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side イアン

俺とシエラが婚約したのは、十二歳の頃だった。

昔から懇意にしている家と婚約がまとまったと言われ、両親に連れられてベネット家へ赴いた。

「娘のシエラです」とベネット子爵に紹介されてにっこりと笑顔でおじぎをしたのは、ふわふわの髪にくりっとした丸い大きな瞳、甘い香りのしそうな、まるで砂糖菓子のような女の子。

それが当時十歳のシエラだった。


はっきり言って一目惚れだった。

こんなに可愛い子が俺の婚約者だなんて夢のようだった。

しかし、今まで異性とろくに関わってこなかったので、シエラにどう接していいのかわからない。

俺より二つも年下なのに小鳥の話など一生懸命話しかけてくれるシエラに対し、俺は緊張して目も合わせられず、一言返事をするので精一杯だった。


するとシエラは、俺が不機嫌そうにしていると思ったのか、不満があれば言ってほしいと言ってきた。

そんなものはないのだからどうしようと考え込んでいたら、急にシエラの声が先ほどよりも近くから聞こえた。

不思議に思い顔を向けると、俺のすぐそばにシエラが立っていた。


「さあイアン様。どうぞ遠慮なく、何でもおっしゃって下さい」

「ちょっ…お前、近……うわっ!」

「イアン様!」


シエラとあまりの近さにびっくりした俺は、椅子に足を引っ掛けてバランスを崩し倒れた。

すぐに俺を助け起こしてくれたシエラは、俺が怪我をしていないかあちこち触って確かめてくれた。ありがたいが、好意を抱いている相手からそんなことをされたらどうしていいかわからない。

俺は緊張でますます顔を赤くして固まる一方だった。


「イアン様、お顔が真っ赤になっております。お風邪ですか?ちょっと失礼しますね」


俺が赤くなっていることに気づき、風邪をひいているのか心配してくれたシエラの優しさに感動していたら、顔を両手で挟まれた。

だんだんとシエラの顔が近づいてくる。

熱を測ろうとしているとすぐにわかったが、少しツヤのある小さな唇から目が離せない。

もうすぐ額がくっついてしまう距離まで近づいた時、俺は限界を迎えた。


「…っ風邪じゃない!お前も女ならもっと慎みを持て!」


しまったと思った時にはもう遅かった。

俺はシエラを突き飛ばすようにして立ち上がり、走って逃げた。とにかくこの場から離れようと必死だった。

恥ずかしくて、全身が燃えているんじゃないかと思うほど熱かった。



しばらく闇雲に走っていたが、初めて訪れた家で自分がどこにいるのかわかるはずもなく、後を追って来ていたメイドに父上のところまで案内を頼んだ。

父上は俺が一人で戻ってきたことに驚いていたが、ことの次第をメイドから伝えられると、きつく俺を叱った。

俺は緊張する度にあんなことになっていては身が保たないので、恥を忍んでベネット子爵に「シエラに異性との接し方を教えておいてほしい」とこっそり頼んだ。

子爵がメイドの話や俺の姿を見てどう思ったかわからないが、必ず淑女教育をしっかり受けさせると約束してくれた。


ほどなくしてベネット家を後にする時間になり、メイドに連れられてシエラが戻って来た。


「イアン様、本日はありがとうございました」

「…ああ」

「もしよろしければ、次はイアン様のお家へ伺わせて下さい」

「…わかった」

「絶対ですよ?楽しみにしてますね」


そう言って笑顔で俺の手をぎゅっと握った。

あんな態度を取ったのに、なおも俺と仲良くしようとしてくれるシエラが健気で、胸がいっぱいになった。



◇◇◇◇◇



あの日から五年。シエラが学園に入学する年になった。

婚約してからの五年間、努力はしたが、相変わらずシエラを前にすると情けない態度のままだった。そんな自分が嫌で、ついシエラと会うのを避けてしまっていた。

しかし、これからは同じ学園へ通う。シエラのことだから、少しでも時間を捻出して俺に会いにきてくれるかもしれない。

ありがたいが、俺はまだシエラと会う自信がない。気を強く持てるようになるまで待ってほしい。

なんとかシエラに伝えなければ……。


「俺は学園でお前と必要以上に接触する気はない」


シエラの戸惑った顔を見て、失敗したと思った。

こんな顔をさせたいわけじゃない。何でいつも上手くできない。

これ以上ここに留まるとシエラを傷つけてしまうかもしれない。

そうなる前に早くこの場から去ろうと足早に歩き始めた途端、後ろから悲鳴が聞こえた。振り返ると、急いで立ち上がったのかシエラがバランスを崩して転びそうになっていた。


(危ない!)


