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低性能型テンプレ系乙女ゲーム悪役転生風味ファッションTS男

 あかん。


 彼の脳内を駆け巡ったのはそんな言葉だった。

 別に彼は関西人ではない。しかし、思わず似非関西弁を使うほどに取り乱していたのである。


 寝てたはず

 確かにベッドに

 インザスカイ


 そんな、評価にあたいしない俳句もどきをつい考えてしまうほどに取り乱していた。逆に、それ冷静なんじゃねぇの? といいたくなるのはご愛嬌。

 まずなにが起こったのか。

 それを説明するには彼が何者であったのかという点から始めねばならない。

 彼は大学生である。

 性格的なもの以外は普通の、どこにでもいるような髪型のどこにでもいるような顔立ちをしたどこにでもいるような頭の出来の悪さをした平凡……よりもちょっと劣るものの、ありふれた系男子だ。

 いつものように『単位危なかったっけ?』とか考えつつ、しかしご飯だけ食べに大学の食堂に顔を出し、そのまま帰宅してだるくなったので眠るというどうしようこいつ、みたいな日常をおくっていたはず。

 それが目を覚ませば天蓋付きのベッドにインしていたとなれば、まずその時点で慌てても不思議ではない。

 大学生男子(一般中流家庭所属)が天蓋付きベッド。豪華天蓋付きベッドだ。質も見た目もふわっふわでふりっふりである。

 なんだかこの時点ではたから見れば『ああ、うん……』と思われそう。

 だが、性格的にはある意味天元突破している彼からすればそのくらいならば問題なかったのだ。


 なんかこのベッドすげぇ! ここどこか知らないけど!


 とでもいいつつ、あまつさえそのベッドの上で無駄にハネてみたり埋もれてみたり匍匐前進をかましてみたりしただろう。そして、疲れてその後何も考えずに眠りについただろう。そのまま常世の眠りにつけばいいのに、とはいってはいけない。我慢の子。

 それでも『あかん……あかんで!』と取り乱してしまった理由は、いざ見たことのないベッドではしゃごうとした時に、体の違和感に気がついたからであった。

 目が覚めてそこそこ時間が過ぎているのに今更気がついたからであった。

 女、女性、オナゴ。

 言い方はどれでもいい。

 体がどうみても男ではない。


 あれ? おかしいよ? 僕の親友がいるべきところにいないんだ。


 それは取り乱そうというものである。むしろ取り乱さない男性の数は少なかろうというものだ。

 うれしい時も、辛い時も、悲しい時だって一緒にいたのだから。一緒に、乗り越えてきたのだから。

 なんか良いこといっている風だが、どちらかというまでもなく下品だろうということは特に気にしてはいけない。それほど大きな問題だったのだと思って欲しいところである。

 とにかく、男性から女性になっていた。

 さすがの楽観的な彼もこれには焦った。

 そして、長いことうんうん唸り考えていた結果、電波的天啓によって一つの結論にたどり着いた。


 「あ、これこの前みた転生とか憑依とか、そういうやつじゃね?」


 軽い。

 悩んだ割には軽い発言。

 最近見たものに状況がよく似ているのではないかと思い至ったが故の発言ではあるが、もうちょっと、もうちょっとなんか深刻な様子を醸しだして欲しかった。

 そんなちょっと頭がよろしくはない彼がすぐにそう思ってしまったのには理由がある。

 そう、何を隠そう彼は最近暇つぶしにネット小説を読んでいたのだ。

 様々なジャンルを手当たりしだいに読んでいた。

 ご都合主義といってはいけない。我慢の子である。

 キーワードは、知らない場所、なんだか豪華、知らない体、TS、鏡をみたらちょっと悪役っぽい顔。

 彼に電気っぽい何かが走る。


 「乙女ゲーム悪役系テンプレ……!!」


 作品的には正解である。ご都合主義だ。

 よく考えるとこの状況はすごく痛々しい、というつっこみは控えてほしい。

 しかし、ここで困った事に陥った。

 彼はそういう小説は読んだことがあるものの、乙女ゲームをしたことなどなかったのである。

 ちょっとオタクであっても、ちょっとネットで小説を読みあさっていても、一般的な男子は乙女ゲームをしようとはなかなか思い立ったりはしない。偶然にもやったことがある! これゼミで見たことある! というご都合主義はさすがに発生しなかった。

