俺とロリと異世界と
石造りの部屋で目を覚ます。
ここは何処だろうか?硬い場所で寝たせいで痛む体を無理矢理起こす。
「目が覚めたかの?」
背後から掛けられた声に驚き振り向く。
そこにいたのは黒いローブを纏った(フードをかぶって顔が見えないので声と身長から判断して)少女だった。雰囲気といい場所といい、まるで魔女のように見える。
「うん?我の顔に何かついているかの?」
「いや、顔見えないけど…」
「あ、すまん」
そう言ってフードを取る少女。まず最初に目に入ったのが銀色の髪。まるで髪自体が光を放っているかのように錯覚してしまうほど美しい。
そして頭に着いた青みかかった色の巻き角。作り物ではないのは質感からはっきりと分かる。
顔を見る。
肌は青。眼は本来白いはずの場所が黒く、金色の瞳。そして尖った耳。
これら全てを見て誰もがこう思うだろう。
――素晴らしいクオリティのコスプレイヤーだと。
「いや、それはおかしい」
「人の顔を見ておかしいとはどういう了見じゃ!?」
些か?混乱していたようだ。あの質感は偽物とは思えない。先ほどまで感じていた体の痛みなどすっかり忘れて立ち上がる。無言で少女の前まで歩み寄る。
自分の身長がお世辞にも高いとは言えないのだがそれでも少女の身長は低い。頭一つ分低いので身長的には140~145cm程度だろうか?
「え?え?なんじゃ?」
急に立ち上がって何も言わずに近寄ってきた挙句、そのまま無言で凝視されているのでどうも不安になったのだろう。落ち着かせるためにもなにか言わなければならない。
「ひょわ!」
そう考えているうちに無意識に少女の頭に手が伸びていたようだ。右手は角を撫でまわし、左手は耳をいじくりまわしている。
「ああ、まるで変態みたいじゃないか」
まるで他人事のように呟く。
「まるで変態じゃなく変態そのものじゃ!!」
少女は飛ぶように距離を取る。眼には涙を溜めていて今にも泣きだしそうだ。
「お、お、お主!いいいい一体何を考えておるのじゃ!!急に人の体を触るとか変態じゃぞ!?しかも無言とか怖すぎるわ!!」
自分でもなんでこんな行動に出たのかはわからないけども。もしかしたら…いや、考えたら負けだと思うのでやめよう。
「ごめんごめん、可愛いからつい」
「か、可愛いとか言って許されることじゃないからの!一言言ってくれれば触らせてるからの!」
なにこのロリ、チョロイ。これじゃ悪い奴に騙されてあんなことやこんなことをされてしまうだろうに。まあ現時点で一番やりそうなのが自分なのだが。
「なんでこんなことになったんじゃ…」
肩を落として呟く少女。つい慰めたくなってしまうじゃないか。
「まあ、気をおとさないで」
「お主のせいじゃからな!!」
威嚇する猫のように叫ぶ少女。
興奮を鎮めるために何度か深呼吸をしている。
「全く…。コホン」
何度か咳払いをすると真面目な顔になる。
「ようこそ、我が城へ。我が名はシルディア=パルテアネス。民からは魔王と呼ばれておる」
小さい身体で精いっぱい背伸びしているようにしか見えない。
「ふぅん」
「反応うっすいのう!?」
「いや、名前とかここがお城とかは信じてもいいけど魔王とか盛りすぎじゃないかなーとか。背伸びして頑張ってるようにしか見えないんだよね」
「やめて!そんな暖かい目で我をみるなぁ!!」
小さい子が頑張ってる姿って微笑ましいよね。
「いいか!我は今でこそこんなツルぺたロリ少女の姿をしているが本来はもっと妖艶の美女な感じなんじゃ!お主を召喚した際に魔力を使いきってこんなちんちくりんになっているだけだからの!!」
「幼稚園の美女かー」
「妖艶の美女!!…お主、随分と落ち着いているのう」
「うーん、落ち着いているというかなんというか…」
「うん?」
「記憶ないっぽいんだよね」
「それはマジか?」
「本気と書いてマジと読む奴だね」
「もしや、召喚の際に何か不手際があったのか…?」
「まあでもなんていうか思い出そうとするとその記憶の部分だけ霧がかかってるみたいに感じるだけで大丈夫。名前とか家族とか思い出せないけど大丈夫。常識的なのは思い出せる」
「全然大丈夫に感じられないんじゃが…!?」
ロリ魔王様が驚愕している。自分が困っていないのでまあ大丈夫だ。
「まあ、一人称が俺なのか僕なのか私なのかも分からないのは困るよな」
「結構重症じゃな!?」
召喚された際の格好はTシャツに半袖のシャツを羽織っていて、ジーンズとスニーカーを履いている。恰好から何処かに出かけていた、または出掛けようとしていたのは分かる。ただ、名前とかが分かるものは何一つ持っていなかった。
