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女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第四話 幼馴染と再会です
36/46

「え? え、えっと、その……わ、私だったら、ご主人様に冷たくされると興奮しちゃうし」


  ◇



 ……翌朝。


「あ、ご主人様。それに絆ちゃんも。おはようございます」

 登校途中。絆と一緒に登校していた呈に、契が声を掛けた。

「……ああ」

「あ、契ちゃん。おはよー」

 彼女に対して、呈と絆はどこか安堵したようにそう返す。……もしかしたら、二人っきりで登校するのは気まずかったのかもしれない。

「……契」

「はい?」

「絆を頼んだぞ」

 すると唐突に、呈はそう言って、契たちを置いて先に行ってしまった。……って、おい。

「ご、ご主人様……!?」

「て、呈君……!?」

 この態度に、さすがの契たちも驚きを隠せなかった。……そんなに絆と一緒が嫌かよ?

「……呈君」

「だ、大丈夫っ! 大丈夫だからっ!」

 そんな彼に、今にも泣き出しそうな絆。そして、彼女を必死に励ます契。

「……大丈夫って、何が?」

「え? え、えっと、その……わ、私だったら、ご主人様に冷たくされると興奮しちゃうし」

「契ちゃんと一緒にしないでっ……!」

 しかしながら、それもうまくいかなかったらしい。……その理屈が通用するのは、契みたいなドMだけだろうな。

「うぅ……」

「え、えっと……」

 とりあえず、学校行けよ。遅刻するぞ。



  ◇



 ……契たちが教室に入り、最初の授業が終わった頃。


「……」

 夏休み明け最初の授業が終わった途端、絆は机に突っ伏した。朝の精神的ダメージが抜け切っていないのだろう。そのためか、クラスメイトも彼女に声を掛けようとしない。

「き、絆ちゃん……まだ、落ち込んでるの?」

「だってぇ……」

 契が話し掛けると、絆は泣き声で顔を上げた。いや、実際に泣いていた。

「大丈夫だからっ! 幼馴染属性は古くから愛されてきたんだからっ!」

「そういう問題じゃないと思う……」

 相変わらず、意味不明なことを言い聞かせている契。絆も呆れている。

「ふーん、だ。契ちゃんは可愛い「ペット」だもんねー……私なんて、勝手にいなくなった、最低最悪の幼馴染ですよーだ」

 おまけに、とうとう絆がいじけてしまった。……全く、なんて面倒なことをしてくれたんだ、呈の奴は。

「私なんて、清純なんかとは全然違うしー。見た目ビッチの中古だしー。我儘で根暗で面倒な女だしー。呈君だって迷惑だよねー。契ちゃんみたいに、清楚で従順な子のほうがいいよねー」

「ちょ、絆ちゃん……?」

 投げ遣りに呟き始めた絆に、契は心底焦った。……下手をすれば、彼女の過去がクラスメイトに知られるかもしれない内容なのだ。余程ショックだったのだろうが、不用意な発言なのは間違いないだろう。

「あー、もー、死のーかなー。生きててもいいことなんて何もないしー。呈君にまで嫌われて、これ以上生きてても意味ないしー。ここの屋上から飛び降りちゃおうかなー」

「絆ちゃんっ!」

 ついには自殺を仄めかし出した絆に、契は声を張り上げた。

「な、何……?」

 これには、さすがに絆もたじろいた。困惑したように、契に視線を向けている。

「お昼ご飯、一緒に食べよ」

「……まだお昼じゃないけど」

 契の提案は、そんな当然の突っ込みを受けることとなった。



  ◇



 ……昼休み。


「……で? これはどういう趣向なんだ?」

 いつもの中庭にて。呈の前にいるのは、契と絆。……どうやら、契は前言通り、絆を昼食に連れてきたらしい。

「どういうもこういうもありません。今日からは、絆ちゃんも一緒にお昼ご飯を食べるんです」

 主の問いに、契はやや強めの口調でそう答えた。従順な彼女にしては、やけに独善的というか……普段、自分の欲望と関係ないところで我侭は言わないのだが、これだけは譲れないのか。

「あの、えっと、その……」

 一方、絆は契の背後に隠れて、怯えるように縮こまっていた。そこまでしなくてもいいだろうに……。

「ちゃんと絆ちゃんの分も用意しましたから。さ、食べましょう」

 契はベンチに弁当を広げると、二人を自分の両隣に座らせる。さすがに、呈と絆を隣り合わせにはしないんだな。

「……」

「い、頂きます……」

 彼女の強引さに戸惑っているのか、二人は特に抵抗しなかった。渡された箸を手に、弁当を食し始める。

「……おいしい」

 食事が始まってすぐ、絆が感嘆の声を漏らした。彼女が契の手料理を食べるのは初めてだからな。その腕前に驚いているのだろう。

「気に入ってもらえて良かった」

「お前はもう少し、自分のスペックを自覚したほうがいい」

 絆のリアクションを見て、安堵している契。対して呈は、まるで契を褒めるかのようにそう呟いた。……確かに、契は自分のことに、特に自身の魅力に対して無頓着な傾向がある。謙遜は美徳だが、彼女の場合はただの無自覚だからな。

「呈君は、こんなおいしいご飯を毎日食べてるの?」

「毎日ではないがな。学校のある日だけだ」

 食事が良ければ、自然と会話もスムーズになるらしい。さっきまでギクシャクしていたにも拘らず、絆と呈が普通に喋っている。

「いいなー。私も料理はそこそこできるけど、ここまでちゃんと作ったことはないし」

「良かったら、今度教えてあげよっか?」

「いいの?」

「うん。といっても、私に出来ることなんて限られてると思うけど」

「そんなことないよっ! 是非教えてっ!」

 更には、契と絆のほうも盛り上がっていた。ほんと、楽しそうだな。青春が羨ましい。

「……ふふっ」

 こうして、昼食の時間は賑やかに過ぎていった。それこそが、契の狙いだったのだろうか。



  ◇



 ……放課後。


「絆ちゃん、一緒に帰ろっ」

「うん」

 帰り支度を終えた契と絆。二人は一緒に帰るようだ。契は呈の家に寄るのが日課だし、絆も彼と同居しているのだから、そうなるのは自然な流れである。

「途中でご主人様と合流して、三人で帰ったほうがいいよね?」

「う、うん……」

 契の提案に、絆は控え目に頷く。……昼はそれなりに良好な感じだったが、まだ緊張しているのだろうか?

「まだ気まずい?」

「そういうわけじゃないんだけど……ただ、迷惑じゃないかなって」

「迷惑?」

 絆の懸念に、契は首を傾げた。呈が、絆を迷惑がっているということだろうか?

「……だって、その、付き合ってるんでしょ?」

「え? 何の話?」

 躊躇いがちに出てきた絆の言葉に、契はきょとんとしていた。惚けているのではなく、本気で意味が分からないようだな。

「呈君と契ちゃん、付き合ってるんでしょ?」

「ううん」

 絆が分かりやすく言い直すと、契はあっさりと首を横に振った。その反応に、絆は目を丸くする。

「……そうなの?」

「うん。私はご主人様の「ペット」だもん。恋人じゃないよ?」

「そう、なんだ……」

 驚く絆だったが、契がさも当然のようにそう言うので、複雑な心境のまま納得するしかないのだった。

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