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Modderがぶっ壊れベータ版ゲームへ異世界転生した件 ~謎技術無双編~  作者: 苺味初芽


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メイド・クイーン ヴェラーテ爆誕

メイドの朝は早い。起床して彼女、ヴェラーテはその長身に深緑色のメイド服を身にまとうと、腰まである黒髪を後ろで結び、念入りな洗顔と歯磨きのあとメイクをして身だしなみを整える。


最後にピンヒールの長い編み上げのブーツを履くと、おもむろに玄関へ向かう。


彼女の一日の最初の業務は屋敷を囲んだロートアイアンの塀の外を回り、倒れこんだ賊を全裸に向いたあと尻に木の枝を差し込んで、近くの川に投げ込むことから始まる。


朝のルーティンが終わり、屋敷に戻って朝食の席に着くと主人のハイデンが声をかけて来た。ここは使用人も一緒に食指を取るという変わった風習だ。


「今日は午前中は一緒に来てくれ。商談なんだが女性がいた方が場が和むからな」


ヴェラーテの目が若草色のドレスを身に着けた赤い髪の少女をチラリと見る。少女は小さな口を忙しく動かし、こちらに注意を向ける余裕が無いようだ。


「ああ、ストレイチアはオートクレーブにご執心なんだ。少なくとも今日は張り付いてるだろう」


何かに急かされているリスのように一生懸命口を動かす少女に目を向けて答えた。


「わかった」



取引先の商談での相手は、小柄で生真面目そうな男だ。


「はぁ、そのようなポンプですか」


男がハイデンの後ろに澄まして立つメイド服のヴェラーテをチラチラと見ていた。


この男はヒューゴ・ペッファーというらしい。フィンチ商会の筆頭書記とかで、役職付きが、ヴェラーテはこの男を今一つ信用できないタイプと見ていた。


「残念ですが、それほどのスペックを満たすものは当商会では取扱がこざいません」


こいつ嘘をついている。ヴェラーテは相手を殺す際の圧を小男にかける。


「ヒッ、」


目が合っただけでビビる男に向けてわずかに上体をゆらし、一瞬攻撃のフェイントを仕掛ける。


「ヒィー!!」


ハイデンが背中越しに後ろを振り返り、ヴェラーテに一瞬顔を向けてからその小男に言った。


「どうしましたか? うちのメイドに何か?」


小男がハンカチを出して額を拭う。


「い、いえ。とにかく、そのようなものはございませんのでお引き取りを」


ヴェラーテがもう一度同じムーブをかまそうとすると、その寸前でハイデンが彼女を遮るように立ち上がった。


「そうですか、こちらのの商会なら手に入ると考えたのですが、他を当たってみます」


そういってハイデンはあっさりと引き上げた。



「あれは気にしなくて良い。これで勝手に他所から仕入れて良いという言質をもらったからな」


主人はすました顔で馬車の席で脚を組んで言った。脅し役で連れて来られたと思っていたが、どうも違ったようだ。あの男はヴェラーテの好かないタイプだったので、後悔はなかったが。


屋敷に着き、玄関を通ると老軍人の妻、ギーゼラが声をかけてきた。


「ドレスメーカーの方がことづてを残していかれました」


メモを二枚渡される。一つはドレスが出来たのでフィッティングに来るようにとのそれで、もう一つは食品の買い物のためのリストだった。


「エコー! お菓子買ってやるから買い物行こうぜ!」


ヴェラーテの声が響くと、エコーが嬉しそうに階段を降りて来た。


「ぼく、チョコレート!」


「あいつらスカしてやがるからなー、まあ、用が終わったら行ってみるか!」



ヴェラーテは満足そうに広げられたドレスを見ていた。ドレスメーカーのお針子たちが集まっていた。皆の視線の先には黒い革で作られたメイド服と白い革で作られた揃いのエプロン、どちらもテラテラと濡れたように表面が光っていた。