「うーん、困ったな。これからは名無しの権兵衛って名乗らないといけないのか…」
「お主、その程度でいいのか!?」
さっきからロリ少女魔王が突っ込みにしかできていないのでそろそろやめよう。いや、名前が分からないのは本当なんだけれども。
「まあ、思い出せないものは仕方ないよ。そのうち適当に思い出すだろうし」
「お主がそれでいいのならもうそれでいいのう…」
「僕…、私…、俺、うん、俺。俺が一番しっくりくる。んで、俺を召喚したのはなんでだ?というか、召喚って言ってるからにはここは俺が元いた世界ではないってことでOK?」
「あっておるよ。それとなんでお主を召喚したかと言うと…」
「したかと言うと…?」
「た、たまたまなんじゃ」
「その答えにはがっかりせざるおえない。何?俺たまたま呼び出されて記憶喪失なの?えー」
「い、言い訳をさせてもらえば」
「言い訳とか民を束ねる王としてどうなの?」
「ぐ、うぬぬ」
泣きそうになるロリ魔王。流石に可哀想だし客観的にみると絵面が大変よろしくないので泣く前にやめよう。
「で、言い訳をするとなんなのさ」
俺が続きを促す。目に見えてパァァと晴れやかな顔をするのが子供っぽさに拍車を掛けている。言わないけど。
「我はタウィルの紋章を用いて異世界に通ずる扉を作りだした。それは路論上はあらゆる空間、時間、世界に存在する扉なんじゃが、魔王である我の魔力を全て注ぎ込んでも異世界に通ずる扉を作りだすのは難しく、扉を作るだけで魔力が枯渇してしまって制御する魔力がなかったんじゃ」
「つまり?」
「暴走して何処につながったかもわからんので焦っていたらお主が降ってきたという訳じゃ」
「…」
「だ、だってそんなに魔力を使うとは思わんかったのじゃ!頼むから怒るでない…」
「いや、怒ってない。呆れてるだけだよ」
「そ、そうか…」
安心されても困るんだけども。
「で、俺はなんの為に呼ばれたのさ」
結局この世界に来てしまった経緯は分かった。だが、異世界からなにかを呼び出すには目的があるはずだ。間違って俺が召喚されてしまったとしても。
「聞いて笑わないか?」
「面白かったら笑う」
「お主悪魔じゃな!?」
「分かった、笑わないから教えてくれ。あと悪魔はお前だろ」
「本当じゃな!?絶対笑わないんじゃな!?あと、我は魔族じゃ!」
疑り深いのは良くないよな。というか絶対は保証できないという言葉をしらんのかね?
「まあ、どうせ笑われるにしても、言わねばならん事だから腹をくくろう」
ふー、と息をはくロリ魔王。
「我に着いてきてくれる者が欲しかったのじゃ。共に歩んでくれるそんな者がの」
「ふぅん…、ん?」
ちょっと待て。
それってプロポーズ?
「ん?あ、いや、他意はないんじゃ!我は友達も少ないし…」
「ぼっちかよ…」
「違うわ!我は人間と共存したいんじゃ!それをするには民も反対するし一人じゃ心細いし…」
「待て、人間と魔族ってやっぱり仲悪いのか?」
「うむ…、お互いに嫌悪しあっておる。近いうちに戦になるだろう…。我はそれを止めたいのじゃ」
「なるほどな…」
俺は記憶を失くしてしまった。原因は目の前のちびっこロリ少女である。本来であれば怒ってもいいところだろう。
だが、俺はそんな気はない。
共存という言葉に何か俺は執着があるような気がする。それは俺の無くなった記憶の手掛かりになるんじゃないだろうか?俺もこのロリ魔王、シルディアと同じく何かと共存をしようと行動していたのかもしれない。ならば、似たようなことをしていれば記憶が戻るのではないか?
それに、俺自身が、こいつを手伝いたいと思っている。
俺はシルディアの肩を掴む。
「な、なんじゃ!?乱暴な真似は止してくれ…!痛いのは嫌じゃ…」
「いや、人を鬼畜みたいに言うのはやめてくれよ…」
いきなり面倒になったぞ…。気を取り直そう。
「俺がお前を手伝ってやるよ」
「無理矢理呼び寄せておいて聞くのもなんじゃが…、いいのか?」
「勿論だ。むしろ手伝わせろ」
「べ、別に期待はしておらぬからな」
あからさまに照れ隠しだと分かる怒ったふりが可愛らしい。
これが記憶喪失の俺とロリ魔王、シルディアの出会いだった。
「ところでお主の事なんて呼べばいいんじゃ?本当に権兵衛?」
「あー、それはマジで勘弁してくれ…」
最初に考えるべきことは、人間と魔族の共存方法なんかじゃなく俺の呼び名だった。