4. ウォルンタス男爵家で家族会議らしいです。 (3)
4話目投稿です。
きっかけは”チャーリー?”だった。
あの子は私に”チャーリー?”と言ったんだ。
目の前が、灼熱の如く真っ赤になった。
あの子が私の顔を見てひどく驚いた顔をした。
目の前が、赤黒く染まっていく。
あの子が不思議そうに小首をかしげ、私に声を掛けようとした瞬間に、踵を返してその場を去った。
走ったりしない。
悠然と見えるように。
振り返ったりしない。
顔を歪めたりしない。
友人と友人の両親に挨拶をした。
何事もなかったように。
その日はそのまま自宅に帰った。
何事もなかったように。
自分の両親に帰宅の挨拶をした。
何事もなかったように。
自室に帰った。
「”チャーリー”とは誰だ!?」
自分の物とは思えないほど、怒りと憎しみがこもった声だった。
何故、何故何故何故何故何故何故だ!
「”チャーリー”とは誰だ!!」
可愛いと!実の妹のように可愛いと思っていた。
可愛いと思い過ぎて、すぐに抱きしめてしまいそうで。
だから、少し距離をおいた所から眺めて。
本を読んでいても、可愛い。
お茶を飲んでいても、可愛い!
花を摘んでいても、とても可愛い。
庭の片隅でうっかり寝てしまっても、すごく可愛い。
庭に迷い込んできた小さな兎を抱っこしようとして失敗して、顔に足跡をつけていても、可愛いじゃないか!
走っていて突然転んで泥だらけでも、可愛いんだ。
そんな状態で泣き出して、ぐしゃぐしゃな顔をしていても、可愛いすぎる。
甘味を頬一杯に詰め込んでいても、なんだそれ!可愛さ爆発!
可愛くて、愛しくて、どうしようもなくて。
離れているのは限界だった。
声が聞きたかった。
声をかけたのは私だったのに。
なのに、ヴィヴィアンナは別の男の名を呼んだ。
私が目を離した隙に、他の誰かと仲良くなったのか?
私と話さない隙に、他の誰かと笑顔で話したのか?
私と離れていた隙に、他の誰かを好きになったのか?
この時に私は、自分がヴィヴィアンナを妹としてなんて見ていないことを嫌というほど、思い知った。
「チャーリーとは・・・・・誰だぁ!!!」
だが、この時からヴィヴィアンナに笑顔を返して貰えるようには、話しかけることが出来なくなってしまった。
どうしても”チャーリー”が気になる。
でも、誰にも聞くことが出来なかった。
嫉妬心がどんどん蓄積される。
しかし、ヴィヴィアンナには会いたい。
声が聞きたい。
その度に”チャーリー”が脳裏に浮かび、酷い言葉を浴びせてしまう。
その、繰り返し。
そこから、どうやったら抜け出せるのだろう?
このまま、私はヴィヴィアンナを失ってしまったら。
狂ってしまう。
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「と、いう具合にシャーロック様も色々葛藤とかあったわけです。」
ウォルンタス男爵家三男ケルトの、シャーロックの物真似劇場が終了いたしました。
ご清聴ありがとうございました。
それを聞いていた他のウォルンタス男爵家の人々は、
「あまり似ていないな?」
長男バルト。
「そうね?目を瞑っていた方が良かったかしら?」
三女ユリアンナ。
「うむ、視覚の暴力だったかもしれん。」
父ジルベルト。
「そう?迫真の演技だったと思うけど?」
母ロズアンナ。
「お疲れ~ケルト。」
次男ソルト。
「・・・・・・・」
違う。
違うんだ。
俺の演技に対してのダメだしとか評価を聞きたいんじゃないよ。
「・・・・・俺の演技は抜きにして・・・・内容についてはどう?」
「デレデレ?」
「ツンデレ?」
「クーデレ?」
「ヤンデレ?」
「進化系、デレデレ⇒ツンデレ⇒クーデレ⇒ヤンデレ一歩手前。今ここって感じ?」
「「「「それだ(だわ)!!!!」」」」
違うって。
違うんだって!
「俺が言いたかったのは、如何にシャーロック様がヴィヴィを好きかってことだよ。こちらの憤りとかをちょっと横に置いておいて、考えてみて。8年だよ。8年間、ずっと好きなわけだよ。途中でつまづいて、ヴィヴィに会う度暴言吐いちゃってたとしても、それはヴィヴィを好きすぎるあまりの嫉妬のなせる罪なんだ。」
「じゃあ、合ってるじゃない?」
「え?何が?」
「だから”進化系、デレデレ⇒ツンデレ⇒クーデレ⇒ヤンデレ一歩手前。今ここって感じ?”だろっていってんの。」
そう・・・なのか?合ってる?・・・・・・合ってんの?。
「合ってるの?・・・・っていうか、何?それ?」
三女ユリアンナと次男ソルトからの説明で、何となくではあるけれど把握しました、問題ありません。
「そうだね。合ってるね。まさにその通り。で、分かって貰えたかな?」
「・・・・お前の言いたいことは分かったが、その話の真偽についてケルトに聞きたいことがある。」
長男のバルト兄上が、俺の目を見ながら言った。
「何です?」
俺は嘘などついていないが。
どこか疑われるようなことを言っただろうか?
