いや、そもそもこれらのファクターに意味を求める事自体が無意味なのかもしれないが……。

 これを書いている今になっても、僕はその意味を図りかねている。

 なぜ顔がなくなるのか? 失踪者と死亡者の違いはどこからくるのか? 銀色の箱、アレが何の意味を持っているのか……。

 僕の身にこれから起こるかもしれない呪いによる最期。その一例として、彼の弟の顛末について書き記しておく。

 予兆は先述した通り存在していた。

 弟はサイトを見てから就寝中にうなされることが多くなっていたという。

 それが不安からくる悪夢なのか、他の理由から来る悪夢なのかはともかく、弟の夢見が悪かったのは兄の目からも明らかだった。

 それで問いただしたのが、呪いのサイトに纏わる弟の行動と友人の顛末だったらしい。

 弟はしきりに「銀の箱」と口にし、おそらくそれを探していたと思われるが、そんな情緒不安定な状態が続いて一週間後、事は起きる。

 真夜中、眠っていた彼の耳に天をつんざかんような絶叫が聞こえて彼は飛び起きた。寝ぼけながらも、その声がかなり身近から発せられたことを認識、すぐさま思い当たったのは弟のことだ。

 何かあったのかと彼の部屋の前で問いかけるが返事がない。

 仕方なくドアを開けて中を確認すると、弟が寝ているはずのベッドはもぬけの殻で、弟の姿はどこにもなかった。

 ベッドは乱れていて、汗の湿りや温かさといった直前まで誰かが居た痕跡はあるにも関わらずだ。

 慌ててベッドの下やベランダ、マンション中まで探し回ったがついぞ弟を見つけることはできなかったそうだ。

 そこにいたはずの人間が忽然と消え去る、という要素が今回の怪談には付属しているのかもしれないと思うと同時に、僕はもう一つの要素を彼の話から閃いた。

 ネットで見つけた顔がなかったという死体もベッドに横たわっていたが、その被害者も死ぬ直前は寝ていたのではないか? もっと言えば、何か夢を見ていたのではないか?

 この段階では単なる思いつきでしかなかった事だが、そんな発見を胸に止めて、僕はその日の取材を終えた。



 それからの数日間、手に入れた新たなキーワードを元にネット情報を精査したが、大した進展を得られなかった。

 顔なし死体については、いくつかの目撃談が上げられていたが、「呪いサイト」との関連性を確認できるものはなく、銀の箱に至ってはオカルトを臭わせるページすらないという始末だ。

 これ以上ネットから被害者や呪いの事例を探っても成果を上げられそうにないと思った僕は、ここで奥の手を使う事にした。

 僕のゼミ仲間だった木城郁(きじょう いくみ)を覚えているかい? 彼女は今、僕らの母校で教鞭を取っているらしい。

 まあ、それはいい。その彼女の父親が実は警察のお偉いさんで、個人的にも繋がりがあった。あとは分かるな? 僕は何とか依頼主の親友の件を捜査した刑事と直接面会する約束を取り付けることに成功した。