「さっそく、着付けてもらおうか」


フィッターの女性たちが周囲に輪を成している。全て革のドレスのフィッティングなど前代未聞だからだろうか。


周りが忙しく立ち回る。ドレスを潜るように体を通し、背中のレースが締められるとヴェラーテのほっそりとした体の線に胸とヒップが協調される。同じくテラテラとしたエプロンを身に着けると、体を締め付けるシルエットが彼女の肉体美を誇示していた。


脚には同じ革素材の新しいピンヒールブーツと手には肘までの手袋、全てを身に着けると彼女の怪しい魅力に一部のフィッターの女性が口元を押さえたり、頬を赤らめたりしていた。


「うむ、ピッタリだ。じゃあ、エコー、買い物行こうか」


そのまま歩き出してフィッティングルームを出る。ドレスメーカーの出入り口で、店のマダムが声をかけて来る。


「ハイデン様によろしくお伝えしてね!」


妙にウキウキした様子でヴェラーテの肩を叩く。どうもこの女主人はヴェラーテをメイドではなく、特殊な性癖の主人にメイド服を着せられた側妻だと思われているようだった。



青果店で買い物していた時は、ヴェラーテに触れてはいけないような空気が流れていた。食肉店ではそこの主審がニヤニヤと顔を赤くしてひどくテレていて、なぜかソーセージをオマケで沢山渡された。


ヴェラーテとエコーは、買ったものをグリーンウッド商会の馬車にあずけるとチョコレート・ハウスのドアを蹴りあけた。


可愛らしい名前とうらはらに、チョコレート・ハウスとは一般に、政治家、文学者、裕福な商人といった、社会的地位のある男性のためのクラブのようになっていた。


轟音と共に外開きのドアが内側に開き、テラテラとした革で出来たメイドドレスの長身の女が歩み入る。その横にに小さな少年が手を繋がれて続く。


喧騒に包まれていた店内が何事かというように静まり返る。


レザーの手袋を纏った拳がカウンターに叩きつけられ、女が命令としか聞こえない声で言う。


「ショコラーデを二杯」


カウンターの男が口を開こうとした時、今朝耳にした男の声が聞こえた。ハイデンを追い返したヒューゴ・ペッファーであった。


「ここは紳士のための場です、メイドごときが来て良い場所ではありませんぞ」


ヴェラーテが振り返る。頭一つほど彼女の方が背が高い。ヴェラーテが一歩踏み出すと、男の顔がヴェラーテの胸先に来る。


「紳士? 紳士協定を守ってお前の所に来た商人を、ウソをついて追い返すような下種が紳士? お前には売らないくらい言う方がよっぽど紳士だと思うが? ああぁ?」


ヒューゴは口を開きかけて一度閉じるとはた目にも血が上ったと分かる顔色で大声を出した。


「女人禁制の場所だ! 出て行きたまえ!」


ヴェラーテが薄笑いを浮かべて誘惑するような声色で言った。


「男なんだろ? 力づくでやってみろよぉ」


その言葉に場が大騒ぎになった。


「ヒューゴ! やっちまえよ!」


「俺は女に賭けるぞ!!」


そこはやじと鋭い口笛が響き渡り、観客の怒号が飛び交うリングのようになっていた。


ヒューゴがブルブルと紅潮した顔を振るわせて、意味をなさない声と共に拳を振り上げた。


その拳は振り下ろされることが無く、はた目からはヴェラーテの腕が一瞬ブレたように見えた瞬間彼は顎が斜め上に跳ね上がり、白目を向いて後ろに倒れた。


喧騒が再び落としたピンの音が聞こえるほど静まる。テラテラと濡れたような黒と白のメイド服を着た女が周囲をグルリと見回すと言った。


「かかってこいや! このクソ共!!」


大声をあげて身なりの良い髭の男が飛び交勝てって来た。すかさず数人が席から立ち上がりヴェラーテの方へ駆け出す。カウンターの後ろの男がエコーの両脇に手を入れて持ち上げると、カウンターの内側に避難させた。


