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あの日から始まる

作者: 枝葉みかん

≪いつもと違う夜≫


寝る前に布団の上でじゃれあう私と子供達。


いつもと同じ夜。


お風呂上がりの恒例。


突然電話が鳴り始めた。


「もしもしこちら▲▲警察です。ひろさんご存知ですか?」


『はい、ひろは私の弟ですが…何か?』


…また何したんだ?


「実は今日作業場と言いますか倉庫みたいな場所で亡くなっているのが発見されまして、事件性はないと思いますが、ひろさんか確認して頂きたいのですが。」


『えっ?亡くなった?どうして?』


「詳しいことは検案に回しますので明日わかると思います。」


『そうなんですか?私は子供がいますので母に連絡してそちらに行くように伝えます』


受話器を握りしめたまま

なぜ?と思いとまさか?

幼い頃の思い出が次々浮かんできた。


子供達の不安そうな顔色に、落ち着けと自分に言い聞かせる。


まず始めに警察に電話をして実在している刑事なのか、本当なのか確かめた。


…やはり事実らしい。


母に連絡するのが、気が重くつらい。



≪母へ≫



大きなため息をつき、母に電話をする。


「もしもし〜あのさ。落ち着いて聞いてね。」


『何?改まっちゃって』


「ひろが死んだらしいよ。▲▲警察でね、確認して欲しいらしい。」


『えぇ〜?どうして。ひろ〜!』


母の受話器越しの泣き声始めて。


…心の奥から泣いてる叫び声に私は、ただ受話器を握りしめてるしかできなかった。


…何を言っても母には届かないだろう。


どのぐらい経ったのだろう?


