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幕間 ~『帝位返上 ★承徳視点』~


~『承徳(しょうとく)視点』~



 承徳(しょうとく)は皇子として生まれたが、後宮の華々しい表舞台とは距離を置いてきた。


 そのため周囲から滅多に人前に姿を現さない皇子として知られていた。歴史ある行事にも欠席することが多く、それを嘆く声は少なからずあった。


『皇子としての自覚が足りない』

『影が薄い』

『この国の将来が不安になる』


 そんな囁きが耳に届くこともあったが、承徳(しょうとく)は気に留めない。その理由はシンプルで、彼に野心がなかったからだ。


 もし相応しい者がいるなら、次期皇帝の椅子を譲ってもいい。それは単なる謙遜や責任回避ではなく、本心からそう思えるほどに権力に興味がなかったのだ。


 このような思想を持つに至ったのは、母親である皇后の影響が大きい。


『私たちは本物の皇族ではないの』


 幼い頃から繰り返されてきた言葉だ。先代皇帝には男児がいなかったため、混乱を避けるために承徳(しょうとく)の父親が皇位を託されたが、これは正当な皇族が現れるまでの借り物に過ぎないと何度も念押しされたのだ。


 だからこそ承徳(しょうとく)は、後宮の宮殿を歩いていても、自分の家のように感じられなかった。生まれ育った場所であるはずの宮殿にそのような感覚を抱くのは、帝位が借り物だという言葉が心に根付いているからだ。


 敷き詰められた白い大理石の回廊を進み、宮殿の奥に進むと、扉の前に控える侍女たちが深く一礼する。


「皇后様がお待ちです」


 扉が開かれると、承徳(しょうとく)は足を踏み入れる。


 部屋の中央では皇后が椅子に腰掛けていた。


 黄金に輝く髪がゆるやかな波を描き、青い瞳は深い湖を思わせるほど澄んでいる。見る者を引き込むような威厳を宿しながらも、承徳(しょうとく)に対して優しげに微笑んでいる。


「会うのは久しぶりね。元気そうで何よりだわ」

「母上の方こそ……私を呼び出すとは珍しいね」


 皇后は後宮を束ねる立場であり、その日々は多忙を極める。息子の顔を見るためだけに時間を作るとは思えない。目的を探るような視線を向けていると、皇后は笑みを深める。


「そう警戒しないで。呼び出したのは聞きたいことがあっただけだから」

「母上なら後宮で起きる出来事なら何でも把握しているだろうに……」

「たいていのことはね。でも知りたいのは、あなた自身のことだから」

「私の?」

雪華(せっか)という女官と仲良くなったそうね。まさかとは思うけど、遊びじゃないわよね?」


 皇后の言葉には鋭さが込められていた。承徳(しょうとく)はその問いを受け流すことなく、正面から問い返す。


「……どういう意味かな?」

「そのままの意味よ。あの娘はね、私の恩人の関係者なの。その彼女を傷つけることがあれば、相手が息子でも容赦しないわよ」

雪華(せっか)が母上の……」


 意外な関係性を知り、承徳(しょうとく)は驚くものの、すぐに冷静さを取り戻して質問に答える。


「私は誠実に生きてきた。それは母上も知っての通りだ。それに……雪華(せっか)は私にとっても大切な人だ。もし彼女を傷つける者がいれば、私は私自身でさえ許せそうにない」


 その低い声は静かでありながらも、内に秘めた感情が伝わるほどの力強さがあった。


 一瞬の沈黙の後、皇后の口元がわずかに緩み、やがて穏やかな笑みへと変わる。その表情には母としての誇りが滲んでいた。


「さすが、私の息子。超が付くほどの大真面目ね」


 皇后の声は微かに冗談めいていたが、それは決して皮肉ではなく、息子への深い信頼を示していた。


「もし雪華(せっか)を妃として迎え入れたいなら、私は賛成だから」


 承徳(しょうとく)はその言葉に驚きを隠しきれなかった。雪華(せっか)は卿士の生まれだが、それでも皇族と結ばれるには身分に差がありすぎるからだ。


「他の誰でもない雪華(せっか)なら構わないから……それだけは覚えておいて」


 その言葉を最後に皇后との面会は終わる。彼は部屋を退出し、一人残された皇后は静寂の中で小さく零す。


承徳(しょうとく)があの方の一人娘と結ばれれば……」


 雪華(せっか)は先代皇帝の血を引く唯一の皇族の生き残りだ。もし彼女が承徳(しょうとく)と婚姻を結べば、自然とその子供が次代の皇帝となる。つまりは本物の皇族の血筋に帝位を返せるチャンスなのだ。


 巡ってきた好機に皇后は頬を緩ませる。これからの未来を想像し、胸を踊らせるのだった。


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