「先ほどの事細かな状況と心の動きなどを、あのシャーロック様が逐一お前に話したのか?相談でもされたのか?」
「いいえ。話して貰ってもいないし、相談もされてない。」
「では、何故?」
ああ、そうか。
そうだよな、そりゃ話が本当かどうかの真偽を聞きたいよね。
「騎士団宿舎で俺とシャーロック様って、部屋が隣同士なんだよね。で、普段はそんな事はないんだけど、シャーロック様って部屋で思考の深みに填ると口に出す癖があるのか聞こえて来るんだよね、隣の俺の部屋に。」
「そんな事があったのか・・・」
「あったのかって・・・時々発作みたいに突然聞こえたりするんだけど、休暇とかでヴィヴィと会った後の頻度が高かったな。そりゃあもう、連日。だから、直接シャーロック様からヴィヴィが好きって聞いてなくても、ダダ漏れな上に、これじゃあ疑えないよ俺は。」
でも、そろそろ俺も限界なので結界を張ろうと思ってるけどね。
如何せん、食傷気味も良いとこだ。
血の繋がった可愛い妹をここまで好きになってくれたのは、嬉しい。
でもね、かなり怖いんだよね?
まさに病む一歩手前な感じで。
振られちゃったりしたら、どうなんの?
今はないけど、もしかして俺の方に余波とか来ちゃう?
うわぁ・・・・友達やめてぇ・・というか部屋変えて欲しい。
今のままでも、この先もしヴィヴィと上手くいったとしても、もう聞きたくないんだよなあ・・・・あれ。
だって、聞く気もないのに記憶に残って、気持ちを代弁出来ちゃうってやばいレベルだと思うんだ。
「で、話は戻りますが。元凶の”チャーリー”って誰です?俺、覚えがないんですが?」
「「「「「はあ?」」」」」
え?何?何で知らないの?お前ばっかじゃないか?
という呆れと侮蔑が入り交じった視線は勘弁してくれ。
ん?待てよ?これって俺以外知ってるのか?
答えてくれたのは、ユリアンナだった。
「ケルト兄様何言ってるの?知らないの?シャーロック様のことじゃない。」
「はあ?!」
何言ってんだ?俺は”チャーリー”が誰かを聞いたんだぞ?
何でそれがシャーロック様なんだ?!
俺が本気で分からないと気がついたうちの家族は説明をしてくれた。
ヴィヴィが7歳くらいの頃に、家族内で密かに流行っていた遊びの話だった。
少しだけ舌足らずなヴィヴィは、焦ると言葉を良く噛んでいたそうだ。
その舌足らずな言葉で、自分の名前を読んで貰うのが可愛くて楽しかったと。
俺はヴィヴィを焦らせるような態度をとったことがなかったから、知らなかったのだろうと。
何、妹で遊んでるんだ!可哀相だろ!ヴィヴィが!
「ちなみに私は、バルチョ兄ちゃまだった。」
長男のバルト兄上は、珍しく頬がゆるんでいる。
「私は、ユリャンナ姉ちゃま。」
三女のユリアンナも目尻が下がっている。
「俺は、チョルト兄ちゃまだったぞ?」
次男のソルト兄上まで、クスクス笑っている。
俺が、母上と父上に視線を向けると、おやっという顔をして笑って答えた。
「私達は名前では呼ばれないからな、父ちゃま、母ちゃまだったぞ?」
「それから、長女のアリアンナはアニャンナ、次女のマリアンナはマニャンナだったわね、うふふ。」
「・・・・・・」
自分だったらどうだったかな?なんて思ってないよ?
う、羨ましくなんかない!
「シャーロック様は、突然ヴィヴィに声をかけたのでしょう?びっくりして焦ってヴィヴィは言葉を噛んだんだわ。聞いたことあるもの、ヴィヴィがシャーロック様のことを話す時、時々焦ってシャーロック様の愛称の”シャーリー”を”チャーリー”って言っていたのを。」
「えっ・・・・・・・・・・・」
なんてことだ。
シャーロック様、あなたは8年間、ずっと居もしない”チャーリー”に妬いていたのか。
「そんな事で、何年も私のヴィヴィを傷つけてきたの?あの方は?」
母ロズアンナの微笑んでとても優しげに言った。
でも、瞳は笑ってない。
ああ、一言。
ヴィヴィに。
他の誰かに聞いてくれたら、すぐに間違いだと分かったのに。
”チャーリー”なんていない。
いるとしたら、シャーロック様、あなたが”チャーリー”なんですと、わかったのに。
俺は、シャーロック様の弁護に失敗したのか?
デレデレとツンデレとヤンデレは知っていても、この話を書くまでクーデレは知りませんでした。まさか、クールデレだとは・・・!