 その日の午後四時だったか、依頼主の地元の警察署に出向いて、アポの相手と対面したんだが、「何であんたみたいのが本店のお上と知り合いなんだ」と言われたよ。

 それで話を聞くことになったのだが、内容は予想していた通りのものだった。

 失踪した女子高校生の件は、親から失踪届が出されていたが、事件性も見つからず、捜査の為に預かった彼女の所有物も家族に返されたと刑事の男は言った。

 年輩で小太りの男は終始困り顔で、僕のような存在に迷惑していることは明らかではあったものの、受け答えや話に後ろめたさは感じなかった。

 本当に捜査は手を抜くことなく行われたが、成果と呼べるものが得られなかっただけなのだろう。

 彼も多少引っかかる点があることは認めたが、かといっていくら調べても進展しない事件に仕事を割き続けることもできず、現在捜査はほぼ行われていないと言った。

 警察に入ってくる情報で該当するものがあればすぐに確認するつもりだが、あくまで受動的な捜査になるだろうと。

 彼とも連絡先を交換した後、僕は唯一といっていい新情報を有効に使うことを決めた。

 所持品が返されたということは、「呪いのサイト」を見たケータイが失踪高校生の家にあるということだ。

 何日も探したが、結局「呪いのサイト」を実際に見ることは叶わなかったから、ケータイの履歴に残っているのなら是非入手したいと思ったんだ。

 ただ、僕が直接出向くとこの前のように家族を刺激しかねない。僕自身にも負担になる事だが、家族にとっては尚のことストレスになるだろう。

 少し考えて、僕は依頼者にケータイを預かってきてもらうことにした。

 被害者の親友だったという彼女なら家族の刺激も少なく済む。

 警察署を出た後、その旨を彼女に伝え翌日落ち合う約束をして、その日はホテルに泊まった。

 そして次の日。

 僕は彼女が指定した駐輪場に十分ほど早めに着いたのだが、彼女はすでに待っていて、僕に彼女のものと言うケータイを渡してくれた。

 ただ、行方不明者のものとあって、できるだけ早く家族に返さなければいけないということだった。

 そこで僕はケータイのメモリを持参したノートパソコンにコピーして、ケータイはその場で彼女に返すことにした。後はメモリの中身を自分のデスクで調べればいい。

「呪いのサイト」というからには見てしまってはまずい代物なのだろうし、万が一にも彼女に見せてしまうようなことは避けるべきだろう。

 代わりに僕は彼女から話を聞くことにした。

 オカルト好きだったという被害者について、その彼女が「呪いのサイト」の話を初めにした時の話、聞いたという「呪いのサイト」の噂に始まり、被害者の趣味趣向といったものにまで内容は及んだ。

 依頼者と違って、彼女の親友は中学の頃に引っ越してきたらしい。僕が訪れた土地は山を切り開いたニュータウンで、人の出入りや環境の変化が激しい所だ。

 今居る駐輪場も自分が中学に入るまでは公園だったそうだ。

 不安を紛らわそうとしてか、彼女は饒舌で、特に親友について話すことが多かった。

 これは彼女が見知らぬ僕の元へやってきた行動力からも推察していたことだが、彼女は親友の被害者に多少依存している傾向にあるように思える。この辺りの女心の機微は分からないが、そういう年頃なのだろうか?

 思い詰めて危ない行動をしそうで不安になった僕は、彼女が「呪いのサイト」を見ていないことを確認して、今後も絶対に見てはいけないと念を押した。

 しかし、今思えば彼女に対する認識が甘かったとしか言いようがない。彼女の安全を思うならば、ケータイはそのまま預かってでも僕が直接家族に返すべきだった……。



 さて、その後事務所に戻った僕は、間違っても誰かが見てしまうような事故が起こらないように一人で、ケータイの検索履歴を調べ始めた。

 まず最初に目に入ったのは「呪いの解除」について調べたらしき多様な検索ワードだった。僕が前もって調べた「呪いのサイト」を記事にしたページのほとんどが網羅されていて、その必死さが履歴から読み取れた。これでも僕は現役記者だ。こういう調べ物は得意だという自負があるが、彼女の調べ方はそれに迫る勢いだったよ。

 依頼者の言っていた失踪前の彼女の様子は本当だったという事がこれで分かった。

 そして、さらに履歴を遡っていくと看過できない単語が僕の目に飛び込んできた。

「銀の箱」。

 そう、ここでも「銀の箱」だ。この「呪いのサイト」の現象において、このワードは何かしら重要な意義を持つらしい。

 その時の僕は、前に調べた資料と一致している記述を見つけて、このオカルティックな現象を間違いなく捉える事ができているのだと、確証が得られた事に喜びを感じていた。

 何よりもこの履歴からはさらなるヒントや「呪いのサイト」そのものが掘り出せる事が期待できるのだから、水を得た魚の如くというやつだった。僕はそのままデータの洗い出しにのめり込んでいったよ。

 そうして、見つけた。

 無題で、何のサイトかも分からず、確認の為に何気なく開いたページがソレだった。

 黒い背景に文字一つないサイトだ。

 悪ふざけにしては手を抜き過ぎな意味のないページに見えたが、黒の中に何かが動いた気がして、僕は思わず凝視していた。

 その「何か」が気になって仕方なかったんだ。後で冷静に思い返せば、それは惹かれるというか、好奇心というか、言い表せない魔力に掴まれているような感覚だった。

 誇張表現、馬鹿馬鹿しい比喩。そう思うかい?

 けれど君だってそうなれば分かるだろうな。

 危険と重々承知していたはずなのに、無防備にページを見つめ続けていた自分の愚行を思い返して、背筋を走るぞっとするこの感覚を知れば。

 ……しばらくそうしていると、耳に微かな音が聞こえてきて落ち着かなくなった。今まで聞こえなかったノイズの音源を探ってみると、ノートパソコンに挿したイヤホンからだ。

 僕が震える手で恐る恐るプラグを抜くと、聞こえてきたのは何かがかしぐような、あるいは軋むような――キィキィという耳障りな音だった。

 何かは分からない。ただ、堅いようで妙に柔軟性を持った、ゴムのような物が引っ張られている、そんな音に聞こえた。

 それは段々と大きく激しくなり……それが「何か」が近づいてきているからだと理解した時にはもう遅かった。

 黒い画面の中に、蠢くモノがあった。

 ほんの一瞬、ディスプレイに映る自分の顔のように朧気にだが、映ったんだ。

 初めは何だか分からなかったが――、それがおそらく複数の眼だったのだと気づいた瞬間、僕は反射的にノートパソコンの画面を、叩きつけるように閉じていた。

 体中から汗が噴き出して、手が酷く痺れて、とにかく冷静では居られなかった。

 すぐさまパソコンの電源を切り、それだけでは安心できずにパソコンは机に置いたままにして、事務所から逃げ出すように自宅に帰った。とにかくその場から離れたい一心だった。

