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魂章 KONSHO  作者: しそれ
7/11

学園新聞

月曜日の朝。

教室に入ると、すでにとじけんが自分の席に座っていて、顔を机に伏せたままぼんやりしていた。


「……どうした、寝不足か?」


声をかけると、彼はばっと顔を上げ、目を輝かせて俺を指さした。


「夢宮! いや、それどころじゃないんだって!」


「どころ、ってなんだよ」


「昨日、夢に出てきたんだよ……あの先輩が!」


「先輩?」


「夢に出てきたんだよ、すっごく綺麗な先輩。髪がふわっとしてて、優しそうで……なんか、すれ違っただけで空気が変わる感じの人!」


「……会ったことあるのか?」


「いや、それが……多分、前にどこかで見ただけ。でも、目が合った気がする。たぶん校内にいる。絶対いる!」


「夢に出てきたからって行動するの、早くないか」


「恋はスピードだろ?」


とじけんは机を叩いて立ち上がった。早速、廊下に飛び出していく勢いだった。


「ちょっと待て、どこ行く気だ」


「まずは校内一周。教室、図書棟、音楽室、あと購買と中庭も。付き合え夢宮!」


「……どうして俺まで」


「一人で探すのは寂しいから!」


強引すぎる理由だったが、気づけば俺も走っていた。


中庭では花壇の水やりをする生徒たち。音楽棟からはピアノの音。購買前はすでに行列。だが、とじけんの目当ての先輩はどこにもいなかった。


「うーん……そんな簡単には見つからないか」


「まあ、夢の中の人だった可能性もあるしな」


「いやいやいや、絶対現実にいた! あの声、あの目、あの感じ! この心が覚えてる!」


「詩人かお前は」


そんなふうにからかっていると、廊下の角を曲がった先で、すれ違った女子生徒がいた。


「──あ」


とじけんが固まる。


とじけんが指差した先に、長めのスカートを揺らしながら歩く女子生徒の姿があった


俺の記憶が蘇る。そう、あの朝、誰もいない教室に入ってきた、あの先輩だ。


でも、とじけんはそのときまだ教室に来ていなかった。つまり、彼女を知っているはずがない。


「いや、お前、見てないだろ?」


「うーん、でもなんかこう……直感ってやつ?」


先輩がこちらに気づいたのか、振り返る。そして、少し首を傾げた。


「……何か、用かな?」


「ん? あれ、君……もしかして」


「夢宮です。夢宮カナト。あの朝、教室で……」


「ああ、やっぱり。思い出した。……そっか、同じ学年じゃなかったんだね。私は保佐カオリ。二年」


保佐先輩─そう呼ぶべきか─は、軽く微笑んでから、とじけんの方を見た。


「そっちは……」


「あっ、俺は十時ケンイチ! “とじけん”って呼ばれてます!」


「とじけんくん、ね。面白い名前だね。語感がいい」


「うわっ、“語感がいい”って言われた……!」


「落ち着け」


俺が肩を叩いて黙らせると、保佐先輩は「ふふっ」と小さく笑った。


「もしかして……何か用があって来たの?」


「いえ……たまたま」


とじけんが小声で「いや俺は目的あったんだけど」と漏らしたが、聞かなかったことにした。


先輩は一瞬だけ考え込むような顔をしたあと、ポンと手を打った。


「じゃあ、よかったら新聞部、見てく? 今ちょうど、新入部員を探してたの」


「新聞部って、記事とか書くんですか?」


「うん。学園のスクープとか、面白い話題を集めて、文化祭で出す新聞を作ったり。自由だけど、真面目なこともできるよ」


「自由……」


俺の中で、ある言葉が引っかかった。自由、という響き。


とじけんが横からひょいっと前に出てきた。


「それ、俺やりたいかも!」


「え、決断早すぎないか?」


「だって、先輩もいるし、記事書くとかちょっと面白そうだし!」


「まさか先輩が目当てじゃ……」


「そんなわけあるか〜!! ……いや、ちょっとはあるけど!」


先輩はくすくす笑いながら、教室の方を指さした。


「二人とも、興味があるなら歓迎するよ。まずは見学でもいいから」


その瞬間、とじけんがこちらを見た。

目が「頼む、付き合ってくれ」と語っている。


「……わかった。一緒に行くよ」


そう言うと、彼は声をあげて喜んだ。


「よし! 第一号の仲間ゲットだな!」


「お前、第一号どころか三十号くらいだろ」


「細かいことは気にすんな!」


そんなふうに、俺たちは部室の中へと入っていった。


窓際の机にはすでに記事の草稿が広げられていて、壁には過去の新聞が丁寧に掲示されていた。

羽の魂章が鎖骨に浮かぶ先輩は、そこで静かに、それでいて確かな光を放っていた。

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