ミッション
「……やば、もう朝のチャイム鳴りそうじゃね?」
とじけんが時計をちらりと見て叫ぶ。時間的にかなりギリギリだった。
「まずい!月曜から遅刻は勘弁だわ!」
「俺も戻る」
俺たちは入部届をカバンに押し込み、保佐先輩に「放課後また来ます!」とだけ言い残して、廊下を駆け出した。
教室に滑り込むと、ちょうどチャイムが鳴ったところだった。
「セーフ……」
とじけんが机に突っ伏し、俺は肩で息をしながら席に座る。
授業は淡々と進み、特に変わり映えのしない時間が過ぎていった。けれど俺の頭の片隅では、ずっと「新聞部」の三文字が残っていた。
──放課後。
最後のチャイムが鳴ると同時に、とじけんが振り返る。
「部活、行こうぜ! なんかワクワクしてきた!」
「……うん」
俺たちは連れ立って新聞部の部室へと向かう。すでに先輩がいて、ノートPCを開きながら何やら打ち込んでいた。
「おかえり、ふたりとも」
にこりと笑って、先輩は言った。
「じゃあ今日は、さっそく“体験”ってことで……ちょっとしたミッションをお願いしていい?」
「ミッション?」
とじけんが身を乗り出すと、カオリ先輩は頷いた。
「この校舎の裏庭に、小さな花壇があるんだけど。そこ、誰が世話してるか知ってる?」
「え、誰かいたっけ?」
「いるのよ。こっそり手入れしてる先輩が一人」
先輩はにやりと笑う。
「その人に、こっそり取材してきてほしいの。“なぜ世話をしてるのか”、“どうしてこっそりなのか”。それを今日の記事の練習にしてみよう」
「マジで記者じゃん!」
「うん、新聞部だからね」
とじけんがやる気満々の顔をしてこちらを振り返る。
「なあ夢宮、行こうぜ!俺、インタビューしてみたい!」
「……わかった。でも、“こっそり”ってのが気になるな」
「バレないように聞き出すのも記者の腕の見せどころ!」
とじけんが拳を握る。俺は小さく息を吐き、頷いた。
「じゃあ行ってくるよ、先輩」
「うん。終わったら戻ってきて。ふたりの記事、読むの楽しみにしてるから」
そうして俺たちは花壇へと向かった。