9. 私、捜されているようです。
9話目投稿です。
さて、薬を扱っている場所って具体的にどこがあるだろうか?
そりゃあ、たくさんあるよね。
王都中央の街だけでも、専門的に扱ってはいないけど置いてある場所はかなりある。
300ヶ所以上あるんだ、捜索する前から心が折れそうだ。
シャーリーは、その薬を扱っている店のリストを真剣に見ているけどね?
あんまり多いので、宿を取って一旦計画を練ることにした。
一応は、武器屋とか防具屋とか道具屋とかを省いたりして、リストを作り直したりした。
これが結構な時間を食ってしまい、酒屋ぐらいしか空いていない時間になってしまったため、食事を取って今日は休むことにした。
明日は朝から捜索開始だ。
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朝食もそこそこに、街へ出て二手に別れてリストにある店に訪ねて回ったが、探しているのが16歳の女の子という事もあって、店員は口が重かった。
いない場所の店では、最終的にはいないと返答があるのだが、如何せん男が成人したての女性を探している事に警戒されてしまったらしい。
俺に至っては、兄なのになぜ居場所を探しているんだと疑われる始末。
まあ、家出したわけでも無いのに居場所を知らないのは俺に理由があるので、詳しく説明出来ずに苦労してしまったのだ。
シャーロック様の方が、存外うまく聞き出していたようだ。
何か泣かせる設定でも考えての作戦に、切り替えた模様。
ヴィヴィアンナのことになると、この場合外聞は気にしているので、恥を飲み込んでいるのか?
さすがは8年間もしつこく惚れて・・・ゲフンゲフンゲフン。
やる気とパワーが違います!
でも、見つからないんだな・・・これが。
50件ほどの店を訪ね終わったところで、一旦休憩して相談していたら巡回中の騎士に声をかけられてしまった。
ああ、もしかして通報までされたのか?と思っていたら、知り合いだった。
俺とシャーロック様が、ロガリア学院に在籍していた時の同級生のマイクだ。
彼は王都中央に配属されたのか・・・・。
「マ、マイク!」
久しぶりと声をかけようとしたら、シャーロック様から不穏な気配が!
うわっ!何でまたそんな射殺さんばかりの目でマイク見ちゃってるんだ!
「シャーロック様!若い良い男に会う度に毎回威嚇するのはやめましょうって、昨日ミーティングしたでしょう!!」
「うっ!そ、そうだったな・・・すまん、ケルト。」
お、素直に謝りましたね?良い傾向です。
「・・・・・・・・何かお気に触りましたか?」
でも、ほら見なさい!訳も分からず睨まれて、困惑してしまっているじゃないか!
仕方がないので、俺の妹が2ヶ月ほど前に自立して家を出たが、具体的な職場を知らないためにシャーロック様と一緒に探している最中だと、事実のみを掻い摘んで話した。
が!マイクの目が訝しんでる!疑ってる!
やっぱり、この説明だけでは無理があるかな?
でも、ここで話をでっち上げても後々困ったことになりかねないし、ヴィヴィアンナの評判を落とすことになるかもしれない・・・。
そんな事は本意じゃないし、したくもない。
それはシャーロック様だって一緒のはずだ。
「申し訳ありませんが、詳しくお話しを伺いたいので詰所まで御足労願えますか?」
うわぁ・・・目が笑ってないよマイク。
でも、やっぱりそうなっちゃうか・・・。
シャーロック様は時間がないと騒ぎだすかと思ったけど、マイクの言葉に素直に頷いている。
しょうがない。
多分、またここに来ることになるだろうから、騎士団の疑いを払っておく必要はあるものな。
別に不埒な行いをするために、ここにいるんじゃないんだし。
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王都中央の街を巡回中のマイクに騎士団の詰所までつれてこられた。俺ととシャーロック様は簡素な応接室?に通された。
取り調べ室じゃないだけマシか。
歓迎されてるわけではないと、薄いお茶が振舞われる。
う~ん、お茶の味するのか?これ・・・・シャーロック様は手をつけないどころか、見もしない。
マイクはがっつり話しを聞くつもりなのか、人払いをしたようだ。
「遮音。」
遮音結界まで張られた・・・・どこまで話したものか。
「聞いてくれマイク。私は、些細な事で嫉妬し、8年間愛する人を散々傷つけてきた。いつでも会いたくて、顔を見たくて、声が聞きたいのに、会って私の口から出るのは彼女を傷つける言葉ばかりだった。その言葉が貴族とういう身分を捨てさせ、平民として生きることを決意させてしまった。いつの頃からかは判らないが、平民として生きる為の努力もしてきたようだ。先日彼女から東騎士団にいる私に、初めてくれた手紙にそう書いてあった。初めての手紙が決別の手紙だった!・・・そして、これからは自力で働いて平民として生きていくから、私を煩わすことはないので安心してくれと・・・・そんな事を思わせていたなんて思ってもなかったんだ。このまま何もせずにいたら、私は彼女を垣間見ることさえ出来なくなってしまう・・・・・・・・・・そんなのは堪えられない!」
シャーロック様が、間を置かずに一気に話した。
え~っ?時間を無駄にしたくない気持ちはわかるけど、そんな畳み掛けるみたいに言わなくても!