素早く腕を伸ばして引き寄せ、シエラを抱き止める。

大丈夫か尋ねると、礼を言いながら俺の胸にすり寄って来た。

可愛い。可愛いが、このままではまた何かやらかしてしまう。既に顔が熱い。

シエラは体を離し一歩下がると、真っ直ぐに俺を見つめて来た。


「イアン様。必要以上に接触しないとのこと、了承致しました。ですが…」

「何だ?」

「時々はこうしてお会いしていただけますか?」


シエラの切望するような顔に胸が苦しくなる。

シエラは俺と仲良くしようと、こんなにも頑張ってくれているのに、俺は…。

自分の行いを悔やんでいると、手が何やら温かいものに包まれた感覚がした。

何だと思い見ると、俺の手はシエラの手に包まれながら、彼女の胸の上にあった。


「シエラ、この体勢はまずい」

「何がでしょう」


俺が何か言えば言うほど、シエラは俺の手を胸に押し付ける。

シエラの手に包まれているとは言え、少し手がずれれば触れてしまう。危ない。

ベネット子爵、約束は、淑女教育はどうなりましたか。

ダメだ。これは。俺のせいではないけれど。ダメだ。子爵、これはダメです。


混乱する頭を無理やり落ち着かせ、なんとか手を外すことができた。

俺はこのままで大丈夫なのか、とても不安になった。



◇◇◇◇◇



半月後。

シエラの入学祝いで、シエラと子爵夫妻をターナー家に招くことになった。


シエラとはあの日以来会っていない。

…いや、正確には、俺がシエラと会うのを避けていた。

俺は半月前のことを思い出し、このままではいけないと改めて思う。

しかし気持ちとは裏腹に、シエラを前にすると緊張が勝って何を話せばいいかわからず、気がつけばシエラを遠ざけるような言葉が出てしまう。

どうしたらいいのかわからない。


ベネット家との約束の時間まであと少し。もう時間がない。

俺の足は、兄上の部屋へ向かっていた。



「緊張してシエラさんと上手く話せない?お前、婚約してもう何年だと思ってる。そんなことでどうするんだ」


開口一番、叱られた。当たり前だ。


「どうする、なんてことは俺が一番思ってます。でもシエラを前にすると、どうしても…」

「だからと言って、あと少しで子爵達が到着するという時に持ちかける相談ではないと兄は思うがね」

「……おっしゃる通りです」


兄上は人当たりがよく、シエラとも早くに打ち解けていた。婚約者の女性とも良い仲を築いていると聞いている。

だからこそ少しでもシエラと自然に接することができるよう、何かアドバイスが欲しかったのだが…見事に正論を返され、俺はすっかりうなだれてしまった。

そんな俺を見て兄上は困ったように眉尻を下げ、椅子に深く座り直して続ける。


「まあ、イアンは小さな頃から緊張すると失敗ばかりしていたからね。昔からの気質だから、そう易々と直るものでもないだろう」

「…はい」

「そう気を落とすな。話を最後まで聞きなさい」


兄上の言葉に顔を上げると、兄上は緩く笑っていた。


「いいかい、イアン。お前に足りないのは経験だ。とにかくシエラさんと積極的に話をするといい」

「いや…それができなくて困っているのですが」

「失敗を恐れて避けているばかりでは、仲良くできるものもできないよ」

「……」

「いきなり上手く会話をしようなどと思わなくていい。天気や、服装や、その場にあるものや…内容は何でもいいんだ。小さな会話を積み重ねていけば、いずれシエラさんと一緒にいることがお前の中で当たり前のことになる。その頃には自然に会話できるようになっているはずだ」

