表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第三話 お姉様の登場です
33/46

「夏休みの間も、ご主人様とはずっと一緒だったのに……こうして一緒に登校するが、待ち遠しくて仕方なかったんです」


  ◇



 ……そして、夏休みが明けて。


「おはようございます、ご主人様」

「ああ」

 朝。登校途中の契と呈が顔を合わせる。授業日であれば、いつものように見られる光景だ。

「……不思議ですね」

「何がだ?」

 二人で学校に向かっていると、契が不意にそんなことを口にした。

「夏休みの間も、ご主人様とはずっと一緒だったのに……こうして一緒に登校するが、待ち遠しくて仕方なかったんです」

「……そうか」

 呈の隣を歩く彼女は、はにかみながらも率直な気持ちを伝える。一方、呈は照れくさそうに頬を掻いているだけだった。

「そういえばご主人様、お姉様がお戻りになったというのは本当なのですか?」

「ん? ああ。……昨日の夜、急にな」

 話は変わって、誠について。……彼女は昨日、両親の元へと帰っていったのだ。元々は呈が夏休みの間を狙って帰省していたみたいだから、夏休み明けに戻るのは当然な気もする。

「そうですか……寂しくなりますね」

「うるさいのがいなくなって清々したけどな」

 姉が家を離れて、呈はまた一人暮らしとなったわけだが、彼は相変わらずだった。ずっと一人だったのだから、今更心細くはならないのだろう。

「……ご主人様」

「ん?」

 しかし、契はそうでもないようだ。一人になった主を気遣っているのか、思い詰めたような表情でこう言った。

「私は、ずっと……ご主人様のお傍にいますね」

「……ああ」

 どこか不安げな契に、呈はただ頷くだけだった。



 ……その頃、結は。


「虚露ちゃん、おはよっ」

「あ、結ちゃん。おはよう」

 通学路にて。結と虚露が合流して、一緒に登校する。こちらも平時ではよくある光景だ。

「あーあ。とうとう夏休みも終わっちゃったね……」

「そうだね……」

 長期休業が終わって、少々憂鬱気味な二人。まあ、学生の本分は勉強だから、頑張れ。

「ま、いっか。これから毎日、虚露ちゃんと一緒にいられるんだし」

「そう、だね……」

 そう言ってくれる結の気持ちはありがたいのだが、そろそろ彼女の粘着具合に疲れてきた虚露。……結ちゃんや、そんなにくっついてばかりだと、友達なくすぞ? 適度な距離感が大切なのです。

「あ、そういえば……」

「どうかしたの?」

 すると虚露は、不意に何かを思い出していた。結に尋ねられたので、詳しく話すことにしたらしい。

「さっき、綺麗な人を見かけたんだけど」

「綺麗な人?」

「うん。同じ制服着てたから、同じ学校の生徒だと思うんだけど……見覚えなくて」

 なんでも、ここへ来る前に美少女を見かけたらしい。しかも、同じ学校に通っている、と。

「ふーん。でも、在校生全員の顔なんて覚えてるわけないんだから、当然じゃないの?」

「でもね、その人―――金髪だったんだよ?」

「金髪?」

 しかも、その美少女は金髪らしい。……確かに、そんな派手な格好をしていれば、嫌でも目立つだろう。

「じゃあ、転校生じゃないの?」

「そうかもね」

 そんなことを話しながら、二人は登校するのだった。



  ◇



 ……数十分後。


「お待たせ」

 校内にある応接室にて。女性―――この学校の校長が入ってきた。

「とりあえず、来てくれるかしら? 後のことは担任の先生に任せるつもりだから、私に出来るのはここまでだけど」

「いえ、それだけでもありがたいです」

 どうやら、部屋には客がいたらしい。彼女は校長の後に続いて、応接室を出て行く。

「この度は、無理を聞いて頂いて、本当に申し訳ありません」

「いいのよ。事情が事情だし、別に疚しいこともしてないんだから」

 彼女の言葉に、校長は努めて明るくそう返す。……見たところ五十代ほどのようだが、歳の割りに若々しい口調だな。

「それに、あの子は私の教え子でもあるんだし。頼られたら、無下には出来ないわ」

「そうだったんですか?」

「ええ。私がまだ教鞭をとっていた頃にね。あの子達が卒業して、その翌年から校長になったから、最後の教え子なのよ」

 そんな話をしながら歩いていると、やがて二人は職員室に辿り着く。中に入ると、真っ直ぐに、ある女性教師の元へと向かった。

「先生」

「あ、はい。……あなたが逢沢さん?」

「は、はいっ! これからお世話になりますっ!」

 女性教師に対して、彼女は頭を下げた。すると女性教師は、微笑みながらこう言った。

「こちらこそ、よろしくね。それと、何か困ったことがあれば遠慮なく言って頂戴。慣れない環境で、色々戸惑うこともあるだろうし」

「あ、ありがとうございます……」

「さ、そろそろ行きましょう」

「は、はい」

 そうして彼女は、女性教師の後に続くのだった。



 ……その頃、契は。


「転校生?」

「うん、そうみたい」

 ホームルーム前の教室にて。契は瀬川と話していた。……契の趣味を知って、最初は戸惑って距離を取っていた瀬川だったが、今ではすっかり元通りだった。尤も、そっち方面のことには極力触れないようにしていたが。

