ダークソウルヒーローズ 魔王聖剣士闇神刀夜
叛逆の闇雄のパラレルワールドともいえるストーリーです。元々はボツにしよう思った作品です。
人は、それぞれ闇を持っている。そんな話、聞いたことあるかな?
誰もが絶望して、辛くなった事がたくさんあると思うの。
私は光神ひめ。それ以外の何者でも無い。ただの中学生よ。
ずっと願っていたの。幸せな日々を、ずっと笑顔でいられる日々を。でも、そんな日は長く続かなかった。
目の前で親を殺されて、私は絶望した。
「そっか。私も、あいつに殺されるんだ……」
そう思っていた時だった。誰かが、怪物を斬った。攻撃に怯む事無く、立ち向かっていった。私とは、比べ物にならない強さで怪物を倒した。その姿は、蒼い髪色をして、私と同じ赤黒色の目をしていた。どことなく悪人のような顔立ちをしているけど、なんとなくいい人のようにも見えた。群青色のジャケットに、黒色のウィシャツを羽織っていて、藍色のジーパンを履いていた。その姿は、まるで悪役のヒーローみたいだった。ダークヒーロー…… なのかな?
「私を、助けてくれたの? あなたは、一体……」
「俺は闇神刀夜。それ以外の何者でも無い。ただの剣士さ」
これが私と刀夜の出会い。残酷な運命の始まりだった。
朝の6時半。私はいつも通りの朝を過ごしていた。この時間はまだ布団の中だけど…… 白色に光る髪色をしていて、自分でも嫌いだけど、赤黒色の瞳で、胸が小さい。ちょっと幼くて多少可愛い普通の少女が、私、光神ひめ。
「うーん…… もうちょっと寝よう……」
突然、目覚し時計が鳴って飛び上がった。
「ギャァァァ!!!」
ベットから勢いよく落ちて、体をぶつけた。
もう、何でこんなに音が大きいのよ!
「はぁー、目覚ましかけるんじゃなかった」
起き上がると、いつも飾って眺めている人形を見た。
「えへへ、今日も可愛いなー」
寝ぐせを直して、白い髪を整えて下へと降りた。そして、パパとママに挨拶をした。二人共黒色の髪で、パパはスーツでママはエプロンを着ていた。
「おはよう。パパ、ママ」
「おはよう、ひめ。今日は遅かったわね」
「いやぁー、遅くまで勉強しちゃって」
「遅くまで勉強なんて、偉いじゃないか」
「でも、無理は禁物よ」
歯を磨き、私の白い髪を結いなおした。朝ごはんもしっかり食べて、学校の準備もできた。制服に着替えて、鞄も用意した。しっかり、キーホルダーも付いている。よし!これでいいね。
「ひめ、今日誕生日でしょ」
「今日帰ったらお祝いをしよう。 プレゼントは何がいいかな?」
「くまの人形がいいな。それも飛び切り可愛いの!」
「ええ、楽しみにしててね」
食パンを加えながら走って家を出た。
「いってきます!」
久しぶりの学校にワクワクしながら向かった。近所のおばさんや、子供たちに挨拶をしながら。
学校の通りである桜の道を通った。
「綺麗だなー この町って、本当に温かいんだね。 そうだ!」
私は桜の木に向かって叫んだ。
「神幻市!! いつもありがとう!!」
桜の木に向かって叫んだ。
「あいつ何言ってんだ?」
「変な子」
通りかかった男女に見られちゃったみたい。ちょっと恥ずかしかったかな?
学校に着き、先生の服装チェックを通った後に教室に入った。
「おはよう! ひめ」
「おはようございます、ひめさん」
「おはよう! イツキ、エル」
私の友達の南イツキ、葉月エルに挨拶をした。イツキはオレンジ色の髪色で、ボーイッシュな昔からの大親友。エルは緑色の髪色で、いつも清楚な雰囲気が出ていた。
すると、イツキから気になる話を聞いた。
「ねぇ、ひめは知ってる? 謎のヒーローの話」
「ヒーロー? どんな話?」
「人を襲う怖い怪物を、誰かが倒してくれるんだって。最近だと、青い髪色の剣士がいるらしいよ。それも超イケメンでカッコいいんだって」
「とても壮大な話ですね」
「そうなんだ。私もなりたいな、誰かを助けるヒーローに」
「昔からヒーローになりたいって言ってますものね。ひめならきっとなれますよ」
私はヒーローになりたかった。絶対に叶わないと知りながらも、いつかの理想と信じて。
朝のホームルームが終わって、休み時間になると、不動テンセイが話しかけてきた。
「よう! ひめ」
スカイブルーの髪色をして、黒色の瞳。しかもちょっと天然でイケメンだった。
「テンセイ! ねぇ、昨日の特撮見た?」
「もちろん! あれ面白いよな」
テンセイとは、特撮のことについてよく語り合っていた。いつも趣味について話してくれるの。
「なぁ、今日の放課後空いてるか?」
「ごめん、今日部活があるの」
「そうなのか、じゃあ、また後でな!」
放課後になり、部活動を終えて友達にさよならの挨拶をした。
「またね!」
「うん! バイバイ!」
そのまま学校から帰宅した。
「遅くなっちゃった。ママ心配してるかな?」
もう5時になっていた。家に帰ろうとすると、何か嫌な予感がした。
「何、この嫌悪感…… 早く帰んないと!!」
急いで家に帰ると、そこから血の匂いがした。
「嘘、何があったの!? ママ! パパ!」
ドアを開けて中に入るとそこは悪夢の様な光景だった。パパとママが怪物に殺され、捕食されている。すごく苦しそうな顔をして、跡形もなく身体をもがれていた。緑色の虫のような怪物が、鋭い爪を構えて近づいてきた。
「嫌、嫌、もうやめて!!」
よだれみたいなものをたらして、唸り声を出しながら近づいてきた。
(そっか。 私もあいつに殺されるんだ…… パパとママの所にいけるのかな……)
怪物が私に襲い掛かろうとした時だった。誰かの血しぶきが出る音が聞こえた。でも痛くない。何が起きたの……
「こんな悲劇を起こすなんてな…… やはり許せねぇ奴らだ」
つむった目を開けると、青髪の少年が怪物の牙を私から守るように腕で受け止めていた。二本の刀を構えて私を守った。
「この女だけは、俺が守る」
少年が刀で怪物に反撃した。あの怪物に、一撃であんなダメージを与えるなんて…… 怪物が後ろに一歩怯むと、少年は2本の刀で攻撃した。目に見えない速さで切り刻んでいる。
「絶望する姿なんて、もう見たくねぇんだよ」
怯むことなく、怪物に斬撃を繰り出している。この人、何者なの……?
「終わりだ…… 『真・光速剣!!』
最後の一撃で怪物の頭を斬った。強い…… 常人では考えられない刀の速さだった。なんで私なんかを……
「私を、助けてくれたの? あなたは、一体……」
「俺は闇神刀夜、それ以外の何者でもない。ただの剣士さ。何とかお前を守る事ができた。家族のことは…… 助けられなくてすまない」
「何で…… 何で私を助けたのよ! 家族のあんな姿見るんだったら、私も殺されて、パパやママの所にいきたかった!! 私は助けられることなんて望んでなかったし、求めてもいないの!! こんなんじゃ、死んだ方が……」
私は絶望した。もう生きてる理由なんて無い。
「じゃあ、俺はどうなるんだよ……」
「えっ……?」
ハヤトが傷を受けた左腕を挙げた。
「お前が死んだら、魔王族を倒した意味が無くなるし、俺が左腕に受けた傷も無駄になっちまう。俺は…… どうなんだよ!」
「もう放っておいてよ…… 辛いの! 私だけがいきているのが…… うう…… あああああっ!! あああああっ!!」
壊れるくらいに泣き叫んだ。ただ、自分の弱さを呪いながら。
すると、何か温かいのが私を包んだ。
「あ…… うう……」
顔を上げると、ハヤトが、私を優しく抱きしめていた。
「簡単に死ぬなんて言うな…… 誰かが死ぬってことは、一つの可能性が失われることだ!! 人として生まれたのなら、命の役割を終えるまで、最後まで生き抜くんだ!!」
ハヤトが涙を流しながら、私を説得した。
「俺も絶望したよ、だが負けない。必ず、この悪夢を壊す!」
ハヤトの説得に心を打たれたのか、なんだか楽になった気がした。
「ねぇ、この怪物は何? 誰が、私の家族を殺したの?」
「こいつは、魔王族だ」
「魔王族……」
「これ以上は言えない。 お前が組織に入ってたら別だが」
すごくバカなことかもしれない。でも、私は決意した。
「私も組織に入る。ハヤトと一緒に魔王族を倒したい!」
「そんな危険なこと……」
(彼女の目は本物だ。こいつなら、俺の相棒になれる)
「分かった。お前の願いを引き受けよう。一つ聞くが、お前の名前は?」
私は答えた。私の…… 魔王族を倒す、ヒーローの名前を。
「光神ひめ、それ以外の何物でも無い。ただの中学生よ」
これがハヤトの出会いだった。私は魔王族を倒す。そして、皆を救うヒーローになる!