「……そうでしょうか」

「そういうものだよ」


そう言って兄上は笑みを深める。


「まあ、緊張するお前に、きっかけもないまま話をしろというのも酷だ。可愛い弟と未来の義妹のために、この兄が一肌脱ごうじゃないか」


兄上は立ち上がり、俺の頭をくしゃっと撫でた。


・・・


シエラ達が到着したと知らせを受けて部屋へ向かうと、既に父上達と挨拶を済ませた後のようだった。

そっとシエラに目を向けると、今日のシエラはレースのついたワンピースを着ていた。可愛さだけでなく、少し大人びたものがあって、シエラにとてもよく似合っている。

見間違いでなければ、あのリボンの髪飾りは俺が贈った髪飾りだ。俺が選んだものを身につけてくれていると思ったら、何とも言えない幸福感に満たされた。


子爵夫妻と話していると、視界の端で兄上がシエラと話すのが見えた。


(……なんだか近くないか?)


側から見れば仲の良い恋人同士にも見えかねない二人の距離に胸が騒ぐ。

子爵夫妻との会話を終え、二人の元に急いだ。

わざと俺に嫉妬させて兄上が何をしようとしているのかわからなかった。


「こんなに可愛らしいシエラさんを見て、何か言うことはないのか?」


…と言われ、そこで初めて俺とシエラが会話をするきっかけを作ってくれていることに気づいた。

シエラを見ると、シエラも期待しているような目で俺を見ている。

早く、早く何か言わなくては、早く……。


無情にも昼食の準備が整ったと知らされ、食堂へ向かった。

兄上に憐れんだ顔で肩を叩かれた。


・・・


その後、兄上の計らいでシエラと二人で街へ行くことになった。

会話もろくにできないのに出かけるなど無理だと兄上に言ったが、「街にはいろいろあるから話題には事欠かないよ。目についたものについて片っ端から話していけばいい。シエラさんも気になったならそこから自然と会話も弾むだろうさ」と言われた。

確かに…今まで俺は、シエラと上手く話をしようと焦って空回るばかりだった。

目にしたものの感想を言うだけなら俺にもできるような気がしてきた。


(感想…)


