第10話 「王子様、無言で割り込む」
――翌日。
私は、朝から落ち着かなかった。
(昨日のあれ……なんだったんですか……)
「俺のだから」
思い出すだけで、顔が熱くなる。
(ああああもう!!)
机に突っ伏したい気分だった。
「おはよう、リリアさん」
そんな私に、爽やかな声。
顔を上げると――アルト。
「お、おはようございます……」
周囲、ざわ。
「もう普通に話してる……」
「距離近くない……?」
ひそひそ。
……視線が痛い。
そして。
もっと痛い視線が――。
斜め後ろ。
レオン。
無言。
腕組み。
完全監視体制。
(見すぎです……)
「ねえ、リリアさん」
アルトが、少し身を乗り出す。
「今日の放課後、時間ある?」
「え?」
瞬間。
――空気が凍った。
レオンの気配が、変わった。
(や、やば……)
「図書委員の仕事、一緒にやろうかなって」
「まだ慣れてなくてさ」
「あ……そうなんですね」
それなら、まあ……
「……いいですよ」
そう答えた瞬間。
――すっ。
横から、腕が伸びた。
私の肩に、ぽん。
「無理」
低い声。
「え?」
「今日は俺と用事ある」
即答。
「え!? そんな約束――」
「ある」
「ありません!」
即否定。
アルトは、きょとん。
「え、どっち……?」
「ある」
「ないです!」
二人で言い合う。
教室、ざわざわ。
「始まった……」
「修羅場……?」
レオンは、私の肩に手を置いたまま、離さない。
「放課後」
「生徒会の資料整理」
「手伝わせる」
「勝手に決めないでください!」
「決定事項」
どこの独裁者ですか。
アルトは、少し困ったように笑った。
「そっか……残念」
「じゃあ、また今度だね」
にこ。
余裕。
……くやしいくらい爽やか。
レオンは、チッと小さく舌打ちした。
(今、舌打ちしましたよね!?)
放課後。
私は、半ば強制的に生徒会室へ連行された。
「……資料整理って、これですか?」
机いっぱいの書類。
「そう」
「一人でできません?」
「できる」
「じゃあ――」
「でも一緒にやるのは決定事項だから」
「理不尽!」
私は、渋々座る。
レオンは、隣。
……近い。
近すぎる。
肩が当たる。
「……ちょっと離れてください」
「無理」
「またですか!」
即答すぎる。
しばらく、無言で作業。
沈黙。
重い。
耐えられず、私は聞いた。
「……今日、なんであんなに割り込んだんですか」
「何が」
「アルトさんの誘いです」
レオンの手が、止まった。
「……」
沈黙。
数秒。
「……嫌だった」
ぼそ。
「え?」
「お前が、他の男と笑うの」
心臓が跳ねた。
「……それだけ」
顔は見ない。
耳が、少し赤い。
(……ずるい)
そんな顔されたら。
何も言えないじゃないですか。
その時。
がちゃ。
扉が開いた。
「失礼しま――」
アルト。
「……あ」
固まる。
私とレオン。
並んで座って。
距離、ゼロ。
完全に恋人配置。
(誤解されるやつ!!)
「資料、ここに置いておくね」
アルトは、にこっと笑った。
でも。
その視線は、しっかりレオンに向いていた。
「仲いいんだね」
「……別に」
レオン、即答。
でも。
私の肩に置いた手は、離さない。
アルトは、それを見て、少し目を細めた。
「……なるほど」
「やっぱり、独占欲すごい」
「悪いか」
「ううん」
アルトは、穏やかに言った。
「正々堂々、いくよ」
「……は?」
「僕、リリアさんのこと」
私を見る。
まっすぐ。
「本気で好きになりそうだから」
――沈黙。
「……ええええ!?」
声、裏返った。
レオンの空気が、一気に冷える。
「……ふざけるな」
「本気だけど?」
二人、睨み合う。
火花。
(や、やめてください……!)
私は、頭を抱えた。
(完全に三角関係じゃないですか!!)
その夜。
寮の部屋で、私はベッドに倒れ込んだ。
「……どうしてこうなったの」
最初は、からかわれてただけなのに。
いつの間にか。
独占欲爆発して。
ライバル現れて。
告白未遂されて。
(ラブコメすぎます……)
でも。
脳裏に浮かぶのは。
「嫌だった」
そう言った、レオンの顔。
胸が、きゅっとなる。
「……私も」
小さく呟く。
「……嫌だったし」
自覚。
してしまった。
――もう、後戻りできない。




