「あぁぁん……! これ以上は、おかしくなっちゃいますぅ~!」
◇
……翌日。
「ご主人様、おはようございます」
「……」
朝。呈は起き抜けに、訪ねて来た契を出迎えていた。……そういえば、洗濯ばさみと亀甲縛りは今日の約束だったが、いくらなんでも朝からというのはどうなのか? いや、まあ、最早時間の問題ではないのだが。
「あ、朝ご飯はまだでしたか? まだなら、私が作りますが」
「……いや、さっきトーストを食べたところだ」
「そうですか。それは残念です」
男にご飯を作る、か……。ラブコメのヒロインが言いそうなことだが、契はラブコメヒロインよりもずっと変態だしな。とはいえ、学校には呈の分の弁当を持ってきているのだから、料理の腕はそれなりに高いのだろうけど。
「……それで? 亀甲縛りはもう少し待て。まだちょいと眠い。洗濯ばさみならあるが」
「いえ、それも大変魅力的なのですが、今日はそれだけが目的で来たのではないんです」
あれ? てっきりそれだけが目的だと思っていたのだが……他に用事があったとは、意外だな。
「朝早くにご迷惑だとは思ったのですが、あわよくば寝起きの寝ぼけたご主人様に襲って頂けると思い、この時間にお邪魔した次第です」
「寝ぼけてても襲わねぇから。誰がお前の貧相な体を貪るってんだ?」
相変わらず色ボケが激しい契に、呈は彼女の体に―――特にその慎ましやかな胸に視線を向けてそう言った。確かに平均よりはずっと控え目だが、それはスレンダーな証拠でもあるし、一概に貧相と呼べるものではないのだが……。
「あぁっ……! ご主人様のお言葉、体中に染み渡りました……!」
しかし、当の本人はご満悦の様子。便利な性癖だな、ほんと。それ故に、呈も持て余しているのだが。
「っと、危うく本来の目的を忘れるところでした……。昨日は私の妹が、とんだご迷惑を掛けてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、そんなことか」
どうやら、妹が乱入してきたことを謝りに来たらしい。一応、そういう自覚はあるんだな。
「はい。結は昔から、私の後をついて来ては、私のスカートの中に頭を突っ込むような子でしたから」
「……姉妹揃って変態だな」
契の言葉に、呈はそんな感想を漏らした。スカートに頭突っ込むのって……いくら同性でも、警察呼ばれそうだな。
「そんな愚妹ですが、ちゃんとご主人様のペットになるように、よく言って聞かせますから」
「……いや、だから、それは要らんと言っただろうが」
話を聞いていないのか、それとも聞いた上で言ってるのか。どちらにせよ、どうしてそこまで妹を巻き込みたがるのか、呈は理解が出来なかった。尤も、契のことを理解しようとするのが既に間違いだ、とも思っていたが。
「いえ、あの子は極度のツンデレですから。内心ではご主人様に調教して欲しくて堪らないんです。ただ、ちょっと素直になれないだけで」
「本当かよ……?」
何とも眉唾物な話だが、それが本当ならば、確かに相当なツンデレだ。……尤も、ツンデレというのは、契の勘違いな気もするが。ただの病的なシスコンだし。
「そういうわけですので、あの子のことはどうか、もう少々お待ち下さい。明日には必ず、ご主人様の前でだけデレる女の子にしてみせますから」
「だから要らんっての。少しは人の話を聞け発情犬」
「も、申し訳ございません……! はぁ……はぁ……」
っていうか、この子絶対、態とやってるだろ。そんなにお仕置きが欲しいのか? 忠犬設定が崩れてる気がするぞ。
「っていうか、そろそろ入れ。あんまり外で騒がれたくない」
「はい、ご主人様」
というわけで、呈は契を家に招き入れた。……これから、ほんとにやるのだろうか?