『Kさんに電話してもらうから一回切る』


母が電話を切った。


5分もしないうちK(母の内縁の夫)から電話がきた。


警察からの話をして、母と一緒に確認してもらうように頼み結果を連絡くれるようお願いした。



…どうか弟じゃありませんように。




≪結果は…≫



母とKがひろかどうか確認してる間、子ども達を寝かせてひたすら電話を待つことにする。


…ひろじゃなかったよ〜


心臓に悪かったよと笑えるかななんて望みのないこと考えてた。


11時半頃電話が鳴る。


「やっぱり、ひろに間違いなかった。口開けて寝てるようだったよ。明日朝警察から検案書ができる時間連絡するって。それから、ひろを引き取るんだって」



…母は泣き明かしたのか、さっきより落ち着いた声で話してる。


「朝、幼稚園と学校送ったら、そっち行くからね。」


…やっぱりひろに間違いなかったのか。


10年ぐらい私も母も会うことはなかった。


ひろから連絡ある時は、借金の申し込みか警察にいるみたいなのばかりだったから。


何も連絡ない時は無事なんだよね。


なんで言わなかったんだ、何があったのかという感情。


幼かった時の姉弟のエピソードいろいろなことが頭に浮かび、泣いたり怒ったり、頭が思考回路ぐちゃぐちゃ。


この日は一時間ぐらいの睡眠だった。



≪待つ≫



朝子供達を学校や幼稚園に送り出し、コンビニでおにぎりや食料を買い込み、郵便局でお金下ろし母の家に向かった。


つくと母の彼氏(k)は銀行に行ってるらしい。


9時半頃、警察から電話

弟は三件目の検案なので11時頃に遺体を葬儀屋さんと引き取りに来てくれとのこと。


葬儀屋の方には母が前日の夜、連絡したとのことで私からも、警察で11時に落ち合う話をする。


時間に間に合うようにKの運転で警察まで走らせる。


刑事課に行くと前の検案が長引いてるとのことで一時間ほどロビーで待ってた。


長かったような短かったような時間。


待っている間に、弟と遊んでた幼い頃を思い出したり、腹が立ったり、悲しくなったり私の心も目まぐるしく動いてる。


ぼーっとしてたら涙があふれる。


泣きたくない。


どうでもいい話をして泣くのをこらえていた。


いよいよ名前を呼ばれてしまった。


2階に上がる階段を1つ1つ登るごとに弟に近づいてるのだ。


逃げ出したい。


でも真実が知りたい。


弟に会いたい。



≪状況≫



二階の刑事課の取調室にて、監察医の先生から説明がある。


推定で3月3日だろうとのこと。


それ以前以降は可能性は少ないものの時間までは難しいらしい。







検案した結果、死因は一酸化炭素中毒にて間違いないこと。


…ということは5日間は、ひとりでいたんだ。


死体検案書には監察医のかきなれたマル文字。


同じ用紙の左側は死亡届になってる。


気が動転してんだか、息子であるばずの生年月日や母自身の生年月日も違ってる。


刑事から発見状況を聞くと、仕事仲間の人間が何度も家やメール電話をしても出ないとのこと。



8日に3人で来たら目張りみたいなのが見えたので110番119番レスキュー大家さんと呼んでくれたらしい。


ドアの外から濃度を計ったら、人間の生存している確率は絶望的。


事件性はないとの判断で遺品も詳しくは調べなかったとのこと。


母の彼氏(K)は、保険金の話や弟の遺品のブランド物の話しを刑事さんに話してる。



一回も弟に会ったことないのに…


電話で一度話しただけなのに…


この頃からKに不信感が芽生えたのかもしれない


≪葬儀屋≫



刑事に葬儀屋が来てないと言われ、私が連絡することにした。


電話で応対した葬儀屋は11時に△△警察に遺体引き取りの話は聞いてないという。


担当した人間も言い訳ばかり。


結局遺体を乗せる車は一時間しないと到着しないらしい。


カッとなるのを大きく深呼吸して整え冷静にしてを進めるしかない。


私にとっては始めて記憶に残る弟の死。


しかも自殺というつらい状況なのに。


葬儀屋も仕事として、

プロとしてきちんとして欲しかった。



≪ひろと対面≫



警察から弟が葬儀屋の寝台車で、ひと足先に出発する。


後から私、母、母の彼氏

(K)と葬儀屋へ向かう。


弟の支度が整うまで、部屋にて待っている。


いよいよ名前を呼ばれた。


棺桶の引き出しみたいなのが3つ並んでる。


一番奥らしい。


母が


「ひろだよ。顔見て

あけ゛なよ。」


恐る恐る顔にかかってる白い布をそっとはずす。


やはりひろだった。


なぜという思い。


ただ眠ってるような顔に思わず、


「おいひろ。こんなとこで何寝てんだよ。起きなよ。」


と言ったと同時に、こらえた涙がとまらない。


ただくやしかった。


何もひろが苦しんでいるのわからなかった私がくやしかった。


母も


「どーしてそばにいたのに黙って死んだんだよ!

このバカ」


泣きながら怒ってる。


どれぐらいそこにいたんだろう?


母に通夜と告別式の打ち合わせがあるからと言われ先程の部屋に戻る。


通夜は12日6時から


告別式は13日10時半からに決まる。


何やら棺桶は値段やサイズがあり、175センチ78キロの弟は2種類のどちらかしか選ぶ余地がないらしい。


霊柩車も3段階の値段がある。


火葬場も焼き時間や火葬代も違うらしい。


推定する参列人数など、10年近くどこで何していたか私も母も全く知らない。


発見者の一人が仕事仲間で弟と10年公私共仲良くしてくれたらしい。



≪弟の部屋≫



この日は朝から、しとしと優しい雨。


今日は弟の亡くなってた部屋に行く予定。


私の旦那も一緒に向かうことになった。


母と母の彼氏(K)、私と私の旦那の車二台で向かう。


弟の最後の場所、倉庫兼

作業場、最後は住まいにもなっていた。


旦那が部屋に入る前に花を買いに行ってる間、Kが弟の遺品の鍵で勝手に部屋に入り金になるものを品定めしてる。


「今旦那が部屋に供える花を買いに行ってるの知ってんでしょう?

母、私、旦那が入って拝んでから、ひろと会ったこともないおじさんが入るの常識でしょう?

なんで勝手に入ってコンプレッサーと両面テープはもらうなんて言ってるの?

おたく人間何年やってんのよ。

おかしいんじゃないの」


ガツンと言ったら、おとなしくはなったけど信じられない。


人間の常識疑う。


旦那が花を買ってきたので、母から拝んでから部屋を見る。



≪Kの行動≫



大きな体で、あんな椅子に座ってサングラスをしたまま亡くなっていたと聞いた。


母も私も涙涙。


つけっぱなしのパソコン。


ひろは最後に何を見たのだろう?


ひろは最後何を思ったの?


