表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の子(ペット)を飼います  作者: 恵/.
第一話 ペット飼いました
13/46

「ご主人様は凄く素敵な方なの。ご主人様は、私のことを物として扱ってくださるんだから。いっぱい調教してくださって、いっぱい愛してくださるの。それって、とても素晴らしいと思わない?」


 ……さて、結はどうしているのか。


「……お姉ちゃん」

 呈の自宅、そのリビングにて。ここに来たときのまま、結は唇を噛み締めていた。何せ、自分が谷口の口車に乗ったばかりに、大好きな姉が危ない目に遭っているのだから。彼女ほどのシスコンでなくとも、落ち着いていられないだろう。

「……私、どうしたらいいの?」

 今、呈が契の元に向かっている。緊急性が高いのだろうということは、結にも分かった。

「……お姉ちゃん」

 姉が戻ってくるのを、今か今かと待ち続ける結。しかし、今更顔を合わせたくない、とも思う。呈が間に合わなければ取り返しがつかないだろうし、例え間に合っても事実は変わらない。自分が姉を追い詰めたことは、もう取り消せないのだ。

「……っ!」

 すると、何やら物音が。どうやら、呈が戻ってきたようだ。玄関の扉を開き、中に入ってくる。

「戻ったぞ」

 リビングに入ってきたのは、家主である呈と―――

「あれ、結。どうしたの?」

 姉である契の姿。見たところ、平然としていて、乱暴された様子もない。……まあ、その前に呈が助けたのだが。

「お、お姉ちゃん……」

 しかし、結は手放しで喜べなかった。姉が無事なのは不幸中の幸いだが、それでも、自分が責められるのは当然のことだった。

「あ、もしかして、ご主人様に調教してもらいに来たの?」

「へ……?」

 だから、姉の奇天烈な発言に、結はそんな間抜けな声しか出せなかった。

「良かったぁ~! ようやく結も、ご主人様の魅力に気づいたのねっ!」

 しかし、それも無理からぬことだ。契は完全に勘違いしている。それも、結にとってはかなり不名誉な風に。……というか、そもそも何で彼女がいるのか、契は忘れているようだ。あんなことがあったのだから、記憶の混乱くらいは無理もないが。

「喜んでるところ悪いんだが、お前の妹、硬直してるぞ」

 呈に突っ込まれるが、彼女は全然聞いていない。というか、態と無視しているのか? 都合の悪いことは無視しているとか。……あり得る。

「さ、結、一緒に調教して頂こう? ご主人様、私たち姉妹を存分に躾けてください」

「ちょ、お姉ちゃんっ! 何言ってるのよっ!? っていうか大丈夫だったのっ!?」

「あ、うん、大丈夫。ご主人様が助けてくれたから」

 フリーズから復帰した結は、姉の妄言に突っ込みつつ、彼女の身を案じるという面倒なことをしていた。しかし、返ってきたのはあっさりとした答え。それにより、結は拍子抜けすることとなった。

「凄かったんだよ~! ご主人様、男の子たちを次々と地面に叩き落として、頭蓋骨を打ち砕くように何度も踏みつけて……あぁっ! 私もして欲しいっ! っていうかしてくださいっ!」

「あほ。お前にやったら冗談抜きで死ぬぞ。ペット風情が主人の手を穢すな」

「はいぃ~! 今のお叱りだけでキュンキュンしちゃいますぅ~! はぁはぁ……! というわけで結、早速ご主人様に調教して頂こう?」

「堂々巡りしてるっ!」

 一回コントやって、また同じことを言い出す契。こいつの頭はそれしかないのか?

