第14話 「噂になる二人」
――翌日。
私は、教室に入った瞬間、異変に気づいた。
(……え?)
……静かすぎる。
いつもなら、朝は騒がしいのに。
今日は――
みんな、こっち見てる。
ひそひそ。
ひそひそ。
「……リリア様だよね?」
「昨日、中庭で……」
「レオン様と……」
……え?
(な、なに!?)
嫌な予感しかしない。
席に着くと、すぐに友人のミアが身を乗り出してきた。
「ねえ、リリア……」
「昨日のこと、何したの?」
「え?」
「中庭で、レオン様と二人きりで話してたでしょ!」
「しかも手、繋いでたって!」
「えええ!?」
思わず声が裏返る。
「な、なんで知ってるんですか!?」
「見られてたんだよ!」
「生徒会の子たちに!」
「もう学園中に広まってる!」
……終わった。
(完全に終わりました……)
その瞬間。
「おはよう、リリア」
低い声。
背後。
――レオン。
相変わらず近い。
近すぎる。
「……おはようございます」
小さく答えると。
――ざわっ。
教室が揺れた。
「今の距離なに!?」
「近くない!?」
「もう恋人じゃん!」
(やめてください!!)
私は顔を伏せる。
すると。
レオンが、当然のように言った。
「……何か問題あるか?」
問題しかありません。
そこへ。
「おはよう、二人とも」
爽やかボイス。
アルト登場。
彼は、空気を一瞬で察した。
「……ああ」
「噂、もう広まってるんだ」
「噂?」
私が聞き返すと。
アルトは、苦笑して言った。
「“中庭で密会してた公爵カップル”」
「“婚約間近”」
「“もう公認恋人”とか」
……待ってください。
盛られすぎです。
「そ、そんな……!」
「誰がそんな……!」
「……事実だろ」
レオン、即答。
「え!?」
「手繋いでた」
「二人きりだった」
「俺が好き」
「十分だ」
(論理が雑すぎます!!)
アルトは吹き出した。
「はは……」
「独占欲、隠す気ないね」
「隠す必要ない」
堂々。
強すぎる。
昼休み。
私は、逃げるように中庭へ向かった。
「……もう無理……」
ベンチに座って、頭を抱える。
「目立ちたくないのに……」
すると。
「逃げてきた?」
聞き慣れた声。
アルト。
「……はい……」
「噂、すごいよね」
隣に座る。
距離は、ちゃんと保ってくれる。
優しい。
「……困ってる?」
「もちろんです……」
「静かに過ごしたいだけなのに……」
アルトは、少し考えてから言った。
「じゃあさ」
「今日は、僕と一緒にいよう」
「え?」
「レオンのそばにいると、余計目立つ」
「僕となら、“友達”で済む」
……たしかに。
(それ、合理的かも……)
私は、少し迷って。
「……お願いします」
と答えた。
その直後。
「……何してる」
冷たい声。
振り向くと。
――レオン。
完全に不機嫌。
「えっと……その……」
説明しようとする前に。
アルトが言った。
「リリアさん、噂で疲れてるから」
「僕が付き合ってるだけ」
「問題ある?」
レオンの目が、細くなる。
「……ある」
「俺のだ」
即。
「またそれ……」
アルトは呆れたように笑う。
「ねえ、リリアさん」
「今の状況」
「誰といるかで、噂決まるよ?」
「……」
私は、はっとした。
たしかに。
レオンのそば=恋人確定。
アルトのそば=まだ迷ってる感。
(……私……)
考えた末。
私は、小さく言った。
「……今日は」
「アルトさんと……います」
――沈黙。
レオンの表情が、固まった。
「……は?」
「ご、ごめんなさい!」
「嫌とかじゃなくて……!」
「噂、落ち着かせたくて……!」
必死。
レオンは、しばらく黙っていた。
そして。
「……わかった」
低く言った。
「好きにしろ」
そう言って、背を向ける。
……明らかに傷ついてる。
(あ……)
胸が、痛んだ。
その背中を見ながら。
私は思った。
(噂を避けたかっただけなのに……)
(……なんでこんなに、苦しいの……)
アルトは、静かに言った。
「……リリアさん」
「君、もう」
「自分の気持ち、決まってきてるよ」
「え?」
私は、答えられなかった。
でも。
胸の奥に浮かんだのは。
傷ついたレオンの横顔だった。
――噂よりも。
本当は。
もっと、大切なものがあるのに