旦那は私や母が哀しみにくれてる間、Kを観察していたらしい。


引き出しを開けたり、棚の品物を見たり、明らかに金目当てしか思えないとのことだった。


とりあえずアルバムや携帯、書類などを運び大家に挨拶して部屋を後にする。



≪キーマンMさん≫



旦那は仕事があるため、弟の部屋から仕事へ。


私、母、母の彼氏(K)と実家に戻る。


弟の発見者及び公私仲良くしていただいたMさんから電話があり、近くにいるので、ぜひ話したいとのこと。


Mさんが言うには、弟は家族の話は一切してなかったらしい。


だから自分が弟の葬儀も出さなきゃと考えてくれていたとか。


Kは


「もう少し早く発見できれば良かったのに」

なんてことを言うのだろう!


『僕が毎日様子見てれば良かったですね』


と謝ってくれた。


こんな素敵な仲間がいたのに。


Kは親父面してる。


Mさんが発見してくれなかったら私達はまだ知らないのに…


自殺の原因は、仕事での金銭の支払いがもらえなかったこと、5年付き合った人と別れた寂しさからではないかと。


警察からも元カノに送ろうとしたバッグの中に


【もう使わないから良かったら使って下さい】


と走り書きのメモがあり遺書と断定された。


しかし弟の携帯を見ると複数の付き合いがあった様子がわかる。


誰も本当の真実は知らない。



≪Kに対する怒り≫



弟と付き合いがあった友人にはMさんが連絡を回してくれるとのこと。


遺品の中にMさんあての請求書はあったの知ってた。

KがMさんに会うなり


「これMさんあての請求書ですよね?支払ったんですか?」


「はい。支払いましたよ。通帳に入金されてるはずだから金額見れば証明になります。」


…Kの奴有り得ない。


Mさんがいなければ弟のこと何もわからないのに、わざわざ仕事中に来てくれているのに。


『…おじさん。やめてよ。お金の話しに来たんじゃないでしょう?

Mさんか゛わざわざ来て頂いたのに、お願いだから黙っててよ。』


今このKがいなくなると母が心配だから私も強く言えないのがつらい。


母はぼーっとしてる。


いつもの母らしい姿は見えない。


≪欲のみのK≫



いつもの母らしい姿は見えない。


Mさんにも、遺品の何は俺が使ってもいいとか、車は売るとかバイクは通勤に俺が乗るとか言い出した。


私にとっては他人のKにのさばらす訳にはいかない。


「おじさんさっきから金のことしか言ってないね。

あんたにとっては私は他人なんだからでしゃばらないでよ!」


Mさんも


「Kさんでしたっけ?僕もお姉さんと同じ気持ちです。僕のことに関してならいいですが、ひろに対して侮辱するのはやめてください」


やはり哀しんでくれる力になってくれる人がいると力強い。


なぜ母はKにも何も言わないの?


≪姉弟≫


私は三人姉弟だ。


私が長女、2才違いの弟ひろ、私と7才違いの弟かず。


かずに連絡したら待望の赤ちゃんが今日にも誕生するから、兄のひろより赤ちゃんと嫁の方が大事だと言った。


夜にもう一度連絡したら無事長男誕生したとのこと。


それなら自分の兄貴の通夜や葬式ぐらい30分の片道で来れるから来るだろうと言ったら興味ないって…


おまけに嫁の方の風習で通夜も告別式も行っては

ダメらしい。


嫁は出産したばかりだから仕方ないと思う。


でもメールなり電話なりはできるはず。


しかし、お悔やみ一つも私にも母にも何もない。


嫁の母も何一つない。


かずは嫁の風習を口実に来ないなんて。


追い討ちかけるように縁起悪いから1ヶ月は喪主側(母や私だろうね)は、会いに来るなだと。


私は哀しかった。


かずに


「あんたと私で姉弟一同で花輪出しといたからね」


と言ってもフーンで終わり。


もうかずには何を言ってもわからないだろう。


ひろが可哀相で私は泣き狂った。



≪お通夜前日≫



明日はお通夜。


今日は弟の棺桶に入れる品をスーパーに買い物。


ダイオキシンや破裂するものなどの制約があり、入れる品は限られてしまう。


メガネや携帯もダメ。


私は、ひろに手紙を書いた。


【ひろへ】


〈突然のことで本当にびっくりしているよ。


なんで私に言わなかったの。


もっと一緒に飲みたかったな。


たった35年の命。


ひろとはいろんなことあったけど、また弟として一緒に家族しようね。〉


ひろの携帯の画像もプリントした。


仕事の写真ばかりだった。


あとはタバコを入れてあげよう。


警察から連絡あってから食事も睡眠もとれない。


10年ぶりに会った弟の死で、こんな状態じゃ毎日一緒にいる家族だったらどうなるんだろう?