「契、今日はもう帰れ。妹も連れてな」

「はい、ご主人様。結のご調教はまた別の日に―――」

「しないからな」

「しないからっ!」

 主と妹に突っ込まれながら、契は結を連れて帰宅することにした。



「……ふぅ」

 契たちが帰った後。呈は溜息混じりにソファへ腰を下ろした。……今までは平然としていたが、実は結構疲労が溜まっていたのだ。怒りに身を任せて動いた影響で、全身の筋肉が悲鳴を上げている。

「……全く。あんなゴミ共を信用するとは、あれも結構危ういんだな」

 呈が呟くのは、結のこと。いくら自分の目的に適っているとはいえ、初対面の谷口を信じて騙されるなど、呈には考えられなかった。

「まあ、これで少しは懲りただろう。もうこんなことはしまい」

 姉のことを案じるのなら、もう少し冷静に対処して欲しいと、呈は願った。



 ……その頃、契たちは。


「……お姉ちゃん」

「ん? なあに?」

 帰り道。結は、前方を歩く姉に声を掛ける。すると契は立ち止まり、振り返って、妹と目を合わせた。

「……っ」

 その無邪気な目線に、一瞬、結は言葉を紡ぐのも忘れそうになった。……気にしていないなら、このまま有耶無耶にすればいい、と。そんな考えが脳裏に過ぎる。

「その……私のせいで、酷い目に遭っちゃって、ほんとにごめんっ!」

「え?」

 それでも結は、姉に謝罪の言葉を示した。だが、当の姉は、謝罪の意味を理解していなかった。

「私があんな男の口車に乗ったせいで、お姉ちゃんが酷い目に……」

「結」

 姉に名を呼ばれて、結は体を強張らせる。しかし、襲ってきたのは、暖かな感触。

「何をそんなに思いつめてるのか分からないけど、私は結を責めたりしないよ? だから、安心して?」

 契は結を抱き締めて、彼女の頭を撫でながら、優しい口調でそう語りかける。……多少おかしな言動があっても、やはり契と結は姉妹なのだな。

「お、お姉ちゃん……」

 そんな姉の言葉に、結は涙ぐんだ声で、そう呼びかける。それに対して契は、一度結から離れて、彼女と目線を合わせた。

「それはそれとして。結、ちゃんとご主人様に服従するのよ」

「……へ?」

 しかし、今までのいい雰囲気も、この一言で台無しになった。……そんなに妹を巻き込みたいのかよ。こんなときにまで引き込もうとしなくてもいいのに。

「ご主人様は凄く素敵な方なの。ご主人様は、私のことを物として扱ってくださるんだから。いっぱい調教してくださって、いっぱい愛してくださるの。それって、とても素晴らしいと思わない?」

「思わないからっ!」

「えぇー?」

 あまりに価値観が違いすぎて、姉妹の間に亀裂が生じてしまいそうだ。……なんで男に襲われたことよりも、険悪な感じになってるんだ?

「ま、いっか。結もすぐに分かるから」

 しかし、契は思いの他あっさりと諦めた。いや、今は喧嘩する必要がないと思ったのか。

「……ふぅ」

 どちらにしろ、結は命拾いしたのだった。……まさか、ここで姉と仲違いするわけにもいかないからな。



  ◇



 ……翌日。登校した呈は、谷口が欠席であると知らされた。どうやら、あれだけやってもまだ生きていたらしい。しかしこれで懲りただろうと、呈は彼に対する興味を失った。


「ご主人様」

 そして昼食。呈と契はいつものように、裏庭で一緒に食事を取っていた。そんなとき、契がふと呈のことを呼んだ。

「何だ?」

「結から聞いたのですが。ご主人様は中学生時代、後輩の女の子を助けていらゃっしゃるとか」

「それがどうした?」

 契が口にしたのは、昨日、呈が結に話したこと。男に乱暴されていた女子を助けるために、昨日のような大立ち回りをしたという話だ。

「いえ、その子はご主人様に服従しなかったのかなと思いまして」

 契の疑問は、その女子が自分と同じ道を歩まなかったのかというもの。……特に嫉妬している様子もないので、多分、純粋に気になっただけだろう。或いは、同じ人物に助けられた者同士、シンパシーを感じているのかもしれないが。

「……まあ、体のいい修理工にはしているな」

 彼女の問いに対して、呈はそんな風に返した。……修理工って、年下の女の子じゃないのか?

「修理工、ですか?」

「というよりは、専属のエンジニアだな。家電製品の修理やメンテをさせている。勿論、助けた恩を存分に使ってな」

 なるほど、売った恩で仕事をさせているのか。ということは、その子は機械類の扱いに長けているのだろう。

「ま、その内会わせてやるさ」

「はい、ご主人様」

 その内、というのは、明日明後日とかではないだろうか? なんとなくそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