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Modderがぶっ壊れベータ版ゲームへ異世界転生した件 ~謎技術無双編~  作者: 苺味初芽


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19/21

光から生生まれる影

「わたくしも舞踏会に行きたいです・・・・・・」


いつも朗らかなアリシアが少し寂しそうな表情を見せる。彼女はストレイチアの髪を編み込んでいるところであった。


ここはステラー公国にある、グリーンウッド商会の屋敷であった。


アニマ・ディヴィナ教のファビアン・モレッリは知らないであろうが、ファストトラベルのシステムを利用してテレポートが出来るのは何も彼だけでは無い。一人二人くらいであれば、馬車無しでも運べる。


「まあ、舞踏会は今後山ほど出席しないといけないからな。父上の件が片付いたら好きなだけ行けるぞ」


今回はストレイチアの出番だ。代わりにヴェラーテがアリシアの護衛につく。首都にいるはずのアリシアを見つけられないとは思うが、警戒を解く理由にはならない。


ヴェラーテが軍服のままアリシアに芝居がかって声をかける。


「ではお嬢様、お手を」


「まあ、すてき」


アリシアは楽しそうに差し出された手に自分の手を乗せた。ヴェラーテが彼女を部屋の中心にエスコートしてダンスをリードする。


ストレリチアはこれから参加する舞踏会のためにあつらえたボールガウンを身に着けていた。準備を終えたようで立ち上がると、ハイデンに向かってどうだと言わんばかりに裾をつかんで見せた。


「でかした、ストレイチア! これなら夜会の話題はお前一色になるぞ!」


ストレイチアはハイデンのストレートな言葉に少し照れてながらも、最大限に冷たい目を取り繕って言った。


「ところでハイデン・グリーンウッド」


学校の先生がフルネームで生徒を呼ぶときの良くない響きを纏わせていた。


「以前もらったドレスのデザインだが、原典があったようだな?」


ハイデンの中には、まさか、ではなくやはり、という感情が巡っていた。


以前ストレイチアにプレゼントしたドレスらが、ランピヨン商会の副商会長であった愛すべきギデオン・ケイド氏のデザインを剽窃したものであったのだが、そのハイデンの記憶をアリシアの夢から持ち帰ったらしい。


連合の首都、ネクサス・リベルタスに残った面子はアリシアの夢に参加できていなかったが、ここ数日一緒に過ごしたストレイチアは、より多くの情報をあの空間から持ち帰れたのだろう。


「あ~、それは近々埋め合わせをするとしよう」


ストレリチアが細めていた目の冷たい視線に笑みを混ぜて来る。


「いや、御身には貸しを一つ、ということにしておこう。その方があとあと都合が良さそうだ」


「お手柔らかに」


そういったハイデンの横に立つと彼女はその小さな肩をぶつけて来る。機嫌はそう悪くないようで何よりだ。


「お姉さま」


出立が近いと知ってアリシアがヴェラーテの腕からすり抜けてストレリチアに駆け寄る。仲の良い姉妹のような抱擁が交わされる。


「行ってくるわ」


「楽しんで来て下さいね!」


少しアリシアの口癖が移り、大仰な言い回しが少しだけ影を潜めているようだった


「アリシアを頼むぞ」


ハイデンがヴェラーテに言うと、彼女は芝居がかってはいるものの、やけに絵になる敬礼を返してきた。



「ハイデン・グリーンウッド卿、並びに、ストレリチア・レギナエ嬢、ご来場!」


来場のアナウンスの声が響き渡ると会場の喧騒がざわめきへと変わった。レギナエという姓は少なくとも連合の地域には存在せず、子供の寝物語にでしか聞かないものだったからだ。