 もう僕は「呪いのサイト」の存在を疑おうとは思わなかった。もちろんサイトの引き起こす怪奇現象についてもだ。



 その日、久しぶりに夢を見た。

 白く、どこまでも続いているような広い空間に、いつの間にか佇んでいる夢だ。

 何故そんな場所に居るのか、何をしようとしているのかは分からない。

 ただただ、そこに立ち続けていて、動く事もできないんだ。

 そして、目の前に四角い箱があった。銀色をした箱が。



 自分が呪われたらしいという事は何となく理解できた。けれど、どうやって回避すればいい?

 今まで調べた被害者の中で、呪いの解除方法に至った人物は居ない。だからこそ彼らは犠牲になった。顔を奪われて死ぬか、あるいは失踪するか、そのどちらにしても猶予が少ないのは明白だ。

 傍観者から当事者の立場になって、僕は自分が如何に事を甘く考えていたのか痛感したよ。

 僕は今までの人生の中で、何事に置いても客観的に見る事が正しくある為に、真実を見極める為に必要なのだと疑いもしなかった。

 しかしそれは違うらしい。他者の立場に、のめり込むほどの想像力を働かせ、その心情を読み取って初めて感じられる危機感というものがあるんだよ、好嗣。

 だから君も、僕が感じたこの焦燥と恐怖をよく理解できるよう努めてくれ。僕がこうして事細かに成り行きを書き綴るのは、そういう意図もあるのだから。

 とにかく、呪いが己が身に降り懸かって、僕は恥ずかしいほど狼狽した。オカルトを愚直に信じている訳でもなく、「もしも」を考えて身構えてはいたにも関わらず、こうなる可能性を分かっていたはずなのに、だ。

 仕事を休み、その日の昼まで落ち着きなく過ごした僕は、目覚めの悪い夢からしばらく経ってようやく冷静さを取り戻した。

 残された時間を使って、自分が何をするべきなのか。

 努めて冷静に考えて、僕はネットという情報源をとりあえず除外する事にした。これまでの被害者達が呪いの解除について調べたとすると、その方法はおそらくネットだろう。そして見つけられずに犠牲となった。とすれば、重きを置くべきなのは他の情報だと、被害者達の残してくれた手がかりから推測したわけだ。

 けれど、ネットという方法を除外したとして、ではどう調べればいいのかという点が問題だった。

 真っ先に思いつくのは書籍に頼るというものだったが、現代オカルト「都市伝説」の申し子であるところの「呪いのサイト」を、噂話以上に詳しく扱っている本があるものだろうか?

 そもそもそんな本を都合よく扱っている場所がどこにある?

 そう思った時、僕の頭にふと浮かんだのは大学の卒業論文の事だった。

 当時君に話した愚痴を覚えているか? 民族学の教授に与えられた課題がどこぞの写本からテーマを抜き出して研究するというもので、その写本がまた奇怪で手を焼いていると。

 あの時扱った写本に、銀に纏わる記述があった事を思い出したんだ。

 それだけの事と思うかもしれないが、僕にはすぐさま掴める藁がそれぐらいしかなかったし、写本の内容を検分した身としては、その本がオカルトを扱う術を当然の理の如く書き記したものだと肌で理解できていた。

 もちろん古書の写本にネットの化け物を扱う話は出てこないが、それでも噂を面白おかしく書き立てた本よりかは何倍もマシに思えた。

 すぐさま僕は稲倉大学――正確には木城に連絡し、写本の閲覧許可を得られるかどうかを確認した。答えは三日かかるというものだった。

 猶予も分からない僕にとっては恐ろしく長いように思えたが、あの写本はともすれば国宝というほどの稀覯本だったらしいので、彼女の言い添えでその閲覧許可を僅か数日で取れたというのは幸運だったのだろう。



 三日。その間の事を話そう。

 まず写本の閲覧許可を取ったその日の夜、また夢を見た。

 今度は白い空間でもなく例の箱もなかったから、最初は呪いの関係する夢とは分からなかった。何より、その場所というのが誰かの寝室といった風で、非日常的な気配が感じられなかったというのも大きい。

 ただし、馴染みのない部屋で、壁のポスターや本棚の様子から察するに大学生の男子の部屋らしいが、「誰の」となると思い浮かぶ顔はなかった。

 普通の夢でも、現実で得た情報の断片を勝手に組み合わせて経験した事のないような幻想を見せる事はあるが、この夢の場合は妙な「生活感」というものが感じられてどう捉えるべきなのか分からなかった。説明しづらい事だが、言ってみればチグハグさがないというべきか、寄せ集めてできた架空の部屋とするには、部屋の持ち主が感じられる統一感といったものがあった気がする。