警察から連絡会った日私は通院日だった。


信号待ちで霊柩車が止まっていたのを目撃。


窓を開け何か紙みたいなのを投げていた。



なんだろう?と思い次の信号でも同じ紙が横断歩道にあった。


帰り半年ぐらい私がスナックのママしていた時、ひろを店長として雇った店を通った。


たまに通ってもひろのことなど思わなかったのに、その日はひろのこと考えた。



連絡ない時は元気にやってるんだなと。


≪お通夜2時間前≫



お通夜は6時からだけど、遺族は打ち合わせやら喪服の着替えなどで4時に行くことに。



弟のためだと気合い入れたはずが、小銭を置き忘れ、駅についたら葬儀場がわからなくなった。


精神状態ボロボロ。


つくと、葬儀屋さんから花輪の位置や式の説明、着替えと忙しい。


秋田から80才の祖父も駆けつけてくれたけど、ゆっくり話す時間もない。


喪服を着てひろがいる祭壇に行き遺影を見たら涙が流れてとまらない。


私頑張るから見てなとひろに手を合わせ誓った。



明日の告別式の喪主の挨拶も母ができないと言うので姉の私がやることに。


ちゃんと言えるだろうか?


花輪かずの嫁さん側からは何もない。


母にも電話もないらしい。



≪お通夜≫



静かな音楽と共に係員のお通夜を始めるマイクの声が響いた。


遺族側、喪主の母の隣り姉として、ひろに会いに来た方をしっかりもてなさなきゃね。


Mさんの尽力で、ひろの取引先、下請け、元請け、仕事仲間、華やいだ感じの女の子、子供連れの人まで途切れない焼香に、びっくりするやら、嬉しいやら。


一人一人に心を込めて頭を下げたの届いただろうか?


もしかしたら弟のかずが来るかもしれない。


もしかしたら30年行方不明の父が風の頼りに来るかもしれない。


そんなこと考えてたら、着物の窮屈さや涙なんか忘れてしまった。


やはり来なかった。


お通夜終了後の通夜ぶるまいで、

私は親戚や母にかずのことを怒り狂った。


明日は告別式、喪主の挨拶も私がやることになった。


ちゃんと言えるだろうか


≪告別≫



今日は告別式。


題目が流れる中、ゆっくり静かに進行して行く。


喪主の挨拶、完璧に頭に入れたはずが、真っ白になり出てこない。


帯に挟んだメモを出す。


「本日は、お忙しいところ故〇〇ひろの葬儀・告別式に、ご参列頂きましてありがとうございました。本来ならば母がご挨拶するところですが、大きな衝撃を受けており姉の私〇〇みかんが喪主に代わりましてご挨拶申し上げます。あまりに突然の出来事でして、私としましても弟の思いを何一つ知らずにどんな悩みや苦しみがあったのか、それを私共は生涯かけて考えていくことになると存じます。ただ今は弟の冥福を祈るばかりです。生前親しくして頂いたご友人やお世話になった方、その他の皆様のご厚情に感謝致します。本日は最後まで、お見送りありがとうございました。」


私がマイクの前に立った時から雑音がすごかった。


ろうそくの火も消えそうだったらしい。


ひろが、そばにいたんだ。


私の挨拶聞こえただろうか?


