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女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第三話 お姉様の登場です
30/46

「いいえ。私はご主人様とご一緒出来ればそれでいいのです。……それとも、お邪魔でしたか?」


 ……誠の元に戻り、彼らは昼食を取り始めた。


「私、焼き蕎麦貰うわね」

「私たこ焼き。ほら、虚露ちゃんも」

「う、うん……」

 呈が買ってきた料理に、女性陣たちが次々と手を伸ばす。……因みに、買ってきた呈に対する感謝の言葉は全くなかった。

「ありがとうございます、ご主人様」

 と思ったら、さすがに契だけはちゃんと礼を言っていた。……この場合、彼女の性癖が特殊なことより、他の子たちに性格上の問題があるからという面が大きい気がする。

「……ああ」

 そんな彼女に安心したのか、呈は頷きながら焼き蕎麦を食べ始める。彼も案外、ちゃんと感謝されるのは嬉しいのかもしれないな。

「ご主人様、私のたこ焼きも召し上がりますか?」

「いや、いい。俺はたこがあまり好きじゃないんだ」

「あ、そうなんですか……」

 契が自分のたこ焼きを差し出すが、呈はそれをあっさり断ってしまう。折角彼女が気を回してくれたのに、生憎と呈はたこ嫌いだったのだ。じゃあなんでたこ焼きを買ってきたのかというと、他に料理が売ってなかったからだろう。

「お姉ちゃん、私欲しい」

「結は自分の分があるでしょ?」

「うっ……」

 ならば自分がと名乗りを上げた結だったが、残念ながら断られてしまった。まあ、当然だろうな。自分も同じのだし。

「全く。あれほど好き嫌いしちゃ駄目だって言ったでしょ?」

「そういう姉貴だって、たこは苦手だろ?」

「苦手じゃないわよ。嫌いなだけ」

「おい」

 そして、こちらの姉弟は相変わらず喧嘩ばかりだ。……どうにかならないものか。

「大体、私は大人だから、好き嫌いしても平気だし。あんたはまだ子供だから、好き嫌い禁止」

「……俺が物心ついたときからずっとそうだっただろうに」

「細かいことはいいのよ」

 しかも、言い争いが幼稚すぎる。それも毎度のことだが。

「……ふぅ。それと、午後からはあんたが荷物番だからね?」

「そうだな。俺も、ちょっと休みたいと思っていたんだ」

 しかしまあ、さすがは姉弟というべきか、最後はあっさりと終わってしまう。お互い、引き際は弁えているということか。

「じゃあ、お願いね」

 そんな風にして、昼食の時間は終わった。



  ◇



 ……さて、午後からは。


「……契」

「はい、ご主人様」

「お前は別に、ここに残らなくても良かったんだぞ?」

 昼食を取った陣地にて。呈と契は、一緒にビニールシートの上で座り込んでいた。設置してあるパラソルが日差しを遮っているし、海辺なので風も吹いているが、それでも夏の暑さは少々堪える。折角海で泳げるのだから、そうしたほうがよっぽど涼しいはずだ。しかし、契は主の傍を離れようとしない。

「いいえ。私はご主人様とご一緒出来ればそれでいいのです。……それとも、お邪魔でしたか?」

「いや、いい」

 笑顔で答える契に、呈は諦めたように視線を逸らす。相変わらず、彼女は一途だな。

「だが、ここにいてもやることないぞ?」

「ご主人様と同じ空気を吸えるだけで幸せですから。あ、勿論、調教してくださっても構いませんよ? 寧ろしてください」

「しない」

「ですよね。ですから、このままでいいです」

 そうして、二人は暫し、何をするでもなくぼんやりとしていた。そんなところを描写しても仕方がないので、少し時間を進めるとしよう。



  ◇



 ……十分後。


「……ご主人様」

「何だ?」

 なんだかんだ言って沈黙に耐えかねたのか、それとも単に話したいことが出来たからなのか、契が不意に口を開いた。

「ご主人様は、前にもここへ来たことがあるんですか?」

 契の問いは、何気ないものだった。恐らくは、ここへ来る途中の車内で、呈の反応を見てそう思ったのだろう。

「……小学生のときに、一度だけな」

 それに対して、呈は躊躇いがちに答えた。まるで、そのときのことを思い出したくないかのように。

「そうだったんですか」

 そんな主の心情を察したのか、それとも単純に興味が失せたのか、契はそれ以上言及してこなかった。

「……ああ」

 そんな彼女に、呈はそう頷いて、そのまま口を閉ざすのだった。



  ◇



 ……一時間後。


「……お姉ちゃん。ずっとそうしてるの?」

 あれからずっと会話もなく、ただ呆けていた二人の元に、結が戻ってきた。遊び疲れたのか、それとも姉が心配になったのか。その両方だろう。

「あ、結。結も一緒にぼーっとする?」

「しないよ。虚露ちゃん待たせてるし」

 結は荷物の中からクーラーボックスを引っ張り出し、中からジュースを取り出した。……まさかの第三の可能性、水分補給がしたかったからなのか。

「……さすがにないと思うけど、お姉ちゃんに変なことしたら承知しないから」

「しないし、するとしたら忠告が遅すぎる」

 結に釘を刺されて、呈は不機嫌そうに反論した。のんびりしていたのに邪魔されて、怒っているのだろうか?

「そうだけど……ま、いいや。お姉ちゃんに変な男が寄って来ないように、ちゃんと見張ってなさいよ」

 しかし意外にも、結は呈に噛み付かず、そのまま立ち去った。……やはり、なんだかんだ言っても信頼しているのだろうか。

「……なあ、契」

「はい?」

 結の姿が見えなくなって。呈は不意に、契に声を掛けた。

「お前、今日ここへ来て、楽しかったか?」

「はい。とっても楽しかったです」

 主の問いに、彼女は間髪入れずにそう答えた。……そのときの笑顔はとても眩しくて、呈は不覚にも、見惚れてしまいそうになった。

「……そうか」

 だが、呈はそれに惑わされず、ただそう返すのみだった。



  ◇



 ……夕方。


「さ、帰るわよ」

 誠たちが戻ってきて、着替えを終えた彼らは、再び車に乗り込んだ。これから帰宅するのだ。

「……って、みんな寝ちゃってるわね」

 帰りの車内では、運転手の誠以外は、殆ど眠ってしまっていた。遊び疲れたのだろう。

「……ご主人様も、お疲れのようですね」

 誠の他にもう一人だけ、契も起きていた。しかし、契の主である呈は、彼女の肩に体を預けて眠ってしまっている。

「珍しいわね。この子、警戒心が強いから、人前で寝たりしないのに」

 バックミラー越しに弟を見やる誠は、意外そうにそう漏らした。……確かに、彼が他人に無防備な姿を見せるのは意外かもしれない。

「そうなんですか?」

「ええ。家族相手でもなかなか隙を見せないのよ? 虚露ちゃんには優しくしてるみたいだけど、彼女の前でもそうそうないと思うわ」

 意外そうな契に、誠はそう答えた。だとすれば、呈が契に体を預けて眠っているのは、彼女を信頼しているという証なのだろうか?

「あ、そうそう。忘れるところだったわ」

「はい?」

 すると誠は、思い出したように声を上げて、こう言ったのだった。

「明後日、夏祭りがあるのよ。みんなで一緒に行きましょう」

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