「私としては、ご主人様に裸体を晒すのは本望なのですが……」
◇
……そんなわけで、海水浴の当日。
「さ、みんな行くわよっ!」
益田家の前にて。集まった一同に対して、誠はテンション高めの声でそう宣言した。
「……っていうか、この人誰?」
対照的に、気怠げな様子なのは結。誠とは初対面だし、若干警戒しているっぽいな。
「あ、妹ちゃんとは初めてだったわね。私は益田誠。この愚弟の姉よ」
「そうなんだ……」
呈の姉だと聞いて、結は複雑そうな表情を浮かべた。女性、それも姉というポジションは契を連想させるが、呈の親族というのは気に入らない、という感じだろうか。
「それと、虚露ちゃんも。久しぶりね」
「は、はい……」
「え、虚露ちゃん、知り合いなの?」
「う、うん、一応……」
一方、虚露は誠と親しげに話していた。……そういえば、彼女は呈と前から知り合いだったし、誠とも会ったことがあるんだったな。誠の話にも出てきてたし。
「楽しみですね、ご主人様」
「そうだな……」
そして契と呈は、そんな彼女たちから離れたところにいた。契は台詞通り楽しそうだが、呈は相槌を打っているだけで、少しやつれてさえいた。……誠の手料理を食べ過ぎたのか?
「みんな、忘れ物はないわね? じゃあ、出発よ!」
そんなこんなで、一同は車―――誠が借りてきたレンタカー―――に乗り込んだ。さて、どうなるのやら。
◇
……そんなわけで、移動中。
「ふーん。虚露ちゃんと結ちゃんは席が隣なんだ」
「う、うん……」
「……」
五人乗りのワゴン車で移動を開始した一行。運転手は誠で、助手席は虚露、後部座席は犬飼姉妹と呈の三人で座った。誠は運転しながら呈たちに話題を振るのだが、虚露以外は無反応だ。その虚露も、隣なので仕方なく応じているという風だった。
「……おい、姉貴」
「何?」
と思いきや、呈がふと声を上げた。どうかしたのだろうか?
「まさか、俺たちが向かってるのって―――」
「夕雲海岸よ」
弟の言葉を肯定するように、誠はそう告げた。……夕雲海岸とは、この辺りでは比較的マイナーな海水浴場がある場所だ。地元の人間でもあまり来ないため、夏場でも割と空いている、ある意味穴場でもあった。
「……」
「あら、いいじゃない。あそこは変な奴もそうそういないし。契ちゃんが変な男にナンパされなくて、丁度いいと思うわよ」
「……そう、だな」
誠にそう言われたが、呈はどこか不満げ―――というか、気落ちしているようだった。場所がしょぼくて、がっかりしたのか?
「……?」
そんな姉弟に、契は首を傾げるだけだった。
◇
「とうとうやって来たわっ! 海よっ!」
そんなわけで、彼らは夕雲海岸に到着した。青い空と青い海、白い砂浜。太陽はギラギラと輝き、まさに絶好の海水浴日和といえた。
「ご主人様、海ですねっ!」
「……ああ」
海を見て楽しそうにはしゃぐ契と、反対に気怠げな様子の呈。この主従でテンションに差があるのはいつものことだが……今日の呈は、特に覇気がないように思える。元々あったかと聞かれると、返答に困るが。
「虚露ちゃん、海だよ海っ!」
「う、うん……」
一方、妹とその親友も似たような状態だった。彼女たちの場合、狭い車内に閉じ込められていた結が、反動でテンションを上げただけのようにも思えるが。
「さてと、そろそろ着替えないとね」
「っていうか、ここに更衣室なんてあったか?」
「ないわよ」
「おい」
しかし、水着に着替えるという段階になって、問題が生じた。なんと、女の子ばかりだというのに、更衣室がないというのだ。
「大丈夫よ。車の中で着替えれば。ちゃんとカーテンも持ってきたし」
「なら、俺はどこで着替えればいいんだよ?」
「その辺の茂みでいいでしょ?」
女性陣は車内で着替えることになったのだが、唯一男子の呈は酷い扱いになっていた。
「当然よね。っていうか、覗かないでよ」
「えっと、その……」
「私としては、ご主人様に裸体を晒すのは本望なのですが……」
他の面子も、誠の意見に反対はしなかった。っていうか、契は欲望が駄々漏れだ。いつものことだけど。
「というわけで、私たちは車内に戻るわね」
「くどいようだけど、絶対に覗かないでよ」
「そ、その……すいません」
「お先に失礼しますね」
「……」
女子組が車に戻り、呈は寂しく外で着替える羽目に。……彼もさすがに、しょんぼりしているような気がする。
「……トイレでも探して、着替えるか」
さすがに野外で服を脱ぐ気にはなれず、呈は公衆トイレを探して辺りを彷徨うのだった。
……さて、車内の女性陣は。
「~~~♪」
カーテンを取りつけ、窓を塞いだ車の中にて。誠は鼻歌交じりで、着ていたシャツを脱ぎ去った。
「わっ……!」
「えっ……!」
「なっ……!」
すると、現役JK三人組が息を呑む。それは、露になった誠の体―――特に、胸の部分―――に対する、驚嘆故にだろうか?
「ん? どうしたの?」
自分が少女たちに衝撃を与えているとも知らず、誠は下着に包まれた双丘を揺らしながらそう言った。
「「「……」」」
無駄と知りつつ、自分の胸に視線を落とし、触れてみて、再度誠のほうへ目を向ける現役JKたち。
「……?」
しかし、待っていたのは絶望そのもの。その圧倒的な質量差を再確認できただけだったのだ。
「……チート」
「はぅ……」
「う、羨ましいです……」
「あなたたち、一体何の話をしているの?」
胸囲の格差社会とは、まさにこのこと。しかもこの場合、貧困層は富裕層のお零れに預かることも出来ない。……意気消沈する少女たちには、「成長期」という言葉を送っておこうか。
「早く着替えないと、遊ぶ時間がなくなるわよ?」
「「「……はーい」」」
落ち込むだけ無駄だと思ったのか、それとも単に時間が惜しかったのか、三人は着替えを再開した。……のだが、ここでも更に問題が。
「……お姉ちゃん、何それ?」
「え? 水着だけど?」
妹の疑問に、契はしれっとそう答えた。……確かに、彼女が手にしているのは水着だった。ただしそれは、黒のワンピースタイプ―――俗に言う、スクール水着という奴であったが。
「何で学校指定の水着を持ってきたの?」
「だって、ご主人様が断然スク水だって仰るから」
何を当たり前のことを? という口調で契は言った。……言われてみれば、彼もそんなことを言っていたような。とはいえ、彼も別に、自分の学校で指定されている水着を想定していたわけではないだろう。学校指定の水着をスク水と呼ぶのは当然としても、契の持ってきたのは競泳水着と呼んでも差し支えないものだからな。コスプレの一種として想像するのとは違うタイプな気がする。
「……もう、好きにして」
何でもかんでも主の趣味嗜好に合わせようとする姉に、さすがの結も呆れるしかなかった。