これで初七日の儀式までは終わり。


≪ありがとう≫


いったんロビーにて一同最後のお別れ待ち。


死化粧が始め見た時より厚くなってる。


偉そうな顔して寝ているみたい。


最後のお別れで、花を飾り、私が用意した手紙写真お金タバコを入れた。


胸の上に小さな花束。


ただ涙しか出ない。


何か言葉をかけてと係員や母に言われ

頭をなでながら


「ありがとう。」


と口に出すのが精一杯。


私の弟でいてくれてありがとう。


私に生きること死ぬこととは何か教えてくれてありがとう。


そんな意味を込めてありがとう。


棺桶の蓋が閉じられ、お棺の上にも花束。


いよいよ出棺。


母が位牌、私が写真を持ちマイクロバスに乗り込んだ。


これから約30分火葬場までのドライブ。


母の横で


「私とおかんとひろと三人で出かけるの最初で最後だね。」


無言で、うなずく母。


≪青い空≫



火葬場は初めて来たけど棺桶を運ぶのも機械なんだね。


6番の前で、これで最後形ある弟の姿を目に心にインプットする。


もう一度頭をなでて、ありがとうとつぶやく。


事務的に扉は閉まった。



この時はもう火葬になるなんてまだわかってなかった私。


焼きあがるまでの一時間半は食事会。


ビールばかり飲んで食事は喉が通らない。


遺族が呼ばれる。


扉の向こうから出てきた弟の姿に私は泣き崩れて倒れそうだった。


私の背後で係員が支えてるのがわかる。


さっきまで人間の形があったじゃない。


寝てるだけだったじゃない。


あんな大きかったのに、こんな小さくなってしまうの?



母とひろの骨を拾う。


手がブルブル震え力が入ってない私。


係員が


「お若いので骨がしっかりしてます。ちょっと失礼します。」


トングみたいのでひろの骨をキュキュッと押しつぶすこと2回。


耐えられなかった。


下を向き耳を押さえることしかできない。


これで弟は空に登った。


青い空に大きな白い雲がプカリ。


≪今後≫



無事終わった。


あとは、ひろの部屋の引っ越し、車やバイクの処分、法人の廃業の手続きや財産など処理、お墓の件が残ってる。


私はお金はいらない。


形見として弟の携帯とパソコンをもらった。


自殺の真相が、もしかしたら遺書が書いてあるかもと思ったから。


今パソコンはあるが開いていない。


本当の原因はひろの心の中、姉としてはもう終わったこととしてそれでいいのか答えは出ない。


3日は月命日。


2月27日に炭を購入し、目張りして、推定死亡日3月3日。


発見日3月8日。


35才でした。


ありがとう。


≪不思議≫



私が精神的に不安定だった頃、4才の次女は朝起きる度に


「顔焼かれて熱かった」


と言ってた。


告別式の朝、幼稚園に連れて行こうとしたら突然吐き出し、急遽旦那に見てもらうことになった。


私が戻ったら、元気になってるし、母子の絆なのかなぁ。


火葬場でも、突然猫の鳴き声が聞こえたのも、弟が飼っていた猫つくねの声に聞こえた。


私の喪主挨拶のマイクの雑音も葬儀屋20年のベテランの人も始めてと言ってた。


ろうそくが消えそうな時は、たまにあるらしい。


今でも、急に弟の匂いというか私のそばにいると感じる時がある。


連絡がない時は、いつも元気な時だったひろ。


だから私は、どこかに旅に出てると思うよ。


≪謎≫



次女をいつものように寝かそうとしたら、急に泣き叫び走り回り変なことを言い出し、とりつかれたようになってる。


原因がわからないまま、とにかく抱きしめている私。


「一人は嫌だ」


…いつも隣りで寝てるし、そばにいるよ。


「おばばはいやじゃー」


…おばばって?


「お父さんに会いたい」


…さっきまで一緒にいたのに


旦那のいる部屋に連れて行ったら、いつもの様子に戻ってる。


さっきの出来事が嘘のように笑ってる。


あっ…もしかして


… まさかひろが?


確かにひろは、母のことをおばばと呼んでた。


お父さんに会いたいというのも30年行方不明だし言われてみれば納得できるけど?


わからない。


ちょうど1ヶ月前の日に弟が発見された日だったけど、関係あるのかな?


何か伝えたかったことあるのかしら?


≪反撃≫



昨日の夜、弟の遺産相続のことで母の彼氏(K)から電話があった。


一方的に相続を放棄しろと高飛車な言い方。


私は弟の遺産など欲しくない。


しかし、母の彼氏というだけで、偉そうな言い方にも腹立つ。


通夜に参列して頂いた方の記帳に香典の金額を一覧表に作成して渡すと言ったくせに、忙しくて手をつけてないそうだ。


あれから1ヶ月。


私なりにお礼を申し上げたい人もいるし、じゃあ実家に取りに行くと言ったら理由をつけて渡せないと言ってる。


私が思うに、香典袋からお金を抜き出し、わからなくなってるから渡せないんだと思ってる。


そのくせ相続放棄しろとは、どう考えでもって納得いかない。


何も世話してないくせに香典、遺産、保険金が欲しいのかと思ったら、こりゃ闘うしかない。


相続人の委任状なんか渡さないし、ひろの実父は母と離婚して行方不明なんだけど、相続人の権利はないんだろうか?


