Lowdown(常に使いこなしているから必殺技というのだよ)
アメリカ・ホワイトハウス。
その奥にある庭園で、勇者スティーブは最後の戦いを強いられる事となった。
先程までその場にいたのは魔王アンドレス、だが、その魔王は最後の切り札である術式を発動。
己の姿を、知識を、経験を、全て【七織の魔導師・如月弥生】のものに塗り替えたのである。
この結果、魂の原質は魔王アンドレスそのものであるにも関わらず、如月弥生の能力の全てを自在に操れるようになった。
『くくくっ……七織の魔導師が誓願する。真言術式の展開、そして勇者は死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
それは右手の人差し指だけで組み上げられる術式。
その魔術により、先ほどの如月アンドレス弥生の放った言葉に『死の呪言』が乗り、スティーブの魂に亀裂を生じさせる。
――ゴバァッ
たった一言。
それだけでスティーブの全身から血が噴き出し、その命を刈り取り始めた。
「真言術式……だと……てめぇ正気かよっ」
『ああ、正気だとも。もう、こちらとしても『わが最強の秘術』とか、『これがわが秘奥義だ』などという茶番は使う必要がない。出し惜しみはしない、全力で行かせてもらうのでね……七織の魔術師が誓願する……真言術式の展開、そして確殺の刃っ』
――ブウンッッッ
右手の中に巨大な両手剣を生み出す如月アンドレス弥生。
その刀身すべてが『確殺の刃』の術式によって作り出されたものであり、オリジナルの如月弥生や不死王リビングテイラーでも制御できなかった術式。
それゆえ、二人は武具に術式を付与することで制御を行っていたのだが、如月アンドレス弥生はそんなものは不要と、真言術式を展開する事で術式から武具そのものを生み出していた。
「……はぁ。まったく洒落になっていない……自己再生」
グフッグフッと笑みをこぼす如月アンドレス弥生をにらみつつ、スティーブは己の闘気を圧縮、増幅した上で、更に神聖魔術による魂の修復術式を体内で構築する事で肉体の修復を開始。
全身から血煙を放ちつつも、全てのダメージの治癒に成功した。
そして如月アンドレス弥生は、スティーブの怪我が癒えた瞬間に間合いを詰めると、そのまま確殺の刃をスティーブめがけて横に一閃。
――ガッギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
素早く飛び上がりつつ、スティーブもアイテムボックスから新たな両手剣を引っ張り出すと、それを使って七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上します……確殺の刃を受け止める。
そして両手剣と確殺の刃が対消滅した。
『……まあ、そうなるのがこの術式の弱点であることは、リビングテイラーから聞かされていましたからね。では』
――ブゥン
右手を軽く振り、再び確殺の刃を作り出す如月アンドレス弥生。
その姿を見て、スティーブもただ笑うしかない。
「略式発動かよ。まったく、相手が悪過ぎるにも程があるだろう」
そう笑いつつ、再び新たな両手剣を引っ張り出して構えるスティーブだが、如月アンドレス弥生は決して油断を見せる事なく正面から切り掛かっていく。
『また消されたいようですね』
「はいはい……っと。勇者スティーブが神に祈って略式発動。対なる聖剣っと」
――シュンッ、ガッギィィィィィィィィィィィィン
スティーブの両手剣が輝いた瞬間、それを力いっぱい振り回して如月アンドレス弥生の確殺の刃を受け止め、そしてはじき返す。
だが、その一撃では両者の武器は消滅していない。
『な、何だその術式は』
「あ、対魔術用神聖術式でね。対象となった魔術に対して耐性を得てはじき返すっていうやつなんだけれど」
『ふざけた魔術を……』
そう吐き捨てるように告げたものの、確殺の刃が無力化したとあっては明らかに不利。
相手は『剣の申し子』の異名を持つ勇者スティーブ、近接戦に持ち込んだら勝てる見込みはない。
先程までは、確殺の刃の効果により、一時的ではあるが剣術を使えるようになっていた。
そして少しでも皮膚を掠めれば対象は消滅する、その一縷の望みにかけて『あえて』近接戦に持ち込んでいたのだが、それも既に叶わなくなっている。
「まあ、これで魔術戦でも俺に抗う術はなくなったという事で……そろそろ死んでみようか、な?」
――ポトッ
そう呟くスティーブもまた、満身創痍。
魂の修復には時間が必要。
それを気合で時短したものだから、肉体の方にノックバックが発生。
そんな状態で最上位神聖魔術である対なる聖剣を振るったものだから、反動で全身がちぎれるような激痛が体内を駆け巡っている。
そんな状態であるにも関わらず、スティーブは剣を構えた。
『ふっ……まあ、出来るものならやってみるがいいさ』
「それじゃあ……死ねっ」
――シュンッ
一瞬で如月アンドレス弥生の間合いに踏み込んだスティーブは、その持てる力をフルに発揮して渾身の一撃を叩き込んだ。
だが。
――ガッギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
対なる聖剣は、目の前に突如現れた巨大な楯によって弾き飛ばされてしまう。
「……まじかよ。まるでラスボスみてぇだな」
『まあ、これぐらいの芸当ができなければ、魔王は務まらなくてね』
軽口を叩きつつ、巨大な楯の後ろから姿を現す魔王アンドレス。
だが、その姿は先程の『如月弥生』の姿ではない。
真言術式により、再び聖魔合一を発動したアンドレスは、今度は楯騎士スマングルの魂のデータをごっそりと『上書き』したのである。
これにより、魔王アンドレスは『如月弥生の膨大な魔術』と『スマングルの鉄壁』を身に付ける事が出来た。
だが、これにより再び魂の1/3が消滅。
双方共に、後に引けない状況へと追い詰められていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





