第8話 「……ちょっと、変じゃない?」
――最近のレオンは、明らかにおかしい。
いや。
正確には。
(……前より、ひどくなってません?)
私は、教室の自分の席で、そっとため息をついた。
理由は――
「リリア、これ」
机の上に、そっと置かれる小さな包み。
「……なんですか」
「朝食の後に焼いたクッキー」
「……どうして」
「昨日、甘いもの食べたいって言ってた」
にこっ。
爽やか笑顔。
周囲の女子、ざわっ。
(また……!)
ここ最近。
レオンの“世話焼き度”が、異常に上がっている。
✔ 毎朝迎えに来る
✔ お菓子を差し入れ
✔ 体調を即察知
✔ 荷物は必ず持つ
✔ 他の男子が近づくと即ブロック
……完全に過保護。
(もう、お兄様でもここまでしません……)
「ねえ、リリア」
親友のミリアが、小声で話しかけてきた。
「最近さ……」
「はい……」
「レオン様、独占欲レベル上がってない?」
「……やっぱりそう思います?」
「思う!!」
即答。
「前は“仲良し幼なじみ”だったのに、今は“囲い込み系彼氏”だよ」
「か、彼氏じゃ……」
と言いかけて、止まる。
(……否定しきれないのが問題です)
ミリアは、にやにやした。
「もう認めなよ〜」
「認めません!」
声が裏返る。
その日の昼休み。
私は、アランと一緒に資料整理をしていた。
生徒会の仕事だ。
「ありがとう、リリア。助かったよ」
「いえ、こちらこそ」
普通の会話。
本当に、普通。
――だったのに。
「……何してるの?」
低い声。
振り向くと。
そこには、無表情のレオン。
圧、強い。
「資料整理ですけど……」
「ふーん」
じっと、アランを見る。
無言の威圧。
アラン、たじろぐ。
「じゃ、じゃあ僕はこれで……」
逃げるように退散。
(ご、ごめんなさい……)
「……やりすぎじゃないですか」
私は、小さく抗議した。
「何が」
「今のです」
「普通だろ」
「普通じゃありません!」
即否定。
レオンは、不満そうに眉をひそめた。
「……あいつ、リリアに近すぎ」
「仕事です!」
「俺以外が近づくな」
さらっと言うな。
(怖い!!)
放課後。
帰り道。
私は、ついに我慢できなくなった。
「……レオン」
「ん?」
「最近……変です」
彼は足を止めた。
「変?」
「はい」
私は、意を決して言った。
「過保護すぎます」
「独占しすぎです」
「……ちょっと怖いです」
正直な気持ち。
言ったあと、少し後悔した。
でも。
レオンは、怒らなかった。
しばらく黙ってから、ぽつり。
「……嫌か?」
低い声。
不安が混じっている。
「……嫌、ではないですけど」
本音。
「でも……心配になります」
「私のせいで、無理してるんじゃないかって」
彼は、驚いたように私を見る。
「……無理?」
「はい」
すると。
レオンは、小さく息を吐いた。
「……逆」
「え?」
「無理して抑えてる」
真剣な目。
「本当は、もっと独占したい」
「もっと縛りたい」
「もっと、俺だけ見てほしい」
……重い。
でも。
嘘じゃないのが、わかる。
「でも、それやったら」
少し苦笑して。
「嫌われるだろ」
胸が、きゅっとした。
「……そんなことで、嫌いになりません」
思わず、口から出た。
レオンの目が、揺れる。
「……ほんと?」
「ほんとです」
私は、小さく笑った。
「ただ……ほどほどでお願いします」
「……努力はする」
珍しく弱気。
かわいい。
私は、そっと彼の袖を掴んだ。
「……レオンは、そのままでいいです」
「ちょっと重くて」
「面倒で」
「独占欲強くて」
「……でも、優しいですから」
彼は、一瞬固まって。
次の瞬間。
ぎゅっと、抱き寄せてきた。
「ちょっ……!」
「反則」
低い声。
「そんなこと言われたら、手放せなくなる」
「……もう手放す気ないじゃないですか」
「ない」
即答。
四回目。
私は、あきらめたように笑った。
「……ほんと、変な人です」
「リリア専用だから」
堂々と言うな。
でも。
その言葉が、なぜか嬉しかった。
――こうして私は。
幼なじみの“重たい愛”を、少しずつ受け入れ始めていた。