新進気鋭の若い商人に連れられた、物語に出てくる名を冠した彼女は、まるで絵物語からそのまま抜け出したような赤い髪に深い緑色の瞳をした少女だった。


その目には森の動物が時折見せるような、何か人の知を超越した神秘の光を映しているように見える。


ハイデンという男が連れた、空想上の少女が相手に乞うようなしぐさを見せてワインが注がれたグラスをトレンチを持つ給仕に近づくとそれを手に取り一息で飲み干した。


「御機嫌よう、グリーンウッド閣下。連合で首席法務官を務める、ウェイド・クライン侯爵だが、不思議な名前のお嬢さんをお連れだね」


ハイデンは今日の獲物が目論見通りかかったことに内心ほくそ笑んだ。


「これは、グライン卿。お声がけ頂き光栄です。弁護士をしております友人のジョナサン・ハートからご高名を何度となく耳にしております」


「ハート氏か、行方不明らしいが、気の毒にな」


「はい、目下方々に手を尽くし、鋭意捜索中です。しかし夜会での話題としてはいささか不向き化もしれません。それより今夜の私の連れに何か聞きたいことが?」


「ああ、君がエスコートしてきた女性にちょっかいを出すつもりはないのだが、お名前がとても特徴的だったのでね」


ストレリチアがドレスの裾を持って優雅にお辞儀をして見せる。


「ご紹介にあずかりました、ストレリチア・レギナエと申します」


ハイデンとクラインが彼女を抜きで話していたことを少し皮肉った挨拶にクライン卿は孫を見るような笑みを浮かべて言った。


「これは失礼、ストレイチア嬢。今夜は素晴らしい出で立ちで、美しさが夜の闇の中ですら輝くように映えますな」


「お上手ですね」


ストレイチアが差し出した手をクライン卿がうやうやしく口づける。


「まさにそのお名前についてですが、我が家の曽祖父の代からある寝物語の本に、まったく同じ名前の錬金術師が出て来るのですが、その血筋の方ですかな?」


ストレイチアが齢を重ねたことを伺わせる食えない笑みを浮かべると言った。


「当の本人ですわ」


クライン家は素人ではあるものの、錬金術に明るいとして知られる家系だった。そのなかでもウェイド・クラインは造詣が深いことが知れ渡っていた。クラインが笑って言う。


「まさに物語からそのまま抜け出て来たようですな。ハイデン閣下のお連れでなければ、息子と引き合わせたい所です。ところで、金の生成はされておられますかな?」


ストレイチアが可愛らしく眉を上げいう。


「通貨品位維持法がございますのはマグナ・オリア国家連合でございましょう。投獄されるのはあまり楽しいこととは思えません」


二人の話が錬金術に移り始めたその時、白いローブの聖職者という職業ながら、陰鬱な黒い影のような人物が滲む染みのようにハイデンを観察するように見ているのを彼は自覚した。


神聖アニマ・ディヴィナ教の司祭、ファビアン・モレッリであった。


「これは、これは、大使閣下。今宵は御機嫌よう」


二つ目の獲物が一晩でかかったことをハイデンは内心ガッツポーズをした。


「皮肉ですかね、司教閣下」


ハイデンは無礼になる寸前のトーンを探りながら相手に言葉をぶつけた。


モレッリはそのハイデンの反応に心外だという体で口をひらいたが、その演技の下手さが自身の不利に働くとは思っていなかったであろう。


当然モレッリとしては行方不明になったアリシア・ハートの所在の痕跡を辿るべく、ハイデンの前にも姿をあらわせねばならなかったが、このところハイデンは意図して夜会や舞踏会にしか顔を出してこなかったのだ。


「それは誤解だ、グリーンウッド閣下。アリシア嬢の無事は、我らが総大司教も望んでいること、貴殿の心痛には共感こそすれ、含むところなどない」


少し離れて声をかけてきていたモッレリにハイデンは三歩近づいた。あと少しで胸と胸が触れそうな距離だ。


「司教閣下がアリシアへの興味を私に伝えに来た次の日に彼女が消える。その後舞踏会で出会って話題に出してくるとは、偶然とは奇妙なものですな?」


完全な皮肉だが、モッレリはその言葉をいなそうと、半歩ほど下がって剥がれ掛けそうになった社交上の表情を取り繕って言う。


「まさに偶然とは・・・・・・」


ハイデンは彼にすべて言い終える時間を与えなかった。かれは脱いであった手袋を結構な音がする勢いでモッレリの顔に往復で叩きつけたあと床に投げ捨てた。


「黙れ! それ以上アリシアの事をその汚い口で語るな! 屋敷には賊が忍び込んでいた! これは首都の当局にも伝えたある・・・・・・」


モッレリの顔には屈辱の浅からぬ色が浮かび始めていた。かれが取り繕う言葉を考えている間に、ハイデンは被せるように言った。


「決闘だって言ってるんだよ、このボンクラ! アリシアを返せ! もしアリシアの貞操にでも何かあってみろ、貴様を地獄まで追い詰めてやる!」


モッレリの顔には屈辱に怒りと藪蛇への後悔がないまぜになって映し出されていた。井戸に石を投げ入れるつもりが、自分毎落ちてしまったのだった。


「わ、私だだのごく一般的な司祭で、はアリシア嬢の所在など・・・・・・」


「一般的な司祭がたった一人でやってきて脅しみたいなことをいうか! ジョナサン・ハート氏も返してもらおうか!」


言い訳の言葉がほんの一瞬喉に詰まる。アリシアの所在はしらねども、ジョナサン・ハートは彼の手の者が雄平していたからだ。ハイデンはこの舌戦テクを正論グーパン作戦と名付けていた。


その時、ハイデンの後ろから壮年の男が進み出た。ハイデンの肩に触れ彼をたしなめる声で言う。


「君の気持は分かるが、立場を考えて落ち着きたまえ」


周囲のやじ馬にも向けて宣言をするように声を響かせる。


「私は首席法務官を務める、ウェイド・クライン侯爵だ。この場は私が預かる。モッレリ司教、グリーンウッド大使共に自ら決闘を行う訳にはいかん立場だ。これにより、双方代司法決闘に則り理を立て、一週間以内にこれを行うものとする」


もちろんこれは公式な決定ではない。クライン卿もこの場を収める方便として口にした側面もあるが、種との司法のトップであるかれが口にした今、公式なルートを通しても時期がズレるだけのことだった。


ファビアン・モレッリは内心を偽ることをやめ、呪いのような暗く毒を含んだ視線でハイデンをねめつけていた。







ギリギリ間に合った・・・・・・。(間に合ってない)

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