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幼なじみ公爵令息様の本気が、最近ちょっと怖いです  作者: ayami


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第4話 「泣き虫だった私と、王子様だった君」


 昔の私は、とても泣き虫だった。


 本当に、どうしようもないくらい。


 少し注意されただけで泣く。

 失敗したら泣く。

 ひとりになったら泣く。


 ――そんな子どもだった。


(今思うと、恥ずかしすぎる……)


 王立貴族学園の中庭を歩きながら、私はふと昔を思い出していた。


 原因は、隣を歩くこの人。


「リリア、ぼーっとしてどうしたの?」


 レオン・フォン・クラウゼル。


 私の幼なじみで、公爵家の跡取りで、学園の王子様。


 そして――私の人生の大半に、なぜかずっといる人。


「……別に」


「絶対うそ」


 即バレ。


 この人、昔から私の変化にだけ異様に敏感だ。


(余計なお世話です)


 昼休み。


 私は一人で、図書室の奥にある小さな閲覧席に座っていた。


 手元には、古い歴史書。


 ――王国建国史。


 理由は特にない。


 ただ、偶然開いたページに、懐かしい記述があった。


『貴族教育初等学院――』


 それを見た瞬間、記憶が一気に蘇る。


 ――あの頃。


 私は、初等学院に通い始めたばかりの七歳だった。


 慣れない環境。


 知らない子ばかり。


 貴族の子ども同士の、微妙な上下関係。


 ……正直、つらかった。


「リリア、遅い」


 ある日の放課後。


 教室の前で待っていたのは、小さなレオン。


 今よりずっと細くて、無表情で。


 でも、やっぱり整った顔。


 すでに“王子様の原型”があった。


「……っ」


 私は、その瞬間。


 堪えていたものが限界を迎えた。


「う、うぇぇぇん……!!」


「……え?」


 突然泣き出す私に、レオンは完全に固まった。


「な、なんで泣くんだ」


「みんなが……っ、こわくて……」


「先生に怒られて……」


「ひとりで……」


 言葉にならないまま、ぼろぼろ泣く。


 今ならわかる。


 めちゃくちゃ迷惑。


 でも。


 あの時のレオンは――


「……ばか」


 そう言いながら。


 そっと、私の頭に手を置いた。


「俺がいるだろ」


 小さな手。


 でも、とてもあたたかかった。


「……泣くな」


「俺が守る」


 ぶっきらぼうで。


 照れくさそうで。


 でも、本気の声だった。


 私は、その言葉だけで泣き止んだ。


 単純すぎる。


 それから。


 レオンは、ずっと私の隣にいた。


 意地悪な子がいれば、前に出てくれた。


 失敗して落ち込めば、無言でお菓子をくれた。


 転べば、当たり前みたいに手を引いてくれた。


 まるで――


 私専用の騎士みたいに。


(……昔から、ずるい人だったんだ)


「……リリア?」


 声に、はっとして現実に戻る。


 いつの間にか、レオンが目の前にいた。


 図書室。


 距離、近い。


「な、なんですか」


「さっきから、ずっとぼーっとしてた」


「……考え事です」


「俺のこと?」


 即聞くな。


「ち、違います!」


「へぇ?」


 信じてない顔。


 私は視線を逸らした。


「……昔のこと、思い出してただけです」


「昔?」


 レオンは少し驚いたように瞬きをした。


「……泣き虫だった頃の」


 そう言うと。


 彼は、一瞬黙って。


 くすっと笑った。


「懐かしいな」


「わ、笑わないでください!」


「だって、すぐ泣いてた」


「うるさいです!」


 私は頬を膨らませた。


 でも。


 レオンは、少し優しい声で言った。


「……あの頃から、変わったよな」


「え?」


「強くなった」


 真っ直ぐな視線。


 からかいじゃない。


 本心。


「もう、俺がいなくても平気そう」


 ……なぜか、胸が痛んだ。


「……そんなこと」


 ない。


 と言いかけて、やめた。


 言ったら、依存してるみたいだから。


 帰り道。


 夕焼けの中を歩く二人。


 ふいに、レオンが言った。


「でもさ」


「はい?」


「泣いてもいいんだぞ」


 意外な言葉。


「俺の前では」


 私は、思わず足を止めた。


「……どうして」


「昔から、そうだったろ」


 彼は、少し照れたように視線を逸らす。


「俺は……そのためにいるんだから」


 心臓が、強く跳ねた。


(……ずるい)


 昔も。


 今も。


 こんなふうに、簡単に私の心を揺らす。


 私は小さく笑った。


「……じゃあ、泣いたら責任取ってください」


「当然」


 即答。


「一生な」


 ……さらっと怖いこと言わないでほしい。


 でも。


 なぜか。


 嫌じゃなかった。


 むしろ――


 胸が、あたたかかった。


 ――泣き虫だった私と、王子様だった君。


 その関係は、いつの間にか。


 “ただの幼なじみ”では、なくなっていたのかもしれない。


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