 というか、やったことがないのだから乙女ゲームかどうかもわからないし、実際転生や憑依とかそういうオカルト現象が発生しているかどうかも定かではないはずなのだが、そこは彼の性格ゆえ致し方なし。

 そう、作品的には正解だが、彼はこの時すでに乙女ゲームに違いないと思い込んでいた。

 そこで考えだしたのは方針であった。

 悩むところがまだいろいろあるだろう、まず情報揃えろやと言いたいところではあるが、繰り返し言うが、彼はその、頭がそんなによろしくない。フォローするのであれば、唐突に意味のわからない状態に陥り感覚が麻痺してテンションがおかしくなっているから、とでも。


 「悪役、悪役……うぅん。しまった、どうしよう。何をすれば?」


 いろいろな小説を読んではいたが、そんなに細かくは覚えていない。

 テンプレ悪役系も読んでいるわけだが、大体そういうのは回避に主点を置いているものが多いというのも手伝って、更に悪役というものがどういうことをしたらいいのであるものかというのも思い至らない。

 そもそも悪役やろうという発想になっているのがまずおかしい。


 「王子……? 王子とかと婚約してるとか……? 奪う? 奪い愛なの……?

 いや、しかし。しまったどうしよう俺、同性愛、違う」


 最後の方ちょっと片言になりつつ、彼は更に悪役について悩む。

 体は変化したとはいえ、つい先ほどまでは確かに男性だった記憶があり、実感があるのだ。頭は男性である。

 いくら体に引っ張られる部分があるとはいえ、そう簡単にそういう嗜好が変化するはずもない。当たり前の話しである。体がそうだから頭もそうだ、と単純に話が片付くのであれば、現実いろいろな問題や障害が起こるわけもない。

 彼は積極的エロスではないが、一般的エロスではある。部屋にはそういう本もデータもウェルカム! 状態だったのだ。

 結論、見た目からはそう見えないとはいえ、男とそういう関係になるのはごめんだった。

 このまま女性の体で生活していくことになったとしても、心から男に興奮したり恋したりということにはならないだろうという確信があり、自信がある。まさにファッションTS状態。それもともと女主人公で問題あるの? 現象。


 「そもそも悪役に拘らなくてもいいのだろうか……」


 若干遠い目になりつつ、今更ながらの発想にやっとたどり着く。

 『うごごご』と唸りをあげつつ、方針が迷子になりつつ、回らない頭を物理的に回そうとその場で回転してみたり、こけてみたりしながら、必死にどうしようかと考える。

 なまじ容姿が整っているため、この一連の行動を見ているものがいればさぞいたたまれない気持ちになったことうけあいである。

 そういえばこの男、部屋にあるものの確認すらしていない。情報社会に生まれ育ったとは思えないほどに情報を集めようとしない。

 結局、無駄に無駄なことに頭をフル無駄回転させてしまったせいか、そのまま眠たくなってしまい、抗いもせずそのまま眠りについてしまった。

 もうちょっとがんばりましょう。





 「ファッ○! フ○ック! まったく貴様はファッ○ンなやつだ。キサーマに比べれば便所虫さえ黄金の価値があろう!」


 突然汚い言葉で失礼。

 彼がファッションTSをするにいたり、しばらくの時が過ぎた。

 その間何があったかといえば、家族に心配されたり、家族に病院に連れて行かれたり、家族に生暖かい目で見られるようになったり、家族がなんだか優しい感じでせっしたり、といった具合だ。

 あと、そもそもの勘違いとして、王子とかいなかった。現代系乙女ゲームだったのである。これには思わず彼も苦笑い。『もう王子と婚約なんて絶対にしないよ』とは彼の談。もともと婚約したことなど無い。