私は光神ひめ、それ以外の何者でもない、ただの中学生。いつも通りの日常を過ごしていたら、その日の夜に、家族を殺され、私だけが生き残ってしまった。そこにあの人、闇神刀夜が助けてくれた。私はハヤトと共に全ての元凶である魔王族を倒すと誓った。
私の名前を聞くと刀夜は問いかけた。
「光神ひめか、見た感じ強そうには見えないが……」
「それは…… これから強くなるもん」
刀夜の言う通り、私は強くない。運動も苦手だし、戦いなんてやった事ない。
そもそも、あんな動きなんて、出来るわけ無いじゃない。でも、きっと強くなれるから!」
「そうか、いい自己PRだな」
(何か気になる物がある)
すると、刀夜は何かを見つけたみたいに、落ちていた物を拾った。それには、「ひめ 誕生日おめでとう」とかかれていた。
「これは…… お前、今日誕生日だったのか」
「これって、パパが買ってきた人形……」
袋を開けると、私が頼んだ様に、すごく可愛い、くまの人形だった。
「最後まで、お前の事を思ってたんだな。これだけは、大切に持っとけ」
私は涙を拭いながら、別れを告げた。
「パパ、ママ、今までありがとう。私は行くよ。必ず魔王族を倒して、仇をとるから……さよなら」
刀夜は両親の遺体に布を被せて、手を合わせ頭を下げた。
「ひめは必ず、俺が守る。両親の死を決して無駄にしない。だから…… 安らかに眠ってくれ」
両親に最後の挨拶をすると、刀夜がスマホで連絡を取っていた。
「こちら刀夜、住宅街で家族が被害にあった。その内、娘が無事だった。これから保護して、寮に帰宅する。死体処理を頼む」
そのまま電話を切った。
「誰と連絡してたの?」
「お前の知らない者だ。いずれ会えるさ。
もうここに用は無い。騒ぎになる前に、ここを出よう」
そうして、私の家を後にした。
刀夜と共にある場所に向かうと、私は聞いた。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「俺の住んでる学生寮。今日はそこに泊まれ」
「う、うん」
公園の通りを歩いていると、向かい側から男達が歩いてきて、私は男の一人とぶつかってしまった。
「あっ、すみません!」
「痛ってぇ、これは骨折れたな、10万、いや、20万だな」
「おいチビ、早く金出せよ」
「そ、そんなお金、持ってません」
3人が私を囲んだ。やばい、どうしよう……
「こんなチビだが、払えねぇなら、体で払ってもらうしかねぇな」
すると、刀夜が間に入り、助けようとした。
「おい、今のは、お前からぶつかっただろ。それに、たったあれだけで、折れるなんて、どんだけ弱いんだ」
「てめぇは黙ってろ!!」
一人が刀夜の顔を殴った。まずい、このままじゃ……
「早く金出せよ、そのダセェ刀おいてよ」
このままお金を渡した方が……
「おい……! モブ野郎……!」
突然ハヤトの声質が変わった。
「てめぇ! いま俺の刀のこと何言った!!」
刀夜が男の人を思いっきり鞘で殴った。
「ぐああああ!1! 痛てぇ、痛てぇよ!!」
男の人は吐血しながらぶっ飛んだ。あんなので殴られたら……
「俺の刀をバカにしてムカつかさせた野郎は、どんな奴だろうと許さねぇ!! 俺のこの刀がおもちゃみてぇだと!!」
「そんなこと言ってね……」
「確かに聞いたぞコラ!!」
力強く踏みつけた。このままじゃ、死んじゃう……
「すみませんでした…… 許してください!」
そのまま男を蹴り上げた。
「このままどうやって痛めつけてやろうか……!」
「ひぃぃぃ!!!」
「もうやめてよ!!」
私が止めに入り、3人組は立ち去っていった。
「あーあ、逃げられちまった」
「やりすぎだよ! いくらあいつが悪くても、あのままだったら死んじゃうよ!」
「悪りぃ、ついカッとなっちまった」
公園を後にし、そのまま学生寮へと向かった。
話を聞くと、刀夜は自分の刀を言われるのが一番嫌いらしい。私も怒らせない様に気を付けないと。
「着いたぞ、ここが俺の住む学生寮だ」
「神幻市にこんな大きい学校があったなんて」
窓張りの最先端な校舎を後にし、裏口から寮に入ったけど、正面からだとかなり時間掛かりそう。
その寮は、茶色のレンガで覆われていて、豪華な屋敷みたいだった。星形のマークも付いていて、看板にはスター寮と書かれていた。
中に入ると、綺麗に整頓されている談話室に来た。誰かいるのかな、そこに誰かが来た。
「この子か、刀夜が助けたのは」
「レオン先生、今戻った」
「この人……」
レオンと言う人に思わず見とれしまった。
水色の髪色で、きれいなアースアイをしていた。顔立ちも外国人みたいで、声も中性のようだった。しかも高身長。
「紹介が遅れたな、私はレオン・スターダスト。この寮の担当教師をしている」
「光神ひめです。今日はよろしくお願いします」
レオンさんはある事に気づいた。
「刀夜、その腕はどうした?」
「これか? ひめを守る時に嚙まれたんだ。たいした怪我じゃねぇよ」
「そうか、今日は安静にして休むといい」
私はレオンさんに聴いた。
「あの、今日はどこで寝ればいいですか?」
「そうだな、ひめはどこで寝たい?」
「私、今日は刀夜と一緒に寝たいです」
「いいのか? 空いてる部屋ならあるぞ」
「ううん、いいの。その方が安心だから」
刀夜に案内され、部屋に入った。でも、机や棚はあるけど、それ以外には何もなかった。
「ねぇ、刀夜は趣味とかないの?」
「いや、そう言うのを持った事が無い。たまに羨ましいって思うけどな」
私がこんな状況だったら、すごく辛いよ。
「だったら、何か集めてみなよ」
「何かって、どれを集めればいいんだ?」
「何でもいいの! 人形でもなりきりのおもちゃでもね!」
思わずテンションが上がってしまった。
「分かった。集めてみるよ」
私は着替えを借りて、お風呂に入った。疲れているのかな、力が入らなかった。
「一旦状況を整理しよう、今日いつも通り学校に行って、イツキとエルとテンセイと話した。そこから帰って、家族を殺されて、刀夜と出会った。色々ありすぎだよ」
今日はすぐ寝よう。すると、突然扉が開いた。
「今日は腕の傷を癒すか。 あっ……」
いきなり刀夜が入ってきた。
「はっ…… キャャャャ!!!」
「すまない、レオン先生に入っていいって言われたから、間違えて入ってしまった」
「そんなのいいから早く出てよ!!」
でもよく見たら刀夜は顔を赤くしていない。
ヤバいとは思ってそうだけど…… もしかして……
「私って、男の人を誘えるほど、体形よくない?」
「そういえば、見ても何も思わないな。女の裸を見て興奮するのが、全く分からない。ひめは特に色気が無い」
「それって、私が胸小さいって言ってるようなもんじゃん!! ずっと気にしてたの!早く出てってよ!!」
風呂から上がり、談話室に入ると、レオンさんに話を聴いた。
もしかして、わざと一緒に……
「ああ、ひめならと思ったが、やはりダメだったか」
「すごく恥ずかしい思いしたんだから!!」
「悪かったよ、刀夜にはそういう感情が無いからね。水着で誘おうとしても無駄だからな。もう遅い時間だ、刀夜の部屋で疲れを癒すといい」
刀夜の部屋に入り、事情を話した。
「本当にごめん!」
「もういいよ、でも一つだけ私の悩みを聴いて、そしたら許してあげる」
「ああ、わかった」
私は全てを話した。今までの辛い事も、今の気持ちも。そうしたら、少しだけ楽になった気がした。
「もう心配するな、ひめは俺が守る」
「うん、ねぇ、今日は一緒のベッドで寝よう。いいかな?」
「ああ、いいぜ。 ちょっと狭いかもだが」
そのあと、一緒のベッドで寝た。こんな安心が、ずっと続いたらな。そう思いながら、すやすやと寝た。
私、今度はあなたを守れるように頑張るから。だから、絶対に離れないでね。
「うーん、もう朝……」
いつの間にかハヤトの部屋で寝ていた私は、気が付くと朝になっていた。
「全然記憶がない、きっと疲れてたんだ」
刀夜もいないし、一階にいるのかな? ひとまず下に降りよう。
「ふわぁー、こんな眠いなんて久しぶり」
あくびをしながら、ぼさぼさになった寝ぐせを直さずに談話室にいくと、何か騒がしい声が聞こえた。
「へぇ! そんな子に出会ったんだ! 教えて教えて!」
「俺もそいつに会いてぇな! どこで知り合ったんだ?」
あの人達、誰? 多分、高校生だと思うけど……
「魔王族に襲われているところを、俺が助けた。見た感じは弱そうだが、伸びしろはある。俺の目の前にいるあの女がそうだ」
ちょっと、いきなりすぎ! まだ寝ぐせなおしてないよ!
『ああ!!』
「お前がひめか! なぁ、どこ中なんだ? どうやって知り合ったんだ?」
「ねぇねぇ! 趣味はなに? 私絵描くの好き! もっと話そうよ!」
「えと、えーと……」
初対面の人達にいきなり色んな事を聞かれて動揺していた。
「まぁその辺にしようぜ。 こいつも困ってるだろ」
「ま、まぁ……」
刀夜が止めに入ってくれて助かった。
「お前、髪変だぞ。 なにかあったの……」
「今すぐ直してきます!!!」
あまりにも恥ずかしすぎて、走って洗面所まで行ってしまった。
「もうちょっと乙女のデリカシー考えたら?」
髪を直して談話室に戻った。
「ごめんなさい、急に走っちゃって」
「全然気にしなくていいよ。女の子なら、あれくらい普通だから。でも私驚いた! ひめって、こんな可愛い子なんだ!」
「そ、そうかなー。 自分でそんなの思ったことないけど」
私は改めて自己紹介をした。
「光神ひめです。それ以外の何者でもない、ただの中学生。 これから寮でお世話になります」
「アタシはユイ、姫騎ユイ! メイクとか、絵を描くのが好き!」
髪の色はフレッシュゴールドで、明るく優しい感じがした。髪型はポニーテールで目の色はキラキラピンク色で、ギャルみたいだった。しかも、スタイル抜群で胸もでかいしすごっい美人。
「俺は、赤月カイト。ゲームと玩具が大好きな、玩具野郎だ!」
なんかすごく熱いような…… 髪の色は赤色で目の色は清んだ水色をしている。ヒーロー漫画の主人公みたい。 なんでハヤトは話さないのかな?
