第11話 「不機嫌な帰り道」
――その日の放課後。
私は、生徒会室を出たところで、ため息をついた。
(……今日も疲れました……)
三角関係宣言から一日。
教室の空気は、常にピリピリ。
アルトは相変わらず爽やかに話しかけてくるし。
レオンは――
無言。
不機嫌。
終始、機嫌が悪い。
(子どもですか……)
「……帰るぞ」
低い声。
振り向くと、レオンが立っていた。
「あ、はい」
自然に、隣に並ぶ。
……が。
沈黙。
ずっと。
無言。
足音だけが響く帰り道。
(気まずい……!)
五分。
十分。
耐えられなくなった。
「……あの」
「何」
即答。
でも声が硬い。
「さっきから、黙りすぎじゃないですか?」
「……別に」
「別に、じゃないです」
少しむっとして言う。
「怒ってるんですか?」
レオンは、足を止めた。
そして、私を見る。
「……怒ってない」
「嘘です」
「……」
沈黙。
数秒後。
「……妬いてるだけだ」
ぼそ。
「え?」
「アルトに」
……ストレートすぎる。
心臓が跳ねた。
「……あんなやつに」
「狙われて」
「平気なわけないだろ」
視線を逸らす。
耳、赤い。
(ずるい……)
こんなの。
反則です。
「……私は」
思わず、口が動いた。
「アルトさんと、特別な関係じゃないですよ?」
「……知ってる」
「じゃあ……」
「それでも嫌なんだよ」
レオンは、私を見つめる。
「お前が、他の男に笑うの」
「全部」
「俺だけのものにしたい」
……重い。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
嬉しい。
自分に気づいて、私は慌てた。
(ちょ、ちょっと待って!?)
その時。
人気のない廊下の角で。
私は、足を滑らせた。
「わっ――!」
体がよろける。
次の瞬間。
ぐいっ。
腕を掴まれて、引き寄せられた。
どん。
背中が、壁に当たる。
目の前。
レオン。
距離。
ゼロ。
(――え!?)
これ。
壁ドン……!?
未遂どころか。
ほぼ完成している。
心臓、爆音。
「……大丈夫か」
低い声。
近い。
近すぎる。
「は、はい……」
声が震える。
レオンは、私の顔をじっと見る。
真剣な目。
逃げ場なし。
「……なあ」
「はい……?」
「俺さ」
少しだけ、躊躇ってから。
「……お前が好きだ」
――静かに。
でも。
はっきりと。
言った。
「……ずっと前から」
「からかってたのも」
「構ってたのも」
「全部」
「好きだったから」
頭が真っ白。
(え……告白……?)
微嫉妬告白どころじゃない。
本気すぎる。
「……でも」
レオンは、少し苦しそうに笑う。
「嫌なら、無理にとは言わない」
「……」
「ただ」
「俺以外を見るな」
「それだけでいい」
……それだけ?
重すぎます。
でも。
胸が、熱い。
「……ずるいです」
私は、小さく言った。
「こんなの……」
「断れないじゃないですか」
「……じゃあ」
レオンの目が、揺れる。
「……嫌か?」
不安そう。
珍しい。
私は、ぎゅっと制服の裾を握った。
「……嫌じゃないです」
小さく。
でも、はっきり。
そう言った。
一瞬。
レオンは、固まった。
次の瞬間。
ぱっと、顔が赤くなる。
「……本当か?」
「う、嘘つきません……」
すると。
ふっと、安心したように微笑んだ。
「……よかった」
そして、私の頭に手を置く。
ぽん。
優しく。
「……もう」
「逃がさないからな」
(重い!!)
でも。
嫌じゃない。
むしろ――
嬉しい。
自分の気持ちを、私はもう否定できなかった。
その帰り道。
私たちは、手を繋いで歩いた。
無言だけど。
さっきとは違う沈黙。
温かい。
安心する。
……が。
遠くから。
「……あれ?」
「手、繋いでない?」
アルトの声がした気がした。
(……聞かなかったことにしましょう)
――こうして。
三角関係は、ますます激化していくのだった。