 予想と時代が違ったり、時間がある程度過ぎたりしたせいもあって、彼は(ある意味)覚醒した。


 無理に悪役をする必要はないけれど、悪役設定? ならある程度悪役っぽくてもなんとかなる世界なんじゃないか。


 という謎の結論に至ってしまったのだ。

 しかし、初日にわかっていたことであるが、彼は悪役というもの自体が何をすればいいのかわからない人間であったので、悪役っぽいといっても推して知るべし。

 結果的に生まれたが、口が悪いほんのり三流映画風口の悪い系女子だった。

 最初は家族や友人が注意していたが、いくらいっても改めないので諦め風味。なんだかそのうちなおしていけばいいかなーという塩梅。

 ちなみに、彼は今、小学生だ。

 成績は上の下。大学生だったのに、上の下。

 このままでは成績も落ちる。口も悪い。礼儀も微妙で態度も微妙。

 だが、問題はない。

 この世界はこの世界に生きる者にとって確かに現実であり、ゲームなどではない。一人ひとりに思考がある。

 しかし、それでも基盤となっているのがゲーム。なんだか生徒会が謎の権力を持っていたりするゲームなのだ。彼が生きていた現実とは、その点で常識が違う部分が多いし大きい。

 彼は知らないが勝手に確信している通りに、この世界では悪役という立ち位置にいる。

 そこはテンプレ、悪役は結構な名家。そして世界はゲーム基盤。権力マネーでゴリ押しが現実よりも更に可能であるのだ! やったね彼ちゃん、敵が増えるよ!


 「へい、ブラザー。ブルーフェイス晒して水不足を解消しようっていうのかい? ハッハー、よせよせ、ダムが決壊しちまうぜ」


 「おはよう、ヒョウちゃん。でも何言っているのかよくわからないよ……」


 「待て、その前に便所虫扱いしておきながら放置とはどういうことだ」


 状況を描写しなくても彼がどの発言をしたのかわかりやすいのは助かる。一番バカっぽい発言をしているのが彼である。

 ちなみにヒョウちゃんこと彼の今の名前は、天成(てんせい) 氷衣(ひょうい)である。お前なめてんのかとかいってはいけない。傷つく。転生なのか憑依なのかはっきりしろや、とかもいわないでほしい。びーくーるびーくーる。

 彼と話していたのは、いきなり憂鬱な顔と揶揄されたのが心優しくも彼の友人をしている戸田地(とだち) 優人(ゆうと)

 無駄に最初に罵倒されていたのは弧掠(こりゃく) 好保(こうほ)

 好保も無駄に罵倒されているのにも関わらず相手をしてはくれるいいやつである。世界は優しく出来ているようだ。ツッコミどころ満載の名前ではあるが、見ないふりをするんが大人である。大人って汚い。そんな憤りを感じたりしながら我慢してほしい。ご都合主義とはこういうものか。

 知識もなく、テンプレ悪役を演じることもできず、知識がないから積極的に嫌な未来を回避するどころか、嫌な未来がくるかどうかすらわからない。

 そんな彼だが、それなりに愉快に生きていた。

 今はまだ。





 時は戦国。

 間違えました。


 時は更に流れ、高等学校入学までにいたった。

 それまでにもいろいろあったりなかったりしたわけではあるが、細かく描写しようとすると連載になってしまう。短編なのでする気もない。

 ダイジェスト風味に言えば他の攻略キャラっぽい系男子に出会ったり、フラグが不思議なことがことがおこって立ったり、折ったり、その中の一人に女TS転生者がいたり、好保君にフラグが何故か立ったり、でも彼はそれに気づいた時点で『男に興味は無い』とカミングアウトしちゃったり、その発言にちょっと優人ちゃんが引いたりしたが、好保君はまだ諦めてなかったり、引いたけどその後もちゃんと優人ちゃんは友達のままちゃんと仲良くしてくれてたりした。

