§1@八神アカデミー教室棟2A
マイペースに連載書いていきます。
お付き合いいただけたら嬉しいです。
人生どこで転ぶかわからない。もしかしたら、知らぬ間に第二の人生とやらが始まっていたのかもしれない。
自力でやっと切り開いた道ですら、他人によってあっけなく転ばされてしまうこともあるから洒落にならない。そう、洒落にならない。この状況。
「あんた、現場近くにいたんだって? 実は犯人なんじゃない?」
そう奴はのたまいやがった。
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この状況をさっと説明してみると、私、笹川ユイは、一部に有名な探偵学校八神アカデミーに冬季研修生として通っている。周囲の話を聞くに、2週間の研修にも関わらず研修生選抜試験の倍率が30倍などというありえない人気を誇る学校らしい。今日はその研修の4日目なのだけど、昨晩にアカデミー講師が亡くなったとの連絡が入った、研修室の中。
「えっと…?」
「あんた、実は犯人なんじゃない?」などと冗談に聞こえないセリフをのたまった奴は、クラスメイト10人の中でも一匹狼であまり目立たない、目に少しだけかかる前髪が特徴の男だった。低く小さい声で話しかけられたにも関わらず、クラスメイトが一斉に私を見る。品定めにじろじろと睨まれているよう。
「何の冗談かしら。まだクロフォード先生が亡くなった、としか情報がないのに何故殺人だと断定してるの?」
声をかけた男は、ふーんとこれまた値踏みするような顔で私を見ている。悪いけれど私は本当に関係ないし、知らない。
「やっぱ面白いね、あんた。グループ授業あんたと組みたかった」
「そういうことを教室で言うと嫌われるわよ、桑原くん」
首をすくめつつ教室を見回すと、なんだはったりかとでもいうようにクラスメイトは私に興味を失っていた。クラスメイトはほとんどが推理スキルを身につけるためにここへ来ているわけで、もし犯人が身近にいれば格好の餌食にできるというわけか。ひとり、美人で髪の長い女子クラスメイトと目があったけれど、彼女は少し眉を寄せて、少し困った笑顔をくれた。そう、私もとても困ってる。
隣で椅子を引きずる音がして桑原くんを見れば、私の隣に勝手に座っていた。そして耳に顔を寄せてきた。
「俺、あんたがあの場所に居たの見てるんだ。きっと他の奴が話し出すのも時間の問題ってわけ。このままだと犯人じゃなくても犯人にされるかもね? 俺の言うこと聞くんだったら、少しくらいは守ってやるけど?」
若干どころでない上から目線。きっと桑原くんの整った顔立ちに騙された女の子がたくさんいたに違いない、と場違いながら思う。今度は私が彼に顔を寄せて小声で問う。
「根拠は?」
「昨日の授業の後にクロフォード先生に呼ばれて、呼び出された時間も知っているし、その時間以降にあんたが仮眠室から出てきたのも見てる。ちょっと、分が悪いと思わない?」
いくら私が犯人でないと主張しても、状況証拠が揃いすぎてるってことか。確かに。
「この件がひと段落するまでアカデミーが休講になるというなら、場所を変えましょ。ここで話す必要もないし、疑われていたんじゃ居心地が悪いわ」
「そうだね」
勝手に疑ったクラスメイトにお返しと少し皮肉を込めて。思えば、研修初日欠席したから、どうもクラスメイトとの距離が縮まっているように思えない。まあこれからは個人作業が多いし、群がるのが好きでない私としては都合がいい。
お読みくださりありがとうございました。