もし相続人の権利あるなら捜さないと相続できないことになるし。


第一ラウンド開始。


≪四十九日≫



四十九日は雨だった。


結果は、こちらの勝利というとこです。


香典の明細も何一つしてなかったし、最後まで母と母の彼氏(K)が途中までしか記載してない、どこにあるかわからないなど言ってたので、じゃあ私が徹底的に探すと言ったところ出してきました。


遺産相続の放棄もKに言われましたが、まずは明細を全て明らかにした上で放棄するしないは私が決めることだと宣言。


保険も入っていたことも白状しました。


Kにもこれ以上部外者は加わらないでとも言ったら


「俺は金が目当てじゃないんだ。よかれと思ってやってるんた゛」


と見え見えの嘘。


母と私の1対1の時に


「あまりにもKさんは汚いよ。もう少しお母さんもしっかりしてよ。」


と言ったら逆上。


怒鳴り返され、武器持ってきた。


まぁ武器といってもすしおけですが…


あの形相は怖かった。


≪事情≫



母と母の彼氏(K)が保険金を受け取る為動き出した。


お金を払っていたのは母、被保険者、受取人は亡くなったひろ。


そうすると亡くなったひろは受け取れないから父と母が相続するらしい。


しかし父は30年近く行方不明。


母は戸籍から足跡を追いかけるみたい。


まずは出生した秋田から始めるらしい。


母は秋田に住んでいる父

(私から見たら祖父)に、頼んでるらしい。


祖父は、行方不明の父の妹(私からみたら叔母)と一緒に役場に行く予定。


しかし叔母にも事情が…

9年前に母(私からみたら父方の祖母)が病気で亡くなった時の遺産相続を、父に連絡とれなかったから全て相続してるらしい。


今さら私の母に協力して父を探し、もし見つかったら祖母の遺産で争いが出ることになる。


叔母は私に協力しないと言った。


私も、母が花輪や香典をもらっても叔母に連絡もせず、自分の欲望のためだけにお願いするのも変だと思うからそれでいいと思う。


さあて父探し母は弁護士に頼むことになるのかな。


もし見つかっても、素直に相続放棄するとも思えないし、住民票おいたままなら見つけるのも容易ではないはず。


亡くなっている可能性もあるし、さあてどうなることやら。


≪受け取り≫



母は自分のもらえる保険金半分だけもらったらしい。


父の分は保留とのことらしい。


父とは30年前に別れたきり。


住民票は私たちがいた品川から移しておらずそのままどわからないらしい。


母は、保険金が下りて満足そうだ。



≪納骨≫



7月に入り母はお墓を買った。


母が選んだお墓は室内にあるカードをかざすと出てくるお墓。


今日は納骨。


やっとひろもゆっくり静かに眠りにつけることだろう。


納骨の時には、また泣いてしまった。


ひろまた来るよ。


<また>



1月10日秋田の叔母から電話。


「みかんちゃん、みかんちゃんのお父さん亡くなったと福祉の方から電話かかってきたよ。心臓が悪かったんだと。」


『え?お父さんどこに住んでたの?』


あとは叔母から福祉の方の名前と連絡先をメモするのがやっと。


お父さんに会いたかったよ。


なんで死んじゃったんだよ〜


ただ涙しか出てこない。

落ち着いてからじゃなきゃ電話して聞けない。


落ち着け私。


≪連絡≫



私から福祉の方に電話を入れた。


父は心臓が悪く入退院を繰り返していたので働けず生活保護を受けていたとのこと。


住まいは大田区。


母の住まいと私の住まいの中間点。


最後まで


「家族に迷惑をかけたから自分が死んだら秋田にいる妹(私の叔母)に連絡をしてくれ」の一点張りだったそうだ。


父と母の間に何があって離婚したのかは私は小学生だったからわからない。


覚えているのは無口で不器用だったけど私は父が大好きだったこと。


今まで何度も父を探そうとしたことはある。


最後に住んでたアパートは名前が変わっていた。


私に何を迷惑かけたの?


