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女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第三話 お姉様の登場です
26/46

「というわけで、ご主人様、殴ってください」


  ◇



 ……テストを終えて。


「……ふぅ。試験もようやく終了したな」

「そうですね」

 そんなわけで、呈と契はテスト明けの打ち上げ―――というわけではないが、近所のドーナツ店に来ていた。……お前ら、ドーナツ好きだな。

「……で? 何で私まで呼ばれたの?」

「む、結ちゃん……そういうことは、言わないほうがいいと、思う、よ?」

 しかしそこには、何故か不機嫌そうな結の姿も。その隣には虚露もいる。彼女たちも参加するのか?

「文句あるなら奢らないぞ?」

「何よ、ケチ」

 更に、代金は呈が持つようだ。ペットとその妹、そして後輩に、ささやかなプレゼントを、ということか。結構気前が良いんだな。結なんて、いくらツンデレとはいえ、あからさまに反発しているのに。

「物理、出来たんだろ?」

「で、出来たわよっ! で、でも、あんたのお陰じゃないんだからねっ!」

 テストの結果を確認しただけなのに、テンプレートなツンデレで返されて、呈は苦笑するしかなかった。しかし、結はそれを嘲笑と捉えたのか、更に興奮してしまう。

「何なのよっ!? 馬鹿にする気!?」

「いいや、全く」

「ふざないでっ!」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ二人(というか主に結)に、周りの客も注目し始めた。……おーい、さすがにそろそろ静かにしろよ。

「……もう。何でドーナツ食べるのに、こんな大騒ぎしないといけないの?」

「騒いだのはお前だろ」

 さすがに気づいたのか大人しくなった結に、呈はそう突っ込んだ。結は抗議したいことがあったようだが、同じ過ちを繰り返すほど愚かではない。ちゃんと堪えているようだ。

「それで? 他の教科はどうだったんだよ?」

「ふふん、余裕よ」

「だろうな。結局あの後、虚露から数学も教わっていたし。どうせ、国語と英語は契に面倒見てもらったんだろ? それで全滅したらさすがに笑えない」

「ぬぐっ……!」

 しかしながら、またもや険悪な雰囲気に。……どうしてテストの手応えを聞くだけで、こんなに揉めるんだよ?

「……ふふっ」

 そんな彼らを、契はやはり、微笑ましそうに眺めているのだった。



  ◇



 ……ドーナツ店を出て。呈は契たちと別れて、一人で家路に着いていた。


「……ったく。可愛げのない奴だ」

 その途中。彼はそんな風に愚痴を垂れていた。……あの後、結はドーナツをきっちり完食し、憎まれ口を叩きながら帰っていった。彼が珍しく先輩っぽいことをしたというのに、感謝の態度すらなかったのだ。

「……」

 しかし、そんな彼女とのやり取りを、呈は何故だか楽しいと感じていた。……理由は見当がついていたが、それだけでは説明がつかなかった。

「……契は従順だし、虚露も似たようなもんだ」

 呈と関わる人間で、彼に反抗的な者は多くなかった。だから、物珍しい、というのはある。だが、それだけでは、この気持ちを正しく表せない気がした。……呈に反抗的なのは、結だけではないのだ。彼の姉や、谷口なども似たような感じだ。けれど、彼らのような嫌悪感を抱かないでいる。それは、どうしてなのか?

「……ふぅ」

 考えても答えが見つからない。なので、無駄な思考を打ち切り、帰宅を急ぐのであった。



 ……その頃、契たちは。


「はぁ……折角のドーナツだったのに、気分最悪」

 そんな深い溜息を漏らすのは結。それは、先程の呈とのやり取りについてだろうか?

