5. ウォルンタス男爵家で家族会議らしいです。 (4)
5話目投稿です。
シャーロックを弁護するはずが、弁護にならないどころか窮地に追い込んでしまったと言葉を失ってしまっているウォルンタス男爵家三男ケルト。
心なしか顔色も悪い。
内心は、やっぱり俺には無理だったか~とも思っている。
(え?待って!これって俺、詰んでる?
シャーロック様のヤンデレ一歩手前今ここ状態の余波だけでなく、ヴィヴィに向かっていた色んなものが変換されちゃって、憎悪とか悲哀とか鬱憤とかとかとかが!どーんって、俺に来ちゃう?!)
顔色を悪くして、意気消沈している三男ケルトを見るに付け、ロズアンナは思った。
確かに、何年も末娘のヴィヴィアンナを傷つけてきたシャーロックは許し難い。
しかし、体格も良いし、既に騎士団に入り、成人しているといっても、ケルトだって自分の可愛い息子だ。
好き好んで悲愴な顔をさせたいわけではない。
そんなケルトが今だに友人として見ているシャーロックに、拒絶のみを与えるのも・・・どうだろうかと。
ふと見ると、夫のジルベルトの手がロズアンナの手を優しく包んで、微笑んでいた。
(ああ、先ほどシャーロック様にも機会をと、ジルベルトは言っていたわ・・・・そうね、差し上げてもいいかも。機会なら・・・・・そう簡単に許しはしないけど。)
そう考えたロズアンナは、ジルベルトに微笑み返した。
またか!とそれを見ていた彼らの子供たちは思う。
徐々に両親の空気が桃色になりつつあるのを、悲愴な顔で自分の末路を脳裏浮かべていたケルトが止めた。
「申し訳ありません。責任を持って、命に変えても・・・俺がシャーロック様を抑えてみせます。では休暇中ではありますが、騎士団にシャーロック様を連行・・ゴホゴホ・・連れて帰りますので、俺はこれで失礼いたします。」
「えっ?!ケルト?!」
両親と両親に気を取られていた兄弟たちは、ぎょっとして慌てふためいた。
つい数分前みたケルトと違って、今にも死にそうな感じな顔だったからだ。
「お、お前、ケルト?こんな僅かな時間でどうしたんだ?!」
「部屋から出てもいないのに、ヨロヨロしているのはどうしてなの?!」
これから自分の身に起こるであろう事を悟り、覚悟を決めたように見えた。
そして、ケルトは胸に手を当て、力無く微笑み、頭を左右に振った。
「どうか・・お気になさらず・・・・では・・」
ふらふらと歩きながら部屋のドアに向かった。
堪らず、ロズアンナは走りよりケルトを抱きしめた。
「ごめんなさい!ケルト!ヴィヴィの事ばかりに気を取られて、シャーロック様と友人でもあり、騎士団でも近くにいるあなたの事を少しも考えてなかった!」
「母上・・・」
「母親失格だわ!あなただって、私の可愛い子供なのに!愚かな母を許してちょうだい!ケルト!」
ああ、これは。
他の兄弟は思った。
夫婦の桃色劇場から、感涙の親子劇場へと変更になったようだ、と。
父ジルベルトは、自分の服の袖を悔しそうに噛んでいる。
「母上、俺は何も怒ってなどいません。だから、母上が許しを請う必要などないのです。ただ、これからの事を考えてしまって・・・・ちょっとだけ疲れるだろうなと思っただけです。所詮、俺にはシャーロック様の弁護など烏滸がましかった・・・それだけです。ですから・・」
悲しそうに母の謝罪に答えるケルトに、ロズアンナは言い募る。
「いいえ、いいえ!確かにシャーロック様のことをすぐには許す事が出来なくても、あのように深く想って下さっているのなら・・・!名前を間違えたと思ったらその場で本人に聞き返せば済むことじゃない!そんな事にネチネチ拘ってふざけんじゃないわよ!顔がいくら良くてもケツの穴の小さい男なんて最悪じゃー!!ゴラー!!」
ケルトへの謝罪の途中で、抑え込めきれてなかったシャーロックへの怒りを思い出してしまい、うっかり再び本音を激しく吐露したロズアンナは、フーフーと呼吸も荒い。
「ははうえ・・・・」
「でも!それでも!!その事であなたに多大な負担を強いることになるのを甘受出来る訳がありません!ですから!この件は、シャーロック様とヴィヴィに最終判断を委ねることにします!!」
「は、母上・・・?」
ケルトを抱きしめながら、ロズアンナは言葉を続ける。
「シャーロック様が、ヴィヴィの心を開き、和解出来れば、その先を受け入れることを考えます。友人関係だろうと恋愛関係だろうとも。でも、ダメな時は、あなたもシャーロック様との間に距離を置く覚悟を決めてちょうだい。ケルト。」
「俺がシャーロック様に手助けをしても・・・・?」
「もちろん構わないわ。この件で良しにつけ悪しに付け、私たちのなかで1番影響が大きいのはケルトだもの。・・・・でも、ヴィヴィに無理強いはしないで・・・?お願い。」
(やりました!やり通しました!母上に妥協案を出してもらいました!頑張った!頑張ったよ!俺!)