 そして、少なくともそう考え覚えていられた事を鑑みるに、明晰夢である事だけは確かなようだった。

 さて、それだけなら記する意味もないと思うかもしれないが、僕がこの夢について印象深く記憶しているものを知れば分かってくれるだろう。

 音だ。

 何かが軋むあの音が部屋の隅から漏れてくるようにしてずっと聞こえていたんだ。

 それと同時に壁の向こうで何かが潜んでいるような予感があった。

 部屋の壁はしっかりした造りに見えるのに、その薄皮一枚隔てた向こう側に、蠢く何かが透けて見えるような感覚だ。

 夢はその後すぐに醒めた。

 だから、その何かの正体は確かめられなかった。

 それがよかったのか悪かったのかこの時の僕には分からない。今に至って判じるなら、知れる事は早く知っておくに越した事はなかったとは思う。

 ただ一つ言えるのは、この時点ではこの夢が呪いによる現象なのか、あるいは例のサイトの印象がこびり付いていて、ただの夢まで浸食しただけなのか、それすら判らなかったという事だ……。

 そう、この夢がやはり普通のものではなかったと知るのは後になってからだった。

 次の日から僕は写本以外のアプローチを試す事にした。

 とりあえず近場で一番大きい図書館を訪れてみたが、まあ結果は芳しくなかったよ。当たり前だが噂を取り扱っている書籍はあっても、その原因や由来を解明しようというものはなかった。

「呪いのサイト」というキーワードはやはり調査に適さないようだ。となると「銀の箱」が有力な手がかりという事になるのだが、これはこれで馴染みがなさ過ぎた。

 そもそも夢に出てきたあの箱は何でできていたのか。確かに銀色をしていたが、本当の銀だったのか分からない。銀色をした金属なんて幾らでもあるだろうし、メッキのようなものだったのかもしれない。

 そもそも夢の中のモノの素材を論じて意味があるかどうかも分からない。

 だいたい僕が知りたいのは箱の正体じゃなく、その中身の方だ。

 だってそうだろう? 箱は何かを容れるものなのだから。

 ……二日目となる朝の目覚めも決してよいものではなかった。けれど、恐怖より興奮が打ち勝って、転げるようにベッドから這い出た僕は、意図的に追いやっていたネットに齧りついた。

 それというのも、三度目の夢で見た光景が僕に大きなヒントを与えてくれたからだった。

 その夢は何気ない道を歩いているところから始まった。最初こそぼんやりとただ「歩いている」だけという感覚だったが、自分の足取りが思いの外しっかりと、どこかを目指している事に気がついて、ようやく周りに意識が向いた。

 まず目に付いたのは「この先行き止まり」という看板だった。そのフレーズをふと最近見た記憶が呼び起こされて、僕は今度こそしっかりと周囲を見渡した。

 細く入り組んだ道、住宅街の並ぶ町並み、畑だった空き地には今後の建設予定が書かれた看板。自分の足がどこへ向かっていたのかを理解して、気づけば駆け出していた。

 道の先にあったのはまだ建てられて新しいマンションだ。上から確認しなくとも建物がコの字型をしているだろう事が感覚で分かった。

 エントランスを潜り、例の部屋の前までやってきて――鍵は開いていた――その中はやはり2LDKの見た事のある空間だった。時折聞こえるキィキィというノイズ以外は。

 その後に目が醒めて、僕はパソコンに向かったというわけだ。

 調べる内容は当然、二回目に見た部屋が呪いの被害者の部屋かどうか。

 調べて分かるか怪しいものだったが、この点については幸いだった。まとめサイトに掲載された写真の中に、夢で見た場所と同一であろうものを発見できた。

 それは「呪いのサイト」の噂を調べていた時に、今回の件との関係性を確認できずに捨てた情報の中にあった。写真に映っている部屋の様子は断片的なものでしかなかったが、夢で見た部屋と物の配置が完全に一致していた。読みかけで放り投げられたであろう雑誌の位置すらだ。

 夢に現れる被害者の部屋や縁の場所。この事が何を意味するのか、僕の次なる課題はそれだった。

 オカルトに加えて夢に関する話を調べていく中で、一つ気になったのは、夢というものが人間の集合的無意識の橋、もしくは端なのではないかとする説だ。

 集合的無意識は元々ユングの提唱した心理学の概念だが、今ではアカシック・レコードや人類の霊魂的なネットワークのような解釈をされる事も多い。それらが正しいと言うわけではないが、人間同士が無自我の根底で繋がっているとしたら、僕の見ている夢は本来触れられない他人の領域に踏み込んでいる――夢が自己の無自我を受信するテレビとするなら、混線しているような現象なのかもしれない。

 もちろん、夢を捏ね繰り回して都合よく解釈するような人間が傍からどう見られるかは自覚しているつもりだが……ああっ、文字で伝えようという試みがこうももどかしいとは!