「ふふっ」

「……お姉ちゃん。何笑ってるの?」

 そんな妹に、契は笑みが絶えなかった。そんな姉に、結は訝るような視線を向けている。

「だって、結が楽しそうなんだもん」

「楽しそう? 私が?」

 契の言葉に、結は耳を疑った。彼女自身は、呈のことを激しく嫌悪していると思い込んでいるのだから、当然の反応だろう。

「結、ご主人様のこと、大好きだもんね」

「はぁっ!? 何言ってるのお姉ちゃんっ!? 頭大丈夫―――じゃなかったわね、ごめん……」

 突然放たれた姉の言葉に、結は心底驚いていた。……にしても、大好きな姉に対して酷い言い草だな。間違ってないが。

「だって、結が男の人にここまで興味を持つなんて、初めてじゃない」

「そ、そう……?」

 契の指摘に、結は少したじろいた。思い当たる節があるのだろうか?

「うん。お父さんのことですら極力話題に出さない結が、こんなに口にするんだから。ご主人様が大好きで仕方ないんだよね?」

「ち、違うからっ! そういう気持ち悪いこと言わないでっ!」

「そんなに照れなくてもいいのに」

「照れてないからっ!」

「……結ちゃん、楽しそう」

 きゃいきゃいと、賑やかに喚きながら歩いていく姉妹。そんな彼女たちを、虚露はほのぼのとしながら眺めているのだった。



  ◇



 ……そんな感じで、夏休み直前。


「というわけで、ご主人様、殴ってください」

「……何が、「というわけで」なんだよ?」

 昼休み、いつもの中庭にて。契の突飛な(ある意味普段通りの)発言に、呈は呆れたようにそう返していた。

「あ、間違えました。辱めてください。或いは陵辱してください」

「黙れ色情魔」

「あぁっ……! 鋭い罵倒が心に刺さりますぅ~! はぁ……! はぁ……!」

 要するに、契がまた発情したのか。せめて、学校の外でやって欲しいんだが。

「で? まさかとは思うが、最近欲求不満だっただけとか言わないよな?」

「は、はい……実はそれもあるのですが」

 さすがに、ここから先はふざけるべきではないと思ったのか、契は呼吸を整え、居住まいを正してこう言った。

「……ご主人様。どうか、お姉様と仲直りしてください」

「……意味が分からん。姉貴とはよく喧嘩するが、別に仲違いしているわけでもないぞ?」

 契の言葉に、呈は戸惑いながらそう答えた。……無理もない。契は確かに欲望に忠実だし、自己主張が激しいペットだ。しかし、呈の家庭事情に踏み込んでくるようなことはしてこなかった。尤も、呈の家族が家にいなかったから、という面も強いのだが。

「いいえ。ご主人様は、お姉様に心を開いていません」

 しかし、契はズバリと言ってのけた。主の言葉を否定し、自分の言葉を押し通す。

「ご主人様と結も、ご主人様とお姉様のように、よく喧嘩をされます。ですが、ご主人様は結には心を開いていらっしゃるじゃないですか」

「俺が、あいつに……?」

 彼女の台詞に、呈は信じられないといった風に呟いた。……契は今まで、大きな違和感を覚えていた。呈と誠が喧嘩しているときは居心地が悪かったのに、彼が結と揉めているときは微笑ましく思えたことについてだ。そして契は、ここ数日間でその答えを出していたのだった。

「結は男の人が苦手ですが、ご主人様のことは気に入っているようでした。ですが、結は素直になれなくて、つい心にもない態度を取っているのです。……それは、ご主人様もお分かりでしょう?」

「……」

 契の問いに、呈は無言のままだった。それを肯定だと解釈して、契は続ける。

「対して、ご主人様とお姉様は違います。―――お姉様は、ご主人様のことを考えられていました。ですが、ご主人様は無理矢理距離を取ろうとされてました。まるで、お姉様を突き放すように」

 ……もしかしたら、契が突然こんなことを言い出したのは、見ていられなかったからなのか。大切な主が、家族と距離を取っている。その事実が、彼女には耐えられなかったのだろう。契自身は家族と仲が良いから、余計にそうなのかもしれない。

「ですから―――」

「分かった。善処する」

 契は更に続けようとしたが、呈はそれを遮ってしまう。……どうやら、これ以上は触れて欲しくないようだな。

「……はい、ご主人様」

 それを察したのか、契はそこで話を終えた。……とはいえ、益田家姉弟には複雑な事情がありそうだし、一筋縄では行かないのだろう。この続きは、夏休みに入ってからだな。

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