私はいつでも連絡とれるように秋田の叔母と付き合ってきた。


まだ父は71才なのに。


福祉の方も


「秋田の妹さんに連絡したら、娘さんからすぐ連絡あって、Sさんが連絡したらすぐわかったんですね。」


父は大田区から江古田の斎場に運ばれているらしい。


父に会いたい。


会いに行くことにした。


≪再会≫



父に会いたい、父に会うのが怖い。


父の姿を見たら、もうこの世の中にいない事実を私が認めてしまう。


会わなければ、どこかで元気でいるんじゃないかと考えてた。


電車の揺れと私の心の揺れと同じ。


でも、間違いないのはこの電車は父のいる場所に向かってる。


外は晴れなのに窓から景色をぼんやり見てたら、なんだか曇ってるよ。


とめどなく涙がこぼれている。


30年ぶりに会ったお父さんは、とても小さくて、眠っているみたい。


うっすら左目が見えていたのは大きくなった私を見るためだったの?


正直に言って30年の時の流れで、私の記憶が薄れているんじゃないかと思ってた。


でも、やはり親子すぐにわかった。


旦那が父の眠ってる場所まで、ついてくって言ってたけど、私断った。


30年ぶりの父との再会、それを夫婦として行ったら多分私は意地を張ってしまう。


娘としての私になれないと思うから。


ただ父の顔ながめて、深いシワを見ていた。


小学生だった私と最後に別れた後、父は何をしていたんだろう?


ネェお父さん私あれから結婚したんだよ。


子供女の子二人の母親なんだよ。


ネェお父さん私頑張ってるんだよ。


ネェお父さん…


最後まで、身内には知らせてくれるなと言い切る言葉の裏には何があったのだろう?


お父さんにどんなに会いたかったか…


もう会わないから会えないになってしまった。

父の葬儀は、ひろと同じ火葬場にしてもらった。


≪インプット≫



今日はお父さんが空に登っていく日。


お父さんの最後の顔、目の中に心の中にしっかりインプットする。


会えなかった30年、やっと会えたのに、もうお父さんの体が焼かれて骨になってしまう。


扉が閉まる前、私は泣き叫んでた。


母も涙を流してる。


末の弟夫婦は、来るようなこと言って参列しなかった。


やはり末の弟が、亡くなった弟の時に言ってた


「死んだ者より生きてる者が大事」なんだろう。


末の弟は、父の顔も見ないまま。


柩の中に父の好きだったハイライト。


そして父に最初で最後の手紙と天国でお金に困らないように忍ばせた。


小さかった体が、もっと小さくなってしまった。


やはり体が弱かったからか弟、義父、叔父よりも骨はボロボロ、少ない。


小さくて重い父を大事に持って、帰りに私が最後に父と別れた品川のアパートに寄った。


「お父さん久しぶりだよね。あのアパート建て替えちゃった。」


住んでた2階の部屋のカーテンが、揺れて学校に行く幼かった私に、父が手を振ってくれたこと思い出した。


母も旦那も私が気が済むまで何も言わずにいてくれた。


3月に納骨するまで、父は私の家で一緒に過ごす。


少しの間だけど、私のこと見てて欲しい。


私の話聞いて欲しい。

一緒にお酒飲もうね。


その後は帰りたかったのに帰れなかった秋田に連れて行くからね。

30年ぶりに会った父の貴重品を受け取りに行った。


もしかしたら、私の子供の頃の写真があるかもしれない。



何か私に手紙でも残してくれてるかもしれない。


財産などは考えもしなかった。


福祉の方から受け取った小さな紙袋。


中味は、家賃帳、通帳に印鑑、タバコにライター、そして使い込まれた財布。


財布の中には現金はなく、銀行のキャシュカードにテレカ、馬券が5枚。


照会したら全部当たり馬券だった。


お父さんらしいな。


私のこと口にも持ち物にも残さなかった。四十九日が過ぎても私の夢にも気配も一度もなかった。


先日初めてウトウトしていたら夢に出てきた。


何も言わずただ私を見ていた。


何を伝えたかったんだろう?


私は負けないで頑張って生きるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大変な現実を乗り越える勇気、感動いたしました。身内を亡くされた方はぜひ読んでほしいと思います。
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