入部届
新聞部の部室に足を踏み入れた途端、保佐カオリ先輩は勢いよく言った。
「入部届、今のうちに取ってこようかな。職員室行ってくるね!」
そのまま、こちらの返事も待たずにぱたぱたと廊下に消えていった。
「……展開、早くないか?」
俺がそう呟くと、とじけんがすぐさま詰め寄ってくる。
「なあカナト、お前、先輩と知り合いだったのか!? なんで教えてくれなかった!」
「知り合いってほどでもない。朝の教室にふらっと来てたのを見ただけだ」
「でも、先輩の方はちゃんと覚えてたじゃん!」
「……あの人、記憶力がいいんだろ」
「いやいや、それだけじゃなくて、話しかけてきたし、お前絶対なにかあるだろ。怪しいぞ!」
「落ち着け、俺が一番驚いてる」
とじけんはなおも「いやいやいや」と手を振っていたが、その手が途中で止まる。
「……もしかして、前世で縁が……」
「飛躍しすぎだ」
「でもそうじゃなきゃ、こんな出会いある!? 教室で偶然、新聞部で再会、魂章の羽も輝いてるし……!」
「魂章関係ないだろ」
やがて、足音とともにカオリ先輩が戻ってきた。手には入部届が2枚。
「お待たせ。はい、これが入部届!」
俺たちにそれぞれ一枚ずつ手渡すと、先輩は机の角に腰を軽く乗せた。長めのスカートがわずかに揺れる。
「正式な入部は、顧問のサインもらってからなんだけど、今日はとりあえず書くだけ書いてもらえたらって」
「おお……部活っぽい……!」
とじけんが用紙をまじまじと見つめる。その横で、俺もペンを手に取りながら尋ねた。
「新聞部って、何人くらいいるんですか?」
「今は……私を含めて二年が1人。三年生が4人」
「先輩、一人だけ……?」
「うん。もともと小規模な部活なんだけど、三年生は取材慣れしてて、すごく頼りになるよ。記事の編集とかも丁寧だし。私はまだまだだけどね」
そう言って微笑む先輩の鎖骨のあたりでは、緑色の羽が淡く光っていた。
「でも、そろそろ後輩が欲しくて。……だから今日、ふたりが来てくれたの、すごくうれしかった」
その言葉に、とじけんはやや照れくさそうに「えへへ」と笑った。俺も、少しだけ胸が熱くなった。
机の上の入部届に、名前を書く。
ボールペンの音が、静かな部屋にカリカリと響いた。
──俺は、ここで何を見つけるんだろうか。
そんな思いが、ふわりと心に舞い降りた。