「ご主人様はこんなにも魅力的なのに、これを分かってもらえないなんて間違ってるよ。ここは是非、私が体を張って、露出調教でご主人様の素晴らしさを知らしめるしか―――」
◇
……昼食の時間になって。
「私、このままじゃ駄目だと思うの」
「そうだな。適当にアパートでも探してとっとと出てけ」
「そ、そっちじゃないから……」
何かを決意するような絆の台詞に、呈は同意する振りをしつつ自身の願望をぶつけていた。……同居人に出て行けだなんて、いくらなんでも酷くないか?
「そうじゃなくて、呈君のことだよ」
「俺?」
絆が口にしたのは、呈の名前。しかし彼は、何故そこで自分の名前が出たのか分かっていない様子だ。
「呈君、評判最悪だよ? このままじゃ駄目だよ、絶対」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって……!」
自分の評価があまりに理不尽だというのに、呈はなんでもない風にそう呟く。そんな彼に、絆は思わず声を荒げてしまった。
「別に仲良くしたいわけでもないんだ。そんな奴らにどう思われてたって、関係ないだろ?」
「……っ! ち、契ちゃんはいいの!? 呈君が、みんなから嫌われてても」
「確かに、それは良くないかも」
本人が全く意に介さないので、今度は契に話を振ってみた。すると彼女は、絆に同調するような反応を見せる。
「ご主人様はこんなにも魅力的なのに、これを分かってもらえないなんて間違ってるよ。ここは是非、私が体を張って、露出調教でご主人様の素晴らしさを知らしめるしか―――」
「それやったら、社会的に抹殺されるぞ。お互いに」
なのだが、やはり契は頭の螺子がぶっ飛んでるらしい。途中から斜め上の発言が混じって、呈に突っ込まれていた。
「そうでなくても、ご主人様は交友関係が狭すぎます。鹿山さん以外に、校内にご友人はいらっしゃらないのですか?」
「……お前、最近反抗的だよな。一回〆るか?」
「あぁんっ! それでは寧ろご褒美ですぅ~!」
「え、えっと……」
ペットにまでぼっち呼ばわりされて、さすがの呈も頭にきたようだ。とはいえ、契はドMだから、お仕置きしようとしても逆効果だろう。
「……大体、自然と出来たならともかく、無理して作った友達なんて何の意味もないだろ」
「そ、そうかもだけど……」
「そうは言いますけど、私だってご主人様の「ペット」なりたくて、ご主人様に服従していますし」
「……友人と「ペット」を同列に扱うなよ」
なんか格好いいことを言って、契に論破されている呈。一応ちゃんと反論しているのだが、言い訳っぽさが拭えないな。
「ともかく。呈君がこのままなのは嫌なの、幼馴染として。それに、ちゃんと呈君の評判を良くしないと、私が「ペット」になったときにあらぬ噂を立てられるでしょ? 二股とか」
「ご主人様くらいになればハーレムを作ることも容易いでしょうけど、それには風評の改善が必須です」
「……ったく」
二人の少女にそう言われて、呈は溜息を吐いた。……自分の人生は、常に女難に悩まされていたのだと思いながら。
◇
……放課後。
「さてと。今日はどうするか」
益田家にて。呈は顎に手を当ててそんなことを呟いた。それは当然、契の調教についてだろう。
「昨日は肉体的に虐められたので、今日は精神的な苦痛が欲しいです」
「そうだな……とはいえ、バリエーションを揃えるのは大変だからな」
精神責めは肉体責めに比べて慣れやすい。故に、同じ内容を繰り返すとすぐに慣れてしまい、効果が薄れる。だからこそ、毎回違うものを用意する必要があるのだ。
「トイレの汚水は飲ませたし、生ゴミも食わせたし、ガラス釘の音を無限ループで聞かせるのも前にやったしな……」
「なんてことしてるのっ!?」
今までに行ってきた調教内容を思い出していると、絆が驚いたような声を上げる。……最初の二つ、下手すれば体調崩すぞ。最後のは地味だけど。
「これより軽いのは、思いつく限り全部やったんだよ。そしたら刺激が足りないだの、もっと人としての尊厳を失くすようなのがいいだの、文句を言いやがるからな」
「だからって―――」
「私としては、薄まった汚水よりも、排泄物を直接食したかったのですが」
「契ちゃんも何言ってるのっ!?」
契の性癖が本格的におかしくなってきたな……。そろそろ規制されそうなので自重してください。絆も全力で阻止しようとしている。
「とにかくっ! そういう不潔なのは駄目っ!」
「駄目って言うがな。お前、自分からそうなろうとしてたんだぞ?」
「うっ……」
少し前までの自分を思い返して、絆は言葉に詰まった。……そうだよな。呈の「ペット」になるってことは、そういうこともしないといけないわけだよな。
「まあ、俺としてはそのほうが好都合なんだが。お前の面倒見なくて済むし」
「そ、そういうこと言うんだ……」
「事実だからな。それとも、今から飲んでくるか? 汚水」
そんなわけで、みんなで騒ぎすぎたせいで、本日の調教は流れてしまったのだった。
◇
……夜、契は。
「……ふぅ」
自室にて。風呂上りの契は、ベッドでくつろいでいた。寝巻き姿でごろごろしている。
「……こ主人様と絆ちゃん、うまくいってるかな?」
契が考えているのは、主と友人のこと。彼らが仲良く出来ているか、それだけが気懸かりだった。
「……やっぱり、ご主人様と絆ちゃんは、幸せになるべきだよ」
呈と絆は互い、過去の傷に苦しめられている。呪縛から逃れられず、傷ついて、歩み寄ることすら出来ないでいるのだ。
「……だったら、私がなんとかしないと」
そんな二人を助けるのは、自分の仕事。「ペット」であり、友人である自分の役目。契はそう思っていた。
「とりあえず、作戦を考えないと」
そこまで分かれば、後は行動あるのみ。と言いたいところだが、勢いに任せて何とかなる問題でもあるまい。まずは外堀から、確実に埋めていくことにした。
「やっぱり、人手は多いほうがいいよね。それに、ご主人様自身のこともどうにかしないと」
呈と絆を仲直りさせるだけではなく、呈の評判も回復する必要がある。やることが多いのだから、仲間がいると心強い。
「とりあえず、結と鹿山さんは引き込まないと。鹿山さんなら放っておけないだろうし、結もなんだかんだでご主人様のことが大好きだし」
本人が聞いていたら全力で抗議しそうなことを呟きながら、契は人選を完了させていく。まあ、あの二人に頼むのが妥当だろうけど。
「……ふぅ。ともかく、その辺は明日にでも話すとして。今日はもう寝よっと」
一通りのことを決めてから、契は布団の中に入った。
「……ご主人様と絆ちゃん、うまくいって欲しいな」
主と友人のことを思いながら、眠りに就く契であった。