 とにかく夢に意味を求める事ぐらいしか、僕には出来る事がなかったんだ。

 事実、その試み自体は間違ってはいなかった。何故なら、僕は今この文章を夢の中で書き記しているからだ。

 実体のまま夢に迷いこんだんだとは思う。その辺の確証は得られないが、衣服の感触や意識の明確さ、息苦しさにしても現実と変わらない。けれど、ここが現実ではないという確証だけはある。

 この手帳が夢の中の事物なら君に届く事はないだろう。だが、被害者の遺留品にケータイがあった事から考えて……とにかく、僕は手帳が君に渡るように努めるつもりだ。

 そして、これを読んでいるなら信じてほしい。くれぐれも夢の中の出来事を夢遊病よろしく手帳に書き込んだなんて風に思わないでくれ。それもまた、都合のいい解釈なのだから。

 写本を読める事になった日の夢はまた例の箱を見つめている夢だった。ただしこの前よりはっきりとその姿形を知覚できて、溶接された跡もなく綺麗に組み立てられたその箱の中に、間違いなく「何か」あるという予感だけはあった。

 稲倉大学に足を運び、君も知ってるドデカい図書館でついに写本と対面する時がきた。

 といっても、その扱いには慎重を期さなければならない。監視員が二人つき、ページは直接手で触れないようにしてめくる。閲覧は読みたい部分をノートに書き移して、後で読む。じれったい上に読める分量がごく限られてしまうが仕方なかった。

 大学時代の記憶を手繰り寄せて、自分が膨大な写本のどの辺りを読んだのかを思い出しながらページをめくっていくと、その文字が目に入った。

「銀の鍵」。そう、前に見た「銀の……」という言葉はこれだった。「銀の箱」と違う事に気落ちはしたが、箱と鍵は密接に関係しているのも事実だ。

 イレモノ、そしてカギ。

 この奇妙な符合に呪いを受けてから萎んでいた好奇心が持ち上がってくるのを感じて、僕はとりあえずその関連の文章をノートに書き移す事にした。多少古めかしいとはいえ日本語だ、苦労はしなかったよ。そのノートは僕の自宅のベッドサイドテーブルに置いてあるはずだ。最後に確認した際にツマミにしたスルメと一緒に。

 時間が許す限りノートを取った僕は、今後も世話になる事もあるだろうと大学の関係者に厚く礼を言って図書館を出た。

 自宅でもよかったが、確認したい事を思い出して、ノートパソコンを置いてきたままだった仕事場に行く事にした。

 有休と休みでここ数日遠ざかっていた仕事場は、たった数日なのに、どうにも馴染みの薄い場所に感じられたよ。

 さて、確認したかった事だが、あの日思わずシャットダウンしてしまったパソコンを開き、ネットブラウザの履歴から一番上の――つまり「呪いのサイト」を開いてみた。案の定、目に入ってきた文字は「NOT FOUND」、つまり見られないというものだった。

 その時、このサイトを見れる見れないの条件もまだ解明していなかった事にも気づいたが、これは結局今になっても分からないままだ。何か法則性が見つかるかもしれないし、ランダムなのかもしれない。

 その後、僕は仕事場でノートを吟味し始めた。書き取ながら大体の内容は掴んでいたが、改めて見直して検分したかった。

 そうして、分かった事の内、とりあえずこの時点で分かった事を書く。

 まず「銀の鍵」だが、これは次元の境界を越えるための門の鍵らしかった。箱ではなく門の鍵だ。ただ、次元の出入り口が洋風扉の姿をしているかは甚だ疑問なので、あの箱がそうなのか違うのかは判断を保留した。

 何せ書かれていた文章が要領を得ないものだから、慎重にならざるを得なかった。

 そして主にこの鍵が使われる用途は、「幻夢境」と言われる場所への旅? 転移? らしい。

「幻夢境」は夢、もしくは精神世界といったもので――もっと言えば人間が見る夢の総合体、といった風な事が書かれていた。

 そう、夢だ。僕にとってこの点だけは見逃せない点だった。「銀」以上の符合だ。

 実際にそんな夢の世界があるかはどうでもよかった。本の著者が狂人であろうと関係ない。この本が実際にあった出来事を下地に膨らましたものならば、少なくとも今僕の身に起きている現象と近い事例があったのではないかと希望は持てる。

「呪いのサイト」の被害者よりも過去のケースを知る事ができれば、大きなヒントになり得ると思った。

 ノートに書き込んである注釈はそう意気込んで調べた結果だ。多くは役に立ったと言い難いが、無駄ではなかったと思う。その事は後になって分かった事なのだが、理解してもらう為にはやはりこれまで同様に順を追って話した方がいいだろう。

 写本を閲覧した日の夜も夢を見た。それも今までと異なる夢を。いや、ある意味では「同じ」だったのかもしれない。これまで見た夢がある流れに沿っていて――つまり段階を踏んでいたのだとするならば。