マイクだって、急にそんな事言われたって・・・って、こっちを見てる?!
ええ!どうしようかなぁ・・・・・・・・シャーロック様が、ここまで言っちゃったし、いいか。
「・・・・とまあ、シャーロック様と一緒に王都中央に探しに来たわけなんだよ。この街にいる事は分かってるんだけど、職場はわからないから。妹が出来る仕事っていったら、ロガリア学院で修めた薬学関係くらいかなと思ってね。さっきは2人で薬を扱う場所を、順に訪ねて回っていたところだったんだよ。」
口に出して言ってみると、ほんと手間がかかることをしてるなぁ。
ってことはわかってるんだけどね。
他にやりようが思いつかない。
「そう・・・ですか・・・で、誰を?」
「だから、俺の妹を。」
え?さっき俺の妹を探してるって言ったのに・・・・そこから疑われてる?!
「・・・・・探し出して・・・どうするつもり?」
ああ、うん、騒ぎには絶対しないとは・・・約束は出来ないもんな。
「どうって・・・」
そうだよな、王都中央の街を守っているマイクたちからしてみれば、この街で問題起こされるのは勘弁願いたいよね。
「まずは、謝りたいのだ!傷つけてきたことを!ヴィヴィアンナに!」
「・・・・・・・」
例えヴィヴィアンナを見つけても、シャーロック様にはすぐに会わさない方がいい感じがするな。
何か余裕がなくて、危機迫ってて俺でも怖いし。
ユリアンナの話では、相当嫌われてるみたいだもんな。
そんな事を考えていたら、マイクから声をかけられた。
「ケルト様、少し良いですか?」
「あ、ああ。」
えっ?この状態のシャーロック様を放置するのか?と思いつつも、少し離れる。
マイクは俺たちが探しているヴィヴィアンナの容姿を確認してきたと思ったら、やっぱりかと確信したように小さく頷き、驚いたことにヴィヴィアンナである確率が高い子の職場について教えてくれた。何故知っているんだと聞いてみたけど、王都中央の街は私たちの管轄だから、情報を得る伝手はいくつかあるんだと言う。
なんだそれ!すごいな!王都中央騎士団!半端ない情報収集能力!!
その後、マイクはシャーロック様に向き直った。
「約束してほしい事があります。それを守っていただけますか?」
「守れば、このまま探しても良いのか?!」
「ダメです。」
「何故だ?!」
「・・・・探されてるのは、ウォルンタス男爵令嬢のヴィヴィアンナ様ですよね?」
「そうだ!」
「平民としてこの王都中央の街で働いて暮らしていると。」
「そうだ!」
「そんな風に暮らされている方を、あなたのような貴族が探していると広まれば、良からぬ事を企む輩が出てきてもおかしくはないんです。」
「「!!」」
「聞けば、世慣れするには自立していくらも経っていないようですし、危険に晒したいんですか?」
「・・・・・そんなつもりは・・!」
なんてことだ、失念していた。
そういう事があってもおかしくないんだ。
「では、あらゆる事を想定して考えて、人の話しに耳を傾けて行動して下さい。」
ロガリア学院の頃とも、見習い騎士の頃とも違う騎士としてのマイクをこの一言が物語っている気がする。
俺とシャーロック様は、言葉が詰まったようにマイクをただ見ていた。
そのまま鮮やかに微笑んで、暇乞いと俺たちの開放を告げたのだ。
「ご機嫌よう。シャーロック様、ケルト様。」
”理不尽な!?”81話目とリンクしております。宜しければ読んでくださいませ。