表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6.First Night

 次に目覚めた時は夜だった。室内は静かで誰もいない。今日は実験にも来なかったのだろう。

 僕はすぐ部屋を抜け出して、彼女の元へと向かう。


 彼女がいた病室にはもう何も無かった。すっかり片づけられ、白いシーツがピンと張っている。以前にまして無機質でぞっとした。


 遺体が安置されるならば、霊安室か。


 そう思い、僕は地下に向かった。階段を飛び降りる途中で鋭い悲鳴が聞こえた。


「いやぁぁぁぁぁ」


 悲鳴は二つの声が重なっていた。一つが誰のものかは知らないが、もう一つはジェシカの声だ。

 僕は速度をあげて地下一階にある霊安室の重苦しい扉を空ける。そして、立ちあがっている彼女の姿を初めて見た。


 震える足で、それでもしっかり床に足をつけて、小刻みに震えた指先をじっと見つめている。


「ジェシカ」


 声をかけると、ゆっくりと顔がこちらを向いた。


「あなた、スリープ?」

「そうだよ」


 その蒼白さには、もう人間としての温かみはない。やたらに赤く浮き出る唇が、こわばったように口ずさむ。



「どうして? スリープ。私目が見えるの。足も動く」

「うん」


 それが、吸血鬼の治癒能力。人智を超えた異質な力。


 僕は全てを理解して受け入れる……つもりが、続けられた言葉に頭が真っ白になった。


「なのに。……あなたの匂いが分からない」

「なんだって?」


 互いに、驚愕の表情で見つめ合う。俺を見つけ出してくれたあの嗅覚は、彼女から失われてしまっていた。

 僕は震える自分を止められなかった。ガチガチと歯の根が合わず、憤りが全身を支配する。


 神様。これはアンタの復讐か?

 贖罪を負わせるなら、アンタの申し子を堕落させた俺にすればいいのに、彼女に代償を負わせるのか。 


「私、どうなってしまったの?」


 ジェシカは戸惑いを隠しきれずに僕ににじり寄る。


「僕の仲間になったんだよ。これからは、体が動かない不自由さを味わうことはない。目も見える。自由に動けるんだ」

「本当?」


 彼女の頬が緩んだ。僕はそれを見ていられずに目をそらす。


「だけどもう、君の愛する神様を拝むことは出来ない」


 きっと彼女の表情は変わっただろう。僕を異質なものとして見ているかもしれない。その視線を受け入れるのが僕にはひどく辛い。


「……どういうこと? スリープ」

「ごめんね、ジェシカ。ずっと教えられなかったことがある」


 彼女にしたことを、僕は後悔はしていない。


 なのに、胸が千切れそうに苦しい。



「僕は、吸血鬼なんだ」

「嘘っ」

「嘘じゃない。そして僕は昨夜、死にかけていた君の血を吸った」


 僕の腕を掴んでいた彼女の指から力が抜ける。


「君はもう、僕の仲間だ」


 崩れ落ちるように、ジェシカがしゃがみこむ。泣きはしない、言葉も発しない。俺に向けられる眼差しも、険しいものではない。


 ただ、彼女は魂でも抜き取られたかのように呆然としていた。


 それでも、僕はこう言う。もう一度同じ状況になったとしても、同じ結論を選ぶ。


――君を生かすためになら、僕はどんなことでもする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