最強アイドル!神崎ハレは愛が重い!
NumberOneIdolプロジェクト、略してNOIプロジェクト。
2年に1度行われるこの企画は全世界から集まった人気アイドルたちで競わせ、その年で一番のアイドルを決めるいわばアイドル界の世界大会だ。
今年も例年通りネットや世間で人気のアイドルが集まってきている。この企画は世界的に見ても狭き門であり、中には10年連続で出ているアイドルや過去の優勝者も出ている。
企画内容は二週間かけてライブを行い現地やネットでの厳選な投票によって決まる。この大会に参加するアイドルたちはファンの期待を持って参加する者が多く、結果が振るわなかったり優勝できなかった事実を受け入れられず引退することもある。
今回参加しているアイドルの中にはデビュー当初から自分がプロデュースしているアイドル神崎ハレも参加している。
企画が始まってから18日、全てのライブが終わり集計期間の3日が終わり今日は優勝者の授賞式だ。初となるNOIプロジェクトの参加、結果がどうあれ彼女の努力をまじかで見てきた自分には優勝できるほどの実力があると思っている。
「それでは皆様、第10回!NOIプロジェクト優勝者の発表です!!」
この日のために歴代優勝者や目に留まる結果を残したアイドルの特徴の情報収集、そして神崎さんの魅力や武器を前面に押し出したレッスン。彼女のパフォーマンスは万全の状態に整えてきた。
そして今、その歴史が目の前で刻まれている。
「ナンバーワンアイドルに輝いた優勝者は……」
会場の空気が静まり返り緊張が走る。
「ダイヤモンドダスト所属!神崎ハレさんです!!。おめでとうございます!」
会場中が拍手喝采の声に包まれる。
勝っ……た。彼女は、神崎さんはNOIプロジェクトでナンバーワンアイドルに輝いた。
隣にいる本人を見ると嬉し涙を浮かべながら口元を手で隠している。
「プロデューサー!」
「おめでとうございます、神崎さん。この結果は貴方の実力で勝ち取ったものです」
ここまでの努力を見てきたからこそ彼女を素直に褒めることができる。
ダイヤモンドダスト。我々が所属する芸能事務所の名前だ、業界大手であり過去に何度も出場しているが優勝には届かず、事務所全体でNOIプロジェクトを優勝することが目的になっていた。
それ故に彼女には重たい夢を託してしまっていたが、夢をかなえる結果に思わず肩の力が抜けそうだ。
「さあ、ナンバーワンアイドルとして皆さんの前へ」
「うん!」
そう言って神崎さんはNOIプロジェクト優勝としてトロフィーを授与する。
この日、歴史に刻まれるナンバーワンアイドルとして神崎ハレの名前が名実ともに広がった。
――深夜3時――
授賞式が終わった後、神崎さんの周りには人だかりができていた。歴代優勝者や優勝者候補のアイドル、他の大手事務所の社長やNOIプロジェクトのお偉いさん、色んな人が集まっていた。
神崎さんは少し困っていたが助け舟を出すことはできなかった。彼女のプロデューサーとして自分も囲まれていたからだ、ライバルのプロデューサーや業界の偉いさん等こちらも手が離せない状況だった。
一緒に来ていた社長や会長は喜びの余り酒を飲みすぎて泥酔していたからだ。自分も例にもれず羽目を外していましたが……。
そんなこんなで滞在しているホテルに帰ってくる頃には既に深夜を過ぎていた。
「う~……少し飲みすぎました」
「プロデューサー!やっと戻って来た」
「どうしました神崎さん」
ホテルのロビーに着くと神崎さんがソファーから立ち上がってこちらに駆けよってくる。
「ねえねえ今日プロデューサーと一緒に寝たいんだけどいい?」
「何を言っているんですか、ダメに決まっているでしょう」
「えー、私的には大丈夫なんだけどなー」
「アイドルが家族以外の異性と同衾など、ましてや相手がプロデューサーともあれば炎上は免れませんよ」
「はいはい、冗談ですよー。プロデューサーが手を出さないか試していただけでーす」
神崎さんはいたずら気に笑う。
冗談にしては危険すぎる、これはプロデューサーとして担当アイドルを叱らなければいけない。
周りに誰もいないことは確認し口を開く。
「神崎さん。貴女にとっては冗談で済まされるかもしれませんが、もしもこの状況を第三者が見た場合あらぬ誤解が生まれかねます。今の貴女はNOIプロジェクトを勝ち抜いたナンバーワンアイドルなのですから気を付けてください」
「はーい、以後気を付けて反省しまーす」
本当に反省しているのかはわからないがとりあえず注意はした。少なくとも会話の内容は誰にも聞かれていないはずだ。
「それじゃ部屋に戻ろっか、プロデューサー」
「誰かを待っていたんじゃないんですか?」
この時間まで部屋に戻らずロビーにいたと言うことは誰か待ち人がいると思うのだが。
「プロデューサーを待ってたんだよ」
「俺を、ですか」
「うん、ここまで頑張ってこれたのはプロデューサーのおかげだし、何かあったら不安だからね」
彼女からその言葉を聞けて心の中が救われた気がする。
今まで自分がやってきたことは無駄じゃなかった、そして彼女にも自分なりの努力が伝わっている事に安堵する。
「ちょっ!プロデューサーなんで泣いてるの!?」
「すみません、感動してしまって……」
酒が入っているせいか喜びの余り涙があふれていたようだ。ポケットからハンカチを取り出し、涙をぬぐいながら部屋へと向かう。
「それじゃあプロデューサー、おやすみー」
「おやすみなさい、といっても10時にはここを出るので早く起きてくださいね」
「はーい」
別れ際、ハレはプロデューサーの後ろポケットに付けていた小型発信機を回収する。
今日は最高の日だ。事務所の長年の夢が叶い、担当アイドルに努力が伝わっていた事、これだけで全てが終わった気がする。
だが、ここで気は抜けない。むしろここが始まりなのかもしれないナンバーワンアイドルとなった彼女自身の栄光をこの先、一緒に紡いでいこう。
(これからも頑張っていこう、でもその前に……)
バタンとベットの上に倒れる。
さすがに疲れが溜まっている、それに加えて酒の効果も付与されているのだから眠気には負けてしまう。
「おやすみ……なさい。。。」
――隣室――
消灯した部屋の中は外から見ればカーテンが閉ざされ就寝したのだと思ってしまうほど静かだ。
実際は外からはわかりにくくなっているがパソコンの薄明りが一つ照らされている。
画面に映し出されているのは隣の部屋にいるプロデューサーの部屋だ。
「可愛いよ、プロデューサー」
ナンバーワンアイドル、神崎ハレは画面の向こうで眠るプロデューサーを愛おしく見つめる。
「早く、私のものにしたいな」
スマホを開き今日のプロデューサーの行動履歴と言葉の数々をメモする。
記録はプロデューサーと出会った日からずっと取り続けている。
メモを書き終えるとパソコンを閉じ、バックに発信機と共にしまう。
ベットに入ると自分で編集したプロデューサーのASMRをイヤホンで聞きながら就寝する。明日は早い。
「おやすみ、プロデューサー」
今日も夢の中で会えるといいね、プロデューサー。