第6話 「王子様の裏の顔?」
レオン・フォン・クラウゼルは、学園で有名な“王子様”だ。
成績優秀。
容姿端麗。
礼儀正しい。
誰にでも優しい。
――表向きは。
(……本当は全然違うんですけど)
私は、廊下を歩きながら小さくため息をついた。
なぜなら。
「レオン様〜♡ 今日も素敵ですわ!」
「一緒にお昼どうですか?」
「昨日の演奏会、ご覧になりました?」
今日も今日とて、女子に囲まれているからだ。
……いつもの光景。
見慣れている。
はずなのに。
(……なんで、ちょっとイラッとするんでしょう)
胸の奥が、もやっとする。
意味不明。
最悪。
「……リリア?」
ぼーっとしていたら、声をかけられた。
親友のミリア。
「どうしたの? すごい顔してたけど」
「してません」
「してたよ。“不機嫌です”って顔」
「……してません」
ミリアはにやっと笑った。
「嫉妬?」
「ちがいます!!」
即答。
声がでかい。
「ほんとかな〜?」
疑わしい目。
(やめてください……)
その日の午後。
貴族学園では、社交訓練の一環として「交流会」が行われた。
簡単に言えば――
半公式お茶会。
男女混合。
強制参加。
(……嫌な予感しかしない)
案の定。
「レオン様、こちらへどうぞ」
「お隣、空いてますわ」
即、包囲。
私は、少し離れた席で紅茶を飲みながら、その様子を見ていた。
(……すごい人気)
わかっている。
わかっているけど。
(……なんか、落ち着かない)
しばらくして。
私は、飲み物を取りに席を立った。
廊下に出ると――
聞こえてきた声。
「……レオン様って、本当に優しいですわね」
「そう?」
「誰にでも微笑んでくださって」
甘ったるい女子の声。
レオンの声。
思わず、足が止まった。
(聞くつもりじゃ……)
でも。
「……俺、誰にでも優しいわけじゃない」
低い声。
いつもの爽やかさがない。
どこか、冷たい。
「え……?」
「興味ない人には、興味ない」
はっきり。
容赦なし。
女子が言葉に詰まる。
「じゃ、失礼」
そう言って、立ち去る足音。
(……え)
私は、物陰からそっと覗いた。
廊下を歩くレオン。
表情は――無表情。
いつもの王子様スマイルは、どこにもない。
(……なに、今の)
初めて見る顔だった。
「リリア」
「っ!?」
突然、後ろから声。
心臓が止まりかけた。
振り向くと、本人。
「……聞いてた?」
「き、聞いてません!」
半分嘘。
レオンは、じっと私を見る。
逃げ場なし。
「……さっきの」
「え?」
「嫌だった?」
意味がわからない。
「なにがですか」
「……冷たくしたの」
私は、少し考えてから答えた。
「……別に」
「引かなかった?」
なぜか、不安そう。
あのレオンが。
(……この人)
私は、ふっと笑った。
「むしろ、安心しました」
「は?」
「ちゃんと人間なんだなって」
「……どういう意味」
「誰にでも優しいわけじゃないって」
正直な気持ちだった。
レオンは、しばらく黙っていたが――
ぽつりと呟いた。
「……リリアの前では、取り繕う必要ないから」
心臓が、跳ねた。
「俺、本当は」
少しだけ、声を落とす。
「独占欲強いし、面倒くさいし、嫉妬深い」
「……知ってます」
即答。
「全部、知ってます」
レオンは、目を見開いて。
それから、小さく笑った。
「……それでも?」
「……それでもです」
自分でも驚くほど、自然に言えた。
彼は、そっと私の手を取る。
「じゃあ、もう隠さない」
「え?」
「リリアの前では」
指が絡む。
離れない。
「俺は、王子様やめる」
低い声。
真剣な目。
その視線に、胸が熱くなる。
(……ずるい)
こんなの。
好きになるなって方が無理じゃない。
私は、小さく息を吐いた。
「……ほどほどにしてください」
「無理」
即答。
「今さら」
にやっと笑う。
やっぱり、この人だ。
――王子様の裏の顔。
それは。
私だけが知る、独占欲強めの幼なじみだった。




