第7話 「放課後は、二人きりで」
その日は、朝から落ち着かなかった。
理由は――わかっている。
(……今日、放課後……)
昨日。
帰り道で、レオンがさらっと言ったのだ。
「明日、放課後空けといて」
「え?」
「デート」
――と。
(で、ででででデート!?)
心の中で大パニック。
なのに本人は、何事もない顔で。
「嫌?」
なんて聞いてくるから。
「……い、嫌じゃないですけど……」
負けた。
完全に。
そして現在。
授業中。
私は、ノートを取りながら――
まったく集中できていなかった。
(デートって……どこ行くんですか……)
(何着ていけば……)
(変じゃないですよね……?)
考えすぎて、頭が爆発しそう。
隣を見ると。
レオンは、いつも通り余裕の表情で授業を受けている。
(なんでこの人だけ平常運転なんですか……)
ずるい。
「――以上。今日はここまで」
鐘の音。
放課後。
心臓が跳ねた。
周囲がざわつく中、レオンが立ち上がる。
「行こ」
当然のように、私の手を取る。
「ちょっ……!」
みんな見てます!!
しかし、お構いなし。
「今さらだろ」
小声で言われる。
……反論できない。
向かった先は、学園の裏庭。
普段はあまり人が来ない、静かな場所。
花が咲き、噴水があり、木陰が涼しい。
「……ここ?」
「うん。好きだろ」
「……どうして」
「前に“落ち着く”って言ってた」
……覚えてたんだ。
胸が、きゅっとする。
ベンチに並んで座る。
距離――近い。
近すぎる。
肩、触れてる。
(……落ち着け私)
すると、レオンが紙袋を差し出してきた。
「はい」
「……?」
「おやつ」
中には、私の好きな焼き菓子。
「……覚えてたんですか」
「当たり前」
即答。
「リリアのことは全部覚えてる」
さらっと怖い。
でも――嬉しい。
私は、小さく笑った。
「……ありがとうございます」
しばらく、並んでお菓子を食べる。
静かな時間。
風の音。
鳥の声。
心地いい。
……なのに。
急に、レオンが黙り込んだ。
「……レオン?」
「ん?」
「どうかしました?」
彼は、少し迷ってから言った。
「……緊張してる」
「え?」
意外すぎて、固まる。
「え!? どこがですか!?」
「全部」
真顔。
「リリアの前だと、余裕なくなる」
心臓が跳ねた。
「……からかってませんか」
「本気」
目が、真剣。
逃げ場なし。
「……俺さ」
レオンは、私の方を見る。
「ずっと一緒にいたけど」
「最近、怖いんだ」
「……なにが」
「取られそうで」
胸が、締めつけられる。
「他の男と話してるだけで、嫌になる」
「独占欲やばいって、自覚してる」
「……でも」
一拍置いて。
「それでも、そばにいてほしい」
真っ直ぐな告白。
飾りなし。
嘘なし。
私は、しばらく言葉が出なかった。
(……こんなの)
(反則です……)
やっと絞り出した声。
「……私も」
「え?」
「……レオンが他の人と仲良くしてると」
「……嫌です」
小さな告白。
でも、精一杯。
レオンの目が、大きく見開かれた。
そして。
ふっと、優しく笑う。
「……両想いじゃん」
「……っ!!」
顔が熱い。
「ち、違……」
「違わない」
きっぱり。
そして。
私の手を、そっと包む。
「もう、逃がさない」
低い声。
甘くて、ずるい。
「……ほどほどにしてください」
「無理」
三回目。
即答。
帰り道。
夕焼けの中。
手を繋いで歩く二人。
「……今日、楽しかったです」
「俺も」
「また……行きたいです」
「当然」
にやっと笑う。
「次は街に行こう」
「……本気ですね」
「最初から」
私は、小さく息を吐いて笑った。
――放課後の二人きり。
それは、もう。
“幼なじみ”じゃなくて。
“恋人未満”の時間だった。




