第16話 「交流制限命令」
――それは、専用席が復活してから三日後のことだった。
私は、朝から違和感を覚えていた。
(……あれ?)
教室に入ると。
なぜか。
周囲の男子が、妙に距離を取っている。
「……リリア様、おはようございます」
「……あ、はい。おはようございます?」
やけに丁寧。
しかも、すぐ離れる。
(……なにこれ……?)
席に着くと、当然のように隣にはレオン。
今日も距離ゼロ。
肘が当たってる。
「……おはようございます」
「おう」
短い返事。
でも機嫌はよさそう。
(……平和……?)
と思った、その時。
友人のミアが、小声で話しかけてきた。
「ね、ねえ……リリア……」
「はい?」
「……知らないの?」
「何をですか?」
ミアは、周囲を警戒しながら囁いた。
「……レオン様が」
「“接近禁止令”出したって……」
「……はい?」
頭が停止した。
「……せっきん……きんし……?」
「どういうことですか?」
放課後。
私は、レオンを中庭に呼び出していた。
本人は、なぜか余裕の表情。
「……何の話だ」
「接近禁止令です!」
「私に近づくなって……!」
「……ああ」
ああ、って。
ああ!?
「……出した」
さらっと言う。
「出した!?」
「何してるんですか!!」
思わず叫んだ。
「朝から、みんな避けてるんですよ!?」
「挨拶しても逃げるんですよ!?」
「……効果出てるな」
満足そう。
(満足しないでください!!)
「……なんでそんなことしたんですか!」
問い詰める。
レオンは、少しだけ視線を逸らした。
「……他の男が」
「お前に話しかけるの」
「嫌だから」
即答。
「だから」
「近づくなって言った」
……理由、シンプルすぎる。
「独占欲の塊ですか!!」
「悪いか」
「悪いです!!」
即答。
「でも……」
レオンは、少し低い声になる。
「アルトみたいなのが」
「また現れたら困る」
「……」
「お前が狙われるの」
「もう、見たくない」
その声は。
本気で、不安そうだった。
胸が、きゅっとする。
(……あ……)
(この人……本気で心配して……)
「……でも」
私は、ゆっくり言った。
「それじゃ、私……」
「友達いなくなっちゃいます」
レオンが、固まる。
「……あ」
今さら気づいた顔。
「……そこまでとは……」
「そこまでです!!」
私は、腕を組んだ。
「私、監禁されてる姫じゃありません!」
「……監禁するつもりはない」
「十分その気配あります!」
しばらく沈黙。
風が吹く。
やがて、レオンが小さく言った。
「……撤回する」
「え?」
「接近禁止令」
「解除する」
意外すぎて、目を見開く。
「……いいんですか?」
「……嫌だけど」
正直すぎる。
「でも」
私を見る。
「お前が嫌なら」
「やらない」
……ずるい。
そんな顔で言われたら。
怒れない。
「……ありがとうございます」
私は、小さく笑った。
すると。
レオンは、少し照れたように言った。
「……ただし」
「条件がある」
「条件?」
嫌な予感。
「男と話すとき」
「俺の視界内で」
「……は?」
「最低、三メートル以内」
「多すぎます!!」
結局、独占。
その頃。
校舎の影で。
アルトは、その様子を見て苦笑していた。
「……交流制限命令かぁ」
「そこまでやるとは」
でも。
目は、まだ諦めていない。
「……でもね」
「独占が強すぎると」
「壊れやすいんだよ」
意味深な言葉を残して。
彼は、静かに去っていった。
私は、レオンの隣を歩きながら思った。
(……重いし)
(束縛強いし)
(めんどくさいけど……)
そばにいると、安心する。
これが。
“好き”なんだと。
ようやく、認められるようになってきた。
――恋は、少しずつ本物になっていく。




