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ユーインの過去(Side.ユーイン)

読んでいただきありがとうございます。

※ユーイン視点です。

僕、ユーイン・オールディスがアイリスと出会ったのは王立学園に在籍中のことだった。


「自分の立場を弁えろよな! 平民風情が!」

「ぐあっ!!」


学園の校舎裏にて、同じ魔術師科の男子生徒三人に囲まれた僕は、その内の一人に脇腹を蹴られうめき声を上げて倒れる。


「デブは豚みたいに鳴くんだな!」


そして、そんな僕を見て三人はゲラゲラと笑う。


僕がこんな目に遭っているのは、孤児出身でありながら彼ら三人よりも実技テストで好成績を叩き出したから。


この王立学園に通っているのは貴族の子息子女がほとんどで、平民でも商家の子供など一部の社会的地位が高い家の者ばかり。

それなのに僕がこの学園に通っているのは、魔術師としての才能が認められオールディス侯爵家の養子になったからだった。


と言っても、僕にオールディス侯爵家の継承権はない。


オールディス侯爵家は優秀な『支援者』として名を馳せる家門で、身分に関係なく資質のある者を引き取り、才能を伸ばすための教育を施す。

つまりはパトロン。


ただし、与えられた教育に見合う成果を出せなければ平民に逆戻り。

それゆえに「希望を与えておいて最後は切り捨てるのか?」と、逆に冷酷だと批判する者もいるらしい。


まあ、僕に言わせるとオールディス侯爵家の人々は冷酷ではなく脳筋なだけなのだが……。

そんな事情もあって、特に下位貴族の子息たちから僕は嫉妬されているのだ。


(クソっ!)


痛む左脇腹を押さえながら心の内で悪態をつく。


(こいつら……覚えてろよ!)


学園に入学してから今日までの数年間、これまでされた嫌がらせも悪口も、それがどこの誰の仕業であるのかも全て正確にノートに記録してある。


(僕が出世したらノートに記した奴ら全員に目にもの見せてやるからな!)


そう。今は見逃してやっているだけなんだ。


そんなことを考えながら僕は次の蹴りに備えて太った身体を丸めて防御の姿勢を取る。

その時だった。


「寄ってたかって暴力を振るうなんて卑怯じゃないか?」


そんな声とともに誰かが割り込んできたのだ。


「なんだお前!?」

「どうして彼に暴力を振るう?」

「だから何なんだよ。お前に関係ないだろ!」

「関係はないが、だからといって見過ごすわけにはいかない!」


防御を解いた僕はそろりと顔を上げる。


(騎士科の……女の子?)


騎士科の実技服を身に着け、男かと見間違うくらいに短い髪の女子生徒が一人で男子生徒たち三人に啖呵を切っていた。


結局、僕を虐めていた男子生徒たちは大ごとになるのを恐れたのか、舌打ちとともに去っていく。


「大丈夫かい?」 


そして、地面に転がる僕に彼女は手を差し伸べてきた。


(あ……)


途端に、僕は猛烈な羞恥の感情に襲われる。


虐められる僕を見られてしまった。

弱い僕を知られてしまった。助けられてしまった。

違う。いずれ僕はあいつらを見返すつもりで……。


そんな言い訳めいた感情に揺さぶられ、彼女の善意を真っ直ぐに受け止めることができなかったのだ。


「よ、余計なことをするなよ!」


そう言って、僕は彼女の手を払い()け、自分一人で立ち上がる。

しかし、脇腹の痛みに身体がよろめいてしまい、彼女が咄嗟に支えてくれた。


「大丈夫か?」

「もちろんだ! それに僕はやり返すつもりだったんだ! あんな奴ら僕一人で十分だった!」 


思わず強い口調で怒鳴りつけてしまう。


「そうか。余計な真似をしてしまってすまない」

「あ……」

「考えなしに突っ走り過ぎだってよく叱られるんだ」


目に見えて彼女がしゅんとした表情になる。


「違うんだ。その、女の子に助けられたのが恥ずかしくって……」


うっかり本音が出ると、彼女は驚いたように目を見開き……そして豪快に笑った。


「はははっ、そんなことなら気にしなくていい。騎士科の連中なんて私を男扱いしているぞ。それに男に間違われることも日常茶飯事だ」


たしかに騎士科の実技服はスカートじゃないし、彼女の髪はかなり短い。

だからといって男だなんて到底思えない。


「どこをどう見ても女の子なのに?」

「え……?」


僕の問いかけに、彼女は不思議そうな表情になり……やがて顔を真っ赤にした。


(ほら、やっぱり……)


どう見たって可愛い女の子じゃないか。


だが、照れる彼女を前に何と言えばいいのかわからず、互いに黙ってしまう。

そして、下校を促す鐘が鳴り、僕たちは「じゃあ」とぎこちなく別れたのだった。


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