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第二話

「事情は聞いておりますスロー様。でも」



 と僕の右手を、その小さな両手で包み込むように握ってくるのは、僕の元婚約者のイチカの妹かつ領主の妹でもある、イヌカ・ダオ。


 兄譲りの狼耳を頭に生やしている、大陸特有の黒髪、そして伸ばし放題の長髪の少女だ。


 そして君も兄同様、僕をスローって呼ぶのね?まあいいけど。




 彼女はある事情から体を病んでいて、ずっと寝たきりの状態を余儀なくされていた。外に出る事がないので獣耳民特有の黄色系の肌も青白く、齢14歳と聞いているが成長不足の体躯はもっと幼く見える。




 さて僕の手持ちの能力(スキル)「鈍化」は僕自身を弱体化するという、何のために存在するかも謎な外れスキルであるが、イヌカのスキルは逆に強すぎるが故に彼女の体を蝕む要因になっていた。


 彼女のスキルは「超鑑定」、触れるだけで対象の全てを把握する能力である()()()




 らしいというのは彼女がこの能力を行使したのが人生一度だけであり、その際に一度に流れ込む膨大すぎる情報量に脳を焼かれ、結果として肉体の自由の半分と、五感の半分を失ったからだ。


 彼女の胸から下は麻痺して歩くことはおろか起き上がることすら不自由であり、視覚と味覚も失っていて両目は閉じたままで物を見ることが出来ないし、食べ物の味を感じることも出来ない。


 その分残った五感の嗅覚・聴覚・触覚が発達したようで、僕と元婚約者であり姉にあたるイチカとの仲の良さは「匂い」で知ったのだという。




「もう会えなくなるのは……悲しいですわ」




 そう言ってイヌカは閉じた両目からポタリ、と涙を落とす。




「なので時々はイヌカの元に顔を出してくださいませ。


 少なくとも姉よりは会いに来やすいでしょう?」




 いや、確かに理屈はそうだけど。一度国を出た僕が戻ってくるとか君の兄や、イチカの新しい婚約者の熊男が黙ってないだろう。




「お兄様や熊の事を気になさるなら、イヌカが黙らせますのでご心配なく」




 こわっ。流石は魔狼王ナブノガの妹。




 ただそりゃあうん、僕だって半年ほどとはいえイチカとイヌカと三人で家族のように、それこそ眼の前の少女とは実の妹のように接してきたのだ。


 別れが寂しくないと言ったら嘘になる。


 という類の想いをイヌカに伝えると。




「どうやらスロー様とイヌカの間には、見解の相違があるようですわね」




 彼女は不満げに口を尖らせて、そう言い返す。


 え、どういう事?と思っていると。




 それは、本当に彼女が視覚を失ってるのかと思うほど一瞬で。


 イヌカは僕の身体を引き寄せると、そのまま抱きしめて僕の唇を奪った。




ーーいや、いやいや。




 あのほら、この大陸の貞操観念とか?そもそも、そういう所作は男性がするものであってウラワカ乙女ノコがするのは違うというか?

 他にも何だ……その。




 とにかく、僕はイヌカのソレに頭が真っ白になった。




「んぅっ。

 鈍感なスロー様にもこれで伝わりましたわね、私の想い」




 ええ、めちゃめちゃ直球で伝わりました。何故僕なのかという最大の疑問を除けば、だけど。


 そして彼女の唇に伝わる、光る液体がとても官能的(えろい)です。




「!……これはっ」




 えっ、どうしたのイヌカ?と僕が彼女に尋ねると。


 イヌカはベットから降り、二本の足で立ち上がった。




ーーえ?待って。




 ついさっきまで、下半身の自由が効かなかった寝たきり少女がだぞ?


 そして先程まで閉じられていた両目が大きく見開いて、潤んだ榛色の瞳で僕を見つめている。


 ええっと、イチカさん?ひょっとして、だけど。




「ええ、今はハッキリ視えておりますわ。金髪碧眼のスロー様のお顔が」




 どうやら視力まで回復しているらしい。


 えええええっ!?なんでぇ??




「その答えも私にはハッキリわかります。

 鈍化した私のスキル、超が取れたふつうの鑑定によって」




 スキルの鈍化?いやいや、それこそありえない。




 鈍化能力が自分以外に使えたら、それは僕がずっと願っていた事だ。特に戦闘においては、相手を弱体化させるデバフ効果として有効であるはずだし、何十回何百回とそれは試したのだ。


 そしてそれはついに叶わなかった、はずなのに。




「ええ、そうでしょうとも。ですから、今まではやり方が悪かったのです」




 やり……方?




「話を進めますが、よろしいですわね?」




ーーあっはい。




「私のスキル、鑑定によればスロー様の鈍化のスキル発動は」




 そう言ってイヌカは、顔を赤らめながらこう言うのだった。




「それを他人に行使するには……の、濃厚な粘膜接触が必要らしいのですわ」

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