プロローグ・救世の殺人鬼
この作品は未投稿のままずっとなろうに置いたままでした。
本来はこの作品を最初に投稿する予定でした。
次回から転生後の話です。
某年、某月、某日、午前8:55 某拘置所
そこは厳重に警備、封鎖された独房。そこにとある死刑囚はいた。独房にはいくつもの書籍が丁寧に重ね、置かれている。そこにいる、死刑囚、年齢は40前後といったところか、だが完全に白髪になり、痩せこけた姿はいっそうその男を老けて見ることもできる。
その死刑囚は何やら落ち着いた静かな動作で本の整理をしている。まるでこの後の事を解りきったように…。
「1310番、出房!」
午前9:00
ぴったりである。死刑囚は動揺した様子もなく、言われた通り、刑務官の支持に従う。そして、その後、待ち受ける運命に向かっていく。
この男、死刑囚は史上最悪、最凶と言われた殺人鬼である。その大人しく、細い体から想像出来ないほど、大量の人間を殺してきたのである。標的に一応の偏向性はあったものの、老若男女、幼い子供、更にペットとして飼われていた動物までも殺害している。
それだけの犯罪を犯しながらもこの死刑囚は追跡を逃れながら犯行を二十年以上続ける程の強運も持っていた。
殺した数はあまりにも多い。
だが、被害者には殺害が難しい権力者も少なくは無かった。
彼は
『死神』と呼ばれた。
あまりの残酷さ、標的の偏向性からファンも現れ、その名で呼ばれていたがいつしか警察や各種メディアでもその名で呼ばれていた。
だがその死神も遂に捕まり、衆目に晒されたその姿、やつれた中年男性を姿に
「思ったより弱そうでがっかり」「死神っぽい姿」
と様々な意見が飛び交ったものである。
死刑囚は教誨師の部屋に通される。
「罪の償いはしっかりなされたのでしょう。お疲れ様でした。」
教誨師は優しく声を掛けた。
実際、死刑囚は収監されてる間、特に問題を起こす事も無かった。取り調べに対しても教えられる事は全て答えた。故に看守達からの評判も良かった。
狂信的なファンも多く、差し入れが絶える事は無かった。特例により幾つかの者は彼の元へ届いていた。
その一つが小説本。いわゆるライトノベルという書物だ。
特に彼は異世界転生と呼ばれるものが気に入っていた。
「どうでしたか?牢屋の生活は?やはり大変でしたか?」
教誨師は変わらず優しく問いかける。
「とても良かった。人生の中で最も幸せな時間だった。子供の頃と比べれば比べる程もなく格段に良かった。」
彼は、この死刑囚は、元々かなり不幸な生い立ちである。こうなるのも頷ける生い立ちであった。だからこそ、生い立ちが公開された時は同情したり、それ故に支持する者も増えたのである。だが、不幸な境遇であったとはいえ、それは免罪符にはならない。
「しかし本日の朝食は一口も口をつけなかったとか?」
「ええ……。ここの食事はとても美味しいのですが今日は体調も良いのにどういう事か一口も食べる気にはなりませんでした」
臭い飯という呼ばれ方をしてるが囚人の食事は質素ながら栄養のバランスが取れたものだった。
彼が始めてまともな食事が出来たのも収容施設だったというのも皮肉な話だ。
「やはり、自分のした事に後悔はありませんか…?」
教誨師は残念そうにそう話しかける。
「…後悔など、あろうはず無い…。」
「何故無関係の命まで奪ったのですか?」
「何も残させてはいけない気がしたからです。関わる者、黙認した者、許した者も同じだと思います」
「………」
裁判でも同じ質問があった。
同じ返答だ。
態度は曲がりなりにも紳士的だ。
抵抗や少しでも罪を軽くしようとする行動は観られなかった。
だが謝罪も一切無く、最後までこの死刑囚は己のやった事を反省する事は無かった。
その姿勢には賛否両論だった。
徹底的に彼を批判する声が大半だったが彼を擁護し、称賛する声もあった。
標的となったのは法では裁かれなかった者もいたからである。
彼に後悔があるとすれば、まだまだ標的はいること、そしてあっさり殺してしまった標的が何人もいた事だろう。
だが終わった事、結果的にここで終わる事は仕方ないのだ。
「せめて、もう一度生まれて来ることがあるとすれば、その時は同じ罪を犯さない事を願います。」
教誨師は最後にそう語りかけると刑務官達が死刑囚を囲む。時間が来たのだ。そして着々と死刑執行の準備がなされていく…。
死刑囚、彼は天国も地獄も信じていない。因果応報も信じていない。現実では善良に生きてる者が理不尽に不幸に苦しみ、悪人はのさばり、面白おかしく幸運に生き、裁かれる事も無かった。それは自分も含む事だ。何人も殺しておきながら何年も捕まらず、最後は落ち着いた時間を過ごしていた。
彼の人生は標的と認識した者の命を奪う事で生きやすくなっていった。最初は自分を虐待していた親に始まり、そして少年院で自分を苛めていた者達。
そういった不快な障害を排除していく事で彼の人生はいい方向に向かっていったのだ。彼の資質も殺しに特化していた。まるでその為に生まれてきたかのように、それを重ねるごとに奇跡と呼べる幸運に何度も恵まれて来たのだ。
死刑囚は完全に拘束され、顔は既に布で覆われている。
目の前に死が迫っている。彼は思う。本当に天国や地獄はあるのだろうか?そして教誨師が最後に言った輪廻転生。
信じてはいないが、もし生まれ変わったら次の人生は人を殺めない人生を送るのか?それとも…。
死刑執行の号令が掛かり、装置が作動する。
死神、《グリムリーパー》と呼ばれた殺人鬼、彼のこの世界での人生は終わりを迎えた。
とりあえず主人公の死亡まで。
実際の死刑執行までの行程は公表されてるものもありますが機密事項ですし忠実に再現というのは難しいですね。
やり方は賛否両論あると思いますが敵に対しては徹底的な残忍さを通す清廉潔白ではない主人公が描きたかったので。
次から本編です。




