3. ウォルンタス男爵家で家族会議らしいです。 (2)
3話目投稿です。
茫然自失状態のシャーロック・サイ・ル・ファーガスは、ウォルンタス男爵家家令に小さな子のように手を引かれ別の客室に連れて行かれ、ソファーに座らせられ、お茶を勧められたが彼の意識はそのまま暫く戻ってこなかった。
彼の意識がここにいない。
とすると何処に行っているのか?
何にしても、怜悧な美貌を持つ人間が、目を開けたまま無表情でいるのは等身大の人形のようで薄気味悪くて、かなり怖い。
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「母上・・・・シャーロック様どうするんですか?」
何年も自分の可愛い末娘に暴言を吐き続けてきた、三男の親友ともいえるファーガス公爵家三男。
はっきりいってウォルンタス男爵夫人ロズアンナは怒っていた。
何が謝罪だ。何が責任をもって連れて戻すだ。
何年も何度もヴィヴィアンナを傷つけて、貴族としての生活を捨てさせる決心をさせ、市井で生きる事を決心させ、その為に何年も準備に時間をかけさせた。
娘を着飾らせる楽しみを奪われた。
(ムカつかないわけがないじゃいの!いくら顔が良くてもムカつくのよ!)
確かにウォルンタス男爵家は裕福ではない。
手がないわけではない。
当主ジルベルトと長男と領民の双方の長年の努力によって、税収も伸びてきている。
それに、長女と次女の嫁ぎ先から援助を受けようと思えば、出来るのだ。
「あの茫然とした状態が良くなったら、お帰り頂いて。良くならならなくてもお帰り頂いて。」
シャーロックが来た時から黙って様子を見ていた、ジルベルトがロズアンナの膝上で握りしめている手に自分の手を重ねてきた。
握りしめていた手から強張りが少しだけ緩んだ。
「ロズアンナ・・・、彼にチャンスすらあげないのかい?」
「!?」
「私だって、彼に憤っているよ?だが、ダメだダメだと思ってはいてもやめるきっかけが掴めなかったり、諌めてくれる者がいなかったり、若いうちは本当に馬鹿なことをしてしまうこともあるよ。」
「シャーロック様を綺麗に許せとおっしゃるの?ジルベルト。」
ロズアンナの声は怒りに満ちている。
「許せなどとは言わない。怒っていい、怒って当然なんだ、可愛い娘をずっと傷つけてきたんだ。でも、少しだけ彼の若気の至りを理解してあげてみてはどうだろう?」
「・・・・?どういう事ですの?」
聞く気になったロズアンナに優しい微笑みを向けてから、三男のケルトに顔を向けた。
「彼の弁護をするかい?ケルト?」
「させていただけるなら、是非。」
うんと頷き、それとと更にロズアンナに向かって言葉を続ける。
「傷つくヴィヴィを気にしないようにと導けなかった、傷つける相手に抗議も出来なかったと悔やんでいる私の愛しいロズアンナにもチャンスをあげてくれ。」
「!!」
夫のジルベルトの言葉に、ロズアンナからは言葉は返せない。
ヴィヴィアンナに対して何もしてあげられなかったことを自分がどんなに後悔していたのか、自分に対してどんなにに憤っていたのかを知っていてくれたことに驚いていたからだ。
ジルベルトとロズアンナは目を閉じて、互いの手を握りしめていた。
「そろそろイチャイチャする時間を終了させていただいてもいいですか?父上、母上。」
「そうですね、その方が助かります。」
容赦のない言葉で、夫婦の時間を強制終了させる、長男バルトと次男ソルト。
「まあ!極たまにしかない弱った母様に頼られて嬉しい父様の至福の時間を取り上げるものではないわ。」
変な擁護の仕方をする三女ユリアンナ。
「でも、ユリアンナ。話しが先に進まないよ?」
ちょっと飽きてきた次男が不機嫌気味に返す。
「それもそうね。話しを進めましょう。」
既に立ち直った様子のロズアンナから「第12回ウォルンタス男爵家家族会議」再開が告げられた。
え?もう?と当主ジルベルトが不満気だが、ロズアンナはもう良いらしい。
友人のシャーロックの弁護をする事を引受たものの、過去を振り返って思い起こせば、もしかしたら更に彼を窮地に追い込むかもしれないと三男は心配していた。
「それで?ケルト?シャーロック様の何を弁護したいのかしら?」
母のロズアンナを始め、三女のユリアンナ、父のジルベルト、長男のバルト、次男のソルトが自分を見ている。
さあ、弁護してみろ、と。
何だか自分がシャーロックの代わりに窮地に追い込まれた感じがする。
ここは取り繕うよりも、自分の見て、聞いてきたことを素直に言おう。
そう思ったケルトの心境は多分、まな板の鯉。
「初めてシャーロック様が、この家の遊びに来た時のことを母上たちは覚えていますか?ヴィヴィアンナがまだ、7歳になったばかりで、シャーロック様が10歳の時でした。会ったばかりの頃は、2人は仲が良かったですよね?シャーロック様も妹が出来たみたいだと言っていました。」
「・・・そうね、最初の頃は安心して見ていられたのよ・・・最初は。」
そう、出会ったばかりの頃、シャーロックはヴィヴィアンナを本当に可愛がっていた。
ウォルンタス男爵家に来れば、楽しそうに話し、どこに行くにも手を繋いでいたりととても微笑ましかった。見守っているこちらの目元が緩むくらい。
そのうち、家族の前でおおっぴらに構うのをやめてしまったので、いつの何がきっかけで、シャーロックはヴィヴィアンナを傷つける言葉を言うようになったのかは、わからなかった。
「その頃少し構い過ぎのような気もしていましたが、そのうちそれも落ち着いて見えた時期があったと思うんです。」
「・・・ええ。」
ロズアンナはその頃の事を思い出しているように、目を閉じ困ったように微笑んでいる。
「ヴィヴィに構ってなかっただけで、ずっと見てたんですよね。」
「え?」
「うちに来て、俺と遊ぶ振りして、ずっとヴィヴィを見てたんですよ。シャーロック様。」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
見てた?ずっと見てたって何?
という表情を家族全員がして見てくるので思わずケルトは視線をわずかに逸らした。
「見て、何をするかというと、ヴィヴィに対してはしないけど、あの子が何かをするのを見る度にシャーロック様どこかに走り込んで行って隠れて・・・・・悶えてたんです。」
「も・・・?」
「その頃、何でシャーロック様が悶えているのか聞くに聞けないし、見てても訳わかんないし、俺も子供心に気持ち悪かったんで放置してました。そんな状態が暫く続いた後に、ある時シャーロック様がヴィヴィに話しかけようとした事があって、シャーロック様がヴィヴィに声をかけたんです。声を掛けられたヴィヴィは振り向きながら答えたんです。」
ケルトは一旦言葉を切って、それから続ける。
「”チャーリー?”って。」
ウォルンタス男爵家三男ケルト、これは本当にシャーロックの弁護になり得るのか?