「それも、女の子で、かなり可愛いんだって。だからほら、クラス中の男子がそわそわしてるでしょ?」

「そう?」

 言われてみれば、確かに男子たちが浮き足立っているように思える。……っていうか、どっからそんな情報を手に入れたのやら。

「あ、チャイムが鳴った」

 そんなことを喋っていたら、本鈴が鳴った。それに伴い、生徒たちが一斉に席に着く。数秒遅れて、担任である女性教師と―――もう一人、女子生徒が一緒に入ってきた。

「はーい、みんな注目。突然ですが、このクラスに新しいお友達がやって来ました」

 担任の声に、生徒の注目が前方に……というか、件の転校生に集まった。

「さ、逢沢さん。みんなに自己紹介して」

「はい」

 促されて、彼女は一歩前に出て、こう言った。

逢沢あいざわきずなです。よろしくお願いします」

 金糸のように輝く髪を二つに結わえた彼女は、高校生にしては発育の良すぎる体を制服に包み、ゆっくりと腰を折ったのだった。



  ◇



「逢沢さんってどこから来たの?」

「得意教科は?」

「彼氏いるの?」

 というわけで、転校生イベント恒例である、質問攻めのコーナー。男子女子問わず、クラス中の生徒が彼女を取り囲んでいる。

「え、えっと……」

 それもそのはず、絆の姿は、それだけで目を惹く。染色の痕跡がない見事な金髪をツインテールにしているだけでもそうなのだ。更に、目はパッチリと大きく、鼻は筋が通っていて、唇はほんのり桜色と、化粧気はないが顔立ちは整っている。背は高く、体のラインは女性的―――特に、胸は年齢不相応なサイズにまで成長している。ここまでくれば、注目するなと言うほうが酷であろう。

「ねぇねぇ」

「どうなの?」

「その、えっと……」

 その上、一度に迫られて困惑するその表情も可愛らしいときたものだ。しかも、あざとさや、態とらしさは見受けられない。それがより好印象をもたらしているのだろうか。

「逢沢さん」

「え?」

 しかし、困惑しているのは事実だ。見かねた隣の生徒―――契が、彼女に助け舟を出す。

「今から、学校を案内してあげるね」

「え、ちょ、ちょっと……!」

 戸惑う絆を半ば強引に、教室の外まで引き摺り出す。クラスメイトからはブーイングが起こるものの、契は全く気にしていない。

「ほら、これでもう大丈夫だよ」

「あ、え、えっと……ありがと」

 唐突ではあったものの、助けてもらったことに礼を言う絆。対して契は、そのまま自己紹介をする流れに。

「私は犬飼契。下の名前で呼んで欲しいな」

「うん、ありがとう契ちゃん。私のことも絆って呼んでね」

「分かった。よろしくね、絆ちゃん」

「こちらこそよろしく、契ちゃん」

 あっという間に打ち解け、互いを名前で呼び合う仲となった。二人とも、基本的な対人スキルが高いのだろうか?

「ねえ、絆ちゃんって―――」

「―――絆?」

 するとそこへ、第三者の声が。そちらのほうを見やれば、そこにいたのは呈だった。

「あ、益田君。どうしたんですか?」

 主の姿を認めて、契は嬉しそうに微笑んだ。……が、彼の様子に疑問を感じて、すぐに表情を曇らせる。

「もしかして……呈君?」

 そして絆は、呈のことを知っているようだった。初対面でないのなら……まさか。

「……契」

「は、はい……」

 しかし呈は、彼女たちに背を向ける。そして、こう言い放った。

「そいつを二度と、俺の前に連れてくるな」

「え……?」

「待ってっ!」

 立ち去ろうとする呈を、絆が呼び止めた。彼女はとても必死な形相で、叫ぶように言葉を紡ぐ。

「呈君……! あの、あのね、私―――」

「失せろ」

「……え?」

 だが、呈は一度だけ振り返り、光の灯っていない瞳を彼女に向けて、こう言った。

「失せろ。お前が生きてると俺が迷惑するんだ」

「……っ!?」

 酷く底冷えする声に、絆は言葉を失う。それで話は終わったとばかりに、呈は今後こそ、この場から立ち去るのだった。

「……ご主人様」

 そんな主の変貌に、契は戸惑いながらも、確かに快感を覚えていた。他人に向けられたものとはいえ、明らかな敵意があったのだ。ドMの彼女は、それだけで快感を覚えてしまう。……そんな自分の性癖が、このときだけは恨めしい。契はそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