「とりあえず、洗濯ばさみからな」
契をリビングのソファに座らせた後、呈は彼女の頬に洗濯ばさみをつけた。
「ひゃぅっ……! 地味に痛くて気持ちいいですぅ~!」
すると案の定、契は喘ぎ声を上げた。……この程度でも快楽を得られるんだったら、さぞかし人生が楽しいのだろうと、少しだけ羨んでしまうな。かといって、こうなりたいとは思わないが。
「ほら、もう一つ」
「ひゃぅん……!」
「三つ目」
「きゃぅん……!」
「二つ同時に」
「はぁぁん……! も、もうらめれすぅ~!」
洗濯ばさみの圧力で頬を赤くしながら、契は満足したように歓喜の声を上げる。―――しかし、息を切らして、肩で呼吸をしている彼女に、呈は容赦をしなかった。
「とりあえず、後三つな」
「あぁぁん……! これ以上は、おかしくなっちゃいますぅ~!」
今度は頬ではなく、耳たぶに洗濯ばさみを追加。……っていうか呈の奴、ちょっと楽しくなってきてないか? 最初は乗り気じゃなさそうだったのに、いつの間にかのめり込んだようだな。
「……うちにあるの、全部つけるか」
「あぁっ……! きゃぅっ……! はぁぁっ……! ら、らめぇ……!」
この日、契はペットになったことを心の底から喜んだ。そして呈も、ペットへの加虐で、久々に無邪気な気持ちになれたのだった。
◇
「はぁ……。はぁ……。盆と正月とクリスマスと誕生日と宝くじの一等賞が同時に来たようですぅ~……」
洗濯ばさみプレイの後。いまだ興奮冷めやらぬ契は、荷作り紐で縛られていた。こちらも約束通り、亀甲縛りの練習台となっているのだ。……元気だな、お前ら。
「こっちがこうなって、ここが、こうで……」
一方の呈は、亀甲縛りの手順を書いた紙(昨夜ネットで拾ってきた奴を印刷した)を見ながら、契の体を緊縛していく。彼が紐を引っ張るたび、契の体を締め付け、彼女の体を徐々に圧迫していく。
「ぁっ……! はぅっ……!」
このプレイのために、契は態々体操着に着替えていた(というか、私服の下に着ていた)。服が皺になると困るからだろうが……体操着姿の女子高生を緊縛する男というのは、かなり犯罪集の漂う光景だな。
「……ふむ。こんな感じか?」
一通りの手順を終え、呈は契の体を眺めてみる。……細いビニールの荷作り紐が、契の胴体に深く食い込んでいる。胸を強調するような紐の配置により、慎ましい契の胸は、半ば強引に自己主張させられている。スパッツは股の部分にも紐が食い込み、そちらの刺激を抑えようともがけば胸が締め付けられ、胸を緩めようとすれば股に食い込む、というジレンマを生み出していた。今はまだ体操着の上から縛っているが、これが裸だったら……契はとっくに卒倒しているな。刺激が強すぎて。
「あぁっ……! い、いぃですぅ……! ご主人様ぁ~……!」
「そうか。それなら暫く、そこで堪能してろ。俺は二度寝する」
「こ、この状態で放置プレイだなんてっ……! ご主人様、最高ですぅ~……! はぁ……! はぁ……!」
体を縛られ、ついでに両手も拘束された契を転がして、呈は早々に自室へと引っ込むことにした。この仕打ちに、契は快楽指数が急上昇。興奮で緩みきった表情に、口からはだらしなく涎を垂れ流して、既に美少女が台無しである。
「ああ、ちゃんと撮影しておいてやるから、後でじっくり見るといい。じゃあな」
「は、はぃ~……! どうぞごゆっくりぃ~……!」
最後に、契の前にビデオカメラを設置して、呈は部屋を出て行く。自室へ向かったのだろう。
「ひぃぁっ……! はぁぅんっ……! きゃっ……!」
それから暫くの間、契は悶え続けて、亀甲縛りを堪能したのだった。