先ほどからシエラが俺を見ている。

そういえば、結局シエラの装いを褒めてやることもできなかった。もしかして、今なら言えるかもしれない。


「シエラ」

「はい」

「……その…今日の服、よく似合っている」

「え…」

「兄上に言われたからじゃないぞ。今日初めて見た時から、ずっとそう思ってた」

「あ……ありがとうございます……」

「髪飾りも…俺が贈ったものだよな?ありがとう。思った通り、似合ってる」

「はい……」


上手くできたかわからないが、俺にしては及第点だろう。

つい視線を逸らしてしまったが、ちらりと見えたシエラは嬉しそうな顔をしていた。


・・・


ターナー家の近くには大きな街が二つある。

シエラがここの街には初めて来たと言うので、とりあえず広場まで行くことにした。今日は露店市の立つ日だからシエラも楽しめるだろう。

広場についてからは、俺が話題を振るまでもなく、シエラが露店の売り物について何度も質問してきた。

くるくると変わる表情を可愛いと思って見ていると、シエラの目がある店で留まった。


その店には動物や花を模した飴が並んでいた。飴細工の店らしい。

店主の話では、棒に巻きつけた飴を熱いうちに形を整えて作るそうだ。どれも素人目から見ても見事な出来だった。

シエラに目をやると、じっと飴細工を見つめている。

気に入ったのなら買うかと尋ねると、「急な外出でしたのでお金が…」と言う。俺が払うから好きなものを選ぶように言うと、「ありがとうございます!」と笑顔で選び始めた。


「あら、鳥はないのですね」

「鳥?」

「ああ、鳥もあったのですが、もう売れてしまいまして…売り場にないものはお作りしてるのですが、あいにく今日はもう材料がなくて作れないんです」

「そうなのですね」


店主の言葉にシエラは一瞬残念そうにしていたが、すぐに何でもないような顔でウサギの飴を選んだ。

飴細工の店を後にした後、しばらく市でいろんな店を見て周り、陽が落ちる前にシエラを子爵邸まで送り届けた。

家まで帰る途中、一人馬車の中で、初めてシエラに会った日の会話を思い出していた。



◇◇◇◇◇



あれから数年経ち、俺は学園を卒業した。

卒業後はベネット子爵に付いて子爵領のことを学ぶため、毎日のように子爵邸へ通っている。

じきにシエラも学園を卒業し、本格的に領地のことを学び始める。シエラが卒業して一年後に結婚する予定だ。


シエラの卒業が目前に控え、結婚が現実味を帯びてきてから、俺はずっとシエラに俺の想いを込めたものを贈りたいと考えていた。

いずれ結婚式を迎えたら、神の前で愛を誓う。その前に、シエラ自身に俺の誓いを届けたかった。


「…と言うわけなんです。兄上、何か良い案はありませんか」


悩んだ俺は、また兄上の元へ向かっていた。

兄上は既に結婚し、離れで義姉上と仲睦まじく過ごしている。

俺が結婚して家を出たら、本邸を改装して戻るらしい。


「想いを込めた贈りもの、か。いいんじゃないか。……それにしても、あのイアンがねぇ」

「からかわないで下さい」

「からかってなんかいないさ。これでもずっとお前のことを心配していたんだよ」


そう言って机から書類の束を出し、パラパラとめくる。

「ああ、これだ」とある箇所を開き何やらメモに書き留め、それを俺に差し出した。


「私が出資している店だ。オリジナルのモチーフでアクセサリーや小物を作ってくれる。どんな注文でも真摯に向き合ってくれると評判がいい。ここなら満足のいくものを用意できるんじゃないか?」

「兄上……ありがとうございます」

「うん。順調に仲が深まっているようで兄は嬉しいよ」


兄上はそう言って俺の頭を撫でた。


・・・


その後、足早に教えられた店へと向かった。

店主は兄上の紹介だと伝えたら快く引き受けてくれた。

オリジナルのモチーフが作れると聞いてから、俺にはずっと頭に浮かんでいたものがあった。


以前シエラと街に行った日の帰り、馬車の中で初めてシエラと会った日のこと思い出した。

二人で話したガゼボで、


『私、お庭の中でここが一番好きなんです。すぐ横の木に時々小鳥が来て、木の実を食べるんです。それがとっても可愛いんですよ』


そう笑顔で言ったシエラ。

街でも鳥の飴細工がないことを残念そうにしていた。

鳥をモチーフにしたらきっと喜んでくれるに違いない。


唯一の品を贈れるのなら、シエラの好きなあの小鳥を贈りたい。

幸い俺は毎日のようにベネット家へ通っていた。

空いた時間を見つけては二人で話したあのガゼボへ向かい、小鳥をスケッチし続けた。


・・・


俺のスケッチを基にして店主がモチーフをデザインし、製作を頼んでからしばらくの後、注文の品が完成したと連絡を受けた。

結婚まであと半年と迫っている頃だった。


店主に「ご確認ください」と小箱を渡され、中を開けると小鳥が二羽寄り添っているネックレスがそこにあった。

ガゼボの横に植えられている木をリース状にデザインし、その中に小鳥達がいて片方の小鳥は木の実を咥えている。

理想通りの素晴らしい出来栄えだった。


店主に礼を言い店を出ると、向かいに初めて見る店があった。焼き菓子と紅茶の店のようだ。

店内にはクッキーやフィナンシェなど様々な焼き菓子が並んでいた。季節限定の商品もあるらしい。

紅茶の売り場を見ると、基本の茶葉に加え、店のオリジナルのブレンドもいくつか並んでいた。説明を読むといろいろと趣向を凝らしていておもしろい。

これは良いと思い、兄上への礼と、ベネット家への手土産に茶葉を購入した。


兄上に贈り物が完成したこと、店を紹介してくれた礼を改めて伝えると、まるで自分のことのよう喜んでくれ、「今度は贈り物を身につけたシエラさんと、二人で遊びに来てくれると嬉しいなあ」などと軽口を言われた。

兄上は時にからかうような言動をするが、いつも俺のことを考えた言葉をくれる。

つい茶葉を押し付けるように渡してしまったが、どこまでも優しい兄上に頭が上がらない思いだった。



◇◇◇◇◇



小鳥をモチーフに作ってもらうことにしてから、ネックレスはあのガゼボで渡そうと考えていた。

ネックレスを受け取った翌日、早速シエラを散歩へ誘うと、シエラも俺をお茶に誘おうと考えていたらしい。

茶葉の手土産もあったからちょうどいい。あのガゼボへ用意してもらうことにして、準備を待つ間、シエラとゆっくり庭を歩いた。

ガゼボへ近づくにつれ、だんだんと緊張が増してくる。


(シエラはネックレスを気に入ってくれるだろうか…)