 気がつくと、僕は自分の仕事場に居た。事務所の仮眠室に横たわり、ふと目が醒めた風に立ち上がって、そこでこの夜自分が寝た場所が自宅だった事を思い出してぞっとした。

 何故事務所に居るのか、あるいは「自宅に戻って寝た」事の方が夢だったのか。

 これまでの悪夢が酷く現実味を伴って感じられる事を知っていたからこそ分からなくなりそうだった。まさしく「胡蝶の夢」だ。そして最悪な事に、どちらにしろ今の状態は異常だという事だけは理解できた。

 そこが事務所と分かって、僕がまずした事と言えば、自分の机を確認する事だったが、そこでとんでもないモノを見る事になった。

 結論から言えば、僕の仕事机は確かにあった。けれど、あったのは机だけで椅子がなく、代わりに置かれていたのは銀色の箱だった。

 当然のようにその場に鎮座する80cm四方のソレを、僕はどんな表情で凝視していたのだろう? 銀色をした箱に自分の顔は映らなかったように思う。

 事務所の窓から漏れる逢魔時の橙が、ただ箱を不気味に照らしているだけだった。

 一瞬、開けるべきなのかと考えた。今まで不吉な予感がして、下手に触れるべきではないと思っていたが、何もせずとも夢見る度に段々と呪いは進行しているらしい。ここで攻勢にでるべきなのかもしれないと。

 しかし、そんなちっぽけな反抗心はすぐさまへし折られる事になった。

 箱が、ごそごそと動き始めたんだ。中に「何か」が居る事は間違いなかった。それもおぞましく這い回る多肢を持った何かが。

 その直前まで箱を開けるかどうかを考えていた僕は、恥ずかしながらおっかなびっくり飛び上がって物陰に隠れてしまっていた。観賞植物の鉢の後ろという、何とも粗末な隠れ場所だった。

 観察すると箱は間隔を開けて小刻みに振動していた。ガサゴソ、ガサゴソ、と何かを探るように、確かめるように。

 位置がずれるほど激しく動いていたわけではなく、揺れる程度だった動きは少しずつ大きくなっていって――僕は逃げるべきかとも思ったが、こういう時に働く人間特有の感覚、恐怖の正体を知らなければ落ち着かないというどうしようもない衝動に負けてしまった。

 そして、その時は来た。

 それまでの物音と動きがピタリと止まり、痛いほどの静寂の中、夕陽の及ぼす光の効果に染まった事務所で、箱はパタンパタンと開いていった。

 そう、開いたんだ。僕はてっきり箱の上面が蓋になっているのだと思っていたが、違った。

 そして中から現れたモノについては、どう書き表せばいいのか……。

 いや、的確に表現できる言葉はある。けれど、おそらくその言葉を使えば、君は僕の感じた恐怖の十分の一も理解してくれないだろう。言葉は意志疎通には便利だが、どうしても齟齬を生じてしまう。それを踏まえた上で読んでほしい。

 それは蜘蛛だった。80cm四方の箱に詰め込まれていた巨大な蜘蛛だ。

 ……何だ、でかいだけの蜘蛛かとそう思っただろう? けれど、アレはそんなモノじゃなかった。

 巨大なものと対峙した時の恐怖は、その対象が何であれ恐ろしいだろうと想像はできるが、実際直面して僕を襲った恐怖はその巨体ではなく細部に宿っていた。

 種類としては女郎蜘蛛に似た姿で、足は細長くか細く見えた。見えただけだったが。

 八つの目は水に張った油の如く鈍く光っていて、体色は赤錆にまみれたトタンのようだった。

 体中にボサボサとした短い毛が生えていて、そいつが動く度に抜け落ちる毛屑が陽に照らされながら舞っていた。

 そしてそいつは平面と化した銀の箱から出てくるやいなや、僕の机を見やり、その上に閉じて置いてあったノートパソコンに前足を乗せた。

 ゴカン、とそんな音がして、思わず目を瞑った僕が再び見た時には、パソコンは机ごと真っ二つだった。

 この場合、何より恐ろしかったのはその怪力さではない。その蜘蛛がパソコンを見て――認識して、壊した事だ。

 そこには間違いなく知性があった。いや、この表現はどうにも安っぽいが……好嗣、虫のような小さな生物も知的な行動を取る事は君も知っているだろう。蟻が巣を作るように、ナナフシが擬態の仕方を知っているように、そして、それこそ蜘蛛が規則正しく糸を張る事もその内だ。

「本能」と言い換えてもいい。生物にはそういった生きていく上で不可欠な「知」が備わっている。

 しかし、それじゃあ、このデカブツにとって、パソコンを壊す行為は必要な「知」なのか?

