第2話 「幼なじみ公爵令息様は、嫉妬すると怖いです」
最近、レオンの様子がおかしい。
――いや、正確には「さらに」おかしい。
「リリア、どこ行くの?」
「図書室です」
「俺も行く」
「来なくていいです」
「行く」
即決。
拒否権なし。
(なんで毎回ついてくるんですか……)
私はため息をつきながら、廊下を歩いた。
図書室。
目的は、次の試験対策用の魔法史の資料。
本棚の前で背伸びしていると――
「取ろうか?」
後ろから声。
振り向くと、銀髪の男子生徒。
アラン・フォン・ベルク。
穏やかで成績優秀、女子人気も高いクラスメイト。
「え、あ……ありがとうございます」
アランはすっと本を取って、差し出してくれた。
「はい。これだよね?」
「助かりました」
私は素直に笑った。
すると――
「……何してんの?」
低い声。
背後に、圧を感じる。
振り向くと。
そこには、無表情のレオン。
……いや、目が笑ってない。
「本取ってもらってただけですけど?」
「ふーん」
レオンは、私の肩を引き寄せた。
ぐい。
「近いです!!」
小声で抗議する。
しかし彼は離さない。
むしろ、腕を回した。
(え!? 腕!? 囲ってる!?)
アランもさすがに戸惑う。
「レオン……?」
「ありがと。もういい」
にこっ。
笑顔なのに、怖い。
アランは察したように苦笑した。
「……じゃあ、またね」
「はい、ありがとうございました!」
私は慌てて頭を下げた。
……数分後。
私は、完全に不機嫌な幼なじみに挟まれていた。
場所:中庭のベンチ。
距離:ゼロ。
「……ねえ」
「なんですか」
「さっきの、誰」
「クラスメイトです」
「親しげだった」
「普通です」
「俺より?」
「は?」
意味不明。
私は眉をひそめた。
「何を張り合ってるんですか」
「張り合ってない」
即否定。
でも目は本気。
「……俺の前で、他の男にあんな顔すんな」
「どんな顔ですか」
「嬉しそうな顔」
私は言葉を失った。
「……そんなの」
無意識だった。
でも、レオンは納得しない。
「俺の前でも、もっと笑えよ」
「……は?」
顔が熱くなる。
(な、何言って……)
その日の放課後。
私は生徒会室に呼び出された。
用事を終えて廊下に出ると――
角の向こうから、聞こえてきた声。
「レオン様って、やっぱり素敵ですよね」
「婚約とか決まってないんですか?」
女子二人。
話題は、もちろん――レオン。
「……別に、誰とも決まってないよ」
彼の声。
少し笑っている。
「へぇ……じゃあ、チャンスありますよね?」
胸が、きゅっとした。
(……何を気にしてるの、私)
そう思った瞬間。
「ない」
きっぱりした声。
「俺、好きな人いるから」
……え?
足が止まる。
「えー!誰ですか!?」
「秘密」
でも。
その視線は――廊下のこちら側。
つまり。
私のいる方向。
目が、合った。
レオンは、ふっと笑う。
まるで――
「お前だよ」
って、言っているみたいに。
帰り道。
沈黙が続く。
耐えきれなくなって、私が言った。
「……好きな人、いるんですね」
「うん」
「……誰ですか」
「秘密」
同じ答え。
でも。
歩きながら、そっと手を繋いできた。
ぎゅ。
「……離してください」
「やだ」
また即答。
「取られたくない」
小さく、そう呟く。
心臓が、うるさくなる。
(……ずるい)
こんなの、意識するなって方が無理じゃない。
私は、顔を隠すように前を向いた。
――幼なじみの本気は、もう始まっている。