「これからよろしくね! そういえば、どうして寮に来たの? お家には帰んないの?」
「それは……」
私は二人に昨日起きたことを話した。 親が殺され、死にそうになった時に刀夜が助けてくれたことを……
「そっか……」
「そんなことがあったなんてな」
すると刀夜が語った。
「俺が助けに向かった時はすでに出遅れだった。本当に申し訳ないって思う」
「ふーん、もうその話、止めにしない? せっかく出会えたんだから、もっと明るくいこうよ」
「うん……、そう、だね……」
いつの間にか泣きそうになっていた私に配慮してくれたみたい。
「なぁ、俺たちが通う、高校見てみようぜ! ひめも気になるだろ。 レオン先生は今日いないし、しかも学校はオフの日だからな!」
「うん! 行きたい!」
「じゃ、早速準備だね!」
皆、本当にいい人みたい。
「改めて、これからよろしく頼むぞ、パートナーとしてな」
「これからお互いに頑張ろうね!」
とりあえず、制服に着替えようとユイと一緒に女子更衣室で着替えていた。
「すごい…… ユイってめちゃくちゃ胸でかいんだ」
「えへへー そうかなー でも、なかなかのもんでしょ」
「なんか羨ましいな。私なんて、小さすぎるから」
すると、いきなりユイが下着姿で私を眺めた。
「ちょっと、これ恥ずかしいよ」
「確かに、胸も小さいし、お尻も何ともいえない。でも、水着着たらいいんじゃない!」
「そんなこと、刀夜の前で出来ないよ」
「大丈夫だって。 刀夜にそんな感情無いから」
「それって、どういう意味?」
「そのまんまの意味よ。刀夜って、エチエチなことに全く関心無いから。女の人の水着や裸見ても、何も思わないから。だからチャンスだよ! やっちゃえばいいじゃん!」
じゃあ、やってみようかな……
その頃、男子更衣室では、カイトが刀夜に疑問を感じていた。
「なぁ、なんでお前は、女子の水着とか見ても何も思わねぇんだ」
「あれで興奮する意味が分からない」
「お前って、本当に男として大事な感情がないよなぁ」
「そう言うお前は、何で興奮したりするんだ? ただ肌が露出しているだけだろ」
刀夜が質問し返した。
「逆に聞かれると、返しに困るんだよな。なんで興奮するのかは、俺にもわかんねぇな」
制服を着て、更衣室を出た。
「ま、その内分かればいいさ。 まだひめは出て来てないか」
二人は、今頃何をしているのか想像しながら待っていた。 しばらくした後に私たちも出てきた。
「お待たせ! 相変わらずカッコいいね。刀夜っていつも魅力的だなー」
「うん、はじめて会った時から、なんだかドキドキしてる」
(俺は何も思われてないかー)
何かを感じたように刀夜は話した。
「何かカイトに思われた気もするが、まぁいい。そろそろ行くぞ」
「うん! 行こ行こ!!」
「ユイさんって、いつもあんなテンションなんだ……」
「いいなー 陽キャって」
私たちは、学校へと向かうため寮を出た。
私立神幻学園。 刀夜によれば、生徒の自由を重きにし、自主性、創造性を解放しているため、かなり自由度の高い高校みたいだった。授業をサボって、遊びに行っても、怒られることは無く注意を受けるだけだった。
窓ガラスが全体に張り巡らされている建物の中に入ると、どこからか声が聴こえた。
「見てよ、あの青髪の子、超イケメンじゃない!」
「やばい! こっち見てる!」
「あの金髪の子、可愛いな! しかも胸もでけぇって、最高かよ!」
「やめろよ、変な目で見られちゃうだろ」
刀夜とユイはまわりの生徒からかなり注目され、生徒からかなり評判いいみたい。 それに対して、私とカイトは何も言われてなかった。
「私、なんも言われないんだけど」
「いいよな、美人って。 俺もああいう風になりてぇ」
私たちがぼやいていると、ユイが何か言っているみたいだった。
「こうなったのも…… 全部アンタのせいなんだ…… 私がいつも地味だったのも」
「なにかぼやいているみたいだが、何かあったのか?」
「あっ! ううん、何でも無いよ! それより、早く行こう!」
戸惑うように、その場を受け流しているように見えるけど、気にしない方がいいかも。
廊下を歩いていると、まわりの生徒がざわついてる。何があったのか気になるけど……
「すげぇ、サエさんだ」
「あの生徒会長の……」
「あまり見ないようにしよ。 圧力で消されちゃうかも」
そこには、ひと際偉そうな女子生徒がコツコツと規則正しく歩いていた。黒髪のロングでヴァイオレットブルーの瞳をしている。
「そこ! 休みだからって、身だしなみを怠らないで!」
「あっ、すみません! 会長!」
何か気になることがあったら、すぐ注意しているようだった。
「あいつは誰だ? ずいぶん偉そうだが」
刀夜が疑問に思っていた。
「あの子は法雨サエ。この学校の生徒会長なの。あまり悪く言わない方がいいわよ。超厳しいから」
「ちょっと気に入らないからって、厳しくなりすぎだ。なぜルールに従う必要がある?」
「おい、声でかいぞ」
すると、サエが何かに気づいたようにこちらに話した。
「今、誰か言いました?」
「いえいえ、何も言ってませ」
「お前の規則正しさが気に入らねぇって言ったんだよ」
サエに対し、侮辱的な発言をした。
「何ですか、いきなり失礼なことをおっしゃるとは…… うふふ、覚悟は出来てますよね]
鋭い目つきで刀夜を睨んだ。そのあとサエが続けて言葉を放った。
「あなたみたいな社会の常識がない無礼な者は、この学校に必要ありません。挙句の果てに敬語すら使えなくて、礼儀すら知らない」
「そんな固いこと使えなくて何が悪い?
俺は誰にも縛られない。お前みたいな変な正義を持ってる奴らにはな」
「まぁ、あなたみたいな人は、すぐ消されるでしょうし」
「もう刀夜を侮辱するな!」
「えっ……?」
我慢の限界だった私は、サエに対し言いたいことを全て言ってやった。
「何も知らないくせして、これ以上悪く言うな! 私は刀夜に助けてももらったの。こんな弱い私を…… 自分が優位の立場にいるからって、人を汚すのは最低だから!!」
「何ですか! 女の子なのにこんなに無礼な態度をするとは、私を怒らせたら、どうなるか」
「ストップ!!!」
言い争いになっていた私たちにユイが止めに入った。
「これ以上はやめようよ。もう見るもの見たしそろそろ帰ろう、ね」
「ああ、すみませんでした」
カイトとユイの止めもあり、何とか抑えた。するとサエが宣言する。
「闇神刀夜…… でしたっけ? 今度会ったら、私が、お仕置きして差し上げますわ。その時が来れば、あなたを直々に潰して差し上げます」
「もうこれ以上」
「面白い!」
突然の返答に3人とも驚く。
「ちょっと、自分が何言ってんのか分かってんの!」
「生徒会長を怒らせたんだぞ。今すぐ謝れば」
「潰せるもんなら潰せてみろ。俺を倒せるならな」
ヤバいと思いながら何も出来ない。このままじゃ……
「分かりました。なら1か月だけ、猶予を与えましょう。その日の全校集会で私の演説より生徒の心を動かしたら、あなたの勝ち。簡単でしょ」
「上等だ。その勝負、俺が勝つ」
「では、楽しみにしてますわ」
そう言って、コツコツと立ち去って行った。
「何よあいつ! まじ最低!」
「落ち着け落ち着け、ここにいたら、注目を浴びる。場所を変えよう」
私たちは寿樹のある広場に出た。
「本当に大変なことになっちゃったよ」
「これからどうすんだ、下手すれば退学になるぞ」
「いや、楽しみになってきた。この学校の正義を正せるチャンスだからな」
「そうだよ! 刀夜ならサエを返り討ちにできるから!」
私はハヤトの目から感じ取った。この勝負は絶対勝てるって!