「言ったなこのアマァ!!」


「鼻っ柱へし折ってやらぁ!」


ヴェラーテは進み出た男の肩に飛び上がり、その後ろにあった頭を蹴り飛ばすしてその後ろのテーブルに着地する。


「のろま共がよぉ!! ぼさっと立ってないで全員いっぺんにかかってこいやぁ!!」


その場が剣呑よりも妙な盛り上がりを見せて、男たちが戦いの声を上げる。店主が見とがめられないように裏口から警邏の人間を探すために出て行った。



地区警邏の男たちがチョコレート・ハウスの話を聞いた時、ただの厄介ごとではないという嫌な予感に苛まれていた。都市の名士や裕福層が出入りする施設への立ち入りは、彼らにとってトラブルという以外評価のしようがなかったからだ。


ドアを開ける。


そこには身なりの良い紳士たちが顔を青く赤く腫らし、水をつけたハンカチで恐る恐る触れたり傷口を押さえたりしていた。


「これは警邏ご苦労」


声をかけるまえに入口近くの比較的怪我のすくなそうな男が遮るように前に立ってきた。


「問題が起きたと呼ばれたのですが・・・・・・」


一応義務の上から声をかける。


「すこし議論が白熱してな。なにも問題はない。帰ってもらって結構だ」


「しかしですね」


そう言いかけると、また後ろからオーダーメイドの高価な服を身に着けた、葉巻を加えた男が出て来た。


「議員のフレッチャーだ。ここにはべつになにもない。引きたまえ」


「議員閣下!?」


とうとう彼らが及び腰になった時、もう一人つらそうな顔をした恰幅の良い男が頭を押さえながら前に歩み出て言った。


「お前達、早く持ち場に戻れ」


「コンスタブル殿!」


彼らの嫌な予感はこれ以上ないくらい的中していた。警邏組織のトップの男が、彼らの方を面白くもないという不機嫌な顔で見ていたからだ。


「はっ、ご苦労様です! 持ち場に戻らせていただきます!」


彼らはそういうとお互いにぶつかり合いながらそそくさとその場を去っていった。


この事件は後に『ジェントルマンズ・デュエルマッチ』という名で都市伝説として語り継がれていった。色々な噂が交差し、中には女人禁制のチョコレート・ハウスに革で出来たメイド服の女が小柄な男を椅子にして座りながら折れた椅子の足で男の尻を叩きづづけていた、という信じがたいものまであった。



***



「元いた場所に捨てて来なさい! うちでは飼ってあげられません!」


ハイデンアがにべもなく言う。ヴェラーテがあのフィンチ商会の小柄な筆頭書記、ヒューゴ・ペッファーの上に座っていた。


「えー、絶対自分で面倒見るから~」


キチンとした身なりのヒューゴが四つん這いになって背中に座られた様子は、少し嬉しそうにすら見えた。


「ダメ! エコーの教育に悪いでしょう!」


「ほら、アンタからも頼みなさいよ!」


ヴェラーテが言うと、ヒューゴが喜色を含んだ声の調子で声を出す。


「オネガイシマス! オネガイシマス!」


「ダメ! 捨てて来なさい!」


何事かと集まった中にエコーを見かけると、ハイデンは自分の後ろに庇うようにして彼の視線を遮った。


「え~・・・・・・」


ヴェラーテはひとしきりグズグズして見せたが、ハイデンに折れる気が無いのを知ると、ヒューゴを門の外まで連れて別れの言葉を言った。


「じゃあな。いい主人に拾ってもらえよ」


ヒューゴ・ペッファーはひどく肩をおとして、何度も振り返りながら夕焼けの中をゆっくりと去っていった。


後にグリーンウッド商会の屋敷に、最新のポンプが届いたことはフィンチ商会の帳簿以外には記録に残っていないという。

話が進まないと気にしていたんですが、もう気にするのはやめました・・・・・・。人間あきらめが肝心。

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