2. ウォルンタス男爵家で家族会議らしいです。 (1)
2話目です。
只今、ウォルンタス男爵家屋敷にて家族会議が開かれております。
出席者は、当主ジルベルト・マイ・ウォルンタス、ウォルンタス男爵夫人ロズアンナ。
長兄バルト、次兄ソルト(西騎士団から休暇を取り参加)、三男ケルト(東騎士団から休暇を取り参加)、三女ユリアンナ。
長女がアリアンナ、次女がマリアンナは身重の体のため、涙を飲んで欠席。
当主ジルベルトが家族会議開会を告げる。
「第12回ウォルンタス男爵家家族会議を始める。皆に集まってもらったのは他でもない。」
「え?家族会議で集まったの?父上?俺、休暇でこっちに帰って来ただけなんだけど?」
「え?俺もだよ?」
と突っ込む次兄と三男。
「私も話があるとかで、執務を中断してきたのですが?」
「もう少ししたらドレスの仮縫いの時間なの。時間かかるのかしら?」
と長兄と三女のやる気のない質問。
ぐっと堪えて、先を続ける当主ジルベルト。
「ヴィヴィアンナが家を出て行ってしまった。」
「「「「・・・・・・で?」」」」
「私の可愛い可愛いヴィヴィアンナが、社交界デビュー前に独り立ちすると言って、家を出てしまったんだ!」
その場にいた者は、生温い視線を当主に向けていた。
「16歳近くになったら、社交界デビューなどしないで独り立ちすると8歳くらいからずっっっと言っていたではありませんか?それを父上たちも私たちも承知していたはずでしょう?今更なんだっていうのです?母上だってそうでしょう?」
「ええ、それはそうなのバルト。それだけじゃなくて、この家の籍から抜いてくれと書類まで用意していったのが問題なのよ。」
「え?籍?!」
「ええ、貴族としての籍が残っていると、もし平民と結婚することになったりしたら双方に要らぬ迷惑がかかるかも知れないからと。」
「へ~・・・!」
「・・・・・用意周到だなヴィヴィ。」
「そうね、先までちゃんと考えてるのね、えらいわヴィヴィ!」
「その時になって慌てても困るものな、それが原因で破談になったりしたら嫌だろうし。」
うんうんと感心している兄達と姉。
「お前たち!何故そんなに落ち着いているのだ?!ヴィヴィは私たちと縁を切ってくれと言ってるのと同じなのだぞ!」
当主ジルベルトはもはや、涙声で訴えている。
何で誰もわかってくれないの?!父様泣いちゃうぞ!とそんな勢いだ。
「・・・・母様、ヴィヴィは私の結婚式はどうするって言ってました?」
「貴族としては参加出来ないけど、お祝いには来ると言っていたわ。」
「それって、貴族としての付き合いはできないけど、家族でいるってことよね?」
「そうだと思うわ、ユリアンナ。」
「それならいいの、母様。」
三女と母ロズアンナは微笑みあう。
父親のジルベルトと対して、他の家族は飄々としたものだ。
そこで、ふと三男のケルトが思い出したように話しだした。
「そういえば、少し前にシャーロック様宛てにヴィヴィから手紙が来てたみたいなんだけど・・・」
「あら?頻繁にうちの家にいらしてたから、ご挨拶でも差し上げたのかしらね?」
「どうでしょうか?手紙を受け取ったときは、妙にソワソワしてましたが、読んだ後は真っ青通り越して、顔が白かったですね。何て書いてきてたんだろう?挨拶程度であんな風にはならないと思うんですが?」
「ふふふっ・・・ヴィヴィのことだから、最後だからって丁寧な言葉で飾りながら嫌味を書き綴ったのかも。」
三女のユリアンナの楽しそうに言った言葉に三男のケルトは怪訝そうに聞いた。
「え?どうしてそんな事する必要があるんだ?シャーロック様は・・・」
「兄様や父様は知らなかったの?あの方、来る度にヴィヴィに酷いこと言っていたのよ?身分的には上過ぎて抗議もできなくて悔しかったわ!ねぇ?母様?」
「ええ、そうね。口惜しかったわ。何度どついてやろうと思ったことか・・・!」
女性2人は何かを思い出し憤っている。母親であるロズアンナは憤りが過ぎて本性が出かかった。
危ない危ない。
「何と言われていたんだ?ヴィヴィは・・・」
「”お前は、他の兄弟姉妹に似ず持つ色合いも地味だ”とか”貴族令嬢としては不器量だ”とか、”社交界には出ない方がお前の為だぞ?”とか”何の取り柄もないんだ笑うぐらいしろ”とか!今思い出してもムカつくわ!」