「はい。もちろんです、母上・・・・ありがとう・・ございます。」
「・・・ですが、この事はケルトからシャーロック様に伝えて貰える?私は、最後まで冷静にお話しできる自信がありません・・・・・・・・・・・蹴りを入れてしまうかも。」
さらっと本音が出てしまうあたり、本当に限界なのだろう。
「承知いたしました。母上の御御足が怪我をしてしまっては大変ですから。」
ロズアンナは微笑み、夫ジルバルトの方を見る。
すると当主ジルベルトは静かに頷き、ロズアンナの手を取りエスコートして部屋を退出して行った。
両親が退出した後、再びウォルンタス男爵家で家族会議・・・もとい、兄弟会議が始まった。
「やっぱり、母親は息子には弱いものなのね。」
ふう~と、頷きながら呟く三女ユリアンナ。
「あのように母上を促すのは、私も息子だが・・・無理だぞ?」
長男バルト。
「俺にも無理。」
次男ソルト。
「でも、私よりは可能性はあるわよ?ケルト兄様は・・・・3人の中で一番、要領が良くて、母様の扱いが上手なのよ。」
「人聞きが悪いな、ユリアンナ。まるで、俺がずる賢いみたいじゃないか?」
「いやね、違うわよ。要領が良いって言ったのよ?」
「ふ~ん・・・最後まで手助けもしないで見てただけなのに、随分だな。」
「そう、拗ねるな。悪かった。」
「そうだな・・・でも、余計な事を口出しすると収集つかなくなりそうだったんだよな・・・」
「そうよ、手助けしなかったんじゃないわ。出来なかったの。」
(まあ、そうか。とも思う。今日は急に家族会議だなんて父が言うし。更に突然シャーロック様が乱入して、母上の神経逆撫でするし。しかも、俺たちは事前に打ち合わせも出来てないんだった。)
「でも、第1関門突破って感じだわね?」
「まだ、序の口だぞ?」
「まあ、一番の難関は、ヴィヴィアンナ自身だからな。」
シャーロックとヴィヴィアンナの事は、実はある程度は把握していた兄弟姉妹だった。
しかし、どうする事も出来ずに手をこまねいていたのだ。
何せ、肝心の2人が平行線だったから。
「何にせよ、母上から一応の許可が出た。」
「しかも、シャーロック様まで動き出した。」
「これは、好機かもね。」
上手くいって、2人が和解して、まとまってくれれば良い。
最悪、和解だけでも良いのだ。
そうすれば、自分たちの末妹は戻って来れるはずだ。
それが、彼らの狙いであり、願いだった。
「俺だって、準備もなくあんな物真似やらを頑張ったんだ、兄上たちもユリアンナも協力してくれよな?」
「ええ、姉様たちにも打診しておくわ。」
「では、次はシャーロック様だな?」
「ああ・・・そっちを動かすのは、任せてよ。」
「任せた。」
そう、話し合うと別室に案内されたシャーロックの元へ向かおうとケルトは、歩いていく。
そこへ、兄弟たちから再び声がかかる。
「「ケルト」」
ドアノブに手かけたところで、呼び止められて振り向いた。
「何?」
「「「感涙の親子劇場、ご馳走様!」」」
ケルトは少し顔を顰めたが、口元だけ笑みに変えて短く言葉を返して部屋を後にした。
「そりゃどうも、お粗末さまでした!」