ガゼボへつくと既にお茶の準備ができていた。

シエラはお茶を一口飲むと、すぐにいつもの茶葉ではないことに気づいた。


「…あら、このお茶は初めていただきますね」

「先日街へ行った時に新しい店ができていたんだ。そこのオリジナルのブレンドらしい」

「イアン様が買ってきて下さったのですか?」

「ああ」

「ありがとうございます。この香りは…カモミールが入っているのでしょうか。おいしいです」

「口に合ったようでよかった」


選んだ茶葉をシエラが気に入ってくれてよかった。雰囲気もいい店だったから、今度は二人で行って、お互いの好みのものをゆっくり選ぶのもいいかもしれない。

俺も一口飲み、気を落ち着かせる。

…大丈夫。シエラなら、きっと。


「シエラ」

「はい」

「これを……受け取ってほしい」


シエラに小箱を渡す。

戸惑っているようなので開けてみるよう促した。

シエラはゆっくり小箱を開くと、一瞬目を見張る。


「…鳥?あの…こちらは?」

「初めて会った時にここで話してくれたよな。横の木に時々小鳥が来て、木の実を食べるのが可愛いって」

「ええ」

「シエラが学園へ入学してすぐにターナー家の近くの街へ行った時、飴細工の店で鳥がなくて残念そうだった。あの時、シエラは鳥が大好きなんだなと思った」

「ええ、大好きです…」


「貸してくれ」とシエラから小箱を受け取り、ネックレスを取り出した。

そのままシエラの横へ行き、ネックレスをつけてやる。…金具をつけるのに少し手間取ったが、シエラには気づかれなかったようだ。

正面からネックレスをつけたシエラを見ると、華奢な首元に鳥達が収まっていた。


「よく似合ってる」

「イアン様…」


そのまま流れるようにシエラの手を取った。


「俺はシエラの横にいる時、いつも無口で、目もろくに合わせなかったな。気を悪くさせてたらすまない」

「いえ、そんなことはないです」

「ああ、シエラはそう言ってくれるだろう。でも俺は、そんな自分が情けなかった」


ずっと言えなかった言葉が次々と出てきた。


『小さな会話を積み重ねていけば、いずれシエラさんと一緒にいることがお前の中で当たり前のことになる。その頃には自然に会話できるようになっているはずだ』


いつかの兄上の言葉を思い出した。

あれからずっと、シエラと話をしようと少しずつ努力をしていた。

そのおかげか、今はあの頃よりも会話ができるようになっていると思う。

シエラと話ができるのが、こんなにも嬉しい。


「この可愛い子が俺の婚約者なのかと思ったら、どう接したらいいかわからなかった。その上、わざと遠ざけるようなことも言ってしまって。兄上にどうしたらいいか相談したくらいだ。そんなことでどうすると怒られたが」


ふっと笑うと、顔を赤らめたシエラが俺を見ていた。

シエラへの想いが溢れてくる。

今なら、シエラに俺の気持ちを全て伝えられる。伝えたいと思った。


「シエラ」

「は、はい!」


シエラを握る手にわずかに力が入る。

真っ直ぐに見つめると、シエラも見つめ返してくれた。


「俺はいつかまた、シエラに情けない態度を取ってしまうかもしれない。それでも俺はお前を離してやれそうにない」


片方の手を伸ばし、シエラの首元で並ぶ鳥達にそっと触れる。


「この二羽の鳥のように、シエラと寄り添って生きていきたい。……シエラ、好きだ。これから先の人生、俺と共に過ごしてくれるか?」


きっと今、俺の顔は真っ赤になっているだろう。

目を逸らしそうになるが、なんとか耐えてシエラを見つめ続けた。

シエラは驚いたような顔をしたが、ほんの一瞬だった。

少しずつ笑顔になっていき、


「もちろんです!」


勢いよく胸に飛び込んできたシエラをぎゅっと抱きしめた。


相変わらず緊張で鼓動は早いし顔も熱いが、今は不思議とそれらが心地いい。

俺は腕の中にシエラがいる幸せを噛み締めながら、シエラの頭にそっと頬を寄せた。



最後までお読みいただきありがとうございました!

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