 言うまでもなくそいつには物事を判断する知性があった。どこを向いているのか分からない眼で、いや、どこをも見渡せる眼で事物を見渡し、映ったものが何かを考える知性が。

 そしてこれまた言うまでもなく、僕の隠れん坊は誰が見ても稚拙なものだった。当然、その蜘蛛の外見をした存在にとっても。

 目が合った、と表現するのは些か語弊があるだろう。正確に言い表すなら意識がこちらに向いた事が理解できた、だ。

 鈍い虹色に光る眼の中に、黒目がチラツいて見えたような感覚だった。

 それを理解した瞬間、僕は事務所の扉に駆けだしていた。その咄嗟の判断は間違っていなかったのだろう。少なくともこの文章を残せる分は延命できた。

 今まで書かなかったが、その蜘蛛にはもう一つ恐ろしい点があった。脚だ。そいつは一番前の両脚をカマキリがそうするようにもたげて、残り三対の真ん中を抜かした四本で立っていた。ご丁寧に真ん中の脚を折り曲げて腹にぴったりと張り付けて。

 その体勢でそのまま僕めがけて突っ込んできたんだ。まるで馬のような綺麗な脚捌きだった。

 その時僕が感じた恐怖を分かってくれるだろうか?

 自分の身より巨大な蜘蛛が、何を考えているのか分からない顔をして、馬の如く駆けてくる。

 どう考えても蜘蛛の「知」ではなく、その内に何か得体の知れないモノが宿っていた。

 感じたのは捕食されるかもしれないという恐怖じゃない。何をされるか分からないという恐怖だった。もしかしたら食べられるよりも悲惨な目に遭うのではないかと。

 いや、僕はその末路をたぶんもう知っていた。例の顔をなくした被害者達だ。

 幸い、僕は追いつかれる前にドアを開き、入ってすぐさま閉める事ができた。けれどあの怪力だ、木製扉が耐えられるはずがない。鍵すらついていないドアノブを必死に握ったよ。

 それからどのくらい経ったのか……あの怪物がドアをノックする事はなかった。

 恐怖が去ったらしいと実感できてから周囲を見渡すと、そこは貸しビルの廊下ではなかった。僕の自室だった。

 置きっぱなしにした資料や缶ビールも寝た時のままなのを確認して、安堵の溜め息を吐いたところで――僕は目を醒ました。当然ベッドの上で。

 その日の昼、僕はあの写本を必死でめくった。

 調べたのは当然「蜘蛛」についてだ。特に夢に関係する話で出てくる「蜘蛛」。

 そんな都合よく見つかるはずがないと、僕自身もどこかで感じてはいた。けれど、殊調べ物に関してだけは僕は当たりを引いていたらしい。

 確かにその写本には「蜘蛛」の話があった。それも「幻夢境」関連の文の中だ。

「レンの蜘蛛」と呼ばれる存在が夢の中の化け物として書かれていた。「レン」というのは地名らしいのだが、今は名称については捨て置く。

 この蜘蛛がどんな怪談で語られているかは問題ではない。早急に知りたいのは対抗法だ。

 そうして読み進めていく中で僕の目が釘付けになったのは、この蜘蛛のある特徴だった。

 知性のある蜘蛛と、そこにはそう書かれていた。

 この時にはもう、書き取るなんて余裕がなかったからノートには載ってない。

 それほど僕には衝撃的な文章だった。夢で見た蜘蛛の印象がまさにそれだったから。

 一応断っておくが、僕が「蜘蛛」という単語を目にしたのはこの時が初めてだ。精神状態が不安定なのは重々承知していたし、不安になった心が分かりやすい恐怖として蜘蛛を夢に見せただけの可能性もあるが、写本と夢の一致は仏の垂らした蜘蛛の糸に思えた。

 他に頼るものがなかったというのもある。あの写本以外に、一体どんな存在が知識を授けてくれるというんだ?

 この頃になるともう僕は完全に冷静さを欠いていた。閲覧時間を過ぎて図書館から出された後は特にだ。

 夢を見る度に呪いが進行していく事に薄々気づいていながらも、僕が比較的冷静に眠りに就けたのは、夢からヒントを得ようという気概があったからだ。聞いた被害者の様子から呪われてから多少の猶予がある事は分かっていたし、直接的な手掛かりがあるとすれば夢の中だと確信していた。何より好奇心もあった。あの銀の箱には何が入っているのだろうかと。

 しかし、箱の中身が露わになり、ついぞ猶予がない事が明白になった今、夢への恐怖が容赦なく襲ってきた。

 僕はできる限りのカフェイン飲料と塩辛いツマミを購入して自宅――最後の砦、自分の城に帰った。世話しなく部屋を徘徊し、思いついたように缶の中身を呷り、ノートを開き、ネットで足掻き……。

 だが、君も分かっているだろうが、睡眠という人間の原初からある欲求に勝てるはずがなかった。二日は耐えたが、三日目の朝か昼か、僕は意識を手放し、そしてこれを書いている今日を迎えてしまった。