「何だと?!そんなことを!?何故、私に言わないんだ!」
初めて聞かされる事実に驚愕し、声を荒げる当主ジルベルト。
「落ち着いてくださいな。あなたに言ってもどうにも出来ないでしょう?相手は三男とはいえ公爵家の令息よ?」
冷静に夫を諌める妻のロズアンナ。
ぐっと言葉を飲み込んでしまう当主ジルベルト。
一家の力関係が垣間見える。
ちょっと当主が不憫だ。
「そんな事を俺の見てないところで言っていたのか・・・・・・・・・・・馬鹿じゃないのか?牽制にしても方向が間違ってるっていうか!絶対ダメだろう!それ・・」
「何?どういう事なの?ケルト?」
「”うちに来る度に、何処にいようとも探し出して会いに行く”、”何故かヴィヴィの学院が休みで帰郷する時を狙ったかのように合わせて会いに来る”こんな行動とる理由はなんだと思う?」
「・・・・・・まさか、もしやシャーロック様ってヴィヴィが好きなの?」
「はっきりとは聞いてないけど、そうなんだと思う。よくこっそりシャーロック様がヴィヴィを見つめていたのを見かけたから。」
「うわぁ・・・最悪ね、それ。ヴィヴィはシャーロック様のこと、大嫌いなはずだもの!」
ドサドサッ!バンッ!!
部屋の外から何かが落ちる音がした後。
ノックの音がした。
「失礼いたします。お客様がお見えなのですが・・・・」
家令が来客を告げた。
だが、客の名前を告げない。
「申し訳ございません、お止めする間もなくこちらにいらしてしまい・・・・・ドアのすぐ外までいらっしゃって、花束を落とし、しかも只今がっくりと膝を落として悶えてらっしゃいますが・・・・こちらのシャーロック様がお見えです。」
事細かに様子を報告し、膝を付いている客を優雅に指し示す、ウォルンタス男爵家家令。
「あら?シャーロック様、いらっしゃいませ。お出迎えもせず申し訳ございません。本日はどうようなご用件でしょうか?」
ウォルンタス男爵夫人ロズアンナは、慌てもせずに静かに立ち上がり淑女の礼を持って膝を落として、悶えているシャーロックに挨拶をした。
その声を聞くなり突然ガバっと起き上がるとロズアンナに向かって叫んだ。
「ウォルンタス男爵夫人!!私が今まで何度もヴィヴィアンナを傷つける言動をしてしまったことをとても後悔している!恥ずかしながら彼女の前に出ると頭に血が登って思ってもみない・・・いや、自分の願望が色々混じって・・・混乱して・・・とにかく申し訳ない!私の言った事を苦にして貴族をやめ、市井で平民として暮らす決心をさせてしまうほどとは!私が責任を持って連れ戻してきます!居場所を教えてください!」
必死な顔で一気にまくしたシャーロックはウォルンタス男爵夫人を見つめた。
「・・・・シャーロック様のおっしゃりたいのは、ヴィヴィアンナへの暴言を謝罪なさりたいことですわね?」
「は、はい。その通りです。」
「その責任としてヴィヴィアンナをここへ連れ戻してくださる・・・と」
「はい。」
ロズアンナは微笑んでシャーロックに告げる。
「シャーロック様の謝罪はお受け致しました。ですが、娘を連れ戻いただく必要はございませんの。わざわざ起こし頂きありがとうございました。どうぞ、心置きなくお引き取りください。」
「え?!・・で、ですが・・・!」
「例えシャーロック様のお言葉がきっかけであろうとも、娘のヴィヴィアンナは幼い頃から市井で平民として暮らして行けるようにと努力してきましたの。念願かなってあの子はこの家を出て行きました。貴族としてではなくとも、家族ですもの。応援こそすれ、連れ戻したりいたしません。」
シャーロックは言葉を失った。
それはそうだろう、普通の貴族ならこのような事を許す筈もない。
だが、ロズアンナ達はそれを許し、さらに応援するとまで言っているのだ。
まあ、裏には諸々事情があるのでこの言葉を全面的に信じるのはどうかと思うが。
しかし、シャーロックの謝罪は受け入れられたのだ。そして、娘が家を出たことも了承していて、連れ戻すつもりもこの家族にはない。
ならばこれ以上彼には何も言えないし、何も出来ない。
シャーロックはどうすれば良いのか思いつかず、その場に棒立ちになり途方にくれてしまった。