 なんだかんだでエレベーター式学校で同じ学校に通いつつ、三人仲良く育ちました。

 高校も同じである。成績はもうアレでアレになってしまっている。ところで、マネーパワーって凄いですね。

 彼も二度目の人生だ。

 いくら頭があれであっても、いろいろ考えて生きてきた。

 考えて生きてきた中で、一つの結論が出そうになっていた。


 ここは確かに乙女ゲームが元になっているっぽい世界であると思っていた。


 それは間違いではないかもしれないが、


 どちらかといえば、どうやら最初に考えていたことの方があっていたのではないか。


 と。


 どういうことかといえば、答えは単純な話。

 『乙女ゲーム悪役系テンプレ』

 である。

 乙女ゲームを元にしているのではない。

 乙女ゲームを元にした小説を元にした世界。

 この二つは雲泥の差がある。

 確かに現実である。元にしているのがゲームだからといってすべてゲーム通りに進むこともないし、人間は人間でしか無い。

 しかし、ある程度はゲーム通りの部分もあるのだ。生まれや、育ちもそうだし、ゲームで出てきたような常識も仕組みもそう。

 乙女ゲームに限らず、ゲームには主人公がいる。

 そして、そういう物語の主人公というのは、自由なようである程度束縛されているような存在だ。

 特にゲームを元にしていれば、自由はあってもイベントの多くは訪れていたであろうことが予測できていた。結果は別でも、イベント自体は発生する、もしくは発生の兆しがあったであろうということだ。

 しかし、後者ならどうであろうか。

 元にした小説、つまりはゲームの主人公は主人公であって主人公でなくなる。

 書いた人間の都合で、元のゲームであったイベントや出会いという束縛は歪む。

 束縛がゲームの主人公からその小説の主人公にシフトする。

 彼が頭がまわらないなりに、そういう考えになってきたことには理由がある。


 野郎と出会いすぎ。


 である。

 聞けば、元が攻略キャラとよばれるものばかり。

 元のゲームでの彼のキャラ設定では、交友関係があるのは好保だけだったという話。現実だから、一人二人ならおかしくはない。

 だが、彼が出会ったのは攻略キャラと呼ばれていた人間の全てではないとはいえ、七割である。

 これはさすがにおかしい。

 避けているわけでもなかったが(TS女子と出会うまではしらなかったので避けようがなかったともいうが)、積極的に知り合いになろうとも思っても居ない。なのに狙いすましたかのように出会う。

 通りすがった、挨拶した、委員関係で、親の仕事関係で、といったレベルではないのだ。一度や二度というレベルではないのだ。

 少なくとも、出会いを経て、会えばプライベートの会話を交わすようなレベルの知り合いにはなっているのだ。全員が。

 これではもう、呪われているといってもいい。

 大本はゲームが基盤になっているのだろう。知識を持っていたTS女子も、会っている部分が多く、そこには違和感がなかったと彼にいっていた。

 おかしいのは、ただただ彼に奇妙にイベントが集中すること。好意が何故か最終的にもたれやすいということ。

 出会い、仲をある程度とはいえ深めることを強制されているような不快感。

 ふと時間があいたから、外に出ればそこに『偶然』時間があいたそれらがいる。

 偶然であって偶然話す機会が生まれて偶然時間があって偶然仕事であって偶然同じ委員で偶然親がその親と知り合って偶然クラスが同じになって偶然教室に二人しか居ない状態になって偶然体育で怪我して偶然保健委員がいなくて偶然そいつが……


 これ、もうホラーゲーじゃねぇ?


 と、引きつった顔で彼はTS女子に語ったという。

 彼は決して善人ではないが、特に悪人でもない。極端に片方に偏れない、そんなありふれた人間だ。性格がアレでも、そうなのだ。

 野郎たち自体が悪いわけでもない、という思いがあるため、そこまで無下にもできない。

 『偶然』の気持ち悪さが常につきまとうとはいえ、結局、性格が致命的に合わないでもない限り、それは何度も会えばある程度は仲良くなるものだ。


 そう、ここにきて、やっと彼は真面目に考える気になったのだ。


 この状況を打破したいと、やっと思ったのだ。

 このままでは野郎に狙われるようなはめになってしまう、という危機感からである。実際は、もうなっているのだが。

 そうして、彼はなんとなく主人公っぽい発想をもつにいたった。

 いたってしまった、ともいう。

 こうして、彼は考えが変わっていき、いろいろ作戦をねったりもしていくわけだが、簡単にいくわけもなかった。

 これから、もっと気持ち悪い『偶然』が起こり、それが強化されるのも確定してしまっているし、もっと面倒くさいことが起きる可能性もぐっと上がってしまったからだ。

 打破したい。そうなりたくない。逃げ出したい。そうなりそうな未来を変えたい。

 そういう思いが『偶然』を強化する。


 だって、『悪役系テンプレ』の主人公って大体そういう考えを持っているものだから。



ぐだぐだになった……

あれ? 最初からぐだぐだ?

気にしないことにする。しよう。してください。

ふっふー! 三段活用!


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