 夢で目覚めた場所は、自宅だった。そのベッドで起きて、ここがどこかを理解して悲鳴を上げそうになった。上げずに済んだのは、例のキィキィという音が辺りから聞こえてきたからだ。思わず口を塞いで周囲を見渡した。

 例の感覚だ。薄い壁の向こうに何かいる感覚がした。その正体は未だ分からない。蜘蛛なのかもしれないが、音との関連が不明だ。

 言いしれぬ恐怖が身を刺したが、前回はここに逃げ込んだお陰で助かった。今回も夢の中の自室に居た方が安全なのかもしれない。

 そう思っていたら、カーテンの向こうに影が差した。巨大な蜘蛛の影が。

 咄嗟に僕は部屋から出て――それが最悪の選択だった。

 考えてみればカーテンの向こうはガラス窓だ。木製扉を破りもしなかった蜘蛛の習性を信用するなら、ガラス板一枚でも隔てられていれば安全だったのかもしれない。そう思い至った時には遅かった。

 扉の向こうはマンションの廊下でも事務所の一室でもなかった。見知らぬ橋の上で、ノブに触れたままだったはずのドアは消え失せていた。

 そして、蜘蛛が居た。一匹どころの話ではなかった。

 十体、もしかするとそれ以上の、人よりも巨大な蜘蛛達が吊り橋のケーブルや主塔に張り付いて各々蠢いていた。

 四つ脚だけで歩くモノが居た、三本で立ってバランスを崩しながら橋の下へと落ちていくモノが居た、橋の上でびたんびたんと胴を捻って跳ね回るモノが居た……そのどれもこれもが不可解極まりない仕草をしていて気味が悪かった。

 けれど、何より気を乱したのはそんな蜘蛛の巣窟に放り込まれたという事実だった。

 隠れる場所もなく、僕は走る事しかできなかった。不幸中の幸い、僕を追って来れた蜘蛛は少なかったようだ。バランスの悪い三本脚や跳ね回る蜘蛛がまともに動けないのは当たり前といえば当たり前だ。その気味の悪い性質に救われた。

 無我夢中で走って、気がつけば、例の弟さんが被害にあった兄のマンション辺りに来ていた。一度目は現実で、二度目は夢で来た場所だ。

 地理に明るくはないが、全く見知らぬ土地よりはよっぽどマシに思えた。

 蜘蛛もまだこの辺りには居ないらしく、朝焼けが照らす青白い街の様子に僕は安堵しかけた。

 道の先から、彼女が現れるまでは。

 僕にこの怪奇について依頼してきた彼女。友人が行方不明になった彼女だ。

 彼女は戸惑うような目で僕を見ていた。

 それで僕は理解した。あの日、ケータイを返す前に「呪いのサイト」を見てしまったのだと。

 その後すぐの事だ、例の蜘蛛達があらゆる道の奥からワラワラと這いだしてきて……僕は彼女の手を掴んで走った――つもりだった。けれど、いつの間にか彼女は居なくなっていた。

 好嗣、お願いだ。この手帳が君に渡ったなら、彼女を気にかけてくれ。おそらく彼女が呪いにかかったのは僕より後だ。猶予は少ないが、まだあると願いたい。

 避難場所として例のマンションの一室を選んだ僕は、後ろから迫ってくる蜘蛛の足音から辛くも逃げ仰せる事ができた。

 その部屋の、クローゼットに体を押し込んで、前もって書いていた文に付け足す形でこれを書いている。だが、おそらくもう長くはない。死神の足音がすぐそこまで迫っている。

 例の蜘蛛がここを嗅ぎ付けたらしい。どういう原理か知らないが、僕が近くに居る事はバレているのだろう。

 ここでは僅かな隙間から覗くしか外の様子を知る方法はないが音は聞こえる。毛と毛がすり合わされるザリザリという音、蜘蛛の脚がフローリングを引っかく耳障りな雑音。

 部屋に入ってきた。時間がない。書ける事を書く。

 僕はこの事を公表してほしい訳じゃない。犠牲者が増えないように、僕ができる限りを尽くしたい。呪いの解法が分かればそれに越した事はないが、君に危険を犯してほしいわけではない。君ならこの手帳を最大限活用してくれるだろうと思って託す。

 蜘蛛だ、隙間から見える。四本で立っている。例の目が部屋を見渡している。やはりあれは物をちゃんと見ている。

 油のような目だ。何を考えているのか見当もつかない。

 こっちにきた。

 酷い臭い。すえた臓物のような 噎せる

 隠れるなら遠く 近くはむり

 動くものを追ってるわけではなく 認識して

 あの音だ  キィキィ  軋

 見られた 目がいい

 糸 ささ

 さよ

参考:

・クトゥルフ神話作品群

・「夢魔の標的」星 新一

・CALLING 〜黒き着信〜

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