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【書籍化】エアボーンウイッチ~異世界帰りの魔導師は、空を飛びたいから第一空挺団に所属しました~  作者: 呑兵衛和尚
Seventh Mission~最終決戦、そして地球の命運は

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Immigrant Song(そして事態はゆっくりと変わりつつある)

 世界同時迷宮活性現象。

 それに伴い、世界各地の迷宮出現地域では、緊急対策が取られている真っ最中てある。

 国際異邦人機関が国連を通じて世界各国に伝えられた迷宮に間する注意事項、その通りに行動を起こしていれば、少なくとも時間稼ぎは可能であったのだが。

 残念なことに、迷宮の危険度について甘く考えている国家及びそれに付随する各国地方都市は、迷宮対策を取るところか目の前の資源に目が眩み調査隊を派遣。

 そして調査隊が戻らないだけでなく、新たな滋養を得て活性化を始めた迷宮から大量の魔物が出現し始めたという。


――ヨーロッパ・バチカン市国方面

 サン・ピエトロ寺院では、聖女ヨハンナが祈りを捧げている。

 それは、戦いに赴いた騎士たちへ平穏と無事に生還しますようにという安らぎの祈り。

 そしてもうひとつ、対魔獣・魔物戦において、確実に有効打を与えるための『神による付与魔術』。

 これにより、ヨーロッパ各地に派遣されているマルタ騎士団やイングランドのガーター騎士団、さらにはドイツ騎士団といった、現存する騎士団および各国のカトリック教会枢機卿団、司祭なども迷宮から襲い来る魔物により襲われた人々の救済活動を開始。

 これにより各国の軍隊も司祭などによる祝福を受けた後、迷宮攻略を開始。

 バチカン市国を中心とした直径400km以内の魔物の討伐は完了。

 同時に、各国のカトリック教会を中心とした 直径50km圏に聖域が発動。

 大勢の人々が魔物から逃れて避難を開始していた。

 

 迷宮大氾濫が発生してから48時間経過した現在も、ヨーロッパ圏では迷宮から溢れだした魔物を鎮圧すべく戦いが繰り広げられていたという。


「……どうですか、神の声は届いたでしょうか」


 ヨハネス・パウロス三世が寺院の大聖堂で祈りを捧げているヨハンナに話しかける。

 彼女も今はちょうど聖句を唱え終えた所であり、ほんの僅かの休息を取っている最中。

 そしてパウロス三世も各地の教会への指示を終えて、ようやく一段落した所である。


「はい、それはもう、はっきりと。我が神は申されました……『リミッターカットで、魔族を追い払いなさい』と。とはいえ、私に出来る事は変わりませんので、今は仲間達の無事を祈っているだけです」

「そうでしたか。こちらも各国の大司教による聖域の展開は終わっているです。しかし、このような大切なものを教えていただくとは、まさに神の奇跡としか言えません」


 ヨーロッパ各国のカトリック教会、そこに使える大司教の元に届けられた『神託』は、聖域を造りだすための神威術式。だが悲しいことに、一部の大司教はそれを理解することが出来ず、理解したとしても神への信仰が足りず本来の力を発揮出来ない者が多い。

 ゆえに、私利私欲の為に神の名を悪用する者の教会では聖域は発動する事が出来ず、逆に敬虔なる信徒の多い地域では信徒のに比例して聖域結界の強度も高まっている。

 残念なことに、バチカン市国から離れるごとに神託が届かない国も多くあり、ヨーロッパ圏でもバチカンを中心として半径2000キロメートルを超えると神託は届いても神の加護が届かない場所もあるという。 


「これも我が神の恩恵です。という事で、ちょっと席を外してもよろしいでしょうか」

「ええ、それは構いません。聖女ヨハンナはカトリック教会の枢機卿でも大司教でもありません。あなたの自由を束縛する権利など、私でさえ持ち合わせてはいないのですから」


 うやうやしく告げるパウロス三世にヨハンナも深々と一礼すると、サン・ピエトロ寺院を後にした。


………

……


――聖マルタ広場・噴水横 

 ヨハンナは寺院を離れ、この噴水の横までやってくる。

 現在は緊急事態という事で、このバチカン市国にも多くの信者たちが避難しているのだが、このあたり一帯は現在は立ち入り禁止となっている。

 その噴水の横で、黒い修道服に身を包んだ女性がベンチに腰かけているのを確認すると、ヨハンナは表情一つ変えずにそちらへと向かう。


「これは聖女ヨハンナさま。本日はご機嫌も麗しく」

「はぁ……貴方の顔を見るまでは麗しかったのですけれどね。それで、結界を中和て侵入してくるなんて、一体何の用事でしょうか、夜魔キスリーナさん」

「あら、折角変装しているのにばれていましたかぁ」


 ニイッと笑いつつ、ヨハンナを手招きするキスリーラ。

 その雰囲気から敵対意思がないと判断して、ヨハンナは警戒しつつも歩み寄っていく。


「ばればれですよ。それで、わざわざ結界を越えてまで来るっていう事は、貴方の目的は私と教皇様の命を狙って来た……という事で、間違いはないのでしょうね」

「まさかぁ。ちょっとここに匿って欲しいのよぉ」

「匿って……って、へ? それってどういう事なのかしら」


 キスリーラの言葉に一瞬警戒心を解いてしまったが、きっと裏があるに決まっているとヨハンナは胸元の聖印に手を当てて問いかけ直した。

 だが、キスリーラの口から洩れた言葉には、驚く事しか出来なかった。


「あのね、世界各地の迷宮大氾濫に合わせて、魔王アンドレスさまと四天王も活動を開始したのよぉ。迷宮の活性化、そして各国同時に発生する大氾濫。本来は伏魔殿でそれを見ているだけの計画だったのですけれど、不死王リビングテイラーと錬金術師ヤンが、魔王様に進言したのよ。迷宮の大氾濫で手か回らない勇者を、このタイミングで屠ってしまいましょうって」