「でも、どうやって勝つんだよ。相手は生徒会長だぞ。策はないのか?」
「ああ、無い」
「無いって、このままじゃ本当に退学になっちゃうよ! やっぱり謝りに行こう」
みんなギスギスしてる。私から3人に話した。
「ねぇ、今日はもうやめにしよう。一旦この話はお終い。もう暗くなってきたし、そろそろ帰ろう」
「……。そうだね、気にしても仕方ないし、今日は私がご飯作るから」
「本当に大丈夫なのか……」
「ああ、気にするな。だから、信じろって」
「だいぶ不安だけど、刀夜を信じるよ」
4人で話し合いながら、学生寮へと足を運んだ。
もう日が暮れたころ、学校を見回りしていた警備員が、寿樹の道に一人でいた黒髪のショートカットの少女に声を掛けた。
「ここの生徒かい? 夜は危ないからもう帰りなさい。家まで送るから」
「ううん、その必要ないよ。だって私、魔王族だから」
腕が異形の刃物状になり警備員が恐怖で腰を抜かした。
「ああ……、誰か、助けてくれ!」
「あなたの血、私にちょうだい」
目を赤くして襲い掛かろうとした時、刀夜が駆けつけ、少女の腕を切った。
「この感触、クラスAの魔王族か。早く逃げろ!」
「はい、ありがとうございます」
足早に警備員も立ち去った。
「ちょっと刀夜、いきなり走らないでよ」
「追いつくのがやっとだぜ」
「運動苦手なのに……」
遅れて私たちも到着した。
「悪いな、どうも悪い予感がしてな」
目の前には、異形の片腕を生やした少女がいた。
「何あの女の子!?」
「もしかして、魔王族!?」
「人型なんて、初めて見るぞ」
「私の邪魔ばっかして、全員皆殺しよ!」
魔王族の少女が刀夜に向かって切り込もうとする。すぐさま、2本の刀で受け止める。
「お前ら、早く逃げろ!」
「そんな、私も戦うよ!」
「危険だ! お前はまだ組織に入ってないだろ」
「でも……」
「よそ見してる場合かな!」
少女の連続攻撃に2本の刀で受けとめる。
ユイが私を引っ張って立ち去った。
「ちょっと、離して!」
「ここは刀夜に任せて離れるよ」
「頼んだぜ」
刀夜と少女だけになり、先に少女が先制攻撃した。
「これで終わり!」
「はぁ!!」
少女が攻撃した時、刀夜の反撃で頭を切られた。
「そんな、たった一撃で……」
「お前の脳髄は砕かれた。時期に死ぬ。
魔王族になったことを悔み、安らかに眠れ」
「ああ…… このまま、死……」
そのまま少女は息絶えた。少女が死んだのを確認すると刀夜が誰かに連絡した。
「クラスAの魔王族を倒した。死体処理を頼む」
連絡を終えた後に、刀夜は私たちと合流した。
「刀夜! 怪我とかしてない?」
「ああ、案外早く片付いた」
「でも、どういうことなんだよ!?」
「人型の魔王族がいるなんて、聞いてないよ!」
「詳しい話は寮に戻ってからだ。一旦帰るぞ」
「う、うん」
色々な事が起きたけど、足早に学生寮に向かった。
寮に入ると、そこにはレオン先生がいた。
「お帰り、どうやら色々なことが起きたみたいじゃないか」
「色々ありすぎだよ。 ねぇ、レオン先生は知ってるの? 人型の魔王族がいるってことを」
「そうか、まだ君たちには伝えてなかったか」
やっぱり、何か知っているみたい。そこにユイとカイトも問い詰める。
「ねぇ、どういうことなの!」
「なぁ、教えてくれよ」
「落ち着け、レオン先生も困ってるだろ」
刀夜が間に入る。
「別に困ってるわけじゃないがな。 いいだろう、教えるよ。本当は組織の者以外には言わない決まりだが」
レオン先生は、私たちに向けて語った。
魔王族は、大きく分けて4段階に分けられる。クラスC『デッド』、クラスB『デモンズ』、クラスA『ヒューマン』
そして、クラスS『アーク』だ。一番下のクラスC、簡単に言えば、ゾンビのように事故で発生した者だ。魔王族に殺された死体が、血を浴びて変異し、生き返った。
クラスBは何らかの理由でデッドが突然変異し異形の怪物になった姿。ひめの親を殺したのも、クラスBの怪物だ。君たちが今回遭遇したクラスA『ヒューマン』は魔王族の血との適合に成功した者だ。クラスBの数段強い。恐らく、誰かが、実験をして生み出すのだろう。しかし、クラスS『アーク』は厄介だ。
さらなる適合に成功し、強力な能力までもつ。クラスAの何倍もの強さだ。その上がいるとの情報もあるが、はっきりとしたことはまだ分かってていない。
「ここまでが、ざっくりとした魔王族の情報だ」
「魔王族も、元は同じ人間だったなんて」
レオン先生の話にまだ手が震えていた。
「ねぇ、どうやったら組織に入れるの!? 私も入って、魔王族と戦う!」
「早く入りたいんだけど!」
「俺も何かの役に立てるはずだ!」
「ダメだ」
刀夜がキッパリと言った。
「そんな! どうして!?」
「今のお前らが入ったって、すぐに死ぬだけだ」
「だから!」
その後、続けて私たちに向かって言った。
「だから、俺がお前たちのことを見てやる。組織に入っても死なねぇようにな」
「じゃあ、刀夜が俺たちを鍛えてくれるのか」
「ああ、理解が早くて助かる」
私は決意を顕しした。
「刀夜、何があってもくじけない。私を助けてくれたように、今度は私が助けるから!」
「ひめ、カッコいい!」
ユイが頭を撫でてくれた。
「これから頑張れよ。俺の教えは甘くないからな」
『うん!1!』
「ああ!」
こうして、私たちはハヤトに弟子入りする。必ず組織に入って、魔王族を倒すんだから!!
その日の夜、刀夜が風呂から上がると、私が準備していた。
「なんだ? タオルなんか巻いて」
「どうした? ひめ」
そこにカイトも来ると、タオルを外して、私の水着姿を見せた。
「こうで…… いいのかな……」
「あっ」
「ああーー!!」
すごく恥ずかしそうにして刀夜を誘った。
「今日は二人で居ようね……」
となりでカイトが顔を赤くして、こらえているのに対し、刀夜は寒い目で私を見ていた。
「こんな恰好して、寒くないのか? これはどういう意図だ?」
「うう…… やっぱり無理!!」
あまりの恥ずかしさに、死にそうになった私は、タオルで全身を隠した。
「あー、やっぱりダメだったか」
ユイに言われて、さらに恥ずかしくなった。
「もう、マジで無理……」
カイトが鼻血を出して倒れてしまった。
「おい、大丈夫か」
この状況、どうするのよ!!
刀夜の住む学生寮に来てから1週間が経った。私は自分の部屋でベッドから出れないでいた。
「ううー、頭も身体も痛い」
私は連日の訓練で、疲れ果てていた。
「よし、まずはこの刀で素振りをしてみろ。話はそれからだ」
朝の庭でいきなり言われた言葉だ。
「えっ、これを持つの?」
カイトが試しに持ってみた。
「重!! こんなの振れる分けねぇだろ!」
「私、もう無理ー」
ユイも持つだけで精一杯だった。
「ううー こんなの持てないよ」
私に至っては持つことすら出来なかった。「なんだ、情けない。この素振りを100回してもらおうと思ったんだが」
「100回!!?」
「そんな数、無理に決まってるじゃねぇか!」
ここ1週間は刀に触りっぱなしの日々。カイトは50回、ユイは30回出来たけど、私は10回が限界だった。
「やっぱり私、戦うのに向いてないのかな…… 学校にもしばらく通えてないし」
10回振っただけで、腕がバキバキなるから、諦めたほうがいいのかな? イツキ、エル、テンセイも心配してるだろうな。
「ううん、諦めちゃダメだよ! 私はヒーローになるんだから!」
布団から出て談話室に行くと、そこにはレオン先生しか居なかった。
「あれ、みんなは?」
「カイトとユイは疲れて寝たよ」
「えっ、もうそんな時間……」
「ああ、夜8時だ」
「8時!!? そんな時間まで寝てたんだ…… ねぇ、刀夜は?」
「外に出たよ」
「外、こんな遅くにどこ行くんだろう寮母さんがいたら絶対怒られるよ」
「居ないよ。ここの寮に現職の寮母は居ない」
「ええ!! 私、刀夜を探してくる! すぐ戻るから!」
「あまり遅くならないようにね」
刀夜を追って出て行ったけど、どこにいるんだろう。そう思ったのも束の間、刀夜が森の中に入っていくのを見つけた。
「いた! でも、なんでこんな所にきたの?」
バレないように後ろから付いて行った。
この森、かなり不気味な気配がした。早く帰ったほうがいいって。不安と焦りが入交ながら後をついてい行った。
しばらく進んだけど、どこまで行く気? すると、刀夜が一声上げた。
「ひめ、そこに居るんだろ、出て来いよ」
気づかれたようなので、刀夜前へ出た。
「あ、あれー、すぐ分かった?」
「ああ、森に入った時からな。なんで付いてきたんだ?」
「だって、こんな所に一人で行くから、不安で、つい…… どこに向かってたの?」
「着けば分かる」
そう言って刀夜にて付いて行った。
奥に進んでいくに連れ、どんどん不気味になっていった。
「ねぇ、もう帰ろうよ」
「待て、見えたぞ。あれだ」
どうやら目的地に着いたみたい。奥に見えるのは幽霊が出てきそうな井戸があった。
「ひっ……! もう帰ろう! もうワガママ言わないから!」
刀夜が近づくと、井戸から恐ろしい気配がしてきた。そこから、髪の長い幽霊が現れた。
「キャァァ!!!」
私が思わず叫ぶと刀夜は徐々に近づいた。
「ああー あああ!」
幽霊が奇声を放っていた。まずいよ、このままじゃ……
「ようやく会えたな。幽霊さん」
刀夜が幽霊に触れていた。
「ああー! って? もしかして、驚いてない?」
あれ? この幽霊、喋れるの?
「ツベコベ言わずに、素顔を晒せ!」
「キャァ! やめて!」
「ちょっと、何してるの、って……」
井戸に近づくと私は幽霊の素顔を見た。
整った顔をして、金色の瞳をしていた。
「意外と、可愛い……」
「ううー、 誰にも見られたことなかったのに」
刀夜が確認の質問をした。
「お前が噂の幽霊か?」
「ま、まぁ、一応」
「俺の寮に来てくれ、話がある」
「う、うん」
そう言いながら、幽霊ろ共に学生寮に向かった。いきなりのことに信じられなかったけど、現実だと信じて連れて帰った。
「ただいまー」
寮に帰ると、カイトとユイが出迎えた。
「お帰り。ひめ、ぐっすりだったから、起こさなかったよ」
「まさか俺たちが疲れて寝ている時なんてな」
私の後ろから刀夜も帰ってきた。でも、後ろには幽霊が付いてきていた。
「すまない、席を外した」
「ああー……」
『ギャァァァ!!!!』
二人の甲高い悲鳴が響き渡った。
「井戸の中の! アレが…… アレがいる!!」
「やべぇ…… 見ちゃいけない何かが見える……」
二人が震えているのを通り過ぎて、レオン先生が言葉を放った。
「いらっしゃい。これは変わったお客さんだね。お茶を用意するから、好きなところに座ってください」
まるで紳士みたいにもてなした。
「もてなすって、怖くないの!?」
「お前ら、ビビりすぎだ。こいつ普通に接することが出来る。素顔を見れば怖くない」
「んなこと言われたって」
カイトが恐る恐る髪を上げると、顔を赤くして恥ずかしがる幽霊の顔があった。
「い、意外と可愛い……」
「すっごい美人……」
「あんまり…… 見ないでください」
カイトが顔を赤くして謝った。
「あっ! すみません! つい!」
「立ち話もあれですし、ゆっくり話しましょうか」
レオン先生の一言で、私たちは席に付いた。
用意されたコーヒーを一口飲んだ幽霊にまず名前を訊いた。
「あの、お名前、お伺いしてもいいですか?」
「ゆ、幽子…… です」
どうやらかなりの恥ずかしがりやみたいだった。
「なんで井戸にずっと居たんだ?」
刀夜の質問に対して幽子さんは答えた。
「昔…… 付き合ってた恋人が居たんです。でも、他の女に浮気されて、口封じの為に井戸に落とされて、そのまま死にました」
とても悲惨な事件だった。聴いていて、心が苦しくなるよ。 ユイが思わず叫んだ。
「酷い! 誰よ! 幽子さんを殺したクソ野郎は!!」
「この話も、40年前になるので」
「マジでムカついてきたぜ! 犯人を見つけたら、ぶっ殺してやる!」
そこにレオン先生が二人を落ち着かせる。
「まぁ落ち着け。既に犯人の男は逮捕されてる」
「いつの間に調べたんだ?」
「さっき幽子さんが話している時間だよ。感がいいな、刀夜。その男は刑務所で服役中に自殺したらしい」
「よく出てきたね……」
幽子さんが私に訴えた。
「お願いです! 私を成仏してください! もうずっと独りぼっちで…… 亡くなった母の元に会いたいんです!」
「でも、せっかく出会えたのに…… いきなりそんなこと出来ないよ」
「そんな…… 私が居ても、邪魔なだけなのに……」
幽子さんの表情が暗くなると、ハヤトがある提案をする」
「だったら、ここの寮母やってみないか?」
「刀夜、いきなり何言って」
「まんまの意味だよ。今は寮母が居ないんだ」
幽子が問いかける。
「私に何を吹きかけてるの?」
「2度目の人生をやり直さないかって言ってるんだ。どうせあの世に行くなら、楽しんでいったほうがいいって思ったんだけどな」
「刀夜君……」
刀夜の激励に、幽子さんは心を動かされたみたい。
「でも、私には実態が無いし」
そうか、もう死んでるんだもんね。すると、レオン先生がいきなり話した。
「あるよ。君が生き返る方法が」
「本当にあるの!?」
「そんなこと出来るのかよ!?」
「本当に生き返る分じけゃないが、それに近いことは出来る」
「何をするの?」
「憑依するんだ。今、アレを持ってくる」
「俺も手伝う」
レオン先生と刀夜が物置へと行って、あるものを取ってきた。
「これは、マネキン……?」
続けてレオン先生が話した。
「これに憑依すれば、生きているのに近い状態になれる。しかも、一工夫も出来る優れモノだ」
「じゃあ、やってみます」
幽子さんが、マネキンに手を触れる。すると、突然マネキンが光りだした。
「きたか」
「何が起こるの!?」
「キャァ!」
光が無くなると、目の前には一人の女性がいた。黒髪のロングで目の色は会ったときと同じ金色。一番の違いは、顔が隠れていなくて、素顔が出ていることだ。しかも、胸も大きくて、お尻も色気を出してる。もしかして、幽子さん!?
「本当に実体化してる…… これが、本当に私?」
「どうやら成功したらしいな」
「ああ、これで寮母をやれるはずだ」
「やった! これからよろしくね、幽子さん!」
「ええ、よろしくね。ずっと気になってたんだけど、どうしてカイト君は顔が赤いの」
「あの、すごく言いづらいんですが、そろそろ服を……」
「えっ、それってつまり……」
「幽子、エロい」
改めてみると、幽子さんは裸で立っていた。
「キャァァァ!!!! お願い!! 見ないで!!」
「今すぐ服持ってくるから! ほら! 男子は向こう向いて!」
「あっ! ごめん! 刀夜も一旦離れるぞ」
「ああ、分かった」
相変わらず反応が薄かった。やっぱりこういうのを見ても何も思わないんだね。
30分後、着替え終えた幽子さんがハヤト達の前に現れた。白の生地に、黄色のラインが入ったワンピースを着ていた。
「すげー可愛い」
「中々美人だな」
「改めて、これからよろしくお願いします」
幽子さんの笑顔に、思わず癒された。
「ああ、寮母は任せたぞ、幽子」
「……! やっぱり恥ずかしい!」
恥ずかしがりやなのは変わんないけど、これから明るくなりそうだった。
「そんな君たちに嬉しい情報だ」
「いきなり何の情報?」
「来週の週明けから、ひめは中学校に通える事になった」
「嘘!!? 本当に最高なんだけど!」
「よかったね、ひめ」
「うん、皆のおかげだよ」
中学校の前に行くと、久しぶりの空気にドキドキした。
「1週間ぶりか。よし! 頑張ろう!」
きっとこの日が幸せになりますように、そう思いながら、前へ踏み出した。
1週間ぶりの学校にドキドキしながら校門をくぐった。そのまま何事もなく教室へと向かう。
「やっぱり緊張するなー でも、久しぶりに会えるんだから!」
私は扉を開けて教室に入った。
「おはよう! みんな、元気にしてた?」
いきなり入ると、クラスメイトが心配そうに声を掛けた。
「ひめ! 大丈夫だった? 両親、大変だったね」
「なんか、事故にあったって」
「事故? あっ」
レオン先生の言葉を思い出した。親は事故で入院していることにしてあると。魔王族のことは、世間からは伏せられている為だった。
「うん、大変だったよ。あの時はどうなるかと思ったよ」
でも、あんなことが起きたなんて言えないよ。パパとママが殺されちゃったなんて。
「何があったんだよ!?」
「この辺りで事故なんてあった?」
「その後はどうなった?」
色々質問されて、頭がおかしくなりそう。
こんなに聞かれても答えられないよ。
「ちょっと! ひめが困ってるでしょ!」
「そうです! 一回落ち着いてください」
そこに、イツキとエルが落ち着かせてくれた。
「大丈夫か、ひめ」
「うん、ありがとう」
テンセイが寄り添ってくれた。
「ごめん、わざとじゃないの」
「混乱させて悪いな」
「ううん、気にしないで」
みんな謝ってくれた。やっぱり、私はもうクラスにはなじめないのかな。そう思っていると、頭の中にあの日のことが浮かび上がってしまった。突然思い出してしまい、私はふらついて倒れてしまった。
「ひめ! 大丈夫!?」
そこに担任の先生も来た。
「ひめ! これはどうなってるんだ?」
「先生、俺が保健室に連れてきます」
「ああ、頼んだぞ」
私は3人に連れられ、保健室に向かった。
私たちが保健室に入ると、今は誰も居なかった。
「とりあえずベッドに寝かせよう」
ベッドに寝そべり、そのまま眠った。
「よっぽど疲れてる」
「何か、すごく重いことでもあったのでしょうか?」
「ひめに何が起きたんだ?」
3人が不穏な空気になると、突然扉が開いて誰かが入ってきた。
「やっぱり、ひめは無理そうだったか」
突然入ってきた少年にイツキは警戒した。
「あなた誰ですか? ひめの何?」
「闇神刀夜、それ以外の何者でもない、
ただの剣士だ。安心しろ、ひめを迎えに来ただけだ」
「勝手に入ってきて、そんなこと」
「許可は取っているはずだがな」
「ひめの何だか知らねぇが、あんたがヤバいことしてるってことだけは分かる」
言い争いになってる状況に私は心が苦しくなった。もうやめて…… これ以上傷つけあわないで。
「いい加減に……!」
イツキが殴りかかろうとしたとき、私は思わず叫んだ。
「もうやめて!! 刀夜は何も悪くないの」
「ひめ、ごめん、起こしちゃって」
「ううん、いいの」
刀夜が私に近づいて話した。
「大丈夫か、疲れてる時に行くなんて、無茶するな。でも、よく頑張ったな。今日はお前に海鮮丼作ってやるよ」
「う、うん。ごめんなさい、心配掛けちゃって」
刀夜の対応に思わず涙を流した。
「すみませんでした。傷つけるようなこと言って」
「ごめんなさい」
「ひめのこと、頼みます」
「ああ、任せろ」
刀夜に連れられ、保健室に出ようとすると、イツキが刀夜に対し質問した。
「本当は、ひめに何があったんですか?
いつもはこんなこと無いのに、すごく辛そうだった。さっき剣士って名乗ってましたけど、ひめの親は、噂になってる怪物に襲われたんじゃないですか?」
言えない。本当のことは……
「今はまだ言えない。いずれその時が来たら、話してやる」
そう言って、私たちは去った。
「……、なんで、本当のこと言ってくれないのよ。親友でしょ」
「やっぱり、重いことが……」
「……、」
学校を出て木々が生い茂る道を歩いていた。
「ねぇ、なんでごまかさないの? 嘘言えばよかったのに」
「そうだな、でも、俺嘘つくのが苦手でな」
嘘が付けなかったのかな?
「ごめん、迷惑かけちゃったね、私の友達にも、疑わせちゃって」
「気にするな、本当のことは言ってないからな。疑われても無理はない」
私は疑問に思い、刀夜に聞いた。
「ねぇ、魔王族のことって、本当に秘密にしなきゃいけないの? 刀夜みたいな剣士が公表されなくてもいいの?」
「ああ、そういう決まりだからな。せっかくだから話してやるよ、いい機会だしな」
刀夜は私に教えてくれた。
俺たちの入っている組織は、魔王族と戦える唯一の部隊だ。対魔王族機動部隊「光剣のドラゴン」誰が創設したのかは、司令官以外知らないらしい。人数は俺含めて、10人しかいないが、その分実力のある奴ばかりだ。最低でもクラスB以上の強さだ。世間から公表しないのは、政府公認の組織じゃないからだ。魔王族のことが世間に知れ渡れば、世の中は混乱し、何が起こるかわからない。下手すれば、人間同士で争いあうかもしれないからな。俺の知っている組織のメンバーは、司令官のセイヴァー・シャイニング、
司祭のレオン・スターダスト、俺の先輩剣士でもあり隊長の苺谷フィア、レオンの同期である神剣サガラ、レオンの後輩の九条リン、医師のポラリス、ひめと同い年の剣士のミユキ・サカイ。そして、エースの俺だ。あと一人の行方が分からなくなっているが、詳しいことは俺も知らない。組織にいるやつらのほとんどが、魔王族に恨みのあるものばかりだ。この世から魔王族を駆逐するため、俺たちは日々戦っている。
「こんな感じだな。お前の知りたい情報は」
「まるでSF映画みたいだよ」
刀夜の所属してる組織が、こんな重い気持ちを背負ってるんだなんて。でも、いずれ私も組織に入ることになる。すると、突然刀夜が立ち止まって言葉を発した。
「そこに隠れてる奴、出て来いよ」
「えっ、誰かいるの?」
茂みの中から、イツキ、エル、テンセイが出てきた。
「みんな、何でここにいるの?」
「ひめが心配で付いてきちゃった」
刀夜が問いかけた。
「今の話、お前ら聴いてたのか?」
「何か、聞いちゃいけないことを聴いてしまったような……」
「やっぱり、ひめの親は怪物に殺されてたんだな……」
秘密にしていたことを聴かれてしまった。どうしよう、レオン先生には秘密にしろって言われたのに。
「刀夜さんは、一体何者なの……」
イツキが疑問に思ったときだった。
「お前ら! 今すぐそこから離れろ!」
「えっ…… キャァァ!」
背後から昆虫のような人型の怪物がエルを掴んで飛行した。
「エル! なんだあの怪物は……」
「クラスBの魔王族か。ここで倒してひめの友人を救わなきゃな」
空中を飛んでる怪物に、刀夜は木に飛びけって、怪物を刀で斬った。
「人質を取られて攻撃が難しいな。なら!」
ハヤトは銃を取り出した。
「そんなもの、どこで手に入れたのよ!?」
「護身用に持っているだけだ。これを使う」
刀夜は怪物の頭をピンポイントで撃った。
「キャァァ!」
落ちていったエルをキャッチした。
「大丈夫か。 ……!?」
「はい、ありがとうございます。 ……、どうしたのですか?」
「あっ、いや、なんでもない」
「すごい、あの怪物をピンポイントで倒すなんて」
エルを助けだして、私たちの元へ駆け寄った。
「エルを助けてくれてありがとう」
「ひめの友人だろ。怪物を倒すために俺がいるからな」
刀夜が3人に対して問いかけた。
「まだ、午前だぞ。なぜここにいる?」
「それが、勝手に学校を抜け出しちゃって」
「仕方ねぇじゃん、ひめが心配だったからよ」
「まぁいい、さっきのことは誰にも言うな。このまま学校に戻れ」
3人が納得した表情になり、そのまま学校へと足早に戻った。
「気を付けてね!」
「体調崩すなよ!」
そのまま手を振って見送った。
「そういえば、刀夜は学校どうしたの? 今日、平日だよね」
「途中で抜けてきた」
また怒られるな。刀夜と共に、学生寮へと向かった。
私は学校に戻る前にやらなければならないことがあったと告げて二人に付いてきてほしいと言いました。
「なぁ、急にどうしたんだよ」
「学校に戻る前に用があるって言ってたけど」
イツキとテンセイを連れて、近くにある廃工場に来ました。
「すいません、急にここに来ちゃって。ちょっと私の用事に付き合って欲しいんです」
「用事って?」
「うふふ、すぐ終わりますから」
私はある者を呼び出してこう言いました。
「今すぐ楽にしてあげますね」
その日の夜、私はカイトとユイに今日起きた出来事を話した。
「そりゃ災難だったね」
「ひめの友人は大丈夫だったのか?」
「秘密にしろって、刀夜に言われてたから大丈夫だよ」
すると、幽子さんが料理を持ってきてくれた。
「えへへ、思い切って海鮮丼作ちゃった」
「今日の晩飯は豪華だな」
「思いっきり食べるわよ!」
刀夜が頼んでくれたんだね。
「よし、たくさん食べよう!」
「いっぱい食べてね」
俺は寮の物置でレオンに状況を聞かれていた。
「今日の怪物はどうだった?」
「何だよ急に、そこまで強くなかったが」
「そうか」
俺はレオンから耳を疑うことを聴いた。
「あの怪物なんだが、魔王族になった形跡が新しい。しかも、行方不明になっていた男性とのDNAが、完全に一致した」
「何だと! 俺は一般人を殺したのか……」
俺はレオンにあることを問う。
「なぁ、葉月エルって知ってるか?」
「ひめの友人か。それがどうした?」
「いや、彼女から恐ろしい何かを感じてな。狂気に満ち溢れた笑顔があったような気がするんだ」
何か裏がある。なぜそう思うんだ? その疑問が、頭の中から離れない。
「分かった。彼女のことをキープしてみる。何かあったら連絡する」
「ああ、頼んだ」
話を終えて俺は談話室に戻った。
今から夜ごはんを食べようとした時、刀夜とレオン先生が戻ってきた。
「二人共遅いー」
「ごはん冷めちまうぞ」
幽子さんが何か気になっていた。
「どうしたの? そんな険しい顔して」
「ああっ! いや、何でもない」
「今日は刀夜の大好きな海鮮丼か。中々張りきったな」
「久しぶりの買い物だったからつい!」
「じゃあ、そろそろ食べよう! みんな揃ったしね」
全員が席に付いた。じゃあ、みんなで一斉に……
『いただきます!!』
刀夜は豪快に醤油とかけて食べていた。
「やっぱり、マグロは外せねぇよな」
「ちょっと、私にも!」
「俺も欲しいぞ!」
「ほら、取り合いしないの」
みんなとっても美味しそうに食事してる。
何だか久しぶり。すると、レオン先生が私にあることを……
「ひめ、あの3人が刀夜の話したことを耳にしたというのは本当か?」
「あっ、ああー!! 違うの! 別にイツキたちは悪くなくて! その」
「別にせめてるわけじゃ無いんだが……
あの話を知る者には、危険がまとわりつくからな」
「なんか悪いことしちゃったかな」
「ひめは悪くない。自分をせめなくていいぞ。 なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「何かあるの?」
刀夜が私に質問してきた。
「葉月エルについて、何か心当たりはないか?」
「えっ、別に、いつもと変わんないけど」
「そうか、わりぃな、疑問が晴れた」
「う、うん」
何を聞きたかったのかな?
ごはんを食べ終え、全員風呂に入り、ひめたちは寝た。そんな夜遅くにレオンが俺を談話室に呼んだ。
「どうした、こんな夜遅くに」
「最後に…… ひめの友人を見たのはいつだ?」
「いつって、ひめの帰りを見送った時だが」
レオン先生が恐ろしいことを口にする。
「イツキとテンセイが、まだ帰宅していないそうだ」
「なん、だと……」
まさか、あいつが……
「どうやらお前の予感は当たってしまったらしい。葉月エルについてだが、行方不明になり、親の素性も不明だった」
「てことは……」
「ああ、葉月エルには裏の顔がある」
とある廃校に私は身を潜めていました。
「ようやくこの時が来ました。刀夜君を私の、いや、我らの仲間に引き戻すことを」
ボロボロになった教室の中でその時を待っている。
「ようやく始まったのね」
後ろから、紫色の髪をして、猫耳の付いた女性が声をかけた。
「これはこれは、猫耳みくる様、クラスSの方に協力して頂けるなんて、とても光栄です」
そう、彼女はクラスSの魔王族。幹部級の強さを持つ偉大な方です。しかも、飛び切り人を憎んでいる。
「素敵ね、刀夜に近づくために自分が魔王族だってことをかくしてひめの友達のふりをしたからね。それで、ついでにできたイツキとテンセイはどうしたの?」
みくる様の問いかけに私は答えました。
「はい、イツキさんは別のことに使う予定ですのでまだ生かしてますが、テンセイは飼いならしている私のペットの餌にしちゃいました。刀夜をおびき出す為に、今は廃工場でペットと一緒におねんねしてます」
「うふふ、そんな清楚な緑色の髪色をして、考えてること最高じゃない。期待してるわよ、魔王族のエルちゃん」
私の話を聴いたみくる様は緩やかな表情でこの場を後にしました。そして…… 片腕を銃形状にして、言葉を述べてこういいました。
「待っててくださいね。闇神刀夜、いや、蒼き死神さん」
きっと刀夜なら、分かってくれますよね?
夜遅い時間。私の前で、何かが起きていた。
「助けて…… 痛いよ……」
イツキ!? 早く助けないと、怪物に襲われてる!
「いやだ、死にたくない! 死にたくない! ああああ!!!」
テンセイが怪物に捕食されてる…… もういや…… いやぁぁぁぁ!!!
「いやああぁぁ!!! はぁ…… はぁ…… 夢……」
時計を見ると、午後11時30分になっていた。なんんだろう、すごく嫌な予感がする…… さっきの夢、酷い悪夢だったな。
水を飲もうと下に降りると、そこにカイトとユイ、幽子さんがいた。こんな夜遅くに、なんで起きてるの?