「……最悪の事態じゃない」

「そうなのよぉ。ほら、ヤンが言うにはね、空帝ハニーはアジア圏の迷宮の支配権を得て制御するので、余計なことをする事は出来ないって。だから、彼女について最も詳しい不死王リビングテイラーが彼女にとどめを刺しに行ったのよぉ」


 そこから告げられるのは、現在起こっている状況。

 ナイジェリアでアフリカ方面の迷宮を押さえているスマングルの元には、逆にヤンが作り出した人造魔導師ゴーヴァン・ドローヴァ魔導少尉と、彼の上官であるヘンリー・オブライエン少佐率いる『不死の軍団』がナイジェリア迷宮に侵入。

 スマングルの召喚した精霊達と一進一退の攻防を繰り返している。


 アメリカでは、この迷宮活性化に伴い各地に海兵隊の特殊部隊が派遣されている。

 闘気の使える部隊は首都の防衛に回ったのだが、このタイミングで魔王アンドレスが召喚したドラゴンの群れと共にホワイトハウスを襲撃。 

 だが、その程度の動きを予知していたスティーブとデルタフォースの精鋭により、さながらハリウッド映画のごとき激戦が発生している。


 そして日本では、迷宮地下にてアジア圏のマナラインを掌握しゆっくりとダンジョンコアの書き換えと魔力吸収を始めていた如月弥生の元に不死王リビングテイラーが転移して奇襲を開始。だが、弥生のトラペスティが起動したことにより『トラペスティVSリビングテイラー』という構図が完成していた。


「……それで、このヨーロッパ圏を混乱に陥れるために、キスリーラが派遣されて来たっていう事かしら」

「そうなのよぉ。でもね、私は面倒臭いのでこれ以上は戦いたくないのよ。折角イタリアで作ったボーイフレンドたちも出動要請だって迷宮に向かって行っちゃったし。このままだと、私がサボっている事がばれちゃうから、ここに匿って欲しいのよぉ」

「……はぁ。さっきからずっと、『嘘を感知する術式ファルスム・アプリヘンション』を施しているのですけれど、本当に嘘ではないのですよね」


 とはいえ、キスリーラは自分の言葉を【嘘と思わずに使う】事も出来るので、完全に信じることは出来ないのだが。

 

「そうよぉ。ここに居れば、魔王アンドレスちゃんの感知にも引っかからないし、むしろ私が消滅したって思ってくれるじゃない。だから、後はみんなでアンドレスちゃんを退治してくれればいいのよ。その後は私もアルムフレイアに帰る事が出来るのだから」

「それを信用していいのかどうか、私には単独で決定することは出来ません。ですが、ここでのあなたとの会話は、スティーブとは共感していますので。彼がどう判断するかで、貴方の処遇は決まると思ってください」


 勇者パーティの中でも、スティーブの決定は絶対。

 全ての情報が揃っている状況で、それを冷静に分析して最適解を導き出すのなら魔導師である弥生のはじき出す答えは高確率で正解である。

 だが、こういった断片的な情報においての決定については、スティーブが直感で導き出してくれる。

 しかも、その的中率は8割を軽く超えるという。


『ああ、ちょいと手が離せないというか、アンドレスの相手をしているので簡潔に説明するけれど……、ヨハンナ、キスリーラから魔族の拠点の場所を聞き出してくれ。それならば信用していいと思うから。あとはヨハンナの判断に任せた。こっちは危機一髪状態なので手が離せん』

「ええ、判りましたわ」


 そうスティーブから届いた念話に返すと、ヨハンナは静かに目を閉じで状況を確認する。

 どう考えても、今回の迷宮大氾濫を無傷で納めることなど不可能。

 しかも、彼方此方あちこちの国ではかなり大規模の被害まで出ているのである。

 それを勇者4人で完全に抑えきる事など不可能に近い。


「では。キスリーラ、このバチカン市国でマナラインを操作することは出来るかしら? 可能なら……そうね、ヨーロッパ東部およびアジア北部、オーストラリア、南米方面の迷宮の活性化を押さえられる? それならここにいても構わないし、誰にも手を出させないから」


 つまり、スティーブ、スマングル、ヤヨイ、そしてヨハンナの担当地域以外の迷宮の活性を止めろと言っているのである。

 さすがに全てを止めるとなると、魔王を始めとした四天王にばれてしまう可能性がある。

 それならば、四天王の居る場所はそれぞせれの勇者に任せて、それ以外の地に存在する迷宮を押さえた方がいいとヨハンナは考えた。


「ふぅん……いい判断ね。それじゃあ、そういう事で。それで、迷宮の活性化を押さえた後は、私はどこに匿って貰えるのかしら?」

「私に与えられた部屋があります。そこで静かにしているといいわよ。流石にバチカン市国も厳戒態勢なので、好き勝手に動く事は出来ないので。それは諦めて貰うしかないわ」

「そうねぇ……ざっと計算しても、私が指定された迷宮の活性を止めたとして。そこから8時間以内には、おおよそのけりは付くと思うわね。それじゃあ、魔王アンドレスの居城について教えてあげるわ」


 ニコニコとほほ笑みつつ、キスリーラはアンドレスの居城を説明する。

 それは古代メソポタミア文明の栄えた地。

 その位相空間に、魔王アンドレスの築き上げた都市があるという事を、ヨハンナは説明される。

 そしてその程度の位相空間なら弥生の十式破壊でどうにでも出来る事だと納得すると、約束通りキスリーラをヨハンナの宿泊している部屋まで案内する事にした。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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