「ひめ! 大丈夫!? すごく顔色悪いけど……」
「うん、ちょっと悪い夢見ちゃっただけ。」
すると、私はカイトから信じられないことを耳にする。
「ひめ、落ち着いて聞いてくれ。イツキとテンセイが、行方不明になったらしいんだ」
えっ…… それって、どういう……
「今、刀夜とレオン先生が探しに行ってる」
信じられなかった。まさか、夢で起きたことが、現実に……
「嘘だ…… そんなことないよ! きっと二人は無事なんだから!」
「……、刀夜からは、ここで待っててくれと伝言を受けてわ」
幽子さんの言葉を聞いて、私は思い出した。
「エルは……、エルは無事なの!? 言わなかったってことは平気ってことだよね!!?」
「……、あまり言いたくないんだが、もしかしたら、エルが犯人かも知れない」
カイトの言葉に、耳を疑った。
「最初にエルに出会ったのはいつだ?」
「入学した時に同じクラスになって、それから仲良くなった」
幽子さんが私に対して発言した。
「エルのことは…… もう忘れなさい。
確証はないけど、ハヤトが言うからには」
「そんなことないよ!! エルのことを悪く言うな!!!」
突然のことを言われて怒鳴ってしまった。
「ごめんなさい、そんなつもりで言った訳じゃなくて」
「冷静になれない気持ちもわかるけど、ここは刀夜を信じて待とう、ね」
「……、ごめん、いきなり大きな声出しちゃって」
私は祈った。お願い神様、もうこれ以上、私から何も奪わないでください。
まさかこんな夜遅くに捜査する羽目になるなんてな。俺は行方不明になったイツキとテンセイを探して、最後に目撃された廃工場へと来た。深夜になるとかなり不気味な場所にくるなんて、やっぱりおかしい。
「どこだ…… どこにいる……」
ライトを照らして辺りを調べていると、何かが落ちているのを見つけたしかも血のようなものまで付いてる。写真には、テンセイが映っていた。
「これは、テンセイの生徒手帳」
すぐに先を調べようとすると、突然目の前から巨体の怪物がのしかかってきた。
「くそ! なんでこいつがいるんだ!」
必死に抵抗しながら、刀を抜き取って、
脳髄を刺した。奇声を上げながら怪物は息絶えたようだ。
「巨体のくせに感触が弱い」
まるで俺を試しているようだ。
「あれは、人の……、足……」
すぐにそこに向かうと、そこには、無残に食いつくされたテンセイの遺体があった。
「なんてことだ…… 助けられなかった、また一人……」
もう身体の原型はなく、内臓まで引き裂かれてる。唯一顔だけが目の開いた状態で苦しそうな表情をして半分残っている。
すると、俺のスマホからメールが届いた。
「誰からだ……、 これは……」
メールのメッセージを見て、俺はある場所へ急いで向かった。
深夜12時30分、怖くて手を震えながら待っていた。いつでも出れるように制服にも着替えてある。
「お願い、戻ってきて……」
そう祈り続けていると、ドアが開いて、レオン先生が戻ってきた。
「レオン! どうだった、二人は見つかったの!?」
「大丈夫…… なんでしょ」
「その表情、まさか……!」
レオン先生は明らかに暗い表情をしていた。
「テンセイが、遺体で発見されたそうだ。」
「えっ……! 嘘……」
「さっき連絡があった。最後に目撃された廃工場でが刀夜見つけた。状況をみて、襲ってきた怪物に捕食されていたらしい」
あまりの事実に信じられず、私は寮を飛び出した。
「待て! どこへ行く!」
「私たちも追いかけましょう」
涙をこらえながら走った。その事実を信じられずに。廃工場の中に入っていくと、私は恐ろしいものを見てしまった。
「あっ…… ああ……」
そこには、巨体の怪物と、テンセイの死体があった。
「嘘、嘘だよ! テンセイ!! テンセイ!!」
なんで、殺されなきゃいけないの…… ただヒーローが大好きだっただけなのに、
ただ私と話しかけてくれただけなのに、こんなのって……
「今日のあれ、カッコよかったよな!」
「今日何するんだ? また特撮について語ろうぜ」
「なれるといいな、幼稚園の先生に。俺も、特撮俳優目指してるからな」
いつもの日常を思い出して、涙が止まらなかった。またひとつ、失ってしまった。
「あああああ!! ああぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ私に、あったかい何かが包んだ。
ユイが、後ろから涙を流して抱きしめてくれていた。
「こんなことしか、力になれなくてごめん…… 辛かったよね…… 苦しかったよね…… 一緒に涙を流すことしかできなくて、本当にごめん…… ごめんね……」
「ユイ…… ぐすっ、うあああん……」
そこに、カイトたちもきた。
「ひめ…… クっ、畜生!!」
カイトが壁に手を叩きつけた。
「何てクズなの…… 許せない……!
ひめの友達を殺したやつだけは……!」
幽子さんが怒りを顕にして言った。すると、レオン先生がテンセイの前に来て、手を握って宣言した。
「テンセイ、お前の死は、決して無駄にしない。敵を討つから、見ていてくれ。約束する、必ず魔王族を駆逐する!」
みんなが悔しがってくれた。いつも助けられてばかりだよ。
「テンセイのポケットの中に何かある」
レオン先生が調べると、紙で書かれた手紙が書いていた。
「刀夜からだ」
「私が読むよ」
刀夜からのメッセージを読んだ。
この場所に来たんだな。助けられなくてごめん。この仇は俺が必ず討る。
犯人は間違いなく葉月エルだ。俺は、これから、廃校へと向かう。お前たちを死なせたくない。出来れば来ないでほしい。ひめ、お前ばっか辛い思いさせて、何も出来なくて、本当にすまない。いつかお前に光が灯る日を、心から願ってる。
だから、一人で戦わせてくれ。
「なんで、一人で戦うのよ……! もっと私を頼ってよ……、バカ……!」
読み終えた後、私は立ち上がってみんなに伝えた。
「行こう、刀夜の元へ。そして真実を確かめるの。じゃなきゃ、テンセイに申し訳ないよ」
「ああ、そうだな。あのバカ一人に任せてられるかよ」
「これでこそ、ひめだよ。一緒に確かめに行こう」
「きっと私たちも役に立てるはず」
最後にレオン先生が述べた。
「本当にに行くんだな。反対するところだが、断る理由もないな」
みんなが決心して、廃校へと向かった。
待ってて、必ず真実を確かめるから。
誰か来そうな気もするが、待つわけにもいかない。メールには一人で来いって書いてあったからな。
葉月エルです。もう察してると思いますが、テンセイを殺したのは私です。あの時はカッコよかったですよ。森の中にある廃校でお待ちしていますので、ぜひ来てください。面白いペットたちが、あなたを歓迎します。
「既にやばい雰囲気が出てるな。さすが、最恐の心霊スポットと呼ばれてるだけはあるな。いいぜ、必ずお前を倒してやるよ!!」
刀を抜刀して、俺は死の領域へと足を踏み入れた。
「そろそろですか、盛大に歓迎してあげなさい。私の可愛いペットたち」
実態化した怨霊、ゾンビなど、色んなペットを用意した。片腕を刃上にして、ハヤトを愛でた。
「もうすぐですよ、魔王族最強の剣士、闇神刀夜。うふふ、会うのが楽しみです。そうですよね、南イツキさん」
私の後ろには、イツキが拘束されていた。
「んんー!! んんんーーー!!」
「さて、どう使いましょうか」
私はイツキにあるものを植え付けた。
「んんんーー!!!」
「そう叫ばなくて結構ですよ。すぐに自分を忘れますから」
いつでも心待ちにしていますからね。我らの蒼き死神さん。
旧神幻小学校。30年前に起きた殺人事件がきっかけで廃校になった。度々幽霊の目撃情報や、死体が転がっている情報なんかもある。この辺りでは最恐の心霊スポットと言われている。エルにとっては隠れ場所にピッタリって感じだな。
俺は中へと入り、辺りを見渡した。
「不気味なほど静かだな。嵐の前の静けさってやつか」
ゆっくり刀を構えて歩いていると、思った通りだった。突然、ゾンビのような人型の怪物が次々と出てきた。脳髄を刀で刺して倒していった。
「まだ下級の雑魚か。死体が動いたのか?」
そのまま階段を上がると、実態化した怨霊が襲ってきた。
「死ねぇぇぇ!!」
俺は冷静にマグナムで脳髄を撃った。
「怨霊までも実態化して襲ってくるのか。
奴の能力はなんだ?」
恐らく奴は最深部にいる。俺は怪物を倒し乍ら、先へと進んだ。
一人で行っちゃう何て、酷いよ。必ず追いつくからね。時間はかかったけど、目的地の旧神幻小学校へとたどり着いた。
「改めて見ると、かなり不気味だな」
「ビビってんなら帰れば」
「び、ビビってねぇよ!」
レオン先生が先頭に来た。
「ここからは私の指示で動いてもらう。死にたくなければ付いて来い」
「ええ、行きましょう」
あまりの不気味さに足が震えている。でも、私は決意をした。
「今度は私たちの番! 怪物なんかに負けない!!」
レオン先生が刀を抜刀して指示した。
「中に入れ! 絶対に私から離れるな」
私たちは、廃校の中へと入った。
刀夜が入ってくるのに気づいた私は胸を高鳴らせていた。
「会うのが楽しみだわ! この時を待ってた。ただ……」
刀夜が奥へと近づいて来ると同時に、ひめがここに来たとテレパシーで感じ取った。
「異物が紛れ込んだようね。私の友達だったからって、バカな真似を。じゃあ、歓迎してあげないとね」
私はひめを始末するためにある者を送った。
「なんか敵が少なくない?」
奥へと走りながら進んでいると、明らかに怪物が少なく感じた。護身用のナイフしか渡されてない私からすれば好都合だった。
「きっと刀夜が倒してくれたんだよ」
レオン先生が首をかしげる。
「恐らく違う。こんなに警備が手薄なことなど、対策を練ってないバカがやることだ。私たちを誘いこんでいるのか?」
すると、幽子さんがいきなり立ち止まった。
「どうした、汗すごいけど」
「ずっと感じてたけど、恐ろしい何かが近づいてくる……」
先の道を見ると、確かに誰かが近づいてきた。でも、何処かで見たことある。
「あれって、イツキ! 無事だったんだね!」
イツキがこちらに向かってきた。でも、なんでふらついてるの?
「様子がおかしい……」
すると、レオン先生が叫んだ。
「いますぐそいつから離れろ!」
「えっ、何言って……」
突然イツキが呻き声を上げて苦しみだした。
「どうしたの! ……!!?」
「おいおい、嘘だろ……!」
「こんなことって……」
イツキの身体がみるみる変異して、青緑色の巨体な怪物になった。手に大きな鎌のような爪を生やしている。
「手遅れか、このまま始末するしかない」
レオン先生がイツキを刺した。
「待ってよ!! まだ攻撃しないで!きっとわかってくれるから」
「こうなってしまってはもう助からない。
ここで倒すしか」
レオン先生が刀で連続攻撃していた。
「もうやめて!」
「バカ! 近づくな!」
私はイツキの前に出て説得しようとした。
「お願いだよ! 目を覚まして! そうしないと、また一人、誰かを失うから」
きっとわかってくれると信じて、言葉を発した。
「ぐうぁぁぁ!!!」
「嘘!? キャァァァ!!!!」
その声も届かず、爪の攻撃を受けてしまい、お腹から、大量の血が流れた。
「ひめ! ひめ!」
薄れゆく意識の中、レオン先生が、包帯と出血止めをユイに渡しているのを見た。
「これを使って手当てしろ。こいつは私が倒す」
「俺も手伝う!」
このまま、みんな死ぬの…… 私のせいでみんな死んじゃうんだ。 ごめんなさい…… 私ばっか、足を引っ張って。
すると、幽子さんの様子が何かおかしかった。
「ひめをこんな目にあわせるなんて、許さない…… 許さない!!!」
幽子さんの身体がどんどん変化していった。
「きたか、そのまま覚醒しろ!」
「キャァァァァァーーー!!!!!」
薄れてゆく意識の中でも分かった。幽子さんも、異形の怪物になったことが。黒い髪で顔は隠されて、全身から不気味なほど長い手足が生えていた。
「キャァ! アアアァァ!!」
長い手足の連続攻撃で、イツキはどんどん弱っていた。
「ようやくお前を楽にできる。今まで苦しかっただろ。安らかに眠れ」
最後はレオン先生が銃で頭を撃って、とどめをさした。
気を失ってから10分が経ったころ、私は目を覚ました。
「イツキは!! イツキはどうなったの!! うう、 げほ!」
まだ無理は出来ないようで、吐血してしまった。レオン先生が抱えて言った。
「無茶するな、イツキは死んだ。そこにいるのがそうだ。周りはボロボロだけどな」
周りを見てみると、仰向けで倒れている幽子さんと、それを介護しているカイトとユイがいた。私はイツキの元へ駆け寄った。
「ああ……、また一人、失った。どうして、私だけが、生き残るの…… ううう、うああああああん!!!!」
一人で、また泣き叫んでしまった。
「ひめ……」
すると、何かの声が聞こえた。
「ごめん…… ね…… ひどい……ことを…… しちゃって……」
怪物化したイツキが声を出した。
「イツキ! イツキ!」
「ひめの…… しあわせを…… ねがって……」
そのまま静かに絶命した。
「イツキ…… イツキ……」
そのまま崩れると、レオン先生が指示した。
「このまま引き返す。この状態で進むのは危険だ」
刀夜の助けになれずに逃げるなんて、そう思った時、何かが私を包んで、姿を消した。
「ひめ!! どこにいった!」
「何これ、力が……」
私はそのまま、意識を失った。
怪物を粗方片付け、遂に最深部の校長室へと来た。
「ここか」
扉を蹴って、開けるとそこには葉月エルがいた。拍手をしてこう述べた。
「よく来れましたね。素直に褒め称えましょう」
「ふざけんじゃねぇ!! イツキを何処へやった!」
「そう怒らずに、イツキならとっくに死にましたよ。自らを魔王族にして」
「どういうことだ…… 誰が倒した?」
「うふふ、せっかくだから呼んじゃいました」
黒いオーラが出てきて、そこからひめが出てきた。腹から包帯を巻いている。怪物化したイツキにやられたのか。
「ひめ! 何でここに、やっぱり来ちゃったか」
「まぁ、全員死ななかったのが計算外でしたが、撤退に追い込みましたので。この学校にいるのは、ここにいる私たちだけですよ」
「野郎……! イツキとテンセイを殺しやがって……!」
「うう…… ここは…… ハヤト!」
ひめが目を覚ましたようだ。
「ひめ!!」
目の前のエルに気づくと、ひめは問いかけた。
「エル…… 違うんだよね、テンセイが捕食されたのも、イツキが化け物になったのも全部……」
泣きながら問いかけていた。
「うふふ、ごめんなさい。今回の件、全部私が仕掛けたの」
「えっ……!」
「すっと待ってたのよ、私の正体を教えるのを、あなたが絶望にゆがむ顔をね」
「じゃあ…… やっぱり……」
「私、実は魔王族なの」
遂に正体を明かした。やはり魔王族が絡んでいたか。まさかこんなに近くにいたとはな。 ひめが絶望した顔でエルみ見つめていた。口から血が出ながら。
「私の能力は、全身を武器に変えることが出来る。そして、凶化の弾を撃ったものを魔王族に変異することができるの。そうしてペットを増やしていたわ」
あの時の怪物も全てこいつが生み出していたのか。
「なんでテンセイはあんなにも無残に食いつくされた……! あの時何をした!」
「いいわ、ここまで来たご褒美に教えてあげましょう」
エルが軽々と語った。
あの時二人を廃工場に連れ出しました。
「すぐに楽になりますから」
巨体の怪物を呼び出して。
「あああ、うああああ!」
怪物はテンセイを掴みました。
「キャァァ! テンセイ!!」
「エル…… どういうことだよ、何で、こんな目に合わせるんだ!」
「ずっとうんざりだったんですよ。友達のふりをするの。あなたたちは知りすぎた。今ここで、楽にするんですよ」
私の怪物がテンセイに食らいついた。
「やだ!! 助けて!! 助けて!! 死にたくない!! ああああ!! いたい! いたい! があああああ!!」
そのまま跡形もなく捕食されました。
「美味しい餌でしたね。あなたは、あえて残しましょうか」
腰が抜けて何も話せないイツキを廃校へ連れて行きました。捕食されたテンセイと怪物を残して……
「全て、あなたの為にしたことですよ」
エルの話したことに、怒りを顕にした。
「ゲス野郎が…… 骨も残さず燃やしてやるよ」
俺は二本の刀を鞘に戻して、もう一つの刀を抜刀した。これは『極熱刀』。普段使っている刀よりも段違いで強力だ。あらゆるものを斬る熱がこもった俺の最高傑作の刀。その分代償も大きいため、滅多に使うことはない。
「その刀を使うとは、折角ですし、刀夜さんも正体を明かしちゃいましょう」
「お前、まさか……!」
「そう、刀夜さんも、魔王族ですよね。」
「えっ…… そうなの……?」
ひめの前で、俺の素性がバレてしまったようだ。
「魔王族と聖剣士の間に生まれた魔王聖剣士。かつて蒼き死神と呼ばれた伝説の凶戦士、でしたよね」
「なぜそれを知ってる……!?」
「ずっと言いたかったんですよ! あなたがどう絶望するかを考えて! そして今あなたが最も大切にしている人の前でようやく明かせました!」
ひめの顔は、どんどん絶望で歪んでいた。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」
「精神が崩れるのも当然でしょ、魔王族に両親と友人を殺されて、助けてくれた人が魔王族だったんですから」
「お前もう黙れよ……!」
「お喋りはこれで終わり、さぁ、ゆっくり死んでくださ」
「もう黙れって言ってんだよ!!!」
俺が刀で先制攻撃した。斬るに火花が出ていた。
「自らが愚かな種族だと知っているのに、どうして人の味方をするんですか?」
俺の攻撃に対し、エルは髪を刃上に変化して受けていた。
「キャァァ!! これほどまでに強いとは、この力を持っているのに、もったいないですよ」
「うるせぇぇ!!」
エルの脳髄を壊そうと必死に刀で払った。
「ああそうだよ。俺は愚かな魔王族だ。かつて蒼き死神で恐れられた。だが色んな人たちとの出会いが、俺を変えてくれた。レオン、ひめ、カイト、ユイ、幽子。
たとえ俺が魔王族で裏切ることになっても、俺は守り続ける! ひめを、仲間を守るって決めたんだ!」
「愚かですよ! 見てください! 今ここで、ひめを裏切ったんですよ!」
もうひめの目からは邪気しか感じなかった。やはり、俺を恨んでいるのか。
「それでも、俺は戦う! たとえ他人と何かが違くても、まわりと馴染めなくても、必死になって、命を燃やしてるんだよ!!」
俺が、エルを追いつめて、脳髄を攻撃しようとした。
「これで終わりだ!」
「クっ、これまでですか……!」
すると、突然エルが紫のオーラに包まれて姿を消した。
「これは、みくる様!」
「ここでこいつが死なれても困るのよ」
「誰だ!」
どこからか、女の声が聴こえた。
「いずれ分かるよ。私の愛しの人……」
そのまま気配が消えた。
「クソ! 逃げられたか」
俺は、ひめの元に近づいて手を差し伸べた。ひめなら分かってくれるって。
「正体、バレちまったな。隠してごめん」
気が付くと、夜明けが来ていた。
「さぁ、寮に帰ろうぜ」
「来るな人殺し!!」
ひめが俺を拒絶した。
「あなたみたいな悪がいるからイツキもテンセイも、パパやママも死んだんだ。ヒーローだと思った人がダークヒーローだったなんて」
「やっぱり、受け入れてくれないか」
「闇の魂を抱くヒーロー、私が必ず、お前に鉄槌を下す!! ダークソウルヒーロー!!」
憎しみの意味を込めて、俺に告げた。ひめに言われた通りだ。俺は元々悪だ。もう一緒には暮らせないのか。そう思いながら、ひめの絶望に歪んだ目を見つめた。
「ごめんな、こんな悪者で」
いかがでしたでしょうか?ここまで見ていただいてありがとうございました。